風のメロディー

根上真気

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一話 憂鬱の女子大生

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 いい事なんてありゃしない♪
 いい事なんてありゃしない♪


 とりあえず行っている大学。
 それなりに勉強して、なんとか中の上ぐらいの大学に入って三年目。
 そろそろ頭に就活がちらついてきて、それと同時に、今までもずっと抱えていた想いが溢れてくる。

 ただなんとなく生きているだけ。
 つまらない、虚しい。
 自分がどんどん下らなくなっていくだけ。

 そんな想いがいっぱい溢れ出してきてどうしようもなくなる。
 けれど私は無駄に真面目なところがあって、それでも大学にはちゃんと行ってバイトも休まないで、友達にもいつも通り振舞っている。
 そして酷く疲れる。

 五月の晴れた、春というより夏のような暖かさの今日。
 朝から憂鬱で、誰にも会いたくない、そんな気分。
 いつもはとりつくろい上手の私も、今日ばっかりは朝、友達に会ってもそれをごまかせず「カナ、今日元気ないね、それとも五月病ってやつ?」などと言われ、少し焦りながら強張ったまま微笑む。
 五月病。
 そもそも私は年がら年中五月病みたいなもの。
 五月病?と冗談で言われて、なんだかとても淋しい想いが私を襲う。

 お昼、友達と五人でパスタを食べに行き、この天気と気温のせいか、みんないつもよりも元気に感じる。
 私は寂しさやら虚しさやら、とにかく憂鬱で仕方なかったけど、またさっきみたいに五月病なんて言われないように、場を盛り下げないように必死に楽しくしようと努める。
「カナ、いつものテンションに戻ったね」と言われて、ほっとした。
 いつも通りにとりつくろえた。
 でも、そうすればする程寂しく、悲しい気持ちになる。

 午後の授業も終わり、もう今日は誰にも会わず一刻も早く帰りたいけど、またそういう日に限ってバイトがある。
 もうエンジンはほとんど切れかかっていたけど、それでも必死にとりつくろってなんとかバイトを終える。

 帰りの電車の中。
 少し頭が痛い。つり革に掴まり立ったままうつむく。
 そんな状態なので周りの動きに気づけず、無理矢理降りようとした横暴な中年男性に突き飛ばされる。
 カバンからスマホが飛び出して、それを近くに座っている女の人が拾ってくれて、軽く頭を下げる。
 なんで通してくださいって口で言ってくれないのかな、という怒りと、失態を見られたような恥ずかしさと、強烈な寂しさと悲しさで、思わず泣き出しそう。
 それから降りる駅までずっと、泣きそうな気持ちを必死で抑えた。
 もう何もかもが嫌な気分。

 家に帰りシャワーを浴び、軽くご飯を食べて、自分の部屋に入るなりベッドに崩れ落ちる。
 うつ伏せのままいっそ泣きつくそうと思ったけど、なぜかほとんど涙は出ない。
 辛くて苦しいのは確かなのに。
 今日は本当に疲れていて体はぐったりなのに、妙に目が冴えて、色々な事が頭の中を駆け巡り、全然眠る事ができない。

 朝になる。
 もうこんな時間。
 結局ほとんど眠れないまま学校に行く。
 疲れている。今日はさすがにとりつくろうも何もないという感じ。
 でもなぜかこういう時程、いつもは周りばかり気にしている私も、疲れで鈍っているせいか変に度胸があるような、体はしんどいけど、精神的にはむしろいつもよりも楽な気がする。
 今日はバイトもなく友達とどうこうもない。
 4限までの授業を終えてすんなり家に帰る。
 すぐに自分の部屋に入り、ベッドで横になりながらうとうとと、つけっぱなしのテレビをぼんやり眺めている。


 誰にもわかってもらえない
 その涙も ポツンという音にかき消された
 いい事なんてありゃしない 
 悪くなるばかりだ
 いい事なんてありゃしない 
 何にもないのさ♪
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