アンダーヒューマン

ガム

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十九話――《エレフセリア》

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 恐らく、道は一本だったと思う。
 壁伝いに先の見えない階段を降りていく感覚に陥っていた私は、次第に温かな明かりに吸い込まれるように歩を進めていた。

 ようやく長い階段が終わり、褐色レンガで造られた場所へ辿り着くと、何やら雑談混じりの会話が私の耳に入ってくるのであった。
 私たちの先を歩いていた光一先輩はというと、入口にいた二人の警護の人と何度か会話のキャッチボールをするとこちらに向き直し、ニカッと笑顔で、

「ようこそ、エレフセリアへ! レジスタンス一同、君たち四人を歓迎するよ♪」

 両手を広げ、部屋中に聞こえるように言い放った。
 同時に、周囲にいた多数の一員が一斉にこちらへ向くと、

「光一よぉ、この子らがお前の言っていた『若手の救済者さんたち』かぁ?」
「ランク《A》が二名と《E》が二名ね。で、噂の本命はランク《E》の子かしら?」
「おいおい、そんなところに突っ立ってないで、先ずはリーダーに挨拶しとけや」

 男女問わず、周囲から口々に飛んでくる野次とも取れる言葉。
 しかし、何故か不快にはならなかった。
 何故なら、口々に聞こえてくる声には怒りが籠ってないからだ。
 ここにいる人たちの表情を見ると、この苦境の中、みんな笑顔だった。

「ふぅ……。なんか、気が抜けるわね」
「全くだ。反逆者なんて汚名を、どうして被せられているのか分からないほどに、な」

 一気に肩の力が抜けるとはこのことだろう。
 先ほどまで、少しでも気負いしていた自分が恥ずかしいほどに。

「でも、私は少し、この雰囲気は苦手です……」

 琴葉は私たちと対象的にこの空気に慣れない様子。
 そんな琴葉の背中を押すように、右手で添えながら連れて行く光一。

「手始めに、レジスタンスの案内をしたいところだけど、先ずはリーダーに挨拶を済ませてからにしようか☆」
「あ……はい……」

 紅く顔を染め、恥ずかしながらも同行する琴葉。
 その後ろ姿を見つめていた潤の、口を尖らせ顔をしかめている様子が私の目に映った。
 フッと鼻息を洩らし、潤の肩に手を当てる杏子は顔を真横まで近づけ、

「残念だったな? ま、やっぱイケメン先輩には勝てねぇよな?」

 回すように肩を組み、チラリと視線を向ける杏子は潤の気持ちを察しながらの発言。

「お、俺のことは気にしないでくれ」

 だが――。
 杏子の腕を軽く振り解き、無気力に歩き出す潤の後ろ姿に掛ける言葉は無く、

「お、おいっ……」

 咄嗟に手を伸ばすが、杏子はそれ以上、潤に触れることはなかった。







 
「おっと、ここから先は……行き止まりだ」

 一際目立つ、『咎』と大きく描かれた門の前。
 鉄製の大盾を持った一人の巨漢が塞ぐように立っていた。
 しかし、言葉を発していたのは女性らしき声色。
 不思議に思いながらも私は男性の方へ視線を向けるが、

「待て、この人達は俺の友人だ」

 通路の奥、暗闇に紛れて銃を構える人物に光一は手を広げ、待ったをかける。

「動かない方が身のためだ。もし、そこから一歩でも近づいてみろ。後ろにいる御友人が死ぬことになる」
「いや、だから――」
「十二規律、第十項を言ってみろ」

 光一の言葉に間髪入れずに発言する女性は静かに重い口調。
 暗闇の中から飛び出す銃口と女性の睨みつけるような紅い視線が印象的だ。
 しかし、光一はふてぶてしく鼻息を洩らし、軽く手を挙げて女性をあしらうような行動を取りながら、

「へいへい。わかりやしたよ、言いますよ。確か、『どのような人物であろうとも、素性の知れぬ輩を立ち入れるべからず』だったかな?」

 知っているのにも関わらず、疑問符で返答する光一に舌打ちをして苛立ちをアピールする女性は銃口の先をこちらに向けた。

「ねぇ……光一先輩、どうするの?」

 思わず、先輩の後ろにスッと隠れる私。

「そう、だな……奈瀬なせは人一倍警戒心が高いからな。――どうしたものか」

 見る限り、スコープ越しにこちらの誰かを照準しているのは間違いない。
 しかも、レジスタンスの、こんな狭い通路の前で。
 目の前で突っ立っている大盾男は眉一つ動かさず銅像のように佇んでいるし。
 そんな時、扉がゆっくりと開くのだった。




「騒々しい。オレの部屋の前で何事か?」

 静かに重い声が扉越しに聞こえてきた。
 大男は脇により、奈瀬もライフル銃を担ぐと駆け足で近づいてくると、

「はっ! 警護任務の一環です!」

 声を張り上げ、額が見えるほど短い髪に手を当てて敬礼をする奈瀬。
 その堅い姿を見ると、以前の私もあんな感じだったのだろうかと思う。

「ふむ。奈瀬の仕事ぶりにはいつも感心させられるな」

 真っ赤に燃えるようなウルフヘッドが印象的な女性の手足は筋肉質。
 統一された衣装から覗かせる、斬られたような古傷が腕、脚、顔の至る所に残っていた。
 チラリと視線を奈瀬の方へ向けながら話す仕草に胸を張り、

「と、とんでもない! 規律を守ってこその軍人ですから!」

 声を挙げて返答する奈瀬の表情が何処となく赤く染まる。
 その手前で大男が目を瞑り頷く。

「うむ。しかし、今回そこにいる客人は『闇』よりの使者。丁重に扱うように」

 赤髪の女性の言葉に驚く奈瀬は、一瞬だけ視線をこちらに向け、戻すと、

「それは、あの『闇』がこの子たちを《認めた》と言うことですか?」
「そうだ。だから、オレも認め、ここに連れてくることを許可したんだ」

 僅かに困惑した姿を見せる奈瀬であったが、物事を解釈したかのように目を閉じ、大きく深呼吸をして見せると声を張りながら、

「分かりました。だとしたら、私如きが苦言することではございません!」

 両手を後ろに回し、胸を張って答える。

「すまないな。早々に理解してくれて助かるよ」

 赤髪の女性は奈瀬との会話を終わらせると、

「客人らよ。ひとまず、話が訊きたい。こちらへ入って来てくれ」

 そう言いながら、赤髪の女性は手であおる仕草を取ると、室内へと戻って行くのであった。
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