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ep38 田網斗羅恵②
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「ぐえっ!」
俺は腹を押さえガクッと膝をついて悶絶した。
まったくもって意味がわからない。
(え?なにこれ?なんでいきなり蹴られたの??)
トラエは膝をついてうずくまる俺を氷のような青い目で見下ろしてくる。
「やり返さないのか?井藤フミヒロ」
「ゴホゴホッ!ぐぅぅ......ええっと......つ、つまり......君と今ここで、け、ケンカしろと...」
「そういうことだ」
「こ、断ったら......?」
「井藤フミヒロ。貴様はもし学校で虐められたらどうするんだ?」
「い、イジメ?」
「あるいは、貴様にとっての大切な人が目の前で虐められたらどうする?」
「そ、それは......いきなりきかれても......」
「ではワタシが教えてやろう。もっとも簡単かつシンプルな解決手段を」
「??」
「武力で制圧することだ」
「ぶ、武力?」
「報復を恐れるなら、二度と報復されぬよう徹底的にやればいい。実に簡単な話だ」
「いや、でもそれじゃ、下手したら警察沙汰に......」
「違う。ワタシが言っているのはそういうことじゃない。現に目の前に迫る脅威をどう振り払うか?という話だ」
「で、でも、暴力に対して暴力って、そんな......」
「例えば、ある国のある都市にミサイルが撃ち込まれたとする。しかし運良く被害者はゼロだった。なので今回は相手を許します......なんて甘い考えが通じるとでも思っているのか?
いいか?すでに虐めというミサイルが撃ち込まれているんだ。ならば自衛として迫り来る敵軍を殲滅するしかない。殲滅まではしないにせよ、降伏か撤退するまではやらなければならない。当然のことだ」
「た、例えがオカシイよ......」
「井藤フミヒロ。お前は将来の我が国の宰相。よって強くならなければならない。甘えはワタシが許さない。
さあどうした!早くワタシへ反撃してみろ!」
「そ、そんなこと、言われても...」
「ワタシの外観が女性だからと躊躇しているのか?本当に危機的状況となればそんなことを構っている暇などないぞ!」
「......」
「やはり貴様は弱いな。弱すぎる。
そもそも、貴様の不登校とやらも、貴様の弱さに起因しているのだろう?」
「そ、それは!その......」
「自らの弱さが招いた状況に甘んじて殻に閉じこもり自分からは何もしようともせず...」
「ち、違う!俺だって本当は...」
「自分で何とかしようと思っている......と思うことによって心に逃げ道を作っている。違うか?」
「......!」
「そして親に心配と迷惑をダラダラとかけ続けている。違うか?」
「......」
「そのなまりきった根性。ワタシが叩き直す」
「!」
トラエは足を上げて二発目の蹴りの動作に入る。
俺は咄嗟にうつむいて亀になった。
「貴様......その情けない姿は何なんだぁぁ!!」
トラエが怒りの声を上げて次の蹴りを放とうとしたその時。
「お止めなさい!トラエ!」
ネーコの声が轟いた。
「ね、ネーコ?」
頭を上げると、俺とトラエの間へネーコが猛然と駆け込んできた。
「フミヒロ様!大丈夫ですか!?」
「あ、うん。なんとか......」
「トラエに何かされたのですか!?」
「あ、いや、その...」
「トラエ。貴女は...フミヒロ様に何をしたのです?」
ネーコはトラエを疑い深く睨んだ。
「そんなことはネーコ、お前には関係ない」
「関係あります。フミヒロ様は私の主人です」
不穏に睨み合うネーコとトラエ。
だがすぐにトラエはフーッと息を吐くと、
「まあいい。まだワタシも来たばかりだからな。井藤フミヒロの本格的な教育はこれからだ」
クルッときびすを返して家へと戻っていった。
「フミヒロ様。本当に大丈夫ですか?トラエに何かされたのでは?」
「い、いや、本当に大丈夫だよ...」
「フミヒロ様。正直、私は気づいています。でも、フミヒロ様の口から本当のことを...」
「いや本当に大丈夫だから。俺たちも戻ろう」
まるで家族のように心配してくれるネーコに、どうしてか俺は本当のことが言えない。
恥ずかしいから?
惨めだから?
わからない。
ただ、俺はトラエから受けた蹴りの痛みより、浴びせられた言葉からくる胸の痛みの方が苦しかった。
(ちゃんと否定...できないんだ。トラエに言われたことを......)
俺は腹を押さえガクッと膝をついて悶絶した。
まったくもって意味がわからない。
(え?なにこれ?なんでいきなり蹴られたの??)
トラエは膝をついてうずくまる俺を氷のような青い目で見下ろしてくる。
「やり返さないのか?井藤フミヒロ」
「ゴホゴホッ!ぐぅぅ......ええっと......つ、つまり......君と今ここで、け、ケンカしろと...」
「そういうことだ」
「こ、断ったら......?」
「井藤フミヒロ。貴様はもし学校で虐められたらどうするんだ?」
「い、イジメ?」
「あるいは、貴様にとっての大切な人が目の前で虐められたらどうする?」
「そ、それは......いきなりきかれても......」
「ではワタシが教えてやろう。もっとも簡単かつシンプルな解決手段を」
「??」
「武力で制圧することだ」
「ぶ、武力?」
「報復を恐れるなら、二度と報復されぬよう徹底的にやればいい。実に簡単な話だ」
「いや、でもそれじゃ、下手したら警察沙汰に......」
「違う。ワタシが言っているのはそういうことじゃない。現に目の前に迫る脅威をどう振り払うか?という話だ」
「で、でも、暴力に対して暴力って、そんな......」
「例えば、ある国のある都市にミサイルが撃ち込まれたとする。しかし運良く被害者はゼロだった。なので今回は相手を許します......なんて甘い考えが通じるとでも思っているのか?
いいか?すでに虐めというミサイルが撃ち込まれているんだ。ならば自衛として迫り来る敵軍を殲滅するしかない。殲滅まではしないにせよ、降伏か撤退するまではやらなければならない。当然のことだ」
「た、例えがオカシイよ......」
「井藤フミヒロ。お前は将来の我が国の宰相。よって強くならなければならない。甘えはワタシが許さない。
さあどうした!早くワタシへ反撃してみろ!」
「そ、そんなこと、言われても...」
「ワタシの外観が女性だからと躊躇しているのか?本当に危機的状況となればそんなことを構っている暇などないぞ!」
「......」
「やはり貴様は弱いな。弱すぎる。
そもそも、貴様の不登校とやらも、貴様の弱さに起因しているのだろう?」
「そ、それは!その......」
「自らの弱さが招いた状況に甘んじて殻に閉じこもり自分からは何もしようともせず...」
「ち、違う!俺だって本当は...」
「自分で何とかしようと思っている......と思うことによって心に逃げ道を作っている。違うか?」
「......!」
「そして親に心配と迷惑をダラダラとかけ続けている。違うか?」
「......」
「そのなまりきった根性。ワタシが叩き直す」
「!」
トラエは足を上げて二発目の蹴りの動作に入る。
俺は咄嗟にうつむいて亀になった。
「貴様......その情けない姿は何なんだぁぁ!!」
トラエが怒りの声を上げて次の蹴りを放とうとしたその時。
「お止めなさい!トラエ!」
ネーコの声が轟いた。
「ね、ネーコ?」
頭を上げると、俺とトラエの間へネーコが猛然と駆け込んできた。
「フミヒロ様!大丈夫ですか!?」
「あ、うん。なんとか......」
「トラエに何かされたのですか!?」
「あ、いや、その...」
「トラエ。貴女は...フミヒロ様に何をしたのです?」
ネーコはトラエを疑い深く睨んだ。
「そんなことはネーコ、お前には関係ない」
「関係あります。フミヒロ様は私の主人です」
不穏に睨み合うネーコとトラエ。
だがすぐにトラエはフーッと息を吐くと、
「まあいい。まだワタシも来たばかりだからな。井藤フミヒロの本格的な教育はこれからだ」
クルッときびすを返して家へと戻っていった。
「フミヒロ様。本当に大丈夫ですか?トラエに何かされたのでは?」
「い、いや、本当に大丈夫だよ...」
「フミヒロ様。正直、私は気づいています。でも、フミヒロ様の口から本当のことを...」
「いや本当に大丈夫だから。俺たちも戻ろう」
まるで家族のように心配してくれるネーコに、どうしてか俺は本当のことが言えない。
恥ずかしいから?
惨めだから?
わからない。
ただ、俺はトラエから受けた蹴りの痛みより、浴びせられた言葉からくる胸の痛みの方が苦しかった。
(ちゃんと否定...できないんだ。トラエに言われたことを......)
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