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ep28 ナルの憂鬱

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 ある日の早朝。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
 
 爽やかな朝日を浴びながら川沿いの土手道を走る女子がいる。

 金髪ツインテールをツインおさげにして帽子を被るランニングウェアの女子。
 彼女の正体はツンデレネコ娘、ナルである。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

 朝のランニングは彼女の日課だ。
 雨の日以外はほとんど欠かさない。

 ひと通り走り終えると、彼女は河川敷の一箇所で川を眺めて佇む。
 この風景が彼女は好きなのである。

「はぁー。昨日と一昨日が雨だったから、二日ぶりのランニングだけど、やっぱり気分がスッキリするわね」

 そんな時。

 パシャパシャパシャパシャ...

 謎の音が川面から聞こえる。

「ん?なにかしら?」
 
 パシャパシャパシャパシャ!

「あれは...!」

 風のように水面をかける者がいる!
 それは...

「千代!!」
「ん?ナルでごさるか?」

 くノ一ネコ娘、千代である。
 
 パシャーーーン!

 千代は水面からピョーン!クルクルクルッと跳び上がり、ナルの傍にスタッと着地した。
「御早う。ナル姫」

「おはよう、千代。じゃなくて!」

「なんでござるか?」

「そういうの目立つからやめなさい!」

「目立つ?この忍装束でござるか?」

「それもだけど!行為よ!」

 ......

 朝のランニングを終えると、ナルは家へと戻っていく。

 アパートに着くと、建物脇のゴミ捨て場によく知った者がちょうどゴミを出していた。

「あ、店長」
「ん?ナルかいな?」
 
 それはジャージ姿の、猫耳&尻尾がニャーンと全開のアミ店長だった。

「あ、あの店長...」
 ナルは怪訝そうな面持ちで訊ねる。

「なんや?」
「......い、いや、やっぱりいいです」
「?」

「ま、また後ほど、お店で!」
「ほーい」

 部屋に戻りシャワーを浴びる。
 それから簡単な朝食を済まし、支度をして出かける。
 いつも通りの出勤である。

 店に着く。
 ちょうどその時、

「ナル~!!おっはよ~!!」
 ナルの背後の上空から、何やら魔法の箒に乗って舞い降りる者が現れる。

「ハヤオン!?」
 振り向くナル。

「ちょうどタイミング一緒だったね!」
 箒から降りたハヤオンは、ナルに歩み寄って可憐に微笑みかけた。

「ね、ねえ、ハヤオン...」
 ナルは怪訝そうな面持ちで訊ねる。

「なあに?」
「......い、いや、やっぱりいい」
「?」

「と、とりあえず入りましょう」
「うん?」

 店に入ると、
「ナル、ハヤオン、おはようさん!」
「先程振りでごさるな」
 アミ店長といつの間にか来ていた千代が二人を迎えた。

 いつも通りの出勤に、いつも通りの挨拶。
 今日も平和な一日のスタート。
 のはずなのだが...
 ナルの顔はどこか曇っている。

「ナル?どないしたんや?」と店長。

「どうかしたの?」とハヤオン。

「いかがいたした?」と千代。

 ナルは物問いたげに三人を見つめると、静かに口を開く。
「あの、前から言いたかったんだけど......」
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