ファンタジー詰め合わせ

善奈美

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夜のお散歩

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 屋敷と呼ぶに相応しい建物から一つの影が抜け出してきた。今日は雲ひとつない綺麗な満月が夜空を飾っている。月の明るさで星々の光は強く瞳に映らないが、キラキラと輝くその光は、紫紺の空を綺麗に飾り立てていた。
 
「こっちこっち」
 
 その影は声の方に視線を向け、姿を確認すると駆け出す。
 
「本当に今日咲くの?」
「そうだよ。今日を逃したら、次は数年後だよ」
 
 その影は一つはおかっぱ頭に着物を身に付けた女の子。一つは頭に髪の毛は確認出来ず、月の光が照らし出した顔は大きな目が一つだけだ。そうして、もう一つ。傘のようなその姿は、柄の部分が人の足と言うかなり変わった姿だ。この三人、と言っていいのか、俗に妖と呼ばれる種族である。
 
「私はそんなに離れられないの。今日もお客様が来ているから」
「夜が明ける前に戻れるよ」
 
 そう言いながら、三人は野を駆ける。少し開けた場所が視界に入り、月の淡い光が頂点に達すると、野原を照らし出す。一斉に野原が白い淡い光で覆われた。よく見ると、小さな白い花が月の光を受け、一斉に開花したのだ。
 
「綺麗ね」
「座敷童に見せたかったんだ。ずっと、建物の中だし」
 
 風がさわさわと白い花を揺らす。空から降って来た光が空を満ち、幻想的な風景を作り出す。
 
「見せてくれてありがとう」
 
 座敷童はそう言うと、一輪、白い花を摘み、二人に笑顔と共に贈った。
 
 
終わり。
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