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俺の彼氏のお友達
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季節の移り変わりとは意外にもあっという間のことで、半袖を着ていてもじっとりとした暑さが纏わりついていたというのに今や朝晩には薄い上着が欠かせない。
「哲ちゃん、ちゃんと着ないとダメだよ」
ほんのりと肌寒さを感じる朝、恋人の雪がそう言いながら渡してきたのは薄い灰色のカーディガン。
暑がりという自覚はないが雪曰く、俺は暑がりなのだそう。
「雪、ちゃんとスーツも来たから大丈夫だって。まだ20度下回ってないんだぞ?」
「またそういうこと言う!その油断が命取りになるって俺、いつも言ってるよね?」
こうなると雪は何が何でも引かない。この頑固さは高校時代から変わらないと、反論する口を閉ざした。
スーツの背広を脱がなければカーディガンが羽織れないと、出先の玄関でいそいそと背広を脱ぐ。
これから会社に行くっていうのに、まさに今、帰ってきましたかのような装いがなんだか可笑しい。だが、ここで笑ってしまえば雪の可愛らしい顔が般若のように歪んでしまうと、俺は真面目な顔でカーディガンを羽織った。
「ほら、着たぞ」
「よし、ちゃんと着たな?にしてもやっぱり、似合う!」
「雪~お前、また俺の服買ったのか?」
「あ、バレちゃった」
道理で見たこともない色に良すぎる着心地だと思った。
俺の服を勝手に買い揃える雪の悪い癖に、俺の方が般若の形相一歩手前だ。
雪が毎年、季節の変わり目になるとクローゼットをひっくり返す勢いで小言を繰り返す理由には正直、身に覚えがありすぎてこれ以上は口答えできない。
何故なら俺は、服そのものに大して興味も関心もないのだから。
その事実に気が付いたのは他でもない雪だった。
付き合い始めた頃から、いや、高校の時から思ってたけど哲ちゃんって着られれば何でもいいって思ってるよね?と言われたのは、同棲してから割とすぐのこと。
確かに流行りの雑誌なんかは見ないし、テレビよりラジオ派なのだから、今時の若者が好むファッションなんかはよくわからない。
時々見るテレビも、叔父が好きなお笑い番組だけだ。
だからわからん、と言い切った時、雪は目をまん丸くしていわゆる絶句状態だった。
思えばそこからだったか、雪のクローゼットチェックが始まったのは。
春夏秋冬、季節が変わりそうになる度に隅から隅までチェックし、少しでもよれたり毛玉ができていたりするものなら即古着行き。
気付けばクローゼットの中は、見知らぬ人の服でいっぱいになっている。
「去年のがあるんだから、いいっていつも言ってるよな?」
「ええ、去年のってもうヨレヨレだったけど?ってかさ、哲ちゃんが一着だけでいいとか言うからああなるんだよ?」
そう言いながら雪は、寝室を指差した。
寝室のクローゼットは、男二人分の衣類が充分に収納できる広さがある。
そこの一角に古着をまとめるコーナーが作ってあるのだ。
「まさか、もうあそこに入れたのか?」
「当たり前!だから新しいの買ったんだろ?」
暑くもないのに急に頭痛がしてきた気がする。
確かに自分の服の管理すらできない俺にも落ち度はある。もうすぐ三十路のおっさんがヨレヨレの服を着ていれば、マナー的にも相応しくはないということも。
しかし、断りもなく人の服を捨てたり買ったりするのはいかがなものなのだろう。
時々、本当に時々、俺は雪との価値観の違いに頭を悩ませる。
そもそも、思春期を叔父に育ててもらった俺と家庭で育った雪とは前提が違う。
「え、怒った?哲ちゃん?」
けれども、結局は好きだから大好きすぎるから、この顔に絆されてしまう訳である。
「バーカ、こんなことで怒るわけねーよ」
「…そう、だよね。良かった!」
ああ、駄目だろ、それは。雪が満面の笑顔を見せた瞬間、くらっと目眩がしそうになり、踏ん張る足に力を入れる。
「哲ちゃん、ちゃんと着ないとダメだよ」
ほんのりと肌寒さを感じる朝、恋人の雪がそう言いながら渡してきたのは薄い灰色のカーディガン。
暑がりという自覚はないが雪曰く、俺は暑がりなのだそう。
「雪、ちゃんとスーツも来たから大丈夫だって。まだ20度下回ってないんだぞ?」
「またそういうこと言う!その油断が命取りになるって俺、いつも言ってるよね?」
こうなると雪は何が何でも引かない。この頑固さは高校時代から変わらないと、反論する口を閉ざした。
スーツの背広を脱がなければカーディガンが羽織れないと、出先の玄関でいそいそと背広を脱ぐ。
これから会社に行くっていうのに、まさに今、帰ってきましたかのような装いがなんだか可笑しい。だが、ここで笑ってしまえば雪の可愛らしい顔が般若のように歪んでしまうと、俺は真面目な顔でカーディガンを羽織った。
「ほら、着たぞ」
「よし、ちゃんと着たな?にしてもやっぱり、似合う!」
「雪~お前、また俺の服買ったのか?」
「あ、バレちゃった」
道理で見たこともない色に良すぎる着心地だと思った。
俺の服を勝手に買い揃える雪の悪い癖に、俺の方が般若の形相一歩手前だ。
雪が毎年、季節の変わり目になるとクローゼットをひっくり返す勢いで小言を繰り返す理由には正直、身に覚えがありすぎてこれ以上は口答えできない。
何故なら俺は、服そのものに大して興味も関心もないのだから。
その事実に気が付いたのは他でもない雪だった。
付き合い始めた頃から、いや、高校の時から思ってたけど哲ちゃんって着られれば何でもいいって思ってるよね?と言われたのは、同棲してから割とすぐのこと。
確かに流行りの雑誌なんかは見ないし、テレビよりラジオ派なのだから、今時の若者が好むファッションなんかはよくわからない。
時々見るテレビも、叔父が好きなお笑い番組だけだ。
だからわからん、と言い切った時、雪は目をまん丸くしていわゆる絶句状態だった。
思えばそこからだったか、雪のクローゼットチェックが始まったのは。
春夏秋冬、季節が変わりそうになる度に隅から隅までチェックし、少しでもよれたり毛玉ができていたりするものなら即古着行き。
気付けばクローゼットの中は、見知らぬ人の服でいっぱいになっている。
「去年のがあるんだから、いいっていつも言ってるよな?」
「ええ、去年のってもうヨレヨレだったけど?ってかさ、哲ちゃんが一着だけでいいとか言うからああなるんだよ?」
そう言いながら雪は、寝室を指差した。
寝室のクローゼットは、男二人分の衣類が充分に収納できる広さがある。
そこの一角に古着をまとめるコーナーが作ってあるのだ。
「まさか、もうあそこに入れたのか?」
「当たり前!だから新しいの買ったんだろ?」
暑くもないのに急に頭痛がしてきた気がする。
確かに自分の服の管理すらできない俺にも落ち度はある。もうすぐ三十路のおっさんがヨレヨレの服を着ていれば、マナー的にも相応しくはないということも。
しかし、断りもなく人の服を捨てたり買ったりするのはいかがなものなのだろう。
時々、本当に時々、俺は雪との価値観の違いに頭を悩ませる。
そもそも、思春期を叔父に育ててもらった俺と家庭で育った雪とは前提が違う。
「え、怒った?哲ちゃん?」
けれども、結局は好きだから大好きすぎるから、この顔に絆されてしまう訳である。
「バーカ、こんなことで怒るわけねーよ」
「…そう、だよね。良かった!」
ああ、駄目だろ、それは。雪が満面の笑顔を見せた瞬間、くらっと目眩がしそうになり、踏ん張る足に力を入れる。
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