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第1章 見知らぬ村、見知らぬ人
第1話
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「おれって、思ってたより薄情だったのかな。涙も出ないんだ」
折角真新しい墓石を用意したのに、無情に降る冷たい雨が石を黒く染めていく。まるで涙一つ湧かない己の代わりに空が泣いてくれているようだ。手に持った黒傘がずしりと重みを増したようで、レナードは首を垂れてただ項垂れたまま立ち尽くした。
彼が突然の両親の訃報を聞いたのは友人と出かけた帰り道だった。肌身離さず持っている携帯の電源も落としていて、知らぬ間に死に目に立ち会うチャンスさえ失っていたと留守電で分かった時、悲しさや後悔よりも先に感じたのは虚しさだ。
生活に心配はない。両親は十分な資産は残してくれた。
けれどそれが何だというのだろうか。今まで熱心に家族と交流してきたわけでもないのに、自身の基盤が無くなったことでこれまでの生活や交友関係がまるで意味のないもののように感じてきてしまったのだ。
幸か不幸か高校は長期休暇中で、レナードが何も考えずに過ごすには十分すぎる程時間があった。目的地もなく体力の続く限り旅に出て、力尽きた頃に家に帰る。そんな生活を暫く続けていたある日、久しく見なかったポストに自分宛の手紙が刺さっていた。
「イギリスから? 一体誰だろう」
他国に友人はいない。しかし宛先は確かに『レナード様』となっている。
大判の封筒はずしりと重く、沢山の書類が入っているようだ。中には見知らぬ村の学校案内と、先生からの手紙、極めつけは今時古風なモノクロタイプの写真だ。集合写真だろうか、数十人程の男女が整列しており、そこにかなり若いが確かに両親だと分かる二人がいた。
二人がここ、ニューヨークの出身ではないことは知っていた。けれどもどこで生まれ、いつアメリカに来たのか、どうして来たのか、そういった一切を教えて貰えないままだった。レナードにはいつか話すかもしれないとだけ伝えられたきりで、今に至る。彼自身ずっと気になっていたルーツの手がかりかもしれない。期待と不安をない交ぜにしながら、彼は恐る恐る真っ白な便箋を手に取った。
『親愛なるレナード様
私は村唯一の学校の教師をしています、クルスと申します。
突然の手紙にさぞ驚いたと思います。まず、ご両親の訃報に謹んでお悔やみ申し上げます。
同封した写真を見てもうお気づきのことかもしれませんが、私のいる村はご両親の生まれ育った村です。村を出てから十数年、二人はずっと行方知れずでした。こんな形で行方を知ったのは悲しいことですが、貴方の存在を知れたことは無上の喜びです。
この手紙を送らせて頂いたのは、貴方の居場所として提供できる場所がここにもあると知らせるためです。ご両親には残念ながら直接の肉親などはもういらっしゃいませんが、村人は皆家族のような関係です。貴方さえ良ければ、私たちは貴方を村の、学校の仲間として歓迎したいと思っています。
ぶしつけな話ではありますが、学費や住居の心配はありませんので、もし興味を持って頂けるのであれば旅券をお送りします。
貴方に会える日を願って クルス』
手紙には返送用の封筒が同封されている。宛先はやはりイギリスだったが、聞いたこともない地名だった。ネットで見ると辺りは森で、村の様子はほとんど見えない。
おかしな場所だ。けれど今のレナードにとっては丁度いい場所だった。旅に出ている間友人達からも連絡を貰っていたが、どれも心に響かない。この場所には思い出が多すぎる。ふとした瞬間に両親を思い出し、あの時ああしていればという思いにかられてしまう。
それならいっそ、両親の出身地だという新天地で暮らすのも悪くはないのかもしれない。環境がまるで違う場所ならばきっと心も前向きになれるだろう。レナードはようやく心の中を整理して、村に向かう旨を手紙に認め始めた。
(レナード by 903様)
折角真新しい墓石を用意したのに、無情に降る冷たい雨が石を黒く染めていく。まるで涙一つ湧かない己の代わりに空が泣いてくれているようだ。手に持った黒傘がずしりと重みを増したようで、レナードは首を垂れてただ項垂れたまま立ち尽くした。
彼が突然の両親の訃報を聞いたのは友人と出かけた帰り道だった。肌身離さず持っている携帯の電源も落としていて、知らぬ間に死に目に立ち会うチャンスさえ失っていたと留守電で分かった時、悲しさや後悔よりも先に感じたのは虚しさだ。
生活に心配はない。両親は十分な資産は残してくれた。
けれどそれが何だというのだろうか。今まで熱心に家族と交流してきたわけでもないのに、自身の基盤が無くなったことでこれまでの生活や交友関係がまるで意味のないもののように感じてきてしまったのだ。
幸か不幸か高校は長期休暇中で、レナードが何も考えずに過ごすには十分すぎる程時間があった。目的地もなく体力の続く限り旅に出て、力尽きた頃に家に帰る。そんな生活を暫く続けていたある日、久しく見なかったポストに自分宛の手紙が刺さっていた。
「イギリスから? 一体誰だろう」
他国に友人はいない。しかし宛先は確かに『レナード様』となっている。
大判の封筒はずしりと重く、沢山の書類が入っているようだ。中には見知らぬ村の学校案内と、先生からの手紙、極めつけは今時古風なモノクロタイプの写真だ。集合写真だろうか、数十人程の男女が整列しており、そこにかなり若いが確かに両親だと分かる二人がいた。
二人がここ、ニューヨークの出身ではないことは知っていた。けれどもどこで生まれ、いつアメリカに来たのか、どうして来たのか、そういった一切を教えて貰えないままだった。レナードにはいつか話すかもしれないとだけ伝えられたきりで、今に至る。彼自身ずっと気になっていたルーツの手がかりかもしれない。期待と不安をない交ぜにしながら、彼は恐る恐る真っ白な便箋を手に取った。
『親愛なるレナード様
私は村唯一の学校の教師をしています、クルスと申します。
突然の手紙にさぞ驚いたと思います。まず、ご両親の訃報に謹んでお悔やみ申し上げます。
同封した写真を見てもうお気づきのことかもしれませんが、私のいる村はご両親の生まれ育った村です。村を出てから十数年、二人はずっと行方知れずでした。こんな形で行方を知ったのは悲しいことですが、貴方の存在を知れたことは無上の喜びです。
この手紙を送らせて頂いたのは、貴方の居場所として提供できる場所がここにもあると知らせるためです。ご両親には残念ながら直接の肉親などはもういらっしゃいませんが、村人は皆家族のような関係です。貴方さえ良ければ、私たちは貴方を村の、学校の仲間として歓迎したいと思っています。
ぶしつけな話ではありますが、学費や住居の心配はありませんので、もし興味を持って頂けるのであれば旅券をお送りします。
貴方に会える日を願って クルス』
手紙には返送用の封筒が同封されている。宛先はやはりイギリスだったが、聞いたこともない地名だった。ネットで見ると辺りは森で、村の様子はほとんど見えない。
おかしな場所だ。けれど今のレナードにとっては丁度いい場所だった。旅に出ている間友人達からも連絡を貰っていたが、どれも心に響かない。この場所には思い出が多すぎる。ふとした瞬間に両親を思い出し、あの時ああしていればという思いにかられてしまう。
それならいっそ、両親の出身地だという新天地で暮らすのも悪くはないのかもしれない。環境がまるで違う場所ならばきっと心も前向きになれるだろう。レナードはようやく心の中を整理して、村に向かう旨を手紙に認め始めた。
(レナード by 903様)
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