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一章:ゴウリ王都編(始まりの力)
第20話『慣れている』
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「すごいな……」
倉庫街の一角には、他と異なる雰囲気の場所があった。
雲ひとつない空に存在感を放つ満月の冷たい光は、魔法陣の円環を照らして闇夜に浮き上がらせている。様相は、あたかも朝づゆで覆われた蜘蛛《くも》の巣のようだ。
さまざまな文字で構成される円環は、人の背丈ほどの直径もある大きさで所々に配置されており、どう見ても異様としか言えない光景だ。
明らかに魔術的な何かを施されており、厳重さがまるで異なる。侵入しようにも素人では即時見つかってしまう。
人身売買をしている話から、恐らくはこの辺り一帯のどこかにいる。さらわれた人らは一時的に、保管されている可能性は高かった。戦闘を続けていては巻き添いになるため、なんとかして先に逃がしておきたい。
脱出させつつも攻撃から守る方法は、かなり難儀するところだ。一人ではやれることに限りがあるし、そこでリムルの転移魔法の出番だ。リムルの協力を得て誘導役になってもらいながら、転移魔法陣を展開して人々らを脱出させる。一番シンプルな方法が妥当だろう。
恐らくは、早々にことが片付く。ただし人数が予想以上に多い場合は、移動が終わるまで苦戦を強いられそうだ。敵を迎え撃ちつつとなると、あともう一人は欲しい。
「リムル、転移魔法陣の維持はどの程度できるんだ?」
「多分、いつまでも?」
なんともアッサリと答えが返ってきた。さすが妖精だけあって膨大な魔力を保持しているんだろう。
「凄いな……。わかった、任せた!」
「ありがと。頑張る」
ぎゅっと両方の拳を握って口を少し膨らませながら、踏ん張る姿勢がほほえましくてどこか癒される。何だか、少し買い物に出かけてくるぐらいの気軽さだ。
「――ぶっつけ本番だな。準備までにどの程度時間がいるんだ?」
「町の中の範囲なら一瞬で終わるわ。町の外でも近隣なら同じぐらいかな」
「そしたら移動先は、王城の前にしよう。あそこなら転移後さらわれる可能性は低い」
事前に連絡を取るべく俺は、以前第四皇女にもらった疎通石を使い、連絡を取って見るとすんなり繋がった。
「京也です。皇女突然で申し訳ない。今話ししても大丈夫ですか?」
「あら、久しぶりね。問題ないわ。様子からすると緊急なようね」
「お気遣いありがとうございます。実は今から救出する人がいて、転移魔法で脱出先を王城前にしたく考えております」
「随分と急なのね。あの人さらいの首謀者が分かったのね?」
「恐らくは大臣と勇者かと……」
「そう……」
「驚かれないのですね?」
「私も気になって調べていたからね。行き着いた先は同じよ? ただ行動に移したのは京也の方が先ね。いいわ分かった。私の息のかかった衛兵には伝えておくわ」
「ありがとうございます」
「ところで、私からの要望は覚えているかしら?」
今ここでこの話が出るとは……。変わらずご執心のようだ。
「皇女の騎士に……との件ですか?」
「そうよ。いつ頃答えを聞かせてもらえるのかしら?」
「皇女申しわない。今から囚われた人の脱出先を王城の前へ移動させます。多少騒ぎになるかもしれません。ご容赦願います」
俺は強引に回答をはぐらかして、すぐに行動に移した。一旦脱出させること事態は問題ないことがわかり、あとは侵入場所と方法を考えていた。
「皇女か、随分と親しいんだな」
アリッサは若干驚いているようだ。
「ちょっとしたことがあってな、それでこの疎通石をもらったんだ」
「……なるほどな。よほど信頼されているとみる」
「だと、いいんだけどな……」
目の前で突然、皇女とやりとりを始めれば誰でも驚くだろう。少しばかり配慮が足りなかったかもしれない。アリッサはすでに思考を切り替えて、魔族を迎え撃つよう動きだす。
「京、左手に見える茶色の屋根の倉庫に、囚われている人らがいる。だだっ広い倉庫の中に、単に鉄格子の中にいるだけだ」
アリッサの方で事前に調べていたようだ。俺のぶっつけ本番で行き当たりばったりなのとは訳が違う。
「わかった毒蛇で扉は食い尽くすさ。アリッサは?」
「ああ私は、隣の倉庫に用がある。大臣たちもおそらく、そこにいる。私が先に行こう」
「それならアリッサが暴れ出したら、俺たちは倉庫にいる人らを脱出させる」
「京、そっちは任した」
「一人で大丈夫なのか?」
どうやら単独で突撃する様子だ。あらためてすごい人だと思う。
「なあに、私は魔法がいくつか使えるからな」
「それもそうだな。じゃ後で」
「京こそ気をつけるんだぞ」
「ああアリッサも」
アリッサは身軽に駆け抜けていく。瞬く間に気配や姿も消してしまう辺りは、熟練の域を感じさせる。
俺の方はというとリムルと言われた通り、左手の人気の無い倉庫へ静かに向かった。独特な魔族特有の気配が、ここにはない。だとすると人族ばかりの者たちだろう。とはいえ、油断は禁物だ。
――破砕音だ。
遠くの方で大きく聞こえてくる。
どうやらアリッサは動き出したようだ。中空に何か光の槍のような物が幾本も浮かびそれらが、建物内に吸い込まれていく。着弾と同時に爆発音が響き渡り、かなり派手な攻撃で気を削いでくれているのがわかる。
京也の方は倉庫の搬入出と思われる入り口を見つけた。見た目は木製の扉で、背丈の二倍程度の大きさだ。あまり頑丈そうに見えないので、あまり防犯は気にしていないのかもしれない。ひとまず毒蛇を放って破壊を試みる。
こちらの方は、アリッサと比べると随分と静かな攻め込み具合だ。大きな口を開けた二対の毒蛇が、絡み合いながらねじ込むように扉へ食らいつく。巨体と勢いに耐えられるほどの物ではなく、簡単に消し飛んでしまう。
わかりやすく言えば、木っ端微塵だ。中からは、魔族と思わしき人物が三人ほど、慌てて様子を見に外へ飛び出してきた。
間髪入れずに毒蛇を放ち、三人に食らいつき飲み込むと何も残らなかった。魔族といえど食われさえすれば、無に帰する。ただ、そもそも当てるのが難しかったりする。
他にも現れると見込んで、リムルを後衛にして進むと誰もおらず、ほとんどアリッサがいる倉庫に向かった様子だ。鉄格子に人が囚われているだけなら、多少手薄でも逃げようもないと考えたんだろう。たしかに当然だな。
中は間仕切りもなく、石畳の上に多数の鉄格子が並んでいるだけの場所だった。今の破砕音は何事かと、囚われた人らが怯える目で俺を見やる。
信じるかはともかくとして、必要なことを大声で発言してみた。
「皆聞いてくれ、これから鉄格子を壊す。その後、転移魔法陣で城前まで転移してもらう。すでに城には話がついているから安心してくれ」
ざわつきはするも、反応は薄い。
「皆さん。私が転移魔法を出します。慌てず順番に来てくださいね」
リムルがいうとどこか安心するようで、皆怯えが少し治っているようだ。京也ではなぜだめなのか、まるで当人には理解できかなった。見た目は傲慢さもなく、どちらかというと大人し目の部類だろう。ひとまず自身の役割をまっとうしようと鉄格子の破壊に勤しむ。
「皆、施錠された場所から少しでも遠くに離れてくれ」
俺はいうだけはいったと、警告だけはしたつもりだ。
短剣をおもむろに正面に突き出し、縦に並んでいる鉄格子の出入り口をそのまま毒蛇で一気に破砕した。
毒蛇が大きく口を開けて噛み付くと、まるで何も無かったかのように鉄格子の一部が消える。すべて出入り口部分を破壊して出られるようになると、よろけながらも鉄格子の囲いから人々が出はじめた。
囚われた人は、老若男女さまざまだ。数にして、三十人ほどだろう。ぞろぞろと倉庫の中央に集まり出した。
リムルはすでに準備を整えていた様子で、円環の魔法陣が黄緑色に煌めきはじめる。
大きな円環に皆、感嘆の声をあげるとすぐに縦にできた円形の輪の先に、王城の門が見えた。すでに目の前では、衛兵が迎える準備を整えていた。
「皆さん、城側は準備できています。こちらから移動してください」
リムルの透き通るような声が響く。言葉を合図に、人々らは順番に円環を潜っていった。呆気に取られて、言われるまま行動している人がほとんどだ。お礼を告げるものは幾人かいた。
物の数分にも満たない脱出劇で、辺りは静まり返る。最後のひとが通りすぎると円環は消滅した。あとはアリッサのいる場所で合流するだけだ。今度こそは奴らを倒したいと願っていた。
「リムル行くぞ!」
「はい!」
扉の破壊された倉庫を出て、派手にやり合っている場所に向けて駆け出した。右横に寄り添うぐらいの近さで、闇精霊が再び中空に浮いた状態で現れ共に向かう。
「”悪魔”どもをやるんだろ? 最高じゃないかイヒヒヒ」
「妙に愉快そうだな?」
「京也の不安の種を少しだけ払い除けようと思ってね? ちょっとした工夫をしてみたのさ」
「魔力はないぞ?」
「気にすることはないよ。闇の力を使って、少しの間だけ白い騎士が力を貸してくれるよ? イヒヒヒ」
「騎士……だと?」
「あれ? 四騎士は知らないのかい? その内の一体がね……。まあ、別にいいけど。あたしは楽しみ」
「やたら嬉しそうだな?」
「だってさ、ようやく使いこなせる者がいるんだよ? いったでしょ? 君はエリートだって」
「はぁ……わかったよ。俺が戦いの素人だからって、後悔すんなよ?」
「大丈夫、大丈夫。それじゃ初めてだから、気をしっかり持ってね?」
「何っ?」
「行くよっ!」
俺は一瞬、何をみているのかわからなかった。たしかに目の前には、アリッサが縦横無尽に駆け回る戦場だったし、俺たちの接近に気がついてもいる。
当然俺たちも、予想以上にいる魔族たちを見て内心舌打ちしていたし、力任せで行くしかないとも思っていた。ところが闇精霊が何かをいった瞬間、世界が一瞬にして灰色に変化した。
「闇……精霊?」
灰色一色の世界では、動いているのは俺だけで皆、止まっているように見えた。ただし、わずかながら動きがある。恐らくは、俺の感じる時間感覚が異常に長くなった。
しかも手には何故か左右それぞれの手に拳銃が握られている。握り慣れない大型の拳銃を魔族に狙いうつと、最も簡単に思った場所に命中し、大袈裟なほどの勢いで爆散する。もう一度狙い撃つと同じように思った場所に当たり、同様に爆散した。
「なんだ? 粉塵爆発か?」
力の大きさを知り、一瞬身震いする。
いくらこの魔法のある世界とはいえ、これだけの局所的な爆発を見せられると驚きしかなかった。
ただその力はおそらくは有限だ。俺だけの早い時間軸がいつ止むかもしれないため、手当たり次第魔族に向けて撃ち続ける。
すべてに命中し、辺りには肉塊しか残らないほどのデタラメな火力を誇る銃だ。どちらも真っ黒で艶消しがされており、反動もなければ重くもない。射出されているのは鉛玉とは何か違うようだ。
見た目と違い再装填は不要で、しかも何発でも撃ち続けられる。ただこうしていられる時間は、長くはないだろう。急ぎ、目に付く魔族をすべて撃ち抜き、殲滅をしはじめた。
「やるね。すぐに馴染む辺りは、やはり適正が大きいね」
少しばかり遅れて闇精霊が話しかけてきた。
「この力は……」
「四騎士の内の1つ、支配を司る騎士だよ」
「この銃が騎士? 支配なのか……」
「弓のつもりなんだけどね。君が思い描く弓に近いイメージが、その黒い杖の形になったんじゃないかな? それに、周りに影響させるより、当人への影響を大きくしたほうがローコストだからね」
闇精霊は銃をどうやら杖と認識しているようだ。この世界に銃などないから当然だろう。俺のイメージがそのまま反映したに過ぎない。
「俺の頭を少しいじりやがったな?」
「うん? そうなの?」
闇精霊はいつも最初とぼける。京也はなんとなく、この者の癖を掴んできた。
「何をした?」
「一秒をね、千倍に引き延ばす力だよ……イヒヒヒ」
「ほとんど止まった中で動くような物だな……」
「でしょ? その時間を縦横無尽に駆け抜ける力が与えられたはずだよ?」
「一秒が16分か。動けるのは……間違いではないな」
「理解してくれて何より。なら、目の前のこと、片付けちゃいましょ? イヒヒヒ」
もういい加減に、闇精霊の怪しい笑いには慣れてきた。異様な力はもはや、誰も抵抗はできない力だ。圧倒的な火力と俺が存在している皆と異なる時間軸では、相手が圧倒的に不利だ。
――やってやろうじゃないか。
ついに相手の技術と俺の力は、逆転する時がきたようだ。
倉庫街の一角には、他と異なる雰囲気の場所があった。
雲ひとつない空に存在感を放つ満月の冷たい光は、魔法陣の円環を照らして闇夜に浮き上がらせている。様相は、あたかも朝づゆで覆われた蜘蛛《くも》の巣のようだ。
さまざまな文字で構成される円環は、人の背丈ほどの直径もある大きさで所々に配置されており、どう見ても異様としか言えない光景だ。
明らかに魔術的な何かを施されており、厳重さがまるで異なる。侵入しようにも素人では即時見つかってしまう。
人身売買をしている話から、恐らくはこの辺り一帯のどこかにいる。さらわれた人らは一時的に、保管されている可能性は高かった。戦闘を続けていては巻き添いになるため、なんとかして先に逃がしておきたい。
脱出させつつも攻撃から守る方法は、かなり難儀するところだ。一人ではやれることに限りがあるし、そこでリムルの転移魔法の出番だ。リムルの協力を得て誘導役になってもらいながら、転移魔法陣を展開して人々らを脱出させる。一番シンプルな方法が妥当だろう。
恐らくは、早々にことが片付く。ただし人数が予想以上に多い場合は、移動が終わるまで苦戦を強いられそうだ。敵を迎え撃ちつつとなると、あともう一人は欲しい。
「リムル、転移魔法陣の維持はどの程度できるんだ?」
「多分、いつまでも?」
なんともアッサリと答えが返ってきた。さすが妖精だけあって膨大な魔力を保持しているんだろう。
「凄いな……。わかった、任せた!」
「ありがと。頑張る」
ぎゅっと両方の拳を握って口を少し膨らませながら、踏ん張る姿勢がほほえましくてどこか癒される。何だか、少し買い物に出かけてくるぐらいの気軽さだ。
「――ぶっつけ本番だな。準備までにどの程度時間がいるんだ?」
「町の中の範囲なら一瞬で終わるわ。町の外でも近隣なら同じぐらいかな」
「そしたら移動先は、王城の前にしよう。あそこなら転移後さらわれる可能性は低い」
事前に連絡を取るべく俺は、以前第四皇女にもらった疎通石を使い、連絡を取って見るとすんなり繋がった。
「京也です。皇女突然で申し訳ない。今話ししても大丈夫ですか?」
「あら、久しぶりね。問題ないわ。様子からすると緊急なようね」
「お気遣いありがとうございます。実は今から救出する人がいて、転移魔法で脱出先を王城前にしたく考えております」
「随分と急なのね。あの人さらいの首謀者が分かったのね?」
「恐らくは大臣と勇者かと……」
「そう……」
「驚かれないのですね?」
「私も気になって調べていたからね。行き着いた先は同じよ? ただ行動に移したのは京也の方が先ね。いいわ分かった。私の息のかかった衛兵には伝えておくわ」
「ありがとうございます」
「ところで、私からの要望は覚えているかしら?」
今ここでこの話が出るとは……。変わらずご執心のようだ。
「皇女の騎士に……との件ですか?」
「そうよ。いつ頃答えを聞かせてもらえるのかしら?」
「皇女申しわない。今から囚われた人の脱出先を王城の前へ移動させます。多少騒ぎになるかもしれません。ご容赦願います」
俺は強引に回答をはぐらかして、すぐに行動に移した。一旦脱出させること事態は問題ないことがわかり、あとは侵入場所と方法を考えていた。
「皇女か、随分と親しいんだな」
アリッサは若干驚いているようだ。
「ちょっとしたことがあってな、それでこの疎通石をもらったんだ」
「……なるほどな。よほど信頼されているとみる」
「だと、いいんだけどな……」
目の前で突然、皇女とやりとりを始めれば誰でも驚くだろう。少しばかり配慮が足りなかったかもしれない。アリッサはすでに思考を切り替えて、魔族を迎え撃つよう動きだす。
「京、左手に見える茶色の屋根の倉庫に、囚われている人らがいる。だだっ広い倉庫の中に、単に鉄格子の中にいるだけだ」
アリッサの方で事前に調べていたようだ。俺のぶっつけ本番で行き当たりばったりなのとは訳が違う。
「わかった毒蛇で扉は食い尽くすさ。アリッサは?」
「ああ私は、隣の倉庫に用がある。大臣たちもおそらく、そこにいる。私が先に行こう」
「それならアリッサが暴れ出したら、俺たちは倉庫にいる人らを脱出させる」
「京、そっちは任した」
「一人で大丈夫なのか?」
どうやら単独で突撃する様子だ。あらためてすごい人だと思う。
「なあに、私は魔法がいくつか使えるからな」
「それもそうだな。じゃ後で」
「京こそ気をつけるんだぞ」
「ああアリッサも」
アリッサは身軽に駆け抜けていく。瞬く間に気配や姿も消してしまう辺りは、熟練の域を感じさせる。
俺の方はというとリムルと言われた通り、左手の人気の無い倉庫へ静かに向かった。独特な魔族特有の気配が、ここにはない。だとすると人族ばかりの者たちだろう。とはいえ、油断は禁物だ。
――破砕音だ。
遠くの方で大きく聞こえてくる。
どうやらアリッサは動き出したようだ。中空に何か光の槍のような物が幾本も浮かびそれらが、建物内に吸い込まれていく。着弾と同時に爆発音が響き渡り、かなり派手な攻撃で気を削いでくれているのがわかる。
京也の方は倉庫の搬入出と思われる入り口を見つけた。見た目は木製の扉で、背丈の二倍程度の大きさだ。あまり頑丈そうに見えないので、あまり防犯は気にしていないのかもしれない。ひとまず毒蛇を放って破壊を試みる。
こちらの方は、アリッサと比べると随分と静かな攻め込み具合だ。大きな口を開けた二対の毒蛇が、絡み合いながらねじ込むように扉へ食らいつく。巨体と勢いに耐えられるほどの物ではなく、簡単に消し飛んでしまう。
わかりやすく言えば、木っ端微塵だ。中からは、魔族と思わしき人物が三人ほど、慌てて様子を見に外へ飛び出してきた。
間髪入れずに毒蛇を放ち、三人に食らいつき飲み込むと何も残らなかった。魔族といえど食われさえすれば、無に帰する。ただ、そもそも当てるのが難しかったりする。
他にも現れると見込んで、リムルを後衛にして進むと誰もおらず、ほとんどアリッサがいる倉庫に向かった様子だ。鉄格子に人が囚われているだけなら、多少手薄でも逃げようもないと考えたんだろう。たしかに当然だな。
中は間仕切りもなく、石畳の上に多数の鉄格子が並んでいるだけの場所だった。今の破砕音は何事かと、囚われた人らが怯える目で俺を見やる。
信じるかはともかくとして、必要なことを大声で発言してみた。
「皆聞いてくれ、これから鉄格子を壊す。その後、転移魔法陣で城前まで転移してもらう。すでに城には話がついているから安心してくれ」
ざわつきはするも、反応は薄い。
「皆さん。私が転移魔法を出します。慌てず順番に来てくださいね」
リムルがいうとどこか安心するようで、皆怯えが少し治っているようだ。京也ではなぜだめなのか、まるで当人には理解できかなった。見た目は傲慢さもなく、どちらかというと大人し目の部類だろう。ひとまず自身の役割をまっとうしようと鉄格子の破壊に勤しむ。
「皆、施錠された場所から少しでも遠くに離れてくれ」
俺はいうだけはいったと、警告だけはしたつもりだ。
短剣をおもむろに正面に突き出し、縦に並んでいる鉄格子の出入り口をそのまま毒蛇で一気に破砕した。
毒蛇が大きく口を開けて噛み付くと、まるで何も無かったかのように鉄格子の一部が消える。すべて出入り口部分を破壊して出られるようになると、よろけながらも鉄格子の囲いから人々が出はじめた。
囚われた人は、老若男女さまざまだ。数にして、三十人ほどだろう。ぞろぞろと倉庫の中央に集まり出した。
リムルはすでに準備を整えていた様子で、円環の魔法陣が黄緑色に煌めきはじめる。
大きな円環に皆、感嘆の声をあげるとすぐに縦にできた円形の輪の先に、王城の門が見えた。すでに目の前では、衛兵が迎える準備を整えていた。
「皆さん、城側は準備できています。こちらから移動してください」
リムルの透き通るような声が響く。言葉を合図に、人々らは順番に円環を潜っていった。呆気に取られて、言われるまま行動している人がほとんどだ。お礼を告げるものは幾人かいた。
物の数分にも満たない脱出劇で、辺りは静まり返る。最後のひとが通りすぎると円環は消滅した。あとはアリッサのいる場所で合流するだけだ。今度こそは奴らを倒したいと願っていた。
「リムル行くぞ!」
「はい!」
扉の破壊された倉庫を出て、派手にやり合っている場所に向けて駆け出した。右横に寄り添うぐらいの近さで、闇精霊が再び中空に浮いた状態で現れ共に向かう。
「”悪魔”どもをやるんだろ? 最高じゃないかイヒヒヒ」
「妙に愉快そうだな?」
「京也の不安の種を少しだけ払い除けようと思ってね? ちょっとした工夫をしてみたのさ」
「魔力はないぞ?」
「気にすることはないよ。闇の力を使って、少しの間だけ白い騎士が力を貸してくれるよ? イヒヒヒ」
「騎士……だと?」
「あれ? 四騎士は知らないのかい? その内の一体がね……。まあ、別にいいけど。あたしは楽しみ」
「やたら嬉しそうだな?」
「だってさ、ようやく使いこなせる者がいるんだよ? いったでしょ? 君はエリートだって」
「はぁ……わかったよ。俺が戦いの素人だからって、後悔すんなよ?」
「大丈夫、大丈夫。それじゃ初めてだから、気をしっかり持ってね?」
「何っ?」
「行くよっ!」
俺は一瞬、何をみているのかわからなかった。たしかに目の前には、アリッサが縦横無尽に駆け回る戦場だったし、俺たちの接近に気がついてもいる。
当然俺たちも、予想以上にいる魔族たちを見て内心舌打ちしていたし、力任せで行くしかないとも思っていた。ところが闇精霊が何かをいった瞬間、世界が一瞬にして灰色に変化した。
「闇……精霊?」
灰色一色の世界では、動いているのは俺だけで皆、止まっているように見えた。ただし、わずかながら動きがある。恐らくは、俺の感じる時間感覚が異常に長くなった。
しかも手には何故か左右それぞれの手に拳銃が握られている。握り慣れない大型の拳銃を魔族に狙いうつと、最も簡単に思った場所に命中し、大袈裟なほどの勢いで爆散する。もう一度狙い撃つと同じように思った場所に当たり、同様に爆散した。
「なんだ? 粉塵爆発か?」
力の大きさを知り、一瞬身震いする。
いくらこの魔法のある世界とはいえ、これだけの局所的な爆発を見せられると驚きしかなかった。
ただその力はおそらくは有限だ。俺だけの早い時間軸がいつ止むかもしれないため、手当たり次第魔族に向けて撃ち続ける。
すべてに命中し、辺りには肉塊しか残らないほどのデタラメな火力を誇る銃だ。どちらも真っ黒で艶消しがされており、反動もなければ重くもない。射出されているのは鉛玉とは何か違うようだ。
見た目と違い再装填は不要で、しかも何発でも撃ち続けられる。ただこうしていられる時間は、長くはないだろう。急ぎ、目に付く魔族をすべて撃ち抜き、殲滅をしはじめた。
「やるね。すぐに馴染む辺りは、やはり適正が大きいね」
少しばかり遅れて闇精霊が話しかけてきた。
「この力は……」
「四騎士の内の1つ、支配を司る騎士だよ」
「この銃が騎士? 支配なのか……」
「弓のつもりなんだけどね。君が思い描く弓に近いイメージが、その黒い杖の形になったんじゃないかな? それに、周りに影響させるより、当人への影響を大きくしたほうがローコストだからね」
闇精霊は銃をどうやら杖と認識しているようだ。この世界に銃などないから当然だろう。俺のイメージがそのまま反映したに過ぎない。
「俺の頭を少しいじりやがったな?」
「うん? そうなの?」
闇精霊はいつも最初とぼける。京也はなんとなく、この者の癖を掴んできた。
「何をした?」
「一秒をね、千倍に引き延ばす力だよ……イヒヒヒ」
「ほとんど止まった中で動くような物だな……」
「でしょ? その時間を縦横無尽に駆け抜ける力が与えられたはずだよ?」
「一秒が16分か。動けるのは……間違いではないな」
「理解してくれて何より。なら、目の前のこと、片付けちゃいましょ? イヒヒヒ」
もういい加減に、闇精霊の怪しい笑いには慣れてきた。異様な力はもはや、誰も抵抗はできない力だ。圧倒的な火力と俺が存在している皆と異なる時間軸では、相手が圧倒的に不利だ。
――やってやろうじゃないか。
ついに相手の技術と俺の力は、逆転する時がきたようだ。
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雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
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祝【コミカライズ決定】!!
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
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「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
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「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
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