43 / 105
俺の彼氏とメリークリスマス
(1)-2
しおりを挟む
南沢 雪という男はとにかくモテる。そして恐ろしく顔も性格も良い。
学生時代は誰に言われるまでもなく、気付けば人の輪の中心にいるようないわゆる陽キャと呼ばれる人種だった。
明るく誰にでも優しく飾りっ気のない男、それが南沢 雪だ。
一方で榊はといえば雪とは真逆の性格だ。必要なこと以外には口を閉ざし、読書を好む。いわゆる陰キャという種族である。
そんな二人がまさか恋人になるとは、今になっても信じられないと時々思う。
感情表現が豊富な雪、口下手で鈍感な榊。正反対の二人が喧嘩をする時はいつも、榊の鈍感さとそして嫉妬心が原因だ。
前回もそうだった。雪の友人、結人に妬いてみっともない醜態を晒したのだ。
「…意見の相違とかか?」
だが、他人にまさか自分が嫉妬したからとは言いづらく、カッコつけてそう言う。
「意見の相違ねぇ。じゃあ仲直りは?もちろんするよな?榊なら」
榊なら、とは一体どういうイメージだ。疑問に思いつつも、問われた答えを考える。
「俺の場合は結局、恋人のお陰だろうな」
「…と言うと?」
「要するに恋人の懐の広さと深さに助けられている」
前回も雪の手紙に突き動かされたのだ。榊がしたことといえば、ただ雪を迎えに走っただけだ。そう考えるとなんだか不甲斐ないと思わされ、落ち込みそうにもなる。
俺なんかが雪の恋人でいいのだろうか。
時々過ぎるそれに榊はまた、思考を囚われる。
みんなのアイドルである雪を果たして自分が独占していい訳がない、だけど独占していたい。
「なるほど。榊の彼女は榊よりも大人ってことか」
「まあ、そうなるな。で、お前は?何に悩んでんだ」
気付けば自分の話になっていたと、榊は軌道修正するように話を切り出した。
「俺さ、実は三ヶ月前くらいから付き合って
る人がいてさ」
正直、驚いた。春日井とそういう話をすることはなくはないが、最近の記憶では夏季休暇明けの九月に彼女はいないと話したばかりだった。
となるとあれからすぐに、そういう人が出来たということだ。
素直に嬉しい、喜ばしい。だがこの感触だと、今は祝いの言葉を告げるべきではない。
「そうだったんだな」
榊はただ、受容の言葉を一言告げ、春日井の言葉を待つことにした。
「その彼女とさ、喧嘩しちゃったんだよ」
すると程なくして覇気のない声で呟いた。
なるほど、だから聞いてきたのか。話の流れに辻褄を感じながら、こういう話を得意としない榊はどんな言葉を返そうかと悩む。
「俺たち今、とんでもなく忙しいだろ?」
「そうだな、繁忙期だからな」
「だろ?けどさ、そこんとこあんまり理解してくれないんだよな」
春日井によると彼女は四歳年上で、聞けば誰でも知っているという会社に勤める人だとか。
「だからさ、俺が仕事が終わらないとか言ってもわからないんだよ。あなたの要領の問題ねとか言われちゃって…」
つまり、春日井の彼女はできる人種という訳だ。
「でもさ、俺だって毎日毎日早く帰れるようにって必死こいて頑張ってるわけ。それでも終わらないもんは終わらない。だろ?榊」
「ああ、どんなに頑張っても終わらないもんは終わらないよな」
春日井の同情を誘う言葉に、本気で共感する。
こればかりは同じ立場にならないとわからないと思うが、どんなに要領良く動いていても終わらない時は絶対にあるのだ。
現に鬼部長と裏でこっそり呼ばれている総務課のエースですら、毎日残業続きだ。
「なのにさ、どんだけ言ってもわかってくれないんだよ。しかも仕舞いには、浮気を疑われたりして。俺ってそんな軽く見える?」
泣きそうな声で言われ、改めて春日井を見る。
確かに派手目な容姿ではある。目立ち過ぎない程度に茶色く染められ爽やかにセットされた髪、美容室にある雑誌に載っているモデルのように端正な顔立ちは、ぱっと見れば浮ついて見られても仕方ないのかもしれない。
だが、実際には真面目で誤魔化しや嘘などもつかない、好青年である。
「いや、お前は大丈夫だ。全く軽さのカケラもない」
「…さ、榊ーッ!だよな?俺、軽くないよな?!」
「ああ、だからまずは飯を食べろよ」
半分も進んでいない定食を勧めると、春日井は「俺、軽くないよな」と言いながらガツガツとチキン南蛮を食べ始めた。
学生時代は誰に言われるまでもなく、気付けば人の輪の中心にいるようないわゆる陽キャと呼ばれる人種だった。
明るく誰にでも優しく飾りっ気のない男、それが南沢 雪だ。
一方で榊はといえば雪とは真逆の性格だ。必要なこと以外には口を閉ざし、読書を好む。いわゆる陰キャという種族である。
そんな二人がまさか恋人になるとは、今になっても信じられないと時々思う。
感情表現が豊富な雪、口下手で鈍感な榊。正反対の二人が喧嘩をする時はいつも、榊の鈍感さとそして嫉妬心が原因だ。
前回もそうだった。雪の友人、結人に妬いてみっともない醜態を晒したのだ。
「…意見の相違とかか?」
だが、他人にまさか自分が嫉妬したからとは言いづらく、カッコつけてそう言う。
「意見の相違ねぇ。じゃあ仲直りは?もちろんするよな?榊なら」
榊なら、とは一体どういうイメージだ。疑問に思いつつも、問われた答えを考える。
「俺の場合は結局、恋人のお陰だろうな」
「…と言うと?」
「要するに恋人の懐の広さと深さに助けられている」
前回も雪の手紙に突き動かされたのだ。榊がしたことといえば、ただ雪を迎えに走っただけだ。そう考えるとなんだか不甲斐ないと思わされ、落ち込みそうにもなる。
俺なんかが雪の恋人でいいのだろうか。
時々過ぎるそれに榊はまた、思考を囚われる。
みんなのアイドルである雪を果たして自分が独占していい訳がない、だけど独占していたい。
「なるほど。榊の彼女は榊よりも大人ってことか」
「まあ、そうなるな。で、お前は?何に悩んでんだ」
気付けば自分の話になっていたと、榊は軌道修正するように話を切り出した。
「俺さ、実は三ヶ月前くらいから付き合って
る人がいてさ」
正直、驚いた。春日井とそういう話をすることはなくはないが、最近の記憶では夏季休暇明けの九月に彼女はいないと話したばかりだった。
となるとあれからすぐに、そういう人が出来たということだ。
素直に嬉しい、喜ばしい。だがこの感触だと、今は祝いの言葉を告げるべきではない。
「そうだったんだな」
榊はただ、受容の言葉を一言告げ、春日井の言葉を待つことにした。
「その彼女とさ、喧嘩しちゃったんだよ」
すると程なくして覇気のない声で呟いた。
なるほど、だから聞いてきたのか。話の流れに辻褄を感じながら、こういう話を得意としない榊はどんな言葉を返そうかと悩む。
「俺たち今、とんでもなく忙しいだろ?」
「そうだな、繁忙期だからな」
「だろ?けどさ、そこんとこあんまり理解してくれないんだよな」
春日井によると彼女は四歳年上で、聞けば誰でも知っているという会社に勤める人だとか。
「だからさ、俺が仕事が終わらないとか言ってもわからないんだよ。あなたの要領の問題ねとか言われちゃって…」
つまり、春日井の彼女はできる人種という訳だ。
「でもさ、俺だって毎日毎日早く帰れるようにって必死こいて頑張ってるわけ。それでも終わらないもんは終わらない。だろ?榊」
「ああ、どんなに頑張っても終わらないもんは終わらないよな」
春日井の同情を誘う言葉に、本気で共感する。
こればかりは同じ立場にならないとわからないと思うが、どんなに要領良く動いていても終わらない時は絶対にあるのだ。
現に鬼部長と裏でこっそり呼ばれている総務課のエースですら、毎日残業続きだ。
「なのにさ、どんだけ言ってもわかってくれないんだよ。しかも仕舞いには、浮気を疑われたりして。俺ってそんな軽く見える?」
泣きそうな声で言われ、改めて春日井を見る。
確かに派手目な容姿ではある。目立ち過ぎない程度に茶色く染められ爽やかにセットされた髪、美容室にある雑誌に載っているモデルのように端正な顔立ちは、ぱっと見れば浮ついて見られても仕方ないのかもしれない。
だが、実際には真面目で誤魔化しや嘘などもつかない、好青年である。
「いや、お前は大丈夫だ。全く軽さのカケラもない」
「…さ、榊ーッ!だよな?俺、軽くないよな?!」
「ああ、だからまずは飯を食べろよ」
半分も進んでいない定食を勧めると、春日井は「俺、軽くないよな」と言いながらガツガツとチキン南蛮を食べ始めた。
0
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
後宮に咲く美しき寵后
不来方しい
BL
フィリの故郷であるルロ国では、真っ白な肌に金色の髪を持つ人間は魔女の生まれ変わりだと伝えられていた。生まれた者は民衆の前で焚刑に処し、こうして人々の安心を得る一方、犠牲を当たり前のように受け入れている国だった。
フィリもまた雪のような肌と金髪を持って生まれ、来るべきときに備え、地下の部屋で閉じ込められて生活をしていた。第四王子として生まれても、処刑への道は免れられなかった。
そんなフィリの元に、縁談の話が舞い込んでくる。
縁談の相手はファルーハ王国の第三王子であるヴァシリス。顔も名前も知らない王子との結婚の話は、同性婚に偏見があるルロ国にとって、フィリはさらに肩身の狭い思いをする。
ファルーハ王国は砂漠地帯にある王国であり、雪国であるルロ国とは真逆だ。縁談などフィリ信じず、ついにそのときが来たと諦めの境地に至った。
情報がほとんどないファルーハ王国へ向かうと、国を上げて祝福する民衆に触れ、処刑場へ向かうものだとばかり思っていたフィリは困惑する。
狼狽するフィリの元へ現れたのは、浅黒い肌と黒髪、サファイア色の瞳を持つヴァシリスだった。彼はまだ成人にはあと二年早い子供であり、未成年と婚姻の儀を行うのかと不意を突かれた。
縁談の持ち込みから婚儀までが早く、しかも相手は未成年。そこには第二王子であるジャミルの思惑が隠されていて──。
劣等アルファは最強王子から逃げられない
東
BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。
ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。
先輩たちの心の声に翻弄されています!
七瀬
BL
人と関わるのが少し苦手な高校1年生・綾瀬遙真(あやせとうま)。
ある日、食堂へ向かう人混みの中で先輩にぶつかった瞬間──彼は「触れた相手の心の声」が聞こえるようになった。
最初に声を拾ってしまったのは、対照的な二人の先輩。
乱暴そうな俺様ヤンキー・不破春樹(ふわはるき)と、爽やかで優しい王子様・橘司(たちばなつかさ)。
見せる顔と心の声の落差に戸惑う遙真。けれど、彼らはなぜか遙真に強い関心を示しはじめる。
****
三作目の投稿になります。三角関係の学園BLですが、なるべくみんなを幸せにして終わりますのでご安心ください。
ご感想・ご指摘など気軽にコメントいただけると嬉しいです‼️
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
溺愛の加速が尋常じゃない!?~味方作りに全振りしたら兄たちに溺愛されました~
液体猫(299)
BL
毎日AM2:10分に予約投稿。
*執着脳筋ヤンデレイケメン×儚げ美人受け
【《血の繋がりは"絶対"ではない。》この言葉を胸に、クリスがひたすら生きる物語】
大陸の全土を治めるアルバディア王国の第五皇子クリスは謂れのない罪を背負わされ、処刑されてしまう。
けれど次に目を覚ましたとき、彼は子供の姿になっていた。
これ幸いにと、クリスは過去の自分と同じ過ちを繰り返さないようにと自ら行動を起こす。巻き戻す前の世界とは異なるけれど同じ場所で、クリスは生き残るために知恵を振り絞っていく。
かわいい末っ子が兄たちに可愛がられ、溺愛されていくほのぼの物語。やり直しもほどほどに。罪を着せた者への復讐はついで。そんな気持ちで、新たな人生を謳歌するマイペースで、コミカル&シリアスなクリスの物語です。
主人公は後に18歳へと成長します(*・ω・)*_ _)ペコリ
⚠️濡れ場のサブタイトルに*のマークがついてます。冒頭のみ重い展開あり。それ以降はコミカルでほのぼの✌
⚠️本格的な塗れ場シーンは三章(18歳になって)からとなります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる