悲女

ヨース

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悲女

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1.
なんだか寒気が、してきた。秋の風が、体中を覆う。僕は、作品展に向かっている途中だ。寒くて意識がそれていた。僕の友達のあっちゃん
が、作品を出して、その作品が審査を通過したそうだ。まだどんな作品かは、知らないけれど。一人で川の流れた横の道をとぼとぼ歩いていた。川面がキラキラ輝いてまぶしくなった。目のまえに建物が現れた。
赤茶色のレンガの建物だった。正面の入口に受付の、男性がいる。
「チケットをください」と言ってきた、僕は、ポケットに入れているチケット渡し、寒かったので、小走りで入っていた。
中に入ると空気が暖かい。中には色んな作品がある。現代アートや、古めかしい絵柄のものもあった。僕は友達のあっちゃんの作品を探して歩いた。歩いていると、壁に[橋本敦]という名前があった。急に、肩に何かが当たる。振りかえると、若い20代の男がいた。こいつが橋本敦だ。明るめの服を着た、カフェで働いてそうな男。自分の作品が飾られるのを見に来たらしい。「久しぶりだな。もしかして俺の作品を見に来たのか。その辺に、もっといい、アートがあるはずだろ。」と自分の作品を卑下するように発言した。
「なあ、せっかくだから一緒に色々見ていかないか。」とあっちゃんは言った。時間があったので付き合うことにした。
美術館の中の左側を歩いている。
その時に、若い女性の悲鳴が館内に響いた。美術館の中央に僕の友人、
かな子が若い女性にナイフを突きつけられて動けない状態になっていた。 自分たちは道の端に寄る。彼女が持っているナイフが今にも、かな子の首に入りそうで、鼓動が速くなる。10分後、警察が来て、美術館にいた人達は、非常口から脱出した。
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後日、テレビをつけると昨日の事件が報道されていた。ニュースで知ったが、かな子だと思っていた女性は、全く違う女性だったらしい。
そのかな子は、何をしていたかというと、若い女性にナイフ突きつけていたそうだ。そして、同じ美術館で、それとほぼ同時に、一つの有名なアートが盗まれたと、報道されていた。

2.
かな子は、大人しい性格だった。知り合ったきっかけは、大学が同じだったからだ。そしてその大学にあっちゃんもいた。かな子とは、大勢で
、遊んでいるときに、喋るぐらいの仲だった。一方、あっちゃんとは、
プライベートで、ご飯を食べに行くぐらい、仲が良い。だから、時には喧嘩もした。でも僕らは、未だに交流を続けている。
かな子は、いつも目立たない服装をしていた。殺人や誘拐などしやすいタイプだろう。でも逆に殺人や誘拐されやすいタイプだとも思う。
だからこそ、犯行に及んだのだ。影が薄くて、中々周囲にも、気が付かれなかったんだろう。でも結局、かな子は、自首したらしい。警察に囲まれて、自首せざるを得なかったのだろう。だだ、それとほぼ同時に、絵画が盗まれた事が、頭に残った。なんにしても、ややこしい事件だったのだろう、と自分の中で終わらせた。

3.
十月九日、あっちゃんと、中華料理[タクキチ]に行く事になった。18時に家を出る。家を出て、すぐ近くの、スーパーで待ち合わせをしていた。辺りは暗く、太陽すら沈んでいる。前方から、男が歩いてきた。
待ち合わせをしている、あっちゃんではなく、同じバイト先だった、
ともやだ。ともやがこっちを気付いたように、歩いてきた。ともやも、
[タクキチ]に一緒に行くことになった。あっちゃんも合流して、タクキチ
に向かう。タクキチは、街の中心から、少し離れた場所にある。そこまで、徒歩で20分ぐらいだ。そのあいだ、僕たちは、世間話をしていた。
「そういえば、かな子が、美術館で、人を殺そうとしたらしいな。」と、ともやが言った。自分たちが、その現場にいたことを話した。
ともやが驚いた顔をして、「でも、無事でよかったよ。」「でもかな子の、その事件の動機は、なんだろう。」「その人に、恨みをもっていたのかもしれないよ。」だだ、かな子は、そんなことを、する人間じゃない。と、不思議に、思っていると、いつの間にか、中華料理[タクキチ]
に、到着した。

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店内に入ると、女性が二人で喋っていた。よく見ると、かな子と、もう一人とても似ている女性がいる。僕は、喋りかけた。かな子は、とても元気だった。おかしい、かな子が二人いる。僕は、この瞬間に、全てを理解した。

翌日、警察に行った。かな子は、逮捕され、かな子の双子の悲女も、
逮捕された。ぼくは、美術館に、あっちゃんの作品を、見に行っていた。その時に、若い女性の声がした。よく見ると、偽のナイフを、
持っているほうが、かな子。そして、偽のナイフを、突きつけられていたのが、双子の妹、悲女だった。その時に同時に絵画が盗まれている。
かな子が、いた場所と、絵画が盗まれた場所は、真逆の方向だった。
かな子と、悲女が、絵画が置いてある、真逆の場所で、気を引いて、
反対側で絵画を盗んだという事だ。警察が来て、自首したときには、
もう、作戦が成功していたんだ。
僕は、遠くに旅行に来ている。
絵画を積んだ、軽トラックが僕の目の前を通った。
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