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一章:ゴウリ王都編(始まりの力)
第16話『死の淵』
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「託すぞ、少年――。この手に未来を! 我に力をっ!」
吐き出す言葉とは裏腹に敵に向けた顔は、口角をあげてまるで見透かすように目を細め笑う。今を知り未来に何を感じたのか、それともどうにもならない今に絶望したのか。顔つきから察すると前者に見えた。
仁王立ちをして、地面に足を踏みつけると爪先を少し外側に向け開く。胸の高さから手のひらをまっすぐ伸ばして、壁に手を押さえつけるような素振りだ。すると何かてのひらから、銀色の粒子が体に絡みつきまといはじめる。
空気が震撼する時、地響きのうねりを足裏で感じとる。地面から小石や砂が浮きはじめる。何が起ころうとしているのか、皆目検討がつかず京也は目を見開き、眉をあげた。
さらに見えるのは紅い粒子も混じっていく。血なのだろうか、血煙のごとく銀の粒子が織り混ざり、眩しく輝く様はまさにダイヤモンドダストだ。
「バルザーック!」
叫ばずにはいられなかった。まるで自らの肉体と命を削ってまでして、何かを発動しようとしている。力を使わせてしまったのも、俺がしくじったせいだった。
――少し前。
鉄格子の中でどうにかならないかと、デタラメに毒蛇を放ち続けた。威力が強すぎたのか、鉄格子や壁面もすべてくり抜かれた状態になり、京也とバルザックは脱出した。
ところが壁面を削り作られた階段も毒蛇でくり抜いてしまったせいか、唯一の出入り口に向かえない。仕方なく、毒蛇を放ち続けてそのまま掘削して外界に出られるか試し掘り出した。
あてもなくただ掘り進めているだけのため、どこに出るかは皆目検討がつかない。どこをどう掘り進めてきたのかすでに徒歩で1時間は経過している。
ようやく壁が砕けて見えた先は、非常に広い空間に出た。貴族の館がそのまま収まってもなお、余裕があるぐらいの空間が広がる。
「見ぃつけた……」
京也の耳には少女の声がどこからともなく聞こえ、辺りを見回しても誰もいない。挙動不審な京也の動きを見たバルザックは、不思議そうに見る。彼とバルザックしかいない空間だった。
「なんだ?」
「探しても見えないだろうね……イヒヒヒ」
再び声が聞こえてきた。
「私はね。ずうっと、魔力なしの人間を探していたんだ」
「誰だ? お前は」
京也はたまらず声をあげてしまった。バルザックは何をしているんだという顔でみやる。
「君が囲っている妖精とは、比べものにならない”存在”よ」
「何が目的だ?」
気にせず京也は、ようやく言葉が通じたので会話を続ける。
「知っているよ。君が魔力の力を欲していることぐらいね」
「なくてもどうにかなる」
「……本当にそう思う?」
「ああ……」
「そう……。なら魔力より上の力である精霊の伊吹はいらないのね」
「どういうことだ? まるで与えられるとでも言わんばかりの口調だな? どうせ条件とかに付け込んで弱みを握るつもり……なんだろう?」
「君、察しがいいね。……イヒヒヒ」
「神を信じない俺に精霊をどうやって信じろというんだ?」
敵味方のどちらか、わからないというのが正直な気持ちだった。敵であることを前提に会話をまだ試みている。
「信じていないからこそ、いいに決まっているじゃない?」
「騙すつもりか?」
「あらあら、神と同一視されても困るなぁ。彼らと私とではまるで違う存在だよ。比べる意味をなさないぐらいにね」
「自分が上だと言いたいのか?」
「うううん違うよ。闇はどこにでもあり、誰の近くにも存在するの。神とて例外ではないよ?」
「どういう意味だ?」
「純然たる闇だと、敬虔《けいけん》なる信徒では力の扱いができないからね」
「俺ならできると?」
「そそ。気がついていないだろうけど、君は純然たる闇のエリートになれるよ。それどころか闇その物を体現する者になれるかな」
「俺は、レベルがゼロでないぞ、そんな弱い奴を相手にしてたら時間のムダじゃないか?」
「それね、魔物を倒して経験値を得てレベルが上がらないのは、この世界に馴染んでいないからだよ? 知っていた?」
「この世界に馴染まない?」
「そう。だからね、得られない君はエリートなのさ。特に神々にとっては厄介な存在なんだろうね……。経験値を得てレベルが上がるのは、神の力だからね。その神の力ですら耐久しちゃうとね。ねえ知っていた?」
「何がだ?」
「理外《ことわりがい》の人……。理人《リジン》。それが今の君だよ?」
「ならちょうどいい。その力で神を殴り倒すまでだ。それなら、お前のデメリットとメリットは?」
「おっ興味がでてきたかい? 闇精霊として私は嬉しいよ。理人から力を分けてもらえるのがメリットかな?」
「理人から?」
「そそ。デメリットはね。君が私を見向きもしなかったら、せっかく見つけたのに寂しいかな?」
「なるほどな。すべてを話してもいないし、本音は言っていないな……」
「あら? わかっちゃった? ただね、まだ初対面だよ? 嘘をつくつもりはないよ。君ってはじめからグイグイくるタイプなの?」
「……」
「わかりました。わかりました。そしたら……証拠を見せるよ」
「証拠だと?」
「うん。とっておきのね……。イヒヒヒ」
すると突然バルザックが顔をしかめはじめた。何か自身の体に異変が起きたかのように、胸や腹や首筋など自らの手で何か確認するように触りはじめた。
「どうしたんだ?」
「なんというかな。いきなり魔力の力だけが急激に上昇したような感じがしてね」
「思わず体を触って確認してしまったと?」
「そそ、そうだよ。よくわかったね」
「ん~この場合、誰が見てもそんな感じがしますよ」
「ここは行き止まりか? いや……あれは……」
何も無い場所に見開きの扉が1つだけあった。どこかあまりいい行き先とは思えない。そのようなことを思いながら京也は、バルザックと共に扉に向かい歩きはじめた。
先までの闇精霊とのやりとりをまったく感じさせない。バルザックはまるで見ていないかのような様子だ。どういうことだと内心頭を捻る。まるでやりとりの時間が無かったかのような素振りだ。
ただし京也にはハッキリとした記憶として残っている。
あまりにも強烈な印象だったしそのため、何がなんだかよくわからない。再度、自称闇精霊を強く念じて見ても、何も反応や変化もない。となるとさっきのはなんなのか、まるで検討がつかなかった。
「やはり扉か……」
「京也、この扉俺に任せてくれないか?」
「どうしたんですか? 突然?」
「ちょっと……な」
バルザックはいうと、肩幅ほどに足を開いて右肩を正面に向けると同様に、右手のひらを扉の前へ向ける。上半身からは、ダイヤモンドダストが湧き上がるようにあふれでてくると、腕を這うようにつたい、手のひらに集まりはじめた。
身にまとう姿は、あまりにも幻想的なため、思わず見入ってしまう。
すると突然、突風を正面から浴びせられたかのような風圧を受けたかと思うと、バルザックの手のひらから一直線にダイヤモンドダストの魔力が扉に放たれた。まるで樹齢数百年を生きた木の幹といえるほどの太さだ。
一瞬にして扉は、霜が降りたかのように真っ白になる。今度は人の頭ほどの氷の塊を無数に中空で生成したかと思うと、扉に勢いよく打ち当てたことで途端に状況は変わる。
まるで薄い陶器を、地面に叩きつけて割ったかのように、扉が粉々に砕け落ちてしまった。
「なぜ……」
京也は目先の光景を見て大きく目を見開き、両眉を持ち上げて口は半開きにしていた。扉の先にいた者は、魔族たちだ。数にして十数人はいる。しかも待ち構えていた様子すらうかがえる。
一斉に何かを各々京也たちに向けて放つ。すると何を思ったのか唐突にバルザックが盾となり、京也の前に立ちはだかる。よせ、と叫んでもお構いなしに、身を挺して守ろうとする。
京也は動けず棒立ちしてしまっていた。急な攻撃で即時動けるところは、経験の差と言えるだろう。やはりまだ、戦いにおいては未熟さがどうしても、いざという時こそ動けないところが際立ってしまう。
疑問はおろか、思考すらも置き去りにしてようやく本能に赴くまま、永遠なる闇の毒蛇を権限させ放つ。
「へぇ~。やっぱ持っていたんだね」
先まで無反応だった自称闇精霊が突然、呑気に声をかけてきた。毒蛇に興味津々といったところだ。今やっと気がついたことは、闇精霊と話をしている時の時間感覚だ。
周りが止まって見える……。
ほんのわずかではあるものの、周りは限りなく止まっているに近いぐらいの速度で動いている。どうやら闇精霊と話をしている時だけ体感時間が変わることに京也は気が付く。
すると闇精霊は、短剣に興味津々な感じを匂わせる。
「特典箱から偶然手に入れただけだ」
素直に入手先を思わずいってしまう。
「偶然ねぇ……。君に引き寄せられたの間違いでなくて?」
「引き寄せられるわけなんて……」
この闇精霊は何を言っているのかわからなかった。
「生きとし生けるものを調べていて、1つわかったことがあるの。なんだと思う?」
「唐突だな。勿体ぶるのはよせ」
「短気ね……。まあいいわ教えてあげる」
「何をだ?」
「人族って実は、寄生体なのよ。魔力に寄生しているタイプのね。だからほら、この通り魔力が優勢になると人が魔力に食われるわ」
「バルザックが……。なんだ……。お前、何をした?」
「魔力を少し強くしてあげただけよ? ほら、本人満足そうよ?」
バルザックは、口角をあげて目に力を入れて、真っすぐ正面を見据えている。上半身から湧き上がる魔力の姿は、どこか自信に満ち溢れている感じがしていた。その表情とは裏腹に、体全体の存在感が希薄化しているように見える。まるで自身がダイヤモンドダストかのようにだ。
「くそっ。俺がもたもたしていたせいで……」
「そうかしら?」
「俺が毒蛇を即座に放てば……」
「どうにかなると? 経験が少ない者を引き連れている以上、すべて引率する経験者のせいよ? 経験が少ないんじゃ判断はおぼつかないからね」
「一理、あるな……」
納得せざるを得ない。的を射ている。
「でしょ? 不足の事態に対処するのも、危険から避けて通るのも経験者の役割よ?」
「本来避けられるものを避けないのは、判断する経験者側の過ちと?」
「有り体に言えば、そうね」
バルザックにはすでに分かっていたことがあった。魔力の昂りは、間違いなく”食われる”と。回避も不可能ならば命を賭して、次につなげるしかないことも。
魔導士を目指していたこともあり、今高みに昇れるなら頂まで上がろうとそう思っていたのかもしれない。
ゆえにすべてをかけて、目の前にいる魔族をくらい尽くそうと、考えての行動だった。
「消えるのも運命というわけか……」
「運命なんてそんなあやふやな物、信じちゃいけないわ。それはとある1つの道でしかないのよ? 選ぶのはあなた。何を選ぶの?」
俺は目の前の事象を眺めているしかできなかった。なぜか体が動かなかったからだ。今は命ですら魔力に変えて、攻撃し消えゆくバルザックを眺めていることしかできなかった。
吐き出す言葉とは裏腹に敵に向けた顔は、口角をあげてまるで見透かすように目を細め笑う。今を知り未来に何を感じたのか、それともどうにもならない今に絶望したのか。顔つきから察すると前者に見えた。
仁王立ちをして、地面に足を踏みつけると爪先を少し外側に向け開く。胸の高さから手のひらをまっすぐ伸ばして、壁に手を押さえつけるような素振りだ。すると何かてのひらから、銀色の粒子が体に絡みつきまといはじめる。
空気が震撼する時、地響きのうねりを足裏で感じとる。地面から小石や砂が浮きはじめる。何が起ころうとしているのか、皆目検討がつかず京也は目を見開き、眉をあげた。
さらに見えるのは紅い粒子も混じっていく。血なのだろうか、血煙のごとく銀の粒子が織り混ざり、眩しく輝く様はまさにダイヤモンドダストだ。
「バルザーック!」
叫ばずにはいられなかった。まるで自らの肉体と命を削ってまでして、何かを発動しようとしている。力を使わせてしまったのも、俺がしくじったせいだった。
――少し前。
鉄格子の中でどうにかならないかと、デタラメに毒蛇を放ち続けた。威力が強すぎたのか、鉄格子や壁面もすべてくり抜かれた状態になり、京也とバルザックは脱出した。
ところが壁面を削り作られた階段も毒蛇でくり抜いてしまったせいか、唯一の出入り口に向かえない。仕方なく、毒蛇を放ち続けてそのまま掘削して外界に出られるか試し掘り出した。
あてもなくただ掘り進めているだけのため、どこに出るかは皆目検討がつかない。どこをどう掘り進めてきたのかすでに徒歩で1時間は経過している。
ようやく壁が砕けて見えた先は、非常に広い空間に出た。貴族の館がそのまま収まってもなお、余裕があるぐらいの空間が広がる。
「見ぃつけた……」
京也の耳には少女の声がどこからともなく聞こえ、辺りを見回しても誰もいない。挙動不審な京也の動きを見たバルザックは、不思議そうに見る。彼とバルザックしかいない空間だった。
「なんだ?」
「探しても見えないだろうね……イヒヒヒ」
再び声が聞こえてきた。
「私はね。ずうっと、魔力なしの人間を探していたんだ」
「誰だ? お前は」
京也はたまらず声をあげてしまった。バルザックは何をしているんだという顔でみやる。
「君が囲っている妖精とは、比べものにならない”存在”よ」
「何が目的だ?」
気にせず京也は、ようやく言葉が通じたので会話を続ける。
「知っているよ。君が魔力の力を欲していることぐらいね」
「なくてもどうにかなる」
「……本当にそう思う?」
「ああ……」
「そう……。なら魔力より上の力である精霊の伊吹はいらないのね」
「どういうことだ? まるで与えられるとでも言わんばかりの口調だな? どうせ条件とかに付け込んで弱みを握るつもり……なんだろう?」
「君、察しがいいね。……イヒヒヒ」
「神を信じない俺に精霊をどうやって信じろというんだ?」
敵味方のどちらか、わからないというのが正直な気持ちだった。敵であることを前提に会話をまだ試みている。
「信じていないからこそ、いいに決まっているじゃない?」
「騙すつもりか?」
「あらあら、神と同一視されても困るなぁ。彼らと私とではまるで違う存在だよ。比べる意味をなさないぐらいにね」
「自分が上だと言いたいのか?」
「うううん違うよ。闇はどこにでもあり、誰の近くにも存在するの。神とて例外ではないよ?」
「どういう意味だ?」
「純然たる闇だと、敬虔《けいけん》なる信徒では力の扱いができないからね」
「俺ならできると?」
「そそ。気がついていないだろうけど、君は純然たる闇のエリートになれるよ。それどころか闇その物を体現する者になれるかな」
「俺は、レベルがゼロでないぞ、そんな弱い奴を相手にしてたら時間のムダじゃないか?」
「それね、魔物を倒して経験値を得てレベルが上がらないのは、この世界に馴染んでいないからだよ? 知っていた?」
「この世界に馴染まない?」
「そう。だからね、得られない君はエリートなのさ。特に神々にとっては厄介な存在なんだろうね……。経験値を得てレベルが上がるのは、神の力だからね。その神の力ですら耐久しちゃうとね。ねえ知っていた?」
「何がだ?」
「理外《ことわりがい》の人……。理人《リジン》。それが今の君だよ?」
「ならちょうどいい。その力で神を殴り倒すまでだ。それなら、お前のデメリットとメリットは?」
「おっ興味がでてきたかい? 闇精霊として私は嬉しいよ。理人から力を分けてもらえるのがメリットかな?」
「理人から?」
「そそ。デメリットはね。君が私を見向きもしなかったら、せっかく見つけたのに寂しいかな?」
「なるほどな。すべてを話してもいないし、本音は言っていないな……」
「あら? わかっちゃった? ただね、まだ初対面だよ? 嘘をつくつもりはないよ。君ってはじめからグイグイくるタイプなの?」
「……」
「わかりました。わかりました。そしたら……証拠を見せるよ」
「証拠だと?」
「うん。とっておきのね……。イヒヒヒ」
すると突然バルザックが顔をしかめはじめた。何か自身の体に異変が起きたかのように、胸や腹や首筋など自らの手で何か確認するように触りはじめた。
「どうしたんだ?」
「なんというかな。いきなり魔力の力だけが急激に上昇したような感じがしてね」
「思わず体を触って確認してしまったと?」
「そそ、そうだよ。よくわかったね」
「ん~この場合、誰が見てもそんな感じがしますよ」
「ここは行き止まりか? いや……あれは……」
何も無い場所に見開きの扉が1つだけあった。どこかあまりいい行き先とは思えない。そのようなことを思いながら京也は、バルザックと共に扉に向かい歩きはじめた。
先までの闇精霊とのやりとりをまったく感じさせない。バルザックはまるで見ていないかのような様子だ。どういうことだと内心頭を捻る。まるでやりとりの時間が無かったかのような素振りだ。
ただし京也にはハッキリとした記憶として残っている。
あまりにも強烈な印象だったしそのため、何がなんだかよくわからない。再度、自称闇精霊を強く念じて見ても、何も反応や変化もない。となるとさっきのはなんなのか、まるで検討がつかなかった。
「やはり扉か……」
「京也、この扉俺に任せてくれないか?」
「どうしたんですか? 突然?」
「ちょっと……な」
バルザックはいうと、肩幅ほどに足を開いて右肩を正面に向けると同様に、右手のひらを扉の前へ向ける。上半身からは、ダイヤモンドダストが湧き上がるようにあふれでてくると、腕を這うようにつたい、手のひらに集まりはじめた。
身にまとう姿は、あまりにも幻想的なため、思わず見入ってしまう。
すると突然、突風を正面から浴びせられたかのような風圧を受けたかと思うと、バルザックの手のひらから一直線にダイヤモンドダストの魔力が扉に放たれた。まるで樹齢数百年を生きた木の幹といえるほどの太さだ。
一瞬にして扉は、霜が降りたかのように真っ白になる。今度は人の頭ほどの氷の塊を無数に中空で生成したかと思うと、扉に勢いよく打ち当てたことで途端に状況は変わる。
まるで薄い陶器を、地面に叩きつけて割ったかのように、扉が粉々に砕け落ちてしまった。
「なぜ……」
京也は目先の光景を見て大きく目を見開き、両眉を持ち上げて口は半開きにしていた。扉の先にいた者は、魔族たちだ。数にして十数人はいる。しかも待ち構えていた様子すらうかがえる。
一斉に何かを各々京也たちに向けて放つ。すると何を思ったのか唐突にバルザックが盾となり、京也の前に立ちはだかる。よせ、と叫んでもお構いなしに、身を挺して守ろうとする。
京也は動けず棒立ちしてしまっていた。急な攻撃で即時動けるところは、経験の差と言えるだろう。やはりまだ、戦いにおいては未熟さがどうしても、いざという時こそ動けないところが際立ってしまう。
疑問はおろか、思考すらも置き去りにしてようやく本能に赴くまま、永遠なる闇の毒蛇を権限させ放つ。
「へぇ~。やっぱ持っていたんだね」
先まで無反応だった自称闇精霊が突然、呑気に声をかけてきた。毒蛇に興味津々といったところだ。今やっと気がついたことは、闇精霊と話をしている時の時間感覚だ。
周りが止まって見える……。
ほんのわずかではあるものの、周りは限りなく止まっているに近いぐらいの速度で動いている。どうやら闇精霊と話をしている時だけ体感時間が変わることに京也は気が付く。
すると闇精霊は、短剣に興味津々な感じを匂わせる。
「特典箱から偶然手に入れただけだ」
素直に入手先を思わずいってしまう。
「偶然ねぇ……。君に引き寄せられたの間違いでなくて?」
「引き寄せられるわけなんて……」
この闇精霊は何を言っているのかわからなかった。
「生きとし生けるものを調べていて、1つわかったことがあるの。なんだと思う?」
「唐突だな。勿体ぶるのはよせ」
「短気ね……。まあいいわ教えてあげる」
「何をだ?」
「人族って実は、寄生体なのよ。魔力に寄生しているタイプのね。だからほら、この通り魔力が優勢になると人が魔力に食われるわ」
「バルザックが……。なんだ……。お前、何をした?」
「魔力を少し強くしてあげただけよ? ほら、本人満足そうよ?」
バルザックは、口角をあげて目に力を入れて、真っすぐ正面を見据えている。上半身から湧き上がる魔力の姿は、どこか自信に満ち溢れている感じがしていた。その表情とは裏腹に、体全体の存在感が希薄化しているように見える。まるで自身がダイヤモンドダストかのようにだ。
「くそっ。俺がもたもたしていたせいで……」
「そうかしら?」
「俺が毒蛇を即座に放てば……」
「どうにかなると? 経験が少ない者を引き連れている以上、すべて引率する経験者のせいよ? 経験が少ないんじゃ判断はおぼつかないからね」
「一理、あるな……」
納得せざるを得ない。的を射ている。
「でしょ? 不足の事態に対処するのも、危険から避けて通るのも経験者の役割よ?」
「本来避けられるものを避けないのは、判断する経験者側の過ちと?」
「有り体に言えば、そうね」
バルザックにはすでに分かっていたことがあった。魔力の昂りは、間違いなく”食われる”と。回避も不可能ならば命を賭して、次につなげるしかないことも。
魔導士を目指していたこともあり、今高みに昇れるなら頂まで上がろうとそう思っていたのかもしれない。
ゆえにすべてをかけて、目の前にいる魔族をくらい尽くそうと、考えての行動だった。
「消えるのも運命というわけか……」
「運命なんてそんなあやふやな物、信じちゃいけないわ。それはとある1つの道でしかないのよ? 選ぶのはあなた。何を選ぶの?」
俺は目の前の事象を眺めているしかできなかった。なぜか体が動かなかったからだ。今は命ですら魔力に変えて、攻撃し消えゆくバルザックを眺めていることしかできなかった。
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