(アルファポリス投稿版)神族と癒着する悪魔の組織からの追放処分〜女神を打ち倒す力を得るため焼印師を探す旅〜

雨井雪ノ介

文字の大きさ
1 / 49
1章

第1話 悪魔

しおりを挟む
「キリがない……」

 俺は無造作に転がり、無数にある悪魔や神族の遺体を見て、ふと呟く。

 それというのも、見境なくこいつらが突然、襲撃してきたからだ。
おかげでこの教会風の建物は、崩れかかるほどひどい。

 俺はこんななりでも、悪魔の端くれではある。早々に、やられてやるわけには、いかない。

「そこにいたか……レン! お前さん、やっちまったんだってな!」

「……」

 突如、正面十メートル先に現れた同族の奴に、俺はとくに答える気がなかった。

「シュラウドの旦那とつるんでいるさ、神族やっちゃ~、おしめーよ?」

「チッ!」

 俺は、奴の筋骨隆々な腕から生える刃を見逃さず追った。一瞬で間合いを詰めてくる奴は、横一線で切り裂こうとする。その動作を俺は、上半身を反り紙一重で交わす。
わずかながら、前髪を切り飛ばした残骸が、顔の前を舞う。

「少し男前になってきたんじゃないか? ええ? レンの旦那よ~」

「……」

 俺はこの口数の多いこいつには、嫌気がさしていた。すれ違いざまに、中段の前蹴りをももに与えても、奴はびくともしない。

 次に奴は、両方の腕から刃を生やして、俺に迫る。左右から突き刺すつもりなのか、同時に刃が俺の肩口に迫る。ここで伏せるのは悪手だ。おそらく膝蹴りがとんでくる。なので俺は、一歩後退し間合いをずらした。

 そこで間髪入れずに、ダークボルトを手のひらから放つ。

「ぐあぁぁーーぁ!」

 奴の叫びは、俺の攻撃が成功した証だ。奴は背中から爆散し臓物を撒き散らす。俺の戦い方は知っているだろうに、油断しすぎだ。

 そのまま前のめりに倒れ、他の遺体と同じようにピクリとも動かない。同種といえど、この攻撃を喰らえば間違いなく死ぬ。それに、このダークボルトを喰らって無傷な奴は、今まで一人しか知らない。

 すると今度は頭上から、見下すように囁く者がいる。あの妖艶な美女は、リーナだ。

「レン、あなたはもう見つけられたのよ? 逃げることはムリだとなぜわからないの」

「ああ、俺も”見つけられた”んだ。努力しているさ。これでもな」

 奴らを殲滅する武具の存在を、感づかれたかはわからない。刹那、雨のように魔力の塊が降り注ぐ。
 俺は回避ができないと悟り、建物の影に逃げ込む。
 そのわずかな呼吸の合間、壁に寄ったつもりが背後からリーナが迫る。

「おやすみ、レン。愛しているわ」

「ああ、おやすみ、リーナ」

 振り返ると同時に互いの両手から、高濃度な魔力と衝撃波が互いを襲う。超接近戦だったためか、両者は互いに吹き飛ばされて見えなくなるほどに、距離が離れる。

 これは、リーナがあえて仕組んだことだとわかる。彼女なりの優しさなんだろう。

「……助かった。か……」

 互いに見失ったことで、この場からようやく離脱ができた。
俺は満身創痍の体とこの足で、唯一の仲間であるギャルソンの元へ急いだ。


――数刻後

 ギャルソンの隠れ家についた俺は、さっそく手筈通り実行をしてもらう。

「本当にいいのかい? 悪魔をやめてどうする?」

「俺は……。(女神が死ぬのを見て)……みたい」

 俺は、ぼんやりと黒く染まる天井を眺めながら答えた。
滑舌が悪いのは、相次ぐ襲撃に身も心も疲弊していたから、……かもしれない。

「?……。何をと聞くのはこの際、野暮だね。これをすると、悪魔でもないし神族でもない。何になるかは運命次第だよ」

 どうやら彼は、誰をとは聞き取れなかったようだ。

「構わない」

 運命に委ねるのも、たまにはいいかもしれない。すべての半分はどうでもよく、残りの半分は期待をしていた。

「それに、君の今の認識や意識や意思ですら、あやふやになるよ?」

「構わない」

 この悪魔、ギャルソンの気遣いには本当に、痛み入る。

「意思は固いんだね。わかったよ……。おやすみ、レン」

「ああ。おやすみ」

 このあと俺は急速に、意識が遠のいていった。俺が望んだとおり、転生は成功し種族としての死を迎えたのだろう。

 その代わり、俺にはもう一つの秘策がある。それを成就させるには、ある物が足りない。
なんてことはない、この行為は、ただそれを取りに行くだけだ。

 ……もうこれ以上、考えるのは難しくなってきた。

 おやすみ……俺。


――夢? なのか?
 ぼんやりとする頭を起こした。

 俺は、冷え冷えとする硬い岩肌を背にして、横たわっている。冷たさを感じはする物の寒さはない。
何か体にまとわりつく滑りに、少し不快と感じて、上半身を起こす。

 どうやら谷底で目覚めた俺は、血塗れの状態だ。
辺りは暗くとも、夜目が利くのである程度は見える。

 おそらく俺は、地面に頭を打ち付けて死んだのだろう。
このおびただしい血と、はるか頭上に見える外光から、落ちたと見えた。

 なぜかこの惨事なのに、淡々と俺自身に起きた状況を見ている。

 ……何かおかしい。俺とは誰だ? どこか違和感のある知識や景色と記憶が混ざる。

 徐々に記憶が鮮明に蘇ってくると、先ほどのことを思いだしていた。
確か俺は、この上の崖から突き落とされて……。原因は、妬みか僻みか恨みかのいずれかで……。

 ――そうだ、俺はこの魔法界に転生したんだ。

 でもなんで、元の体の記憶があるのかわからない。ひどく混濁した記憶になっている。

 混乱をさせる要因は、俺は悪魔に転生し、この者はこの魔法界へ、人のまま転移をしてきたわけになる。

 そこで俺は悪魔から再び転生し、今度はこの人間の体に移りこんだ。

 ここにいるのは、人間としては亡くなったけれども、俺が人間の体に宿り、蘇ったことになるのか……。
まだ何をいっているのか、整理がつかない。けれどもそれは、確固たる事実だと認識している。

 結論からいうと俺は、この魔法界でも弱者に近い者の体に乗り移ったことは、唐突に理解できた。

 だからといって体の持ち主の意識が、介在することは無い。俺の確固たる意思と目的は、十分にわかるほど脳内に伝播していった。

 大丈夫だ、第一段階は成功した。今は目的の成就が、最大の悲願になる。

 もともと悪魔に転生して、今度は人間に転生だ。久しぶりの気分をぶち壊すかのように、この持ち主への人としての待遇は酷かったようだ。それだけ、どこか自分ごとのようにすら感じてしまう。たかだか十六程度の男を、寄ってたかって虐めるとは、周りの奴らも少々大人気ない。

 しかもこの異界において、同郷の存在ってかけがえのないような気がするのは、俺の気のせいだろうか。

 それよりは、持ち主を殺したんだから、あいつらは殺されても仕方ないだろうな。

 ぼんやりしたように考えていても、俺の中ではふつふつと、元の持ち主を殺した奴らへの襲撃を思い浮かべていた。元の持ち主の記憶が俺を多少感化させているのかもしれない。

 なんと言っても今の俺には、持ち主が望む力がある。ゆえにそいつらを惨殺できる。手向けの花として奴らの亡骸でも添えてやるか。

 こうして、人と悪魔の両方の記憶と知識はあるとはいえ、今の俺としての実感がまるでない。
そんなわけで、俺はあらためて体験と体感をすることにした。

「これで……いいのか?」

 俺は軽く身構えると一気に飛び上がった。
すると拳程度の大きさだった頭上の光が、足元まで届く位置についてしまった。

 つまり、ジャンプだけでここまで辿り着いたことになる。

 身体能力は、そのまま転生前と変わらないようだと理解はした。
ただ、その実感が無いだけで、今は一個ずつ積み重ねているところだ。

 今いる場所は洞窟のようで、外に出ると一気に森になった。
太陽は頭上に上り、きっと正午だろう。雲ひとつなくいい天気だ。

「ダークボルト!」

 俺は、不意打ちでもなんでもなく、思いつくまま放っていた。
この清々しいまでの澄んだ空気と青空と太陽の下、似つかわしくない黒い雷撃が地面を穿つ。

 まっすぐ伸ばした腕の先にある、手のひらから放たれた黒い雷撃は、ジグザグになりながらも意図した場所に着弾する。

「問題ないな……」

 目先には、底が見えないほどの陥没が出来上がった。地面スレスレを意図したためか、ガラス状に変化している。

 地質が変化するほどの熱量がある証拠だ。これは喰らったらひとたまりもない。
試しに掌底の要領で大木に向けて放つと、内側から爆散するかのように破裂した。
まだ不慣れな状態ではありつつも、体は立ち上がってきた感じがする。

「……いけるか?」

 俺は拳を開いたり閉じたりしながら、体の状態を確認していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜

沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。 数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。

狙って追放された創聖魔法使いは異世界を謳歌する

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーから追放される~異世界転生前の記憶が戻ったのにこのままいいように使われてたまるか!  【第15回ファンタジー小説大賞の爽快バトル賞を受賞しました】 ここは異世界エールドラド。その中の国家の1つ⋯⋯グランドダイン帝国の首都シュバルツバイン。  主人公リックはグランドダイン帝国子爵家の次男であり、回復、支援を主とする補助魔法の使い手で勇者パーティーの一員だった。  そんな中グランドダイン帝国の第二皇子で勇者のハインツに公衆の面前で宣言される。 「リック⋯⋯お前は勇者パーティーから追放する」  その言葉にリックは絶望し地面に膝を着く。 「もう2度と俺達の前に現れるな」  そう言って勇者パーティーはリックの前から去っていった。  それを見ていた周囲の人達もリックに声をかけるわけでもなく、1人2人と消えていく。  そしてこの場に誰もいなくなった時リックは⋯⋯笑っていた。 「記憶が戻った今、あんなワガママ皇子には従っていられない。俺はこれからこの異世界を謳歌するぞ」  そう⋯⋯リックは以前生きていた前世の記憶があり、女神の力で異世界転生した者だった。  これは狙って勇者パーティーから追放され、前世の記憶と女神から貰った力を使って無双するリックのドタバタハーレム物語である。 *他サイトにも掲載しています。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

転生したら『塔』の主になった。ポイントでガチャ回してフロア増やしたら、いつの間にか世界最強のダンジョンになってた

季未
ファンタジー
【書き溜めがなくなるまで高頻度更新!♡٩( 'ω' )و】 気がつくとダンジョンコア(石)になっていた。 手持ちの資源はわずか。迫りくる野生の魔物やコアを狙う冒険者たち。 頼れるのは怪しげな「魔物ガチャ」だけ!? 傷ついた少女・リナを保護したことをきっかけにダンジョンは急速に進化を始める。 罠を張り巡らせた塔を建築し、資源を集め、強力な魔物をガチャで召喚! 人間と魔族、どこの勢力にも属さない独立した「最強のダンジョン」が今、産声を上げる!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

『25歳独身、マイホームのクローゼットが異世界に繋がってた件』 ──†黒翼の夜叉†、異世界で伝説(レジェンド)になる!

風来坊
ファンタジー
25歳で夢のマイホームを手に入れた男・九条カケル。 185cmのモデル体型に彫刻のような顔立ち。街で振り返られるほどの美貌の持ち主――だがその正体は、重度のゲーム&コスプレオタク! ある日、自宅のクローゼットを開けた瞬間、突如現れた異世界へのゲートに吸い込まれてしまう。 そこで彼は、伝説の職業《深淵の支配者(アビスロード)》として召喚され、 チートスキル「†黒翼召喚†」や「アビスコード」、 さらにはなぜか「女子からの好感度+999」まで付与されて―― 「厨二病、発症したまま異世界転生とかマジで罰ゲームかよ!!」 オタク知識と美貌を武器に、異世界と現代を股にかけ、ハーレムと戦乱に巻き込まれながら、 †黒翼の夜叉†は“本物の伝説”になっていく!

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...