異世界のニンベン師 偽物クラフター! 〜ニンベン師認定を受け追放されたので本物を超えた偽物を作り俺が最強になる〜

雨井雪ノ介

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第一章『始まりの誘い』

第4話『偽物だけどね』

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 翌日一樹は、宿屋で早朝から意気揚々と作業を始めていた。夜納品するとか言っていたけど寝てしまったのは内緒だ。
 追加納品のリクエストもあり、もっか人気急増中の偽ポーション=ポショの増産だ。
 
 せっかく意気込んで作成していると急に視界が暗転して、どこかで一瞬見たような物を目にする。

 ――ああ、世界樹か。

 なぜそのように思ったのか、暗闇の中で淡い光を木全体が帯びて、一樹と対面する。

 目の前に存在する大木の深層から、なにやら声が響いてくる。
 
「一樹よ……。いつも切磋琢磨しているのを見ておるぞ?」

「見ているだけってのもな……」
 
 世界樹は唐突に問いかける。
 
「本物を目指しているのであろう?」
 
 立て続けに問いかけてきた。

 不気味な存在に、根掘り葉掘り聞かれることへの抵抗感を持ちつつ聞き返す。
 前回同様、悪いことを事前に通告してくれるのはありがたいけど、なぜ俺ばかりなのか……。
 
「――待ってくれ。俺が疲れておかしいのか、それともあんたが変わっているのか、わからない」

「たしかに……。そうであるな」

 妙なところで納得し、認めやがったぞこの大木は。

「今の状況だと俺が疲れておかしいなら、ここで見聞きしたことはただの妄想だとして、何も行動は起こさない」

「そう思われても、仕方がないと言えよう」

 それじゃ何のために来たんだか、もしくは俺が引っ張られたんだかな……。

「もし行動を起こしてほしいなら、今の状況が俺の疲れからくる妄想でないことを示して欲しい」

「お主は、間も無く賞金首になるであろう。教会は、お主をもう許さない」

「なんだって! もうって何だよ。もうってさ! 悪い話ばかりじゃねえかー」

 一樹は頭上に向かって叫ぶと、この唐突すぎる世界樹の宣言を最後に、再び光が目に差し込む。あまりにも眩しく感じて手をかざしていると、元いた場所で立っていた。
 
 世界樹のいうことが本当なら、ギルドどころか教会も性急すぎて、対処に困るほどだ。
 
 世界樹の予言通りになったとしても、今までろくに予言などなかった。それなのに突然、予言をし出して今回二回目。何かあるのではないかと、一樹は疑い深くなってしまう。
 もうこうなると予言というよりは、事前予告だ。ありがたくないと言ったら嘘になるけど、それがなぜ一樹へなのかわからない。ましてや後から対価として、何かを要求されるのではないかと、疑心暗鬼になってしまう。

 ――あれ? この感覚は普通だよな……。どうにも疑い深くなってしまう。

 一樹は今の持てる力を認識した時から、ポーションと非常に小さな容量の魔法袋を作れるようになっていた。作った物どれもが鑑定師に言わせると、名前の頭文字に(偽)とつくらしい。
 それは、ニンベン師として生み出し、クラフターのスキルで形にしているものだ。
 
 外見では見分けがつくわけもなく、ただし看破されるとすべてアイテムの名称の先頭に「(偽)」と表示されるのでわかってしまうのだ。物によっては名前すら変わってしまう。

 それはよく売れるポーションの偽物として『(偽)ポショ』と見える品がそうだ。名前すら変わってしまう品でも、見た目は瓜ふたつだ。
 
 ただし効能としてはばらつきが大きい。半分程度の物もあれば軽く三倍程度の効果のものもある。
 購入していく連中は、それを承知済みで当たればラッキー程度で考えているようだ。しかも市場より安価で提供する一樹には、皆感謝していた。最大の違いは、何度も連続して使えばつかった分回復をするという、絶大な効果が人気だ。
 
 教会と冒険者ギルドが販売する品と比べると、いかに教会産は高額で効能が低く、使い勝手が悪いか悪目立ちするぐらいのものだ。教会の暴利さは、かなりあくどいとしか言いようがない。

 そして、またしても事件だ。
 
 冒険者ギルドと教会は、一樹を名指しで偽物作りの犯罪人と発表してきた。
 だから買わないようにと告知をしている。
 一部のやつらは、一樹のポーションのせいで死んだ仲間がいると吹聴していた。
 それだけならまだしも、問題がもう一つあった。
 
 一樹を賞金首にかけると。

 世界樹のいったとおりに、なりやがった。
 しかもそれを撤回したい場合は、同額の賞金額を納めよと教会と冒険者ギルドの連名で通達だ。
 
 その額、三千万ゴールドだ。


 
 有名な盗賊ですら百万ゴールドで、一千万を超えるとダンジョンの深層にいる魔獣討伐の褒賞に近い。そればかりか凶悪犯罪者だと三千万ほど。
 つまりは、凶悪犯と同義にされてしまったわけだ。なんとも、破格で理不尽な有名人になってしまったんだ。

 ――その男、三千万ゴールドのニンベン師。
 
 自分で言っておきながら嫌になる。
 冒険者ギルドと教会にしてみたら、三千万ゴールドを支払ってでも俺を排除したく、強い意志が見える。
 自分の手ではなく、他の誰かの手を借りてだ。こうなると有象無象の賞金稼ぎたちで地下街はあふれてしまいそうだ。

 これが表に出ていることだけが問題ではない。
 本当のヤバイ話なのは裏で、闇ギルドへ恐らく市場に出ている金額と同等か、それ以上で出している可能性もある。
 
 つまり表と裏の両方からの攻勢で、一樹は挟み撃ちにされた状態だ。
 裏家業の連中らは、血なまこになって探すに違いない。
 
 賞金首になったことで、平和な日常が終わりを告げた。早急な生き残りの対策が必要だ。
 せめてもの救いは、『ポショ』の供給は自分自身でできることだ。
 困ったことは、襲われた時に迎え撃つ体術などなく、戦いだけはどうにもならない。
 
 なおさら早急に、どうにかしてJOBレベルを上げたいと考えていて、やはりダンジョンで魔物を狩るより他ないだろう。
 手元の金で買える武器を見繕い、浅瀬でぶっかけ狩りを行えばなんとかなるかもしれない……。

 気を付けることは、狩りをしている最中に襲われることもあるし、油断ならない。
 問題は蘇生薬がないから、最悪背後を取られてグサリなんてこともあり得る未来だ。
 
 幸い武器が買える金はあるし、地下街からダンジョンの浅瀬への入り口はある。
 なんとか自身の正体を隠しながら、こっそり狩りができればいいと一樹は考えていた。
 
 ことがうまく運べば運良く順調に狩れてレベルも上がる。ところが、うまくいっている時に限って何かが起きる。なので最悪バレたらその時点で逃げるに限る。
 
 安易かもしれないと一樹は思い悩むも、この方法しかないと考えていた。

 ――問題は逃げ方だな……。

 一樹の胸の内を敏感に察知したのかモグーが反応仕出した。

「モキュッ?」

「心配かけてすまない。どう逃げるか考えていたんだ」

「モキュッ!」

 武器や防具を手に入れるところまではいいだろう。金さえあればとりあえずの物は得られる。
 
 問題はその先だ。

 武器を使うのは初めてだし、当然体の動かし方も知らない。
 そうなると、逃げるタイミングと方法は拙い物になるだろう。
 相手が魔獣や人であっても経験が少ないため、苦戦は必至だ。

 どう考えても、命の取り合いで生き残ることへのすべなど、元々争いがない日本の環境じゃ鍛えようがない。未経験の状態でこの世界にきた以上、すぐにはどうにもならない。
 それに、ポショばかりを作成していて、戦闘関連は何もしていないのに等しい。
 
 今から学ぶにしても、独学で命をかけながら我流で習得するしかないのが現状だ。わかり切ったことでも、何もかもが初めてでリスクに対して大きく天秤が傾く。
 危険なことを承知の上で、経験値を稼がないとならないのは喫緊の課題でもあり、行動あるのみというべきだろう。

 教会の奴らは、よほど俺を始末したい様子が賞金をかけたことから窺える。
 疑問なのは、なぜ今になって人一人に対して、ここまでの仕打ちをするのかと冷静に考えてみると……。めちゃくちゃ思い当たった。

 ――ポショが爆売れだからだ。
 
 地下ギルドのせバスからは、常に増産のリクエストが届く嬉しい悲鳴な状態だ。
 そこでどこが販売していようとも、購入した品に看破をかければ名前ですぐに区別がつく。『(偽)』とつけば間違いなく一樹の作成物なので、必然的に一樹が狙われる。
 
 狙う理由はシンプルで教会の貴重な収入源でもあるからだろう。解毒も含めてありとあらゆる薬と名がつく物は、教会が一手に引き受け卸している。

 それを横から掻っ攫う形で市場の需要を奪い始めた物だから、教会側の怒髪天を衝いたとしか言いようがない。
 自分達の物より使い勝手がよく安価な品など出るものなら、一気に市場を席捲するのは当たり前の話だ。
 
 単に需要と供給の違いなだけではあるものの、この世界の今の時代では、力で現状変更をして消されてしまうのが落ちかもしれない。
 
 一樹が提供すればするほど売れてしまい売れた分、教会産は売れなくなるものだから、牙を剥くのは時間の問題だと一樹は思っていた。今まで自分達で価格や供給量もコントロールしていたものだから、一樹の存在は余計に目障りなんだろう。

「あ~あ。わかっちゃいるけど、面倒な奴らだな」

「モキュッ!」

 そこで本来なら企業努力というやつをして、品質なりサービスなどを改善し向上していくのだけども、教会はそうしたことをしないようだ。
 
 仕向ける方向性は、競合相手の排除でつまり死だ。
 
 競合がいれば始末する。考え方は非常にシンプルだ。変化を嫌うのはこの世界でもどうやら同じようだ。
 殺しなんて一ゴールドで請け負う奴なんぞゴロゴロいる。

「なあ、こうなったらやるだけやるしかないから、今まで通りの生活はできないかもな」

「モキュッ! モキュッ!」

 モグーはなぜかやる気に満ち溢れ、スモウレスラーのツッパリを左右交互に突き出して俺にアピールしてくる。

 モグーの得意な魔力弾だ。かなり強力で親指の第一関節ほどの球体を弓矢以上の速さで連射してくる。当たれば金属鎧など簡単に貫通してしまう。
 それほどまでの威力を俺の動きに合わせてサポートするぞと、モグーの言わんとしていることは、理解できたつもりだ。
 
 とはいえ、戦闘の素人一人と極小な魔獣モグーでは少々心もとない。
 
 俺はとりあえず、武器と防具を買いに武器屋へ始めに寄る。
 地下ギルドの目と鼻の先なので、数十歩でついてしまう。路面店としては比較的大きめだ。剣と盾が交差したマークは店の看板になっている。

 なかに入ると無口な毛むくじゃらが一人店番でおり、カウンターで船を漕いでいた。

 少しだけ目を開けると、再び寝入ってしまう。

 まあ俺の見た目じゃ、冷やかしにしか見えないだろうからな。
 長剣、大剣、片手剣など見て握ってもまったくと言っていいほど、わけがわからない。

 ――何を判断すりゃいいんだ?

 俺は戸惑いながら、乱雑に樽に入れてある一振りの短剣を手にとる。
 俺でも振り回せるかと思いつつ眺めていると、カウンターにいたはずの毛むくじゃらの男ドワーフが、いつの間にか俺の前にまできていた。

 短剣を握った俺の姿が気になるのか、見つめていると何か振り下ろせというような仕草をするので、見よう見真似でしてみる。

 顎に手を当てながら観察されると、首を横に振り握り方の手ほどきを受けてもう一度振り下ろす。

 「おっ! マジか!」

 するとどうだろう、振った時の感覚が先とはまるで違う。
 例えるならそう、しっくりとくる。

 なぜか、ニコニコしているこのドワーフはボソボソという。

「そいつを持っていけ。金はいらん小槌の練習用だ」
 
「え? それじゃ俺からはこのポショを手持ちの五本で……」

 ドワーフの男は顎に手を当てて何か考え込んでいると、手を出してきたので手渡す。

「うむ……。受け取った。坊主、死ぬなよ?」

 たった数言なのに、どこか胸に刻み込んでしまいそうになるほど、嬉しい気遣いだ。
 ドワーフはそういうと、軽やかに頭上ほどまであるカウンターにまた戻ってしまう。
 どういう風の吹き回しかわからないけど、握り方まで手ほどきを受けて短剣までもらえるなんて運がいい。

「ありがとう! 生きてまたくるんでまたよろしく!」

「うむ」

 俺は長居をしても仕方ないので、店をあとにする。
 それほど長い時間、店に滞在していたわけではないけど、すでに空は茜色に染まっていた。

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