(アルファポリス投稿版)神族と癒着する悪魔の組織からの追放処分〜女神を打ち倒す力を得るため焼印師を探す旅〜

雨井雪ノ介

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1章

第21話 リリー壮絶!

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 俺は何もかもが、何とかなると思っていた。これまでもなんとか困難を切り開いてきた。
ところが今、俺の目の前では、どうにもならない現実が飛び込んできている。

「リリー!」

 地面に打ち付ける前に間に合い、体を引き寄せる。ゆっくりと寝かせると、血が止まらない。

「レ……ン……」

「しゃべるな。安静にするんだ」

「ゴフッ!」

 リリーは、吐血してむせる。ゆっくりと背中をさすり、俺のももの上に寝かせる。エルはようやくこちら着くと、急ぎ金の粒子をリリーに振りかける。傷はみるみる癒えていく物の、衰弱した状態は変わりない。

「エル、すまない」

「遠慮なんてなし、私もリリーが心配。でも、これで大丈夫」

「リリー。安心しろ、これで大丈夫だ」

「レン……。会えてよかった。私……は、レンを……あ……い……」

 何か最後の別れのような、そんな最後の力を振り絞るかのように言葉を発する。

「しっかりしろリリー! 大丈夫なんだ! 大丈夫なんだ!」

 ゆっくりとリリーの体から力が抜けていき、ついに掴んでいた手が滑り落ちる。

「リリー!!」

 リリーは、何も答えない。

「エル! リリーは、なんとかならないか!」

 エルはリリーの顔や首筋などに触れて、何かを確認している。何か合点いったのか、今の状況に似つかわしくない笑顔を見せていた。

「レン。リリーは生まれ変わるわ」

「? どういうことなんだ?」

 何をいっているのかわからなかった。

「半妖精から、完全な妖精に覚醒よ」

「もしや、今の攻撃で妖精の因子が強まったのか?」

 以前、悪魔だったころに聞いたことがある。ハーフたちは瀕死なると、どちらかの種族の因子が強く現れ、完全覚醒するという話だ。

「ええそうよ。瀕死になった時に、妖精の因子が覚醒して体を少し作りかえるの。それが今起きたのね」

「リリー……。お前また強くなるかもな。起きるのを待っているぞ」

 穏やかな寝顔を見せるリリーは、静かな寝息をたてていた。俺は少し取り乱しそうになりながらも、エルのサポートで安心ができた。もう二度と大事な者たちを失いたくない。その思いは、さらに強くなった気がした。

 ――数刻後

 見た目は同じまま、雰囲気がどこか変化したように思える。そのリリーがようやく目覚めようとしていた。

「私は……」

「リリー目覚めたか」

「レン……。何か長い夢を見ていた。そんな気がする。あの魔剣の時のように」

「そうか……」

 俺は幾分、安堵はしている。命あっての物種だからだ。

「でも、今回は違う。心の底から嬉しいんだ」

「嬉しい?」

「ああ。またレンと入れることがな」

「俺もリリーが無事で、心の底から安心したぞ」

「リリーおめでとう。これで完全な妖精ね」

「え? 私は妖精になったのか? しかも完全の?」

「ええ。そうよ。試しに唱えて見なさい? アストラル・ルヴニールと」

「アストラル・ルヴニール……」

 この瞬間、リリーの体は眩いほどの光を放ち、姿が変わる。青を貴重にした衣類と束ねていた髪が解け背中まで真っすぐに伸びた黄金の髪は美しかった。背中には三対六枚の半透明な羽が生え、宙に浮いている。

 自身の変化に驚いたリリーは自分の体や手足をぺたぺたと何度も触り、確認をしている。

「リリー素敵よ。一人前の妖精の姿ね。もちろん人の姿にも戻れるわ。その時あなたのきていた甲冑は変化するはずよ?」

「リリー綺麗だ」

 俺は思わず見惚れてしまった。本人は気づいているのか、幻想的な金色と青色の輝く粒をまとい煌めいている。

「ああ。レンありがとう……」

 いつになくリリーはしおらしい。

「リリー人の姿に戻りたい時は、”ルヴニール”よ」

「……ルヴニール?」

 また同じく、光の粒子に包まれるとそこには、以前きていた鎧とは趣が変わっていた。深い青色を基調にして、胸やこての部分には銀色の金属がまとわりつく。そこには何かの文様が施されており、装飾としても美しさを表している。

「うまくできた見たいね。その姿は水と月の妖精ね」

「この剣は?」

 どうやら剣も同様に変化して、こちらも青色を基調にしたデザインになっている。大きさ自体は変わらない物の、細かな装飾が施されて、豪奢な雰囲気をもる剣に生まれ変わっている。あの禍々しさは微塵も感じない。

「ふたつの妖精の力が備わっているわ。力は自ずとあなたに呼びかけてくれるから、それに答えて行けば大丈夫よ」

「そっそうか……わかった!」

 リリーは自身の変化に驚いている様子だ。俺もここまで変わるとは驚愕に値する。本人だけでなく、身の回りの物ですら巻き込んで、変化してしまうなど聞いたことがない。

「エル、リリーは何か特別なのか?」

「そうね。今の情報だけだと恐らくは、水と月の妖精女王の血筋を引いているかしら?」

 ハーフの覚醒でここまでのケースは、初だ。

「それはすごいな……。リリー今の聞いたか?」

「私が女王などと……。恐れ多いぞ」

「とはいえ、以前は姫騎士だったんだろ? なら王位継承者として、あまり変わりないんじゃないか?」

「ソレとこれはだな。違うんだ」

 何やら顔を真っ赤にしている。どうしたことやら。ひとまずは、体も回復してさらにリリーが覚醒するなど予想外のこともあり、おおむねいい方向に向かっている。あとは、もう一つの扉をでた先がどうなっているかだ。

 俺たちはこの荒れまくったこの場所を後にして、次なる目的地へ向かった。
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