上 下
25 / 36

ep25 合コン④

しおりを挟む
 グサッ!

 もう終わった、と猫実好和は思った。
 が...

「!!」

 クナイは秋多の目の前のテーブルに突き刺さっていた!
 軌道が下方にズレたからだ。
 それはなぜか?

「危なかったでござるな」
 すんでのところで、放たれたクナイを千代が手刀で上から叩いたからであった!

 すかさず、隣のアミ店長が狂気のもずきゅんの肩を抱いてブンブンと揺さぶる。
「もずきゅん!!目を覚ますんや!!もずきゅん!!」

「......ハッ!て、店長??わ、わたし?」
 もずきゅんは目を見開いてポカンとする。

「もずきゅん!正気に戻ったか!良かった!」

「惨事を食い止めることができ、何よりでござった」
 千代は落ち着いてうんうんと頷いた。

 秋多は事の衝撃で椅子からズルンと滑り落ち、床に尻餅をついていた。
 猫実と柴井は下を向いてワナワナと震えている。

「どないしたんや??」
 アミ店長がしれっと彼らに訊ねた。

 猫実と柴井はガタンと立ち上がり、ス~っと息を大きく吸って、声を揃えて叫ぶ。
「どうした?じゃないわ!!どうかしてるわ!!もうお開きだお開き!!」

「なんや?もう帰るのか?」
「こんなの命がいくつあっても足りないですよ!?」
「なんや根性ないんやな~」

「そういう問題じゃないでしょ!?オイ秋多!もう行くぞ!」
 猫実好和が尻餅をついた秋多に呼びかける。
 が...
「......秋多??」

 秋多はなぜか応じず、うつむいて微かに震えている。

「どうしたんだ?」
 柴井が問いかける。

「猫実。柴井。おれは......」
「??」

「おれは......今、目覚めた!!!」
「え???」

 秋多はすっくと立ち上がると、千代に向かってキッと何かを訴えかける眼光を放つ。
「千代さん!!」

「何でござるか?」

「これからも......おれをビシバシしごいてください!」

 シーン

 秋多の要望に空気が固まる。
 猫実と柴井は、何言ってんだコイツ?という視線を友に浴びせる。
 しかし、友人達の目に映る秋多の顔は、真剣そのもの。
 
「お願いします!千代さん!」
 懇願する秋多。

 その情熱は、一体どこから来るのだろうか?
 いや、彼は目覚めたのだ。
 何に?
 ...ドMの世界に!

「千代さん!!」

 くノ一ネコ娘は、疑いようのない本気面の秋多をまざまざと見つめてから、狼狽うろたえることなく、誠実に答える。
「お主の願い、お受けいたす。この嗜虐の任務、拙者の忍道を以って全うすることを約束する」

「ほ、ホントですか!?ありがとうございます!」
 秋多は感動して友好の握手を差し出した。

 千代も応じる。
 と思いきや...

 ブスッ

 差し出してきた秋多の手を上からクナイでブッ刺した。

「ぎゃあぁぁぁぁぁ!!!」
 青年のつんざく悲鳴が夜の居酒屋に響く。

「...あ、秋多ぁぁぁ!!!」

 この後、猫実と柴井が訴えるまでもなく、全員店から追い出されて会がお開きになった事は、もはや説明はいらないだろう。

 ...以上、狂乱の合コン会場からお送りいたしました。
しおりを挟む

処理中です...