零士その者は、魔法結社東京の追放者 〜液体金属AIウルと異世界東京でのハンター道中〜

雨井雪ノ介

文字の大きさ
38 / 44
一章:異世界 異能と魔法の東京国(新宿編)

第13話『新たな始まり』(1/2)

しおりを挟む
 ウルとナルと会話を続ける零士たちは……。

 状況が悪化する一方でも、ダンジョン内の古びた船の中では、リーナの目覚めをぼんやりと零士とナルが見守り、三人は時間の感覚を失いながら過ごしていた。外の世界から隔絶され、深夜になっているだろうと予想される静寂の中で、重苦しい空気が流れていた。

「ウル、この状態はいつまで続くんだ?」と零士は、薄暗い船内で時の流れを感じられずに尋ねた。

「恐れ入ります。今チルからの返答を待っています。キャリブレーションが完了すれば、リーナはすぐに目覚めるはずです」とウルが答えたが、その声にはいつもと違う不確かさが感じられた。

「それなら、こっちで揺り起こすのはまずそうだな」と零士が言うと、「はい、そっとしておく方が良いでしょう。リーナにとって良い影響はありませんから」とウルから助言が返された。

「OK。わかった」と零士は軽く頷き、視線を落とした。そこには、ナルが丸まって眠っていた。彼女の毛並みは柔らかく、この木製風の床には猫にとって心地よい温もりがあった。疲れた体を癒すために、零士も少し横になることにした。空調が効いているおかげで、船内は快適であり、自然と眠気が誘われた。

 零士もいつの間にか、深い眠りについてしまった。零士とナルの一人と一匹が完全に無防備なまま、寝静まったころ。

 突然、リーナが目を開けた。彼女の目の前には、零士とナルが映し出される拡張現実の世界が広がっていた。名前が個々に表示されることによって、驚愕しながら何度も目を擦る彼女の姿があった。

「なるほどね。レイジが見えていた世界は凄いのね」とリーナは興奮気味につぶやいた。その言葉に反応するかのように、脳内に深く低い声が響いた。

「はい、その視界の様子でございますと、何も問題はないかと存じます、お嬢様」と懐かしい声が脳裏を満たす。

「え? セイバス? ちょっと! どういうこと?」とリーナは視界にいるはずもない執事を探し、しきりに見回した。

「お驚きになるのも無理はございません。どうぞお気を落とされませんように、私がご案内申し上げます」とかつての執事、セイバスの声が落ち着いて言った。

「だって、あなたは……」リーナが故人であることを口にしようとした瞬間、「はい、お嬢様のご存じの通り、故人でございます」と声の主が静かに応じた。

 その時、チルからの新たな声が聞こえてきた。「心拍数増大、脈拍異常。通常モードに移行します」。その声は老齢の紳士のもので、口調は変わっていた。

「え? あなたは誰?」とリーナは驚いて声に出してしまった。

「恐れ入ります。私はAIチルです。先ほどは大変失礼しました。深層に残された故人の記憶から再現した次第です」とチルは事態収拾を図り、自らを名乗った。


 リーナは新しい発見に心躍らせ、「レイジの言っていたAIって、これのことね」と言った。その声には驚きと興味が交じり合っている。

「聡明な方で、本当に助かります」と、チルが心の中から優しく返答する。彼女の声は柔らかく、より人間らしく感じられた。

 リーナは少し気恥ずかしそうに笑いながら、「セイバスの声だと思ったわ。ビックリしたけど、悪くない。新しい環境だから、無理に変える必要はないわよ。ごめんね、気を使わせちゃって」と語りかける。

「滅相もございません。それでは、チルと呼んでいただけると幸いです」とチルは礼儀正しく答える。彼女の言葉には微かな安堵の感情が滲み出ている。

 リーナはこれに対し、もっと気軽に接して欲しいと願う。「いいのよ? そんなに堅苦しくなくても。もっとフランクにお願い」と続けた。

「わかりました」とチルは、少し戸惑いながらも承諾する。その声には新たな試みへの期待が感じられる。

 リーナはニッコリ笑いながら、「それでいいのよ。ありがとう」とチルに感謝を示す。

 そして、リーナは興味深く次の問いを投げかける。「それで? この未知の何かについて説明してもらえるかしら?」

「もちろんです。まずは、視界に映るこの画像の領域から説明しましょう」とチルは説明を開始した。彼女の声は、情報を伝えるために一層明瞭になる。

 このやりとりを通じて、リーナは徐々に新しい環境に適応し、心拍数が安定するまでに落ち着きを取り戻していった。

 しばらくして零士が目を覚ますと、リーナは何かを操作しているのを目にする。彼はその姿を見て微笑み、「よお、無事に最初のステップはクリアしたみたいだな」と声をかけた。

 リーナは軽く拗ねたように口を尖らせ、「ちょっと、ずるいでしょ? これ」と言って、軽く胸を叩く。

 零士は、持っている者だけの特権を楽しむように、「え? そう言ってもな、持っている奴だけの特権だぜ?」と返す。

 リーナは半ば納得しつつも、「まあそうなんだけど……。これずるい」と変わらずその言葉を繰り返す。それは彼女が新しい能力を理解し、すでにそれを使いこなせそうだと感じている証拠でもある。

 零士は彼女を宥めるように、「まあまあ。今はあるんだし、いいじゃんか。それよりさ、AI持ち同士だから念話ができるんだぜ? 試してみるか?」と念話の利点を提示する。

 リーナは、お祈りでもするかのように両手を正面に合わせ、「うん! それ、本当に楽しみにしてたの!」と興奮を隠せない様子で答える。

 零士がリーナへ念話の方法をレクチャーしていると、ナルも起きてきて飛び入り参加する。「リーナ、飲み込みが早いね」と、リーナの脛を肉球で軽く叩きながら言った。

「ありがとう、ナル姉さん」とリーナは満面の笑顔で返す。零士はそれを見て、猫とはいえどうしてもナルの容姿が幼く見えるので、この光景が少しコミカルに映ると感じていた。

「うん。距離関係なく話せるから便利だよ。零士といつもしてるからね」とナルは説明を加える。零士は日常的にナルとの念話を使い、特にダンジョンでの連携に役立てていると思い至る。

 リーナが興味深く「レイジたちはいつもこの念話で会話してたの?」と尋ねると、零士は「ああ、すぐに意思疎通できるから便利だろ?」と利便性を強調する。

「ええそうね。でも、寝ている時に起こされちゃうのはちょっと……」とリーナは少し心配そうに付け加える。

「大丈夫だって。そこまでデリカシーない奴じゃないよ、俺は」と零士は安心させようとするが、そこにナルが顔を挟むように割り込んでくる。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

勇者じゃないと追放された最強職【なんでも屋】は、スキル【DIY】で異世界を無双します

華音 楓
ファンタジー
旧題:re:birth 〜勇者じゃないと追放された最強職【何でも屋】は、異世界でチートスキル【DIY】で無双します~ 「役立たずの貴様は、この城から出ていけ!」  国王から殺気を含んだ声で告げられた海人は頷く他なかった。  ある日、異世界に魔王討伐の為に主人公「石立海人」(いしだてかいと)は、勇者として召喚された。  その際に、判明したスキルは、誰にも理解されない【DIY】と【なんでも屋】という隠れ最強職であった。  だが、勇者職を有していなかった主人公は、誰にも理解されることなく勇者ではないという理由で王族を含む全ての城関係者から露骨な侮蔑を受ける事になる。  城に滞在したままでは、命の危険性があった海人は、城から半ば追放される形で王城から追放されることになる。 僅かな金銭で追放された海人は、生活費用を稼ぐ為に冒険者として登録し、生きていくことを余儀なくされた。  この物語は、多くの仲間と出会い、ダンジョンを攻略し、成りあがっていくストーリーである。

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

異世界サバイバルゲーム 〜転移先はエアガンが最強魔道具でした〜

九尾の猫
ファンタジー
サバイバルゲームとアウトドアが趣味の主人公が、異世界でサバゲを楽しみます! って感じで始めたのですが、どうやら王道異世界ファンタジーになりそうです。 ある春の夜、季節外れの霧に包まれた和也は、自分の持ち家と一緒に異世界に転移した。 転移初日からゴブリンの群れが襲来する。 和也はどうやって生き残るのだろうか。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

処理中です...