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第3章 折り重なる感情
第29話
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放課後に話をしよう。
そう言われたまま上の空で授業を受け、レナードは指定されたガイルの部屋へと向かっている。今朝彼が見た異様な光景の真相を知りたい。その一心で、彼は言いつけ通り教室で会ったシヨン相手にも何も口に出しはしなかった。
部屋に向かう最中、やけに青白い顔をしたヨハンが向かいから歩いてきた。手に持つシャンプーなどから察するにシャワー後のようだが、その割にはやけに顔色が悪い。下級生の部屋には備え付けがないため寮内のシャワー室に行く必要がある。湯冷めでもしてしまったのだろうか。
「ヨハン、大丈夫か? 随分体調が悪そうだけど」
声をかけるかは迷ったものの、やはり気になってレナードは心配を口に出した。その際に近くにあった肩に手を触れようとした途端、どこかぼんやりしていた相手は過剰に反応し一気に窓際に後ずさる。
「ご、ごめん。いきなり触ろうとして」
「レナード先輩……でしたか。いえ、僕こそすみません」
彼はほっとしたように息をつき、緩々と首を振る。
「本当に大丈夫か? 部屋まで送ろうか」
尋常ではない様子に正義感が沸いてきて、気付けばいつもならしないようなお節介が首を出す。
「大丈夫です。ご心配おかけしました」
しかしヨハンは崩れかけた体勢をきちんと正すと、今度は力強く首を振って否定の意を示した。これ以上関わるなという雰囲気を身にまとわせている。
「わかった。でも何かあれば言えよな。俺じゃなくても、アトラスとか頼れる人は沢山いるだろ?」
ヨハンは困った様に微笑み、小さくそうですねと頷いた。その後すぐに彼は部屋に向かって歩き出してしまった。レナードは先ほどとは別種のもやもやに苛まれながらも、ガイルとの約束の方が気になっている。逡巡の後、彼はよりスピードを上げて目的地に向かった。
「悪かったな、部屋まで来てもらって」
レナードがガイルの部屋につくと、すぐに中に招き入れられた。彼の部屋は意外、というと失礼だが整然と片付けられている。黒を基調としたカーテンやベッドカバーが独特の雰囲気を醸し出しており、同じ間取りにも関わらずレナードの殺風景な部屋とはかなり印象が違う。
「いえ、人には言えない話なんですよね?」
「そうだな……話をする前に聞きたいんだが、ここに来てもう、二週間程か? 生活には 慣れたか?」
「ええ、まあ。最初は前の生活との違いとか、皆の不可思議な力に戸惑いましたけど」
「俺はここの生まれだから昔は疑問に思わなかったけど、ここに来るは皆そうなんだな」
「皆?」
いつかアトラスと転入生について話したことがあった。その際は確か、転入生など聞いたことはないといっていなかっただろうか。
「ああーーまあ、他のやつは忘れているだろうけどな」
「どういう事ですか? 俺の他にも、転入生がいたんですか?」
ぽつりとした一言にレナードが疑問を呈すると、ガイルははっとしたように目を泳がせる。しかしはーっと溜息を吐いて頭をガシガシと掻いた。
「いた。お前は当事者だから忠告するが、お前は外の世界を知っているが故にここのおかしな点が目に付くだろう? だが口に出すな、転入生がいたと聞いたことも含めだ」
戸惑いを覚える程の頑なさだ。レナードはこの学園に来てから感じていた違和感を思わずガイルにぶつけた。
「以前、この村に来た日にルプス先生からも同じことを言われました。もし言ったら何が あるんですか?」
「俺たちも全て把握しているわけじゃない。だが恐らくは、良くて記憶を消される。悪く て――死ぬ」
静かな声に対して、ひゅっと息を呑む音。ガイルの顔は真剣で、とても冗談を言っているような表情ではない。
「どういうことなんですか。確かに能力のことは不思議でしたけど、村人なら誰でも知っ てるじゃないですか」
「本当にそれだけか?」
思わず逸らしたくなるような覗き込むような視線。ガイルはじっと相手を見つめ、返事を待っている。
「魔物のこと、ですよね。野生動物じゃあんなのあり得ない。まして狂暴だと分かってい るのに駆除しようとしないなんて」
「そうだ。そして俺が……俺たちの心配事はもう一つあってな。毎年数人、行方不明者が出るんだ。だがそいつが誰だったか誰も覚えちゃいない。俺以外はな」
ガイルが自嘲気味に笑う。強さや明るさでばかり覆われていた彼の隠された内面が、レナードの目に僅かに見えた気がした。
そう言われたまま上の空で授業を受け、レナードは指定されたガイルの部屋へと向かっている。今朝彼が見た異様な光景の真相を知りたい。その一心で、彼は言いつけ通り教室で会ったシヨン相手にも何も口に出しはしなかった。
部屋に向かう最中、やけに青白い顔をしたヨハンが向かいから歩いてきた。手に持つシャンプーなどから察するにシャワー後のようだが、その割にはやけに顔色が悪い。下級生の部屋には備え付けがないため寮内のシャワー室に行く必要がある。湯冷めでもしてしまったのだろうか。
「ヨハン、大丈夫か? 随分体調が悪そうだけど」
声をかけるかは迷ったものの、やはり気になってレナードは心配を口に出した。その際に近くにあった肩に手を触れようとした途端、どこかぼんやりしていた相手は過剰に反応し一気に窓際に後ずさる。
「ご、ごめん。いきなり触ろうとして」
「レナード先輩……でしたか。いえ、僕こそすみません」
彼はほっとしたように息をつき、緩々と首を振る。
「本当に大丈夫か? 部屋まで送ろうか」
尋常ではない様子に正義感が沸いてきて、気付けばいつもならしないようなお節介が首を出す。
「大丈夫です。ご心配おかけしました」
しかしヨハンは崩れかけた体勢をきちんと正すと、今度は力強く首を振って否定の意を示した。これ以上関わるなという雰囲気を身にまとわせている。
「わかった。でも何かあれば言えよな。俺じゃなくても、アトラスとか頼れる人は沢山いるだろ?」
ヨハンは困った様に微笑み、小さくそうですねと頷いた。その後すぐに彼は部屋に向かって歩き出してしまった。レナードは先ほどとは別種のもやもやに苛まれながらも、ガイルとの約束の方が気になっている。逡巡の後、彼はよりスピードを上げて目的地に向かった。
「悪かったな、部屋まで来てもらって」
レナードがガイルの部屋につくと、すぐに中に招き入れられた。彼の部屋は意外、というと失礼だが整然と片付けられている。黒を基調としたカーテンやベッドカバーが独特の雰囲気を醸し出しており、同じ間取りにも関わらずレナードの殺風景な部屋とはかなり印象が違う。
「いえ、人には言えない話なんですよね?」
「そうだな……話をする前に聞きたいんだが、ここに来てもう、二週間程か? 生活には 慣れたか?」
「ええ、まあ。最初は前の生活との違いとか、皆の不可思議な力に戸惑いましたけど」
「俺はここの生まれだから昔は疑問に思わなかったけど、ここに来るは皆そうなんだな」
「皆?」
いつかアトラスと転入生について話したことがあった。その際は確か、転入生など聞いたことはないといっていなかっただろうか。
「ああーーまあ、他のやつは忘れているだろうけどな」
「どういう事ですか? 俺の他にも、転入生がいたんですか?」
ぽつりとした一言にレナードが疑問を呈すると、ガイルははっとしたように目を泳がせる。しかしはーっと溜息を吐いて頭をガシガシと掻いた。
「いた。お前は当事者だから忠告するが、お前は外の世界を知っているが故にここのおかしな点が目に付くだろう? だが口に出すな、転入生がいたと聞いたことも含めだ」
戸惑いを覚える程の頑なさだ。レナードはこの学園に来てから感じていた違和感を思わずガイルにぶつけた。
「以前、この村に来た日にルプス先生からも同じことを言われました。もし言ったら何が あるんですか?」
「俺たちも全て把握しているわけじゃない。だが恐らくは、良くて記憶を消される。悪く て――死ぬ」
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「どういうことなんですか。確かに能力のことは不思議でしたけど、村人なら誰でも知っ てるじゃないですか」
「本当にそれだけか?」
思わず逸らしたくなるような覗き込むような視線。ガイルはじっと相手を見つめ、返事を待っている。
「魔物のこと、ですよね。野生動物じゃあんなのあり得ない。まして狂暴だと分かってい るのに駆除しようとしないなんて」
「そうだ。そして俺が……俺たちの心配事はもう一つあってな。毎年数人、行方不明者が出るんだ。だがそいつが誰だったか誰も覚えちゃいない。俺以外はな」
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