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第1章 入学編
エピローグ
しおりを挟む結局、ミハイル島での試験は延期し、内容も筆記へと変更された。
あの島で起きた出来事はデーマンが出現した事と、それをアナト一行が討伐したと表向きには報じられた。レギアスが倒したと広まってしまうと注目度が集まり、レギアスの正体が知られる可能性が出てしまう。それを防ぐ為に王女であるアナトが討伐した事にして、レギアスの情報を隠したのだ。
尚、ストリーナ家の姉妹がアナトに付き従いデーマン討伐に貢献したとして、ジェシカとシェーレに一つの功績を与えた。事実、二人は命を懸けて戦ったのだから、それを無かった事には出来ない。それに功績を与える事にしたのはアナトの判断であり、二人の家庭事情に共感して助けになればと考えたからだ。
それ以外にも、ジェシカの弓とシェーレの魔法の腕前を得られるのならば、という将来的な狙いもあったりする。何れにせよ、その御陰で二人は実家に良い報告が出来て、少しだけ心の余裕を取り戻す事が出来たのだった。
大変な事件が起きてしまったが、この事件がレギアスのこれからが大きく変化したのは間違いない。良くも悪くも、レギアスの力は大きくなり、デーマンを倒せる事が証明された。その力を今後も暴走させずに高めていくことが出来れば、いずれはドラゴンをも倒せる騎士に成れるだろう。
イル国王陛下にレギアスがそう言われたのが、凡そ【半年前】になる。
そう、あの事件から既に半年ほど経っているのだった。
あれからレギアス達は特に大きな事件も無く学校生活を過ごし、一年最後の試験も終えて無事に進級が決まったのである。
今年の一年生は中々に優秀らしく、全員が進級出来たそうだ。
特にアナトは学年で主席を取っており、王女としての格を見事に見せつけた。
一年生最後の授業を終え、レギアスはいつか来たカフェでベールと御茶を楽しんでいた。
「ベールも主席か……まぁ流石だよな」
「貴方はどうだったの?」
「……魔法学がどうしても赤点ギリギリだ」
「あらら」
レギアスは魔力を操作出来るようになったが、既存の魔法術式に魔力が適合せず、今でも魔法が扱えないのだ。原因はおそらく魔力が人間の物ではなくドラゴンの物だからと予想は付くのだが、分かったところで解決出来る訳もなく、他の成績は優秀でも魔法学だけは赤点ギリギリなのだ。
因みに、オルガはと言うと一見脳筋に見えるが実は頭脳派の側面があり、レギアスより優秀な成績を誇っていた。
「あーあ、俺も魔法を使ってみてぇよ」
「まぁまぁ、そう落ち込まないで。あ、そうそう。お父様から貴方に渡してほしいって頼まれた物があるの」
「国王から?」
ベールはバッグから一冊の本を取り出し、レギアスに差し出す。
それは日記帳だった。随分と古い物だが大切に保管されていたのだろう、傷んでいるような箇所は見当たらない。受け取ったレギアスは表紙に書かれている文字に目を通す。
「……何語だ?」
書かれている文字は今まで見た事がないものだった。おそらくかなり古い文字なのかもしれないが、資料か何かを参考にしなければ解読は出来ないだろう。そんな資料があるかどうかは分からないが。
「ドラゴン語よ。お父様が仰るにはね」
「ドラゴン語? 待て、何でそんな物が――――まさか……」
一つの可能性が浮上した。
国王がドラゴン語で書かれた本を持っている理由は一つしかない。
「貴方の実のお父様の物らしいの」
「親父の……」
本を開き、パラパラとページを捲って流し読みする。ドラゴン語ばかりで読むことは出来ないが、何かとても大切な事が書かれているような気がしてならない。
「貴方のお父様から預かっていたらしくて、それを息子である貴方にって」
「……国王はこれを読めるのか?」
「いえ、お父様も読めないって仰ってたわ」
どうやらこれを解読するにはかなりの時間が必要なようだ。
ドラゴンの力が目覚め、王都に来てから一年。漸く父親の手掛かりを手に入れた。これを解読できれば、今よりも自分の事を知れるかもしれない。
しかし国王も養父も、どうして頑なに両親の事を話してくれないのだろうか。何か理由があるのは察している。今は急いで知りたいという訳でもないから追求はしないが、いずれは知りたいし生きているのならば会ってみたいとも思う。
レギアスは本をリュックにしまった。
「ねぇ、レギアス。貴方、騎士学校に入学して一年経ったけど、やりたい事とか見つかったかしら?」
「いきなりだな。何でそんな事を訊くんだ?」
「少し気になっただけよ。だって貴方が騎士学校に来た理由はお父様が保護する為なのと、力の制御を学ばせる為でしょう? 自分の意志で来た訳じゃないんだし……」
実は、レギアスもそれを最近になって考えていた。
当初は理由が理由で故郷を出て王都に来たが、明確に将来を考えたことはなかった。以前なら町の皆が困らない程度の稼ぐ手段を得て、家族や皆を苦労させないようにする事を考えていた。
だが今は前には無かった選択肢が目の前に広がっている。このまま本当に騎士を目指しても良いかもしれないし、ドラゴンの力を完全に制御出来たら何か他の仕事を見付ける事が出来るかもしれない。
ずっとワグナ町に居れば巡り会えなかった道が、この先で待っている。
「……さぁてね。今はまだ分からない」
「そう……」
「だけど――」
レギアスは言葉を切り、優しい瞳でベールを見据える。
「俺が何処に行こうが、お前は一緒に来てくれるんだろう?」
「っ――!?」
それは、一年前にベールが此処でレギアスに伝えた言葉。
例えドラゴンの道に進もうとも、決して側から離れない。
それをレギアスはずっと覚えていた。
ベールは昔の自分が言った台詞が恥ずかしいのか、顔を真っ赤にして両手で隠した。
ケラケラと揶揄うようにレギアスは笑い、カフェの入り口に視線を向ける。
「お、来たぞ」
やって来たのはアナトにオルガ、それにジェシカとシェーレの四人だ。
レギアスが手を挙げて居場所を教えると、四人が集まってきた。
「やっと来たか。待ちくたびれたぞ」
「煩い。閉業式の打ち合わせだったんだ」
「学年主席は大変だな」
「……魔法学の赤点回避の為に付き合わされた借り、此処で返して貰おうか?」
ギロッとレギアスを睨んだアナトはベールの隣に座り、ベールが顔を赤くしている事に気が付く。またレギアスと何かあったのかと嫉妬の念を抱き、テーブルの下でレギアスの足を踏み付ける。
オルガはウェイトレスに人数分のドリンクを頼み、レギアスの隣に座る。ジェシカとシェーレも、用意されていた席に座る。少ししてドリンクが届き、全員グラスを手に持った。
「さ、進級祝いを始めようぜ!」
「おいオルガ、これ酒じゃ……」
「十八から酒は飲めるんだから構わねぇだろ。俺とお前とベール殿下――失礼、ベールは飲めるんだから飲まなきゃ損だろ」
「あら? もしかしてレギアスは初めて?」
「いや、そうじゃないが……ま、良いか」
「それじゃあ、レギアス。乾杯の音頭を頼むぜ?」
オルガに言われ、レギアスは仕方ないなとグラスを掲げ口上を述べる。
「まどろっこしいのは嫌いだ。だから一言だけ――――また一年、宜しくな! 乾杯!」
『乾杯!』
グラスをぶつける音が、カフェに鳴り響いた。
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