既読無視の年下幼馴染みの部屋に行ったら、アイドルグッズだらけだった。しかも推しは俺

スノウマン(ユッキー)

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既読無視の年下幼馴染みの部屋に行ったら、アイドルグッズだらけだった。しかも推しは俺

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「うわぁ……SNSでよく見る奴だ」

 俺、朝比奈 春人(あさひな はると)は年下の幼馴染、三上 直(みかみ なお)の部屋の中を見た瞬間、思わずドン引きしてしまった。仕方ないだろう、部屋中アイドルグッズでいっぱいなんだから。天井すらポスターが貼ってあるし、明らかに手作りの抱き枕まである。それが全部俺なんだから、何とも言えない気持ちになるのは許して欲しい。おばさんが勝手に入って良いっていうから、軽い気持ちで扉を開いたらこれだ。

「あいつ普段ライン既読無視してるのに、まじか……」

 今日も『早く帰ると良い事あるぞ☆』とラインを送ったのだが、安定の既読無視だった。嫌われてるとは思ってないが、好かれてるって程でもないのかな、ってのがさっきまでの印象だったんだが。滅茶苦茶俺の事好きじゃん。昔は「はるとくん、はるとくん!」ってどこに行くのにも付いてきてたもんな。そっか……表現の仕方が変わっただけであの頃のままか。
 俺が放心していると、どたどたと階段を全力疾走で上る足音が聞こえてきた。あ、これやばいんじゃ?って思った時にはすでに直は俺の元に辿り着いていた。部屋の扉が開いているのを見て顔面が蒼白になっている。

「……見た?」
「これで見えてなかったら俺は眼科を受診しないといけないなぁ」
「…………殺してくれ……」
「あはははは……」

 へたり込んで床に座り込んだ直の頭を撫でてやると、すぐにはねのけられた。顔は真っ赤だけど。ふむふむ、あれ、これとても面白いのでは?

「直く~ん」

 ねっとりとした俺の呼びかけに、直はびくりと肩を揺らす。おや、俺が悪戯しようとしているのを、幼馴染の勘で察したか。だが遅い。顔を上げた時には、俺はアイドルの時の表情を完璧に作って右手を銃の形にしていた。そして――。

「バキューン☆」
「うっ!?」

 よくうちわとかで掲げられているファンサをしてあげると、直は心臓を押さえて倒れ伏した。ははっ、うける~。俺は倒れてる直のポケットからスマホを取り出すと、カメラを起動する。そして立ち直った直が顔を上げた瞬間にカメラをパシャリ。

「はい直のスマホでツーショット撮ってやったぞ☆」
「ふぐっ!?」

 復活したばかりの直は再度倒れ伏した。しっかりスマホは取り返して、写真を見てるのが笑える。こいつ、叩けば叩くほど面白くなるぞ! 人気アイドルハルト専用の玩具に任命してあげよう。幼馴染の直だけの特別だぞ❤

「……帰れ」
「突っ伏したまま凄まれても怖くないぞ~。ていうか直きゅんの大大大好きな春人君に冷たくない~」
「大好きじゃない」
「この部屋の有様でそれいう? 説得力皆無だけど」
「俺が好きなのはアイドルのハルトであって、春人はただのウザい幼馴染でしかない」
「なんだそれ、どっちも俺じゃん」
「全然違う!!」

 よく分からないがアイドルの俺と、幼馴染の俺は別人らしい。俺はファンは大事にしている。グループ内でも一番と言い切れる。そんな俺でもこんな歪なファンは面白くない。誰がただのウザい幼馴染だ!

「俺は直のこと大好きだよ」

 耳元で囁いてやるが、反応は無い。なんだ、くたばったか? って思ったが、顔を上げた直はスンっと真顔になってた。おい、なんだその表情! おかしいだろ! 推しからの囁き+愛情表現だぞ!? ちょっとは喜べよ!

「今のはハルトじゃなくて春人だったろ? ファン舐めんな」
「えぇ……めんどくさっ」

 プライベートで声掛けてくるファンは、ファンサすると滅茶苦茶喜ぶぞ? なんだこの厄介ファン。俺の幼馴染なんだけど。昔はもっと無邪気で可愛らしかったのに、どうしてこんな風になってしまったのか。よよよ。

「あんたが弄りまわすからだよ!」
「あれ、声出してた?」
「幼馴染舐めんな! 顔に出てんだよ!」
「そっかそっか。じゃあ仕方ないな」
「っ……!」

 俺は遠慮なく部屋の中に入ろうとしたが、その足を直が掴んで動けない。まぁ現役売れっ子アイドルとバイトばかり(おばさん情報)の帰宅部高校生では勝負にならず、俺は直を引き摺る形で部屋の中に入っていった。

「ちょっ、入るな! やめろ! 推しがファンの部屋に入るのはアウトだろ!」
「今は幼馴染の春人君だからセーフで~す☆」
「そういう問題じゃないだろ~!!」

 なんか直が絶叫しているが、別理論はお前が言い出したんだろうが。俺はファンタグがついてないのはエゴサしても良いねしない程度の配慮を持っているのに、こんな暴挙をさせたのはお前だぞ?

「おぉ~アクスタ祭壇がある。ファンってよく作るよな。どういう気持ちで作るんだ?」
「殺して……殺して……」
「はは、鳴きよる。まぁ許してやらんが」

 この売れっ子アイドル兼幼馴染のお兄ちゃんである春人君を既読無視という雑に扱っていた報いを、直は受けるべきなのだ。俺が鋼の心臓だったから問題無かったが、普通だったら心がばっきり折れてるぞ? そこんとこ分かってんのかこら? 床でべしょべしょ泣いても許してやらんぞ。

「お~雑誌の切り抜きもいっぱいあるなぁ~。やっぱ鑑賞用・保存用・使用用って三つあるのか? うん? こういうのってどう使用するんだ? やっぱシコる時のオカズか?」
「ぶふっ!? アイドルがそんな事言うな! あと俺はそんな事してない!」
「いやいや、今はアイドルのハルト君は休業中なんでね。二十歳の健全な男なんだからこれくらい普通言うでしょ? で、違うならオカズは何なんだ?」
「言うか馬鹿!」

 直は否定しながら顔を真っ赤にしている。ふむ、まぁ本当に俺をオカズにされてても気まずいからそれは良いんだけど。さっとベッド下を覗いてみたが何もない。そうか、今どきの子はスマホに入れてるのか。さっき覗いておけば良かったな。春人君痛恨のミス! ちなみにベッドの下を覗く俺を、直はゴミを見るような目で見ていた。

「あら残念。お兄さんが好みのAVくらい買ってあげようと思ったのに」
「いるか! アンタそれ外でも言ってないだろうな?」
「大丈夫、お前だけだ」
「そんな特別いらねぇんだよ!」
「直きゅんは可愛いなぁ~」
「だから撫でようとするな!」

 必死に抵抗しているがさっき格付けした通り、お前じゃ俺に勝てないんだから諦めて撫でられておけ。髪の毛をわしゃわしゃして満足した俺は、家探しを継続することにした。終わりじゃないのかよ!? って絶望した顔をしているが、おいおい、俺がこんな程度で止めてやるような人間だと思っていたのか? 甘く見られたもんだぜ。

「直君の引き出しの中には何があるかな~。おや、おやおや? なにやらファンレターらしきものが!」
「ギャーー!? それは駄目だろ!?」
「『横浜アリーナのライブ最高でした。特にサビの時、いつもとは違って寂しげな表情をしているのが曲と合って』」
「読み上げるなぁああああ!! アホ! 馬鹿! 春人!」
「おい、まるでアホと馬鹿と同列みたいな言い方やめろ! ていうかこんなファンレター見た事ないけど? これ去年の横浜アリーナのライブの事だろ?」
「……え? ファンレターの中身覚えてるの?」
「現役アイドル舐めんなよ、ガキ。それぐらい普通だっつーの」

 絶対普通じゃない、とか何やらブツブツ言っているが俺が普通といえば普通なんだよ。これでも絶対不動のセンターだぞ? ファンから貰ったものは愛情も、愛憎も全部覚えてるさ。全部、な?
 それにしても俺の感覚ではちょっと前まで「はるとくんだいすき!」って可愛らしく告白してくれる直のお兄ちゃんをしてたはずだ。それなのに中学時代に姉が勝手に応募したアイドルグループのセンターとなり、今では国民的アイドルになっているとは世の中分からないものだな。

「で、なんでファンレター出さないの?」
「……だって筆跡でバレるだろ?」
「あのなぁ、俺がいくら天才アイドルだからっていって、そんなこと出来ると思うか?」
「そ、そうだよなぁ。俺が気にしすぎてたの――」
「余裕で特定して部屋に乗り込んでたけど」
「やっぱ出来るんじゃねぇか!」
「いやいや、流石にこれは直ぐらいだよ。良かったな、推しからの特別枠だぞ☆」
「嬉しくない……! そんな特別枠いらない……!」

 なんて我儘な。ファン達は何か一つでも俺の特別でありたいと願っているのに。よくSNSで呟いてるの見かけるぞ? ファンサの神は、ファンの解像度を上げる為にエゴサはいっぱいしているのだ。だから全部知ってるぞ? ファンの欲望ってのはな。だから文句言いながらもちょっとにやけてるのバレバレだぞ、な~おくん。
 さて、時間も結構経ってしまったし、そろそろ目的を果たすか。直もちゃんと立ち直ってるしな。

「ほい、直君。お兄さんからのホワイトデープレゼントだよ☆」
「は? 俺アンタにバレンタインチョコあげてないけど」
「くれてただろ? SNSに画像上げて」
「…………え?」
「直君にお兄さんからアドバイス。日常の呟きしていると簡単に特定されるからフェイクをちゃんと入れておけよ? 『@ハルトの猫になりたい』君」
「!?!?!?!?!?!」
「あはははは、うける」

 いや、流石に俺もストーカーしたわけじゃなくて、たまたまエゴサしてる時に引っかかった画像が、うちの近所だったから気になって覗いてみただけだぞ? そしたらなんかバレンタインにチョコレートをくれてたみたいだから、これはお返し(愛情100%)しないとな☆ って思ってな。

「まぁあとは普段から応援してくれてるお礼の気持ちも込めてるぞ? お前よくライブに来てくれてるだろ?」
「は? 行ってないけど?」
「E207」
「……え?」

 直近のライブで直がいた座席を呟くと、直の顔が強張った。

「だから現役アイドル舐めんなって。ちゃんといつも言ってるだろ? ファンの顔は全員ちゃんと見えてるって」
「え、嘘!? 全部ばれ!?」
「にゃはは。いっつも仏頂面だから、幼馴染として応援に来てくれてるだけだと思ってたんだけど、流石にここまでは読めなかったわ」

 俺のガチファンだって知ってたら、幼馴染特権でファンサ滅茶苦茶してあげてたのに。本来ファンは平等なんだけど、直は特別だからな。
 ライブのチケットくらい俺に言えば融通してやったのに、素直にバイトして稼いでおそらく譲渡とか色々頑張ってただろう。いじらしくて本当に可愛い。

「じゃあお兄さんはこれからレッスンだから帰るわ~」
「え、休みじゃないのか?」
「バーカ、国民的アイドルにそうそう休みなんてねーよ。あ、プレゼントのマカロンは保存せずにちゃんと食べろよ? ハンカチはエッチな意味で使用しても良いぞ?」
「しねぇよ馬鹿春人! さっさと帰れ!」
「はいはい~。あ、次から既読無視したら直の可愛いエピソードSNSに呟くからな?」
「はぁ!?」
「ほんじゃまたなぁ~」

 俺はさっさと直の部屋から立ち去る。なんだかんだ文句言いながらも、俺が帰ることに寂しそうにしている直はやっぱり可愛い。また近いうちに遊びに来てやるか~。


 そんな可愛い直が数年後俺の背を抜かし、捕食者のような目で俺を押し倒してくるなんて、想像できるはずがなかった。勿論、直のオカズが俺が送っていたプライベートの自撮りだったということも。俺は10年越しの愛を思い知らされる羽目になるのだった。

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