月光の道標

笹井ひなか

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二章

数百年

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カグヤの話を聞いてからさらに数百年が立った。世界は大きく変わり僕は作家として生計を立てていた。王様の城は観光名所になった。僕は城の所有権をなんとか手に入れたが放棄せざるを得なくなってしまった。

町外れの小屋でヴランと暮らしていた。


「ヴラン?どこにいる?」

ヴランが見当たらず探し回る。多分あそこにいるのはわかる。僕はこの数百年で多少の日光には慣れていた。今日ぐらいの天気には出歩ける。帽子を被り城へ向かう。元所有者として城への出入りは許されていた。

久々に入った城は明るく綺麗に手入れされていた。装飾品も磨き上げられている。

中庭に続く扉を開けるとヴランがいた。

「あ、アレクさん!」

「すみません、うちの犬が毎度邪魔してしまって」

「いいえ、可愛いので癒されてますよ。ありがとうございます」

庭師のケビンが中庭の手入れをしていた。そのおかげか中庭も草花が整えてあり綺麗だった。ふと石碑を見てみる。

「あれ?石碑も綺麗になってる」

「ああ、磨きました!あと修復出来そうなものは修復してます。石碑というより墓石ですね。学者が言うには戦死者を弔うものだとか」

「戦死者……」

「そうだ!アレクさんが来たら聞きたいことありました。ここに箱があったんですよ。墓石の下辺りで見つけたんです。古ぼけた箱で。勝手に開けるのもと思いまして。何か心当たりあります?」

箱を受け取り開けてみる。そこには僕が探していた物が入っていた。

「手紙ですね……」

【王様は神に呪われて吸血鬼になった。だからなのか食事を取らない。私にもしものことがあれば察してほしい】


父さんの手紙だ……。


「なんて書かれてるんですか?」

「これは……僕の祖先の手紙ですね。大した内容ではなさそうです」

「そうですか?まぁアレクさんの判断なら」

ケビンはプランターを並べ始めると花の苗を仕分けする。

「ここを花でいっぱいにしたいんですよね。僕がここを任された以上はあの墓石の方達を癒やしてあげられるような庭にしたいんですよ。たまにヴランが来たらもっと癒やされそうですけどね」


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