無能の翼。〜神託で選ばれた11人目はすべてに耐久する。魔力ゼロで追放されて大量の経験値を得たので各地を攻略し無双して勇者を殲滅する。

雨井雪ノ介

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二章:アルベベ王都編(仲間よりレベル上げを……)

第36話『再会』

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 ――熾天使だと?

 「天使には、普通の黒目天使とその他に熾天使と呼ばれる、高位の存在がいるんだよね」

 闇精霊のルゥナは、薄暗い通路をゆっくりと歩きながらいう。
 今は、天使部屋から魔法陣で出たのち、すぐにまた別の魔法陣に乗ると、トンネルのような場所をルゥナを先頭にして歩いている。

 ルゥナいわく、この方法が1番の近道だとのことだ。

 「さっきの天使部屋だと、あくまでも人から変化して黒目になったやつだよな?」

「ええ、狂乱の黒目の天使たちしかいないよ」
 
「それでもさ、騎士団など相手にならないぐらい、身体とか魔力とかすごいんだろ?」
 
 簡単に倒せたのは、型にはめたからだと思っていた。
 
 ただ、騎士団より上の力を持つ存在となると、普通に正面から戦ったら以前の魔族との対峙のように、苦戦するのではないかと考えていた。
 
「人としても一線を超えて、騎士よりもある意味狂っているのかしら?」

 リムルも何か思うところがある様子だ。

「リムルのいう通りね。強力な力を得る以上は、捨てる物も当然あるし、そうでもしないと至れない存在よ?」

「どんなに過酷でも後を絶たないのは、つまるところ力と神聖性に憧れてなわけか」

 恐らく、という事実が大きいのだろう。しかも側から見たら神聖性が非常に高い。なんと言っても天使様だからな。
 
 ならば、ならなりたいと考えるのは、いたって普通の考えだ。
 裏返ると言い方をするような話も聞く限り、まるで将棋の成りだ。
 
「そうね。教会騎士団に所属した者だけしか、受け入れないみたいだけどね。とは言っても裏側では、普通に町の人らを金次第で手引きしているみたいだけど、ほとんど失敗しているね」

 ルゥナはいつ調べたのか、まるで見てきたように、さらさらと言ってのける。
 たしかにアルベベにきた時、出くわした黒目連中は失敗作だろう……。
 金で天使化しようとして、失敗した奴らの末路だな。
 
 それにしても、天使化を寄せ餌にするのは、入信者や入団者を増やすちょうどよい方法だろう。
 お布施も集まりやすいし、一石二鳥だ。
 しかも失敗しても、治安維持の名目で天使が夜間巡回しているなら、自分達の評判よくなる。
 まさか失敗作の討伐と監視だとは、普通の人らは思いもよらないだろう。

「でもさ、天使化をすることで理性のタガが外れるんだろう? 危険すぎないか?」
 
「ある試薬で精神をなんとかしているみたいね。定期的に薬を服用しないと人を襲って魔核を喰らうらしいわ」

「なるほどな。やっぱ力ってやつは、簡単には手に入らないよな」

 得るものがあれば捨てる物もあるというわけか、要はトレードオフなわけだ。
 人間性を失うとはなんとも恐ろしい。
 
「今ね、最も厄介で問題なのは、熾天使の方よ?」

「元々から熾天使もいるし、天使から昇格したレアなのもいるみたいだな」

 俺はどこかで聞きかじった知識を話た。

「昇格って、すごくないですか? 妖精がさらに上位妖精に至るぐらい大変そう」

 リムルは純粋に、変化に対して感心していた。
 それだけ上位の格に上がるのは、大変なことなんだろうと察したつもりだ。

「熾天使もどきは、見た目だけで人を惹きつけるから、ある意味魔獣ね。モドキのことを神の御使いというのは、人が言い出したことよ? 本物の熾天使が、安易と現れるわけがないでしょ?」

「そりゃそうだな。結局モドキは、魔獣としてはなんなんだ?」

「ミミクリーよ。天使姿ではないけど、なぜか似たような種類が闇世界にもいるけどね」

 擬態系はたしかに似せて進化してきた生き物だから、どこの世界にもいるな。
 
「擬態か~。どの世界にも擬態して生き延びる種はいるよな」

「妖精の国にもいますね。そのこたちはいたずら好きなので可愛らしいところはあります。世界によって変わりますね」

「へ~なるほどな。妖精の国の奴は可愛い感じなんだな」

「ええ。小さくて妖精の真似をしています。とくに害もなく、花の蜜を年中吸う食いしん坊さんですね」

「なるほどな。食生にもよるんだろうな」

 妖精の国とやらは、なんだか平和すぎる。

「魔法界にいるミミクリーは、性質はどんな奴らなんだ?」

「結構凶暴ね。というより、あたしたちと同じ物を好む時点で排除対象よ?」

「まさか……。勇者の魔核か?」

「大正解! 京也はあたしの好み理解してくれて嬉しいわ。しちゃう?」

 ルゥナは朝飯食べる? 程度の軽さにしか聞こえない。まぁ挨拶程度の発言だろう。気にしたら負けだ。

「ち、ちぎりですか!」

 リムルは顔を真っ赤にして、体を前後左右に揺らし始めた。

「そんで、強さはどの程度なんだ?」

 俺は華麗にスルーしたつもりだ。

「えー。スルーしなくもいいのになー。あたしこう見えても、結構すごいんだよね!」

「そんで、強さはどの程度なんだ?」

 俺は繰り返しスルーして同じ質問を繰り返した。何度も言うけど、気にしたら負けだと俺は思う。

「モゥ……。京也はつれないのね。目の前にいる超絶美少女からの誘いなのに……。いいわ、あのミミクリーはね、総合的に見たら天使より上はあたり前だけど、群れたらまずいわ」

 誘いと言っても、実体がないんじゃどうしようもないような……。

「群れることで、互いに上昇バフがかかるとかか?」

「よくわかったわね。ミミクリー同士は、どうやら重ねがけの制限はないみたいなのよね」

「それって、際限なく強くなるんじゃ……」

「そう。だから群れる前に倒さないと、本当にヤバイ」


 
 そうこう話しているうちに、またルゥナの案内で、魔法陣に乗ると不思議な場所にきた。

 そもそもルゥナが案内していた通路ですら、別の空間に入り込んだような状態で、薄暗いトンネルを歩き続けてきたようなものだ。
 
 魔法陣に乗りたどり着いた先は天使部屋と同じく、再び真っ白な空間が出迎えてくれる。

 俺の目か頭がおかしくなければ、目の前の光景は異常だ。
 コウモリのように何かにつかまり、ぶら下がった状態で寝ている。

 しかも、見渡す限りにいる……。
 
「かなりいるな、どうするんだこれ……」

「油断しているし、やっちゃうしかないよね? イヒヒヒ」
 
 今日はいつもより悪い笑みを多く、ルゥナの表情からみれた気がする。

「ダークレイン!」

 ルゥナは下から上に勢いよく腕を振り上げると、まるで豪雨のように集中的なダークレインを降らせた。

「下から?」

 いつもと真逆なため、思わず聞いてしまう。
 
「雨はいつも上からとは限らないわ」

 何をやり出したかと思えば、普通は上から降る雨が地面から上空に向かい降り注ぐ。
 下から雨が降る世界なんて俺は苦手だ。

 完全に重力が逆転した感じにも見える。
 このタイミングで一斉に広範囲に行うことは、まさに蹂躙して大虐殺のはじまりにしかならない。

 どうやら、ダークレインだけが下から上に降り注ぎ、直撃を受けた熾天使たちは穴だらけになった状態で、下に落下して蠢《うごめ》いている。

 寝ている時に襲われたわけだから、完全に無防備な状態で防ぎようがないだろう。
 目の前に広がる、光景はある意味圧巻だ。

 真っ白な地べたに体中穴だらけの熾天使達が、苦しいのか蠢いている。
 このまま回復魔法で治られても困るため、毒蛇で食らいつく。

「すごい光景だな……」

「アハッ まるで墓場ね。土でも被せておけばいい肥料よ?」

「天使が肥料とは、なかなか贅沢だな」

「でしょ? 作物がよく育つわ。イヒヒヒ」

「あれ? ルゥナは農家さんですか? よく知っていますね」

 リムルはどこか感心するようにルゥナをみる。

「え? ではマジなのか? いい肥料って?」

 思わず俺は聞き返してしまった。

「はい。マジですよ? 妖精の間じゃ有名な話です」

 天使を肥料にする妖精ってなんだ? 俺の持つ妖精のイメージが音を立てて崩れていく。

 一方ルゥナは、嬉々としてダークレインを降らせ続ける。
 俺の近くにいるといくらでもできるとのことで、そういう意味ではルゥナの独壇場だ。

 とくに体に何かされている感じはしなく、ルゥナとしては闇の力が俺経由で引き出せるとのことだ。

 リムルは氷結魔法の氷槍でとどめを刺していく。俺も負けじと、毒蛇を用いて食い荒らす。
 
 ところが何体かは上半身だけが残り、笑いながら消えていく熾天使の不気味さがまた、新たなトラブルの予兆を感じさせる。
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