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第一章 忍冬
六 皆危ない奴ら
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天命懇神義終了後、夜は宴会が開かれた。十五になる者達が秘蔵の亀酒に飛びつく中、意外な事に海虎が下戸だと知る。蒼亞は壱黄と海虎、玄史と席を共にし、黄花と釵黄は夕餉を済ますなり庭園へ散策に行く。玄咊は彼が母玄華に会わせたいと朱翔に頼み、最終日だからと特別に配慮してもらい、そのまま銀龍殿に泊まることになった。玄史は「部屋でも孤立していたから良かったよ。志瑞也さんのおかげだ」と嬉しそうに笑う。恐らく玄史のことは、義兄が気にかけているのだろう。こういうところも、二人は似ている。
海虎が真顔で声を静めて言う。
「蒼亞、前から聞きたかったのだが…」
「どうしたんだ?」
つられて三人は真剣な顔をする。
「お前の兄夫婦は、お…男同士だよな?」
「……」
いつかは聞かれると思っていた、取り敢えず蒼亞も声を静める。
「なんだよ、皆知っている事だろ?」
「そっ、そうなのだが…」
目を泳がす海虎に、玄史がまさかと小声で言う。
「お前、男が好きなのか?」
海虎は思わず声を張り上げる。
「違う! 私は女が好きなのだ‼︎ あっ…」
……。
しんと静まり返り、海虎は注目を浴びてしまう。蒼亞や壱黄がいるこの席はただでさえも目立つ。更に実技上位四人に、座学でも玄史は六位、海虎は九位と、話す話題には注意を払わねばならない。
「みっ、皆……外で話さないか?」
壱黄の提案に、四人は急ぎ無言で夕餉を済ませ外に飛び出した。
「ハハハハハハ!」
四人は、何やらむずむずとした可笑しな笑いが込み上がってくる。最後のご馳走を味わいもせず腹にかき込み、女子からの誘いも即答で断る。何をそんなに話したいのか、聞きたいのか、ある程度予想はつくが、とにかく今は気が済むまで笑い合う。男子とはそういう生き物なのだろうか、共有し合える友がいる。それが今までになく楽しい。四人は敢えて人気のない墓所へと向かった。
蒼亞は辺りを見渡して言う。
「壱黄、ここならもう大丈夫じゃないか?」
「そうだな」
四人は頷く。
「で、海虎は何が聞きたいんだ? ぷっ…」
「お前まだ笑うのかよ、ったく…ぷっ」
「ハハハハハハハハ!」
不思議とまだ笑える。
「はぁー こんなに笑うとは、ふぅー」
海虎は呼吸を整えて尋ねる。
「お前お二人の夜の営み、聞いたことあるか?」
「……」
こいつはあまりにも直球だ。
蒼亞は真顔で言う。
「お前興味あるのか?」
「私だけではないっ、皆あるさ! そうだろ⁉︎」
海虎は壱黄と玄史を見る。
玄史は頷きながら腕を組む。
「まぁ、男同士の話は聞いたことはあるが、婚姻している者はいないからな。そもそもやり方も分からない」
壱黄は首を傾げる。
「私は五つの時の伯父上のあの状態しか知らないけど、恐らく男女と変わらないと思うな…」
海虎は食いつく。
「五つの時? 何があったのだ?」
「ハハ… ちょっと色々とな、蒼亞…」
「う、うん…」
壱黄と蒼亞は二人に痛い失恋を話した。
「そっ…蒼万様は男らしというか、身内にも容赦ないというか…」
「色々と凄そうだな…」
海虎よりも玄史の的確な言葉に、蒼亞は苦笑いする。
「だからお前舞台で『怒られるぞ』って言ったのか? あの後女ならまだ嫁として納得できたが、志瑞也さんは男だぞって思ったのだ」
蒼亞は頷いて言う。
「兄上にとっては〝嫁〟だから、好意を持つ者全てに容赦しないよ」
「ならお前達は何故許されるのだ?」
海虎は蒼亞と壱黄に指を差す。
「〝家族〟だからだよ。でもその線を越えようとすると睨まれるんだ。〝お前は弟だ、これ以上は駄目だ〟ってな、あの目に睨まれたら怖いぞハハハ」
玄史が険しい顔で言う。
「お前…越えそうになったのか?」
「いいや、越えたかったんだ」
「蒼亞っ…」
「壱黄、いいんだよ」
「……」
壱黄は眉をひそめる。
蒼亞は伏し目がちに言う。
「志ぃ兄ちゃんに愛されたくてさ、弟の位置を利用していたけど二人は深く愛し合っているんだ。それを壊したくはないけど、想いは止められなかった… 苦しかった、振り向いてほしくて…ずっと、苦しかった… でも今は違う。やっと〝家族〟として愛せているよ」
「そ…蒼亞、ううっ…」
抱きつく壱黄の背中を、蒼亞はそっと摩る。
「泣くなよ壱黄、色々話し聞いてくれてありがとうな。やっと楽になれて嬉しいんだ…」
「うん、良かった…」
壱黄は涙を拭って微笑む。
「お前達はっ、おっ男が好きなのか⁉︎」
再び二人に指を差す海虎は、磨虎に似ているのか、はたまた、白虎家には空気を読めない者が多いのか。
「ハハハ 海虎は面白い奴だな、私達は違うよ。五つの時に二人共失恋したけど、その時のは単なる独占欲さ。その後壱黄は普通に〝大好きな伯父上〟になったけど、私は目の前にいたから諦めきれなかったんだ。それが成長して男として目覚めたら、ほら…分かるだろ? ハハハ」
蒼亞は軽く股間を見て笑う。
「お前っ、しっ志瑞也さんで勃つのか⁉︎」
「志ぃ兄ちゃんというより、声かな…あっ」
「声⁉︎」
しまった…。
海虎の問いに思わず答え、三人が同時に食いつく。
「そっ蒼亞っ、伯父上の声って⁉︎」
「お前聞いたのか⁉︎ 覗いたのか⁉︎」
壱黄は驚き海虎は追及。
「蒼亞、詳しく聞かせろ」
「……」
一番硬派だと思っていた玄史が、真顔で本性を現した。
「はぁー 実は兄上達のさ…」
仕方なく蒼亞は、部屋の戸の前で何度か聞いた出来事だけを話す。身体の事を知っている壱黄は関連付けたのか、無言で顔を赤くした。海虎は興奮し、真顔で何一つ変わらない玄史は、海虎よりも性格に問題がありそうだ。
「ある人から志ぃ兄ちゃんの声は『誰でも煽られるから気をつけろ、男なら仕方ない、気にするな』って言われてさ、気持ちが大分楽になったよハハハ」
彼への想いを他の者へ打ち明けるなど、ここに来るまで予想もしなかった。今まで悟られてはいけないと、ひた隠しに口を閉ざしてきた。いつか、彼にこの想いを話す時は笑って話せるだろう。そうなる日も、きっと近い。彼はやはり、泣いてしまうのだろうか? その時は〝おまじない〟をしてあげよう……泣き虫の彼へ。
「蒼亞、行くぞ」
は?
「何処に…」
玄史は怪しく笑う。
「ふっ、決まってるだろ?」
やはりこいつは危ない。
「おまっ、酔っているのか⁉︎」
「私は酔ってなどない。玄武家の者は皆生まれつき酒が強い、あれぐらいでは酔わないさ」
真面目な壱黄が言う。
「抜け出すのか? 最終日でも駄目だ!」
「私達は既に抜け出しているぞ」
「え?」
海虎に言われ辺りを見渡すと、話をしながら少しずつ移動している内に、いつの間にか陰域を抜け出していた。
「でも、今日は黄怜殿に皆泊まっているぞ」
玄史が蒼亞の右肩にがしっと手を置く。
「ここまで来たのだ」
海虎が蒼亞の左肩にがしっと手を置く。
「それに黄怜殿はすぐそこだ」
もはや、この二人を止める術がない。
「はぁ…わかったよ。壱黄、私は案内するがお前はどうする?」
「私も聞きっ……蒼亞について行くよ!」
おやおや?
よもや壱黄までもが男として目覚めていたとは、自分は早熟だと思っていたが、ならばと蒼亞は覚悟を決める。
「わかった。いいかお前達、本当に行くんだな?」
「うん」
三人は迷わず即答する。
「もしもだぞ、本当に煽られても私は知らないからな」
それは自分にも言えることだが、正直、まともに聞いたことはない。今までも、あまりに強い刺激に直ぐに兄の殿から帰っていたのだ。またしても、ここは蒼亞にとっても賭けだ。今の気持ちで身体が反応した後、彼への感情がいかなるものに変わっているのか、検証する機会でもある。
「わかった」
三人は真剣に頷く。
「よし、こっちだ」
四人は背を低くし、壁に沿って目的地へと前進する。宴会で客が大殿に集まっているからか、小殿の黄怜殿の方はやたらと静かだ。四人は何だと拍子抜けし、普通に通路を歩いて向かう。
ギーバタン…
誰か来た!
黄怜殿の扉が開き、四人は慌てて隠れる場所を探す。横の塀を玄史が見上げ、先に海虎と共に石垣に足先をかけさっとよじ登り、続いて壱黄と蒼亞がじたばたとよじ登る。一番背丈の低い壱黄は瓦の端にしがみつき、途中から玄史と海虎が引っ張り上げた。急ぎ瓦屋根に体を伏せ頭を隠し、冷や汗を垂らし耳を研ぎ澄ます。複数の近付く足音に、息を殺して身を潜めた。
「七日間あっという間だったなハハハ」
「やはり壱黄と蒼亞の試合は緊張したな、何事もなくて良かったよ」
(この声は、朱翔様と柊虎様だ…)
「あいつも何とか頑張っていたな…ぷっ、頑張ると不細工だよなハハハ」
(誰のことだ?)
蒼亞は疑問に思う。
「流石に空に雨雲が渦を巻いた時は、七年前を思い出して冷や冷やしたぜハハハ」
(磨虎様だ…)
蒼亞と海虎は目で「決勝の話か?」と見合う。
「朱翔、今回の事は?」
「その日で黄理様に報告したよ」
壱黄は目で「祖父上?」と蒼亞と見合う。
「そうか…」
「子供達にも被害はなかったし、黄理様も『四神家に報告はするが気にするな』と言ってくれた。だからお前達も心配するな、あいつらなら大丈夫さ」
内容が重大な事だと気づき、四人は眉間に皺を寄せる。
「あれから何事もなかったが、やはり蒼万以外でも見るのは怖いのだな…」
「喜べ柊虎、あいつお前が倒れても嵐起こすぞ。磨虎は…小雨ぐらいだなハハハハ」
「何だと⁉︎ ふっ、顔が同じなら私も嵐だ! ハハハハ」
「兄上…ふっ、ハハハハ」
反対の通路から駆足る音が向かってきた。
(この走り方は、義兄上だ)
「はぁ、はぁ、皆さん遅くなってすみません!」
「玄弥っ、待っていたんだぞ!」
「朱翔さんすみませんっ、義父上とあっ葵ちゃんのこと話していたのです」
「蒼凰様はお喋りじゃない、お前がずっと葵のこと話してたんだろ? ったく…」
「つい、ハハハハ 皆さん何処へ?」
声と足音がぴたっと止まる。
(まずいっ…気づかれたか?)
四人に緊張が走る。
「…どうしました?」
「蒼万がぶち切れた」
(兄上が?)
四人は目を見開く。
「そっ蒼万さんが⁉︎ 朱翔さん何があったのですか⁉︎ じゅじゅ十玄は⁉︎」
「玄弥落ち着くのだ。子供達も皆避難させて、今日は銀白龍殿に泊まることになった」
「柊虎さんってことはっ、まさかっ…」
「そのまさかだ」
「だっ誰がしたのですか⁉︎」
「…十玄ではない」
「なんだぁ、良かったぁー」
声と足音が動きだし、四人は一先ずほっとする。
「お前っ『良かった』じゃない! 蒼万が怒ってちび達の前で志瑞也を発情させたんだ! 泣き喚くちび達連れ出して今荷物取りに来たんだっ、戻ってあの声聞かされるこっちの身にもなれよ!」
声と足音が丁度真下にきた。
「それで大荷物なのですねハハハ」
「ほら持てっ、ん?……」
再び足音が止まり、四人は飛び出す鼓動に息を呑んだ。
「どうしたのですか朱翔さん?」
「……ふっ、まあいいさ。痛い思いするがいい」
(何の事だ?)
四人は見合わせて首を傾げる。
「忘れ物か朱翔?」
「いや、何でもないよ柊虎。早く行こう」
足音が進みだし四人は大きく息を吸った。
「で、朱翔さん、し志瑞也ぁに口づけしたのは誰なのですか?」
(志ぃ兄ちゃんに口づけ⁉︎)
声と足音が徐々に遠のいていく。
「磨虎に聞け…」
「磨虎さん…?」
「違う……」
「ええーっ」
「…、…」
「……」
「…」
四人は目配せで頷き合い、瓦屋根から「ストン」と飛び降りる。
海虎が尋ねる。
「おい蒼亞、朱翔様達は何の話をしていたのだ?」
蒼亞は顔を横に振って答える。
「私にも分からないよ。黄理様の名が出ていたけど壱黄は知っているか?」
「私も何の事だか…」
壱黄も顔を横に振る。
海虎が険しい顔で腕を組む。
「しかも発情とか避難とか、何のことだ?」
壱黄と蒼亞は、首を傾げ知らないふりをする。
「よくは分からないが話しの内容をまとめると、誰かが志瑞也さんに口づけして、怒った蒼万様が志瑞也さんを発情させて、今黄怜殿にはお二人しかいないという事だ」
そう言って、玄史は力強く黄怜殿を指差した。
それ以上に重大な部分があったはずだが、だいぶ抜けている気がする。だが、それでも今必要な部分はしっかり押さえていた。四人にとって、未知なる領域への扉は目前だ。演武での練習の成果もあって、気持ちは一致団結していた。
いざ、愛の巣へ出陣!
海虎が真顔で声を静めて言う。
「蒼亞、前から聞きたかったのだが…」
「どうしたんだ?」
つられて三人は真剣な顔をする。
「お前の兄夫婦は、お…男同士だよな?」
「……」
いつかは聞かれると思っていた、取り敢えず蒼亞も声を静める。
「なんだよ、皆知っている事だろ?」
「そっ、そうなのだが…」
目を泳がす海虎に、玄史がまさかと小声で言う。
「お前、男が好きなのか?」
海虎は思わず声を張り上げる。
「違う! 私は女が好きなのだ‼︎ あっ…」
……。
しんと静まり返り、海虎は注目を浴びてしまう。蒼亞や壱黄がいるこの席はただでさえも目立つ。更に実技上位四人に、座学でも玄史は六位、海虎は九位と、話す話題には注意を払わねばならない。
「みっ、皆……外で話さないか?」
壱黄の提案に、四人は急ぎ無言で夕餉を済ませ外に飛び出した。
「ハハハハハハ!」
四人は、何やらむずむずとした可笑しな笑いが込み上がってくる。最後のご馳走を味わいもせず腹にかき込み、女子からの誘いも即答で断る。何をそんなに話したいのか、聞きたいのか、ある程度予想はつくが、とにかく今は気が済むまで笑い合う。男子とはそういう生き物なのだろうか、共有し合える友がいる。それが今までになく楽しい。四人は敢えて人気のない墓所へと向かった。
蒼亞は辺りを見渡して言う。
「壱黄、ここならもう大丈夫じゃないか?」
「そうだな」
四人は頷く。
「で、海虎は何が聞きたいんだ? ぷっ…」
「お前まだ笑うのかよ、ったく…ぷっ」
「ハハハハハハハハ!」
不思議とまだ笑える。
「はぁー こんなに笑うとは、ふぅー」
海虎は呼吸を整えて尋ねる。
「お前お二人の夜の営み、聞いたことあるか?」
「……」
こいつはあまりにも直球だ。
蒼亞は真顔で言う。
「お前興味あるのか?」
「私だけではないっ、皆あるさ! そうだろ⁉︎」
海虎は壱黄と玄史を見る。
玄史は頷きながら腕を組む。
「まぁ、男同士の話は聞いたことはあるが、婚姻している者はいないからな。そもそもやり方も分からない」
壱黄は首を傾げる。
「私は五つの時の伯父上のあの状態しか知らないけど、恐らく男女と変わらないと思うな…」
海虎は食いつく。
「五つの時? 何があったのだ?」
「ハハ… ちょっと色々とな、蒼亞…」
「う、うん…」
壱黄と蒼亞は二人に痛い失恋を話した。
「そっ…蒼万様は男らしというか、身内にも容赦ないというか…」
「色々と凄そうだな…」
海虎よりも玄史の的確な言葉に、蒼亞は苦笑いする。
「だからお前舞台で『怒られるぞ』って言ったのか? あの後女ならまだ嫁として納得できたが、志瑞也さんは男だぞって思ったのだ」
蒼亞は頷いて言う。
「兄上にとっては〝嫁〟だから、好意を持つ者全てに容赦しないよ」
「ならお前達は何故許されるのだ?」
海虎は蒼亞と壱黄に指を差す。
「〝家族〟だからだよ。でもその線を越えようとすると睨まれるんだ。〝お前は弟だ、これ以上は駄目だ〟ってな、あの目に睨まれたら怖いぞハハハ」
玄史が険しい顔で言う。
「お前…越えそうになったのか?」
「いいや、越えたかったんだ」
「蒼亞っ…」
「壱黄、いいんだよ」
「……」
壱黄は眉をひそめる。
蒼亞は伏し目がちに言う。
「志ぃ兄ちゃんに愛されたくてさ、弟の位置を利用していたけど二人は深く愛し合っているんだ。それを壊したくはないけど、想いは止められなかった… 苦しかった、振り向いてほしくて…ずっと、苦しかった… でも今は違う。やっと〝家族〟として愛せているよ」
「そ…蒼亞、ううっ…」
抱きつく壱黄の背中を、蒼亞はそっと摩る。
「泣くなよ壱黄、色々話し聞いてくれてありがとうな。やっと楽になれて嬉しいんだ…」
「うん、良かった…」
壱黄は涙を拭って微笑む。
「お前達はっ、おっ男が好きなのか⁉︎」
再び二人に指を差す海虎は、磨虎に似ているのか、はたまた、白虎家には空気を読めない者が多いのか。
「ハハハ 海虎は面白い奴だな、私達は違うよ。五つの時に二人共失恋したけど、その時のは単なる独占欲さ。その後壱黄は普通に〝大好きな伯父上〟になったけど、私は目の前にいたから諦めきれなかったんだ。それが成長して男として目覚めたら、ほら…分かるだろ? ハハハ」
蒼亞は軽く股間を見て笑う。
「お前っ、しっ志瑞也さんで勃つのか⁉︎」
「志ぃ兄ちゃんというより、声かな…あっ」
「声⁉︎」
しまった…。
海虎の問いに思わず答え、三人が同時に食いつく。
「そっ蒼亞っ、伯父上の声って⁉︎」
「お前聞いたのか⁉︎ 覗いたのか⁉︎」
壱黄は驚き海虎は追及。
「蒼亞、詳しく聞かせろ」
「……」
一番硬派だと思っていた玄史が、真顔で本性を現した。
「はぁー 実は兄上達のさ…」
仕方なく蒼亞は、部屋の戸の前で何度か聞いた出来事だけを話す。身体の事を知っている壱黄は関連付けたのか、無言で顔を赤くした。海虎は興奮し、真顔で何一つ変わらない玄史は、海虎よりも性格に問題がありそうだ。
「ある人から志ぃ兄ちゃんの声は『誰でも煽られるから気をつけろ、男なら仕方ない、気にするな』って言われてさ、気持ちが大分楽になったよハハハ」
彼への想いを他の者へ打ち明けるなど、ここに来るまで予想もしなかった。今まで悟られてはいけないと、ひた隠しに口を閉ざしてきた。いつか、彼にこの想いを話す時は笑って話せるだろう。そうなる日も、きっと近い。彼はやはり、泣いてしまうのだろうか? その時は〝おまじない〟をしてあげよう……泣き虫の彼へ。
「蒼亞、行くぞ」
は?
「何処に…」
玄史は怪しく笑う。
「ふっ、決まってるだろ?」
やはりこいつは危ない。
「おまっ、酔っているのか⁉︎」
「私は酔ってなどない。玄武家の者は皆生まれつき酒が強い、あれぐらいでは酔わないさ」
真面目な壱黄が言う。
「抜け出すのか? 最終日でも駄目だ!」
「私達は既に抜け出しているぞ」
「え?」
海虎に言われ辺りを見渡すと、話をしながら少しずつ移動している内に、いつの間にか陰域を抜け出していた。
「でも、今日は黄怜殿に皆泊まっているぞ」
玄史が蒼亞の右肩にがしっと手を置く。
「ここまで来たのだ」
海虎が蒼亞の左肩にがしっと手を置く。
「それに黄怜殿はすぐそこだ」
もはや、この二人を止める術がない。
「はぁ…わかったよ。壱黄、私は案内するがお前はどうする?」
「私も聞きっ……蒼亞について行くよ!」
おやおや?
よもや壱黄までもが男として目覚めていたとは、自分は早熟だと思っていたが、ならばと蒼亞は覚悟を決める。
「わかった。いいかお前達、本当に行くんだな?」
「うん」
三人は迷わず即答する。
「もしもだぞ、本当に煽られても私は知らないからな」
それは自分にも言えることだが、正直、まともに聞いたことはない。今までも、あまりに強い刺激に直ぐに兄の殿から帰っていたのだ。またしても、ここは蒼亞にとっても賭けだ。今の気持ちで身体が反応した後、彼への感情がいかなるものに変わっているのか、検証する機会でもある。
「わかった」
三人は真剣に頷く。
「よし、こっちだ」
四人は背を低くし、壁に沿って目的地へと前進する。宴会で客が大殿に集まっているからか、小殿の黄怜殿の方はやたらと静かだ。四人は何だと拍子抜けし、普通に通路を歩いて向かう。
ギーバタン…
誰か来た!
黄怜殿の扉が開き、四人は慌てて隠れる場所を探す。横の塀を玄史が見上げ、先に海虎と共に石垣に足先をかけさっとよじ登り、続いて壱黄と蒼亞がじたばたとよじ登る。一番背丈の低い壱黄は瓦の端にしがみつき、途中から玄史と海虎が引っ張り上げた。急ぎ瓦屋根に体を伏せ頭を隠し、冷や汗を垂らし耳を研ぎ澄ます。複数の近付く足音に、息を殺して身を潜めた。
「七日間あっという間だったなハハハ」
「やはり壱黄と蒼亞の試合は緊張したな、何事もなくて良かったよ」
(この声は、朱翔様と柊虎様だ…)
「あいつも何とか頑張っていたな…ぷっ、頑張ると不細工だよなハハハ」
(誰のことだ?)
蒼亞は疑問に思う。
「流石に空に雨雲が渦を巻いた時は、七年前を思い出して冷や冷やしたぜハハハ」
(磨虎様だ…)
蒼亞と海虎は目で「決勝の話か?」と見合う。
「朱翔、今回の事は?」
「その日で黄理様に報告したよ」
壱黄は目で「祖父上?」と蒼亞と見合う。
「そうか…」
「子供達にも被害はなかったし、黄理様も『四神家に報告はするが気にするな』と言ってくれた。だからお前達も心配するな、あいつらなら大丈夫さ」
内容が重大な事だと気づき、四人は眉間に皺を寄せる。
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「喜べ柊虎、あいつお前が倒れても嵐起こすぞ。磨虎は…小雨ぐらいだなハハハハ」
「何だと⁉︎ ふっ、顔が同じなら私も嵐だ! ハハハハ」
「兄上…ふっ、ハハハハ」
反対の通路から駆足る音が向かってきた。
(この走り方は、義兄上だ)
「はぁ、はぁ、皆さん遅くなってすみません!」
「玄弥っ、待っていたんだぞ!」
「朱翔さんすみませんっ、義父上とあっ葵ちゃんのこと話していたのです」
「蒼凰様はお喋りじゃない、お前がずっと葵のこと話してたんだろ? ったく…」
「つい、ハハハハ 皆さん何処へ?」
声と足音がぴたっと止まる。
(まずいっ…気づかれたか?)
四人に緊張が走る。
「…どうしました?」
「蒼万がぶち切れた」
(兄上が?)
四人は目を見開く。
「そっ蒼万さんが⁉︎ 朱翔さん何があったのですか⁉︎ じゅじゅ十玄は⁉︎」
「玄弥落ち着くのだ。子供達も皆避難させて、今日は銀白龍殿に泊まることになった」
「柊虎さんってことはっ、まさかっ…」
「そのまさかだ」
「だっ誰がしたのですか⁉︎」
「…十玄ではない」
「なんだぁ、良かったぁー」
声と足音が動きだし、四人は一先ずほっとする。
「お前っ『良かった』じゃない! 蒼万が怒ってちび達の前で志瑞也を発情させたんだ! 泣き喚くちび達連れ出して今荷物取りに来たんだっ、戻ってあの声聞かされるこっちの身にもなれよ!」
声と足音が丁度真下にきた。
「それで大荷物なのですねハハハ」
「ほら持てっ、ん?……」
再び足音が止まり、四人は飛び出す鼓動に息を呑んだ。
「どうしたのですか朱翔さん?」
「……ふっ、まあいいさ。痛い思いするがいい」
(何の事だ?)
四人は見合わせて首を傾げる。
「忘れ物か朱翔?」
「いや、何でもないよ柊虎。早く行こう」
足音が進みだし四人は大きく息を吸った。
「で、朱翔さん、し志瑞也ぁに口づけしたのは誰なのですか?」
(志ぃ兄ちゃんに口づけ⁉︎)
声と足音が徐々に遠のいていく。
「磨虎に聞け…」
「磨虎さん…?」
「違う……」
「ええーっ」
「…、…」
「……」
「…」
四人は目配せで頷き合い、瓦屋根から「ストン」と飛び降りる。
海虎が尋ねる。
「おい蒼亞、朱翔様達は何の話をしていたのだ?」
蒼亞は顔を横に振って答える。
「私にも分からないよ。黄理様の名が出ていたけど壱黄は知っているか?」
「私も何の事だか…」
壱黄も顔を横に振る。
海虎が険しい顔で腕を組む。
「しかも発情とか避難とか、何のことだ?」
壱黄と蒼亞は、首を傾げ知らないふりをする。
「よくは分からないが話しの内容をまとめると、誰かが志瑞也さんに口づけして、怒った蒼万様が志瑞也さんを発情させて、今黄怜殿にはお二人しかいないという事だ」
そう言って、玄史は力強く黄怜殿を指差した。
それ以上に重大な部分があったはずだが、だいぶ抜けている気がする。だが、それでも今必要な部分はしっかり押さえていた。四人にとって、未知なる領域への扉は目前だ。演武での練習の成果もあって、気持ちは一致団結していた。
いざ、愛の巣へ出陣!
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引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
壁乳
リリーブルー
BL
ご来店ありがとうございます。ここは、壁越しに、触れ合える店。
最初は乳首から。指名を繰り返すと、徐々に、エリアが拡大していきます。
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。
じれじれラブコメディー。
4年ぶりに続きを書きました!更新していくのでよろしくお願いします。
(挿絵byリリーブルー)
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