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敵前逃亡された話

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「兄貴~、吾輩ハーレムを作るつもりなんだけど問題ないよね? あ、勿論イケメン限定だから安心してね!」
「…………は?」

兄貴と呼ばれた男――クラウスは顔をしかめる。
彼は一年ほど前にここファルムの国の王になっており、そんな男を兄と呼ぶ人間――アルフレッドも当然王族になるわけで。
ハーレムを作ること自体はまぁ問題が無いわけではないが、そこまでおかしなことではない。
問題はイケメン限定という部分だ。
アルフレッドはクラウスが即位するまでは王子と呼ばれていた、つまり男である。
イケメン限定ハーレム等安心できる要素がどこにもないし、むしろ兄としては頭を抱えざるおえない。

「そんなもの許可出来る訳がないだろうが! お前は自分の立場というものを考えろ!」
「大丈夫大丈夫! 王位継承権ならもう放棄したし、俺今ただの一般人だよ」

ただの一般人ならそもそもイケメンハーレムなんて作れないだろ、そう口にしようとしたクラウスだがすぐに考えを改める。
目の前にいる弟は変態・ちゃらい・馬鹿、と城内で散々な言われようをしているが、ファルムで――いや世界で一番の美青年(黙っていれば)と呼ばれている男だ。
物憂い顔で佇んでいるだけで隣国の王すら魅了し側室への誘いを受けていた過去から考えると、中身がいくら残念で性別が男でなんの権力も地位もなくても、イケメンハーレムなんぞ簡単に作れてしまうだろう。

「……王としても兄としても許可はできん。諦めろ」

昨年前王が亡くなり、地盤を固めきれていない内にクラウスは即位することになった。
その為国内の情勢は安定しておらず、国の中にも外にも敵は多い。
そんな中、王の弟がイケメンハーレムを作るなど、敵に最高級の塩でも送りつけるようなものである。
許可などできるはずがなかった――のだが。

「んーまぁ仕方ないか。諦めるからその代わりに兄貴が俺をベッドの上で可愛がってね?」
「………………は?」
「抱かれたい男ナンバー1の兄貴が俺のものになるって言うなら、まぁハーレムなんか作んなくてもいいかなーって。1人で十分お釣りがくるもんね~。俺別に近親相姦とか気にしないし? むしろ燃えるし? 前々から兄貴のこと性的な意味でも好きだったからね。鍛錬後の汗でベタベタの肌をペロペロしてクンクンしてそのままベッドに連れ込もうかと何度思ったことか。あ、ベッドといえば兄貴のベッドの匂いは格別だよね! 一日中匂いを嗅いでいたくなるというか、嗅いでたら吾輩滾ってアレしちゃいたくなったよ。流石にそこまではしてないけどね……それに近いことはしちゃったかもしれないけど」
「待て……アルフォード……待ってくれ……!!!」
「いやー楽しみだな! 兄貴男とは初めてだろうけど、吾輩がリードするから安心していいからね!初めてはどこで致す? 執務室でっていうのも背徳的で良いし、普通にベッドも悪くはないな!! あっ! 兄貴のデカそうだからやるなら慣らさないとな~。ってことで今からちょっくら吾輩お風呂行ってくるね。え、なんでかって? 言わせんな恥ずかしい」

衝撃のカミングアウトにより顔面蒼白なクラウスに追い討ちをかけていくアルフォード。
その目は完全に狩人のものだ。
完全に置いてけぼりの兄を置いて、弟はスキップしながら浴室へと向かって行った。
執務はめんどくさいだのなんだのいってギリギリまでやらないくせに、こんな時だけ行動が早い。
力ではクラウスの方が圧倒的に上な為、抵抗すればすむ話なのだが、なんだかんだ言いつつ弟を(健全に)愛している為力で跳ねのけることができない。
浴室であれこれしているアルフォードが戻ってきたら、ベッドに連れ込まれて致されてしまうだろう。いや、ヤるのはクラウスになるのだろうが。まぁどっちだろうが関係無い。
もうクラウスが取れる手段は一つしかなかった。

「ふーんふふ、兄貴待った~? ……ってあれ?」

準備が完了したアルフォードが戻ってきた時には、クラウスの姿はなく代わりにテーブルの上に1枚の紙が置かれていた。

『イケメンハーレムを作ることを許可する ~ファルム国王クラウス~』

「あの野郎逃げやがったなぁああああああああああ!!!!」

大きな獲物を逃しはしたものの、本来の目的であるイケメンハーレム作りを始めることができるようになったアルフォードであった。
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