異世界転生で死者の僕

杉本誠

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第1章「屍は学園で何を見る」

第1話『人間と屍』

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一話「人間と屍」

アルベーノ王国の東ある街はずれの森。ここに来るのは戦闘を得意した者だけだろう。一般の人間は近づかないそんな森。
一人のアンデットが走っていた。

「はっ…はっ…はっ」


(もう少し早く……)
そう足に力を込めようとすると開知はバランスを崩してしまう。

「うわっ!?」

「おっと、大丈夫か?開知」
倒れそうになった開知をエミリは受け止める。

「あ、ありがとうエミリ」
この三日間、開知は自分の身体の事を理解した。今の自分には食事や睡眠は必要ないこと。そして、激しい動きは出来ないということだ。激しく動くと腐った足がその場で崩れ落ちてしまうのだ。
今は何とか軽く走れる様にはなっていた。

「あまり遠くに行くなよ。何かあってからでは遅いからな」

「うん、ごめん」
この森には野生の猛獣も沢山いる。アンデットの自分は襲われることはないが、たまに冒険者が来るとエミリは言っていた。きっとエミリが気にかけているのはその事だろう。

「では戻るぞ」

「う、うん」

(これ。異世界転生って奴だろうか)
エミリから聞く限り、この世界は開知が住んでいる世界は全く異なる世界だ。

「どうだ開知、その身体には慣れたか?」

「うん、エミリに教えて貰ったからね。だいぶ慣れたかな。えっと、この大陸はアルベーノっていうんだったよね?」

「ああ、この森を抜けた所に城下町があるな」

(教えて貰えば貰うほど現実味がないんだよな。前にこの僕達がいる国、アルベーノ王国がこの世界で一番大きい大陸って聞いた時から少し違和感は感じていたけど…)
そう確信したのにも理由があった。まずこの世界と自分の世界の文化の違いだ。まるでこの世界の文化はファンタジーの世界かの様だ。ここでは冒険者を集うギルドや、王が住んでいる城なんかもあると話された。

(これじゃあ…僕の住んでた場所にどう帰ったらいいか分からないな。いや、まずはこの身体を元に戻すのが先か。…ん?)
開知はそんなことを考えているとふと思った。

(この世界が僕が住んでいた世界と別なら…一体誰がこの世界に連れてきたのだろうか)
まさか勝手にこんな場所に来れるとは思わななかった。なら自分をこの世界に連れて来た奴が自分をアンデットにした犯人でもあるのではないか。開知はそう考えた。

(じゃあもしかしてその犯人を探した方が手っ取り早いのか?いや、どちらにしろ情報が無いのには変わりないな)

「おい、開知どうした。さっきから黙り混んで。具合でも悪いのか?」
開知が考えに浸っているとエミリが心配し、声を掛ける。

「あ、ごめん…少し考え事をしていてさ」

「いきなり見知らぬ場所に来たんだ。戸惑うのも無理はないな。だが、驚いたな…この世界の文化も知らないなんて…お前は何処から来たんだ?」

(流石にこればっかりは誤魔化せないよなぁ)

「じ、実は僕、こことは別の世界から来たみたいなんだ」
開知は自分が別の世界から来たと考えてるとエミリに伝えた。

「ほう、それは興味深い話だ」
エミリは疑う気は無さそうだ。寧ろ話を聞きたがりそうにしている。

(意外だな…もっと驚かれたり、疑わられると思ってたのに)

「それならお前の知識の違いも納得がいくな。その世界ではお前は何をしていたんだ?」

「えっとそれが…前にも言ったけど記憶がないんだ」
前の世界の知識があるのにその世界で過ごした記憶が開知の頭には無かった。

「そうか。アンデットになったせいだろうな」

「これもかぁ。やっぱりマイナスな事が多いね…」
プラスな事と言えば暗闇の中でも明るく見えるぐらいだった。小さな傷が治る能力も十分プラスな能力だが、その分壊れやすい身体な為、開知自身プラスに考えてなかった。

「仕方ないことだ。徐々に慣れていけばいい。それより開知、聞きたいことがある」
真剣な表情でエミリは尋ねる。

「何かな?」

「この後のお前の方針を聞きたい」

「それについてなんだけど…街に行って情報を集めたいと思ってる。いつまでもエミリにおんぶに抱っこでいるわけにいかないからね」

「成る程な。しっかりと考えていたみたいで安心したぞ」
そう言うとエミリの顔の表情が柔らかくなった。

「え、僕そんな考えてなさそうに見えるかな?」

「いや、逆だ。考えすぎてまとまらないんじゃないかと思ってな。お前は気づけばいつも考え事をしているから少し心配だったんだ」
この三日間、開知はエミリに話を聞く時以外はこれからのことや自分のこと、この世界のことを考えていた。

「そ、そうだったんだ。ご、ごめん心配かけちゃって…」

「いや、謝る必要はない。私が少しお節介を焼いただけだからな」

「そっか…」
開知は心配をかけて申し訳ない気持ちもあったが、エミリが心配をしてくれたことに対して嬉しさも感じていた。

「だが開知、分かっているだろうがその姿を人間が見たら一騒ぎ起きるぞ」
開知の姿はアンデット。人間からしたら化け物扱いを受けるのは当たり前だ。

「うん…分かってるよ。だからそこは配慮するつもりでいる。何かで顔と身体を隠そうと思ってるんだけど」

「なら俺のコートを貸してやろうか?俺のコートにはフードも付いているからこれで顔を隠せばいい」
そう言ってエミリは自分のコートを脱ぎ始める。

「え、ちょ、ちょっと待って!?」
そう開知が叫び、ピタッとエミリは手を止める。

「こ、コートってその一着しかないの…?」

「ああ、そうだが?」
 
「いや!借りれるわけないよ!」
エミリはコートの下は下着だ。当然コートを借りればエミリの着てるのはそれだけになる。これも文化の違いなのかもしれないが、開知の世界じゃコートの下に下着だけなのはまずない。そんな一着しかないコートを借りれるわけがなかった。

「なんだ、私が着たものは嫌か?」
キョトンした顔で聞いてくるエミリ。

「い、いや…いやというわけじゃないけどさ…」
エミリはまるでモデルかの様なスタイル。そしてとても整った顔をしている。そんなエミリの着ていた服を借りるのが嫌なわけはなかった。しかし、開知の中の罪悪感が受け取れずにいた。

「ほ、ほらエミリが他に着るものがなくなるじゃない?それにこんなことで頼ってたらエミリだって先が思いやられるでしょ?」

「む、成る程…確かにそうかもしれない。開知すまなかったな。またお節介を焼いてしまった」
エミリの説得になんとか成功する。

(ふぅ…危なかったぁ。流石にモラル的にアウトだよな…こっちのモラル的にはセーフなのだろうけど)
きっとRPGでいう自分が使わなくなった守備力が高い装備を他のキャラで装備させる感覚と同じだろうと開知は解釈した。
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