百談

壽帝旻 錦候

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身体

第二話 【女の命】

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 あれはまだ、私が小学校に上がる前だったから、五歳くらいの時かしら。
 あの頃って、よく、お人形さんを使って、おままごとをしたわよね?
 私も、その当時「みかちゃん人形」とか、「バーディー人形」とかで遊んでたわけよ。

 で、あの人形って、髪……あぁ、ウィッグね! ウィッグ!
 そういう物があるから、ついつい……ほら、子供って悪戯しちゃうじゃない?
 ハサミを持って、シャキシャキシャキーーンって。
 そう。
 みかちゃんも、バーディーちゃんも、みーーーんな個性的なカットにしちゃったわけよ。
 ま、それが、私の中では、「最高!」だと思ってて、「将来は美容師さんになるー!」とか言ってたんだよね。

 で、ママに別売りのウィッグを買ってもらってたから、別に困った事なんて無かったの。
で、ここからが本題!

 その年の夏、パパの実家……おじいちゃんとおばあちゃんの家に行ったの。
 でも、田舎だし、周りに遊ぶ所もなければ、家の中にも子供が遊べるような玩具なんて、無くてさぁ……
 おじいちゃんやおばあちゃんは可愛がってくれたから、好きなんだけど、結局、大人は大人で話しだしたら、五歳の頃の私なんて、飽きちゃうじゃない?
 仕方ないから、一人で家の中をウロウロしだしたの。

 おじいちゃんとおばあちゃんの家って、日本家屋の平屋でね。
 その辺の地域では旧家と言われる立派な家らしくって。
 庭には蔵まであったなぁ……南京錠がかかっていて、入った事はないんだけどさ。
 そんな家だから、五歳の私にとっては、家の中だけでも「探検だー!」って感じでドキドキしながら、あちこち部屋を見て回ったの。
 おじいちゃん達の部屋、客間、仏間、応接間……色々見て回った後、最後に、西の一番奥にひっそりと、まるで隠してあるかのように、壁と一体化している不思議な扉を発見したのね。
 扉を触ると、一瞬、背筋をスッと冷たい手で撫でられるような、気味の悪い感覚に襲われたものの、好奇心には勝てなくて、そのまま扉を開けたの。

 え?
 鍵?

 そんなの掛かってなかったから、開けれたに決まってるじゃない。
 でも、中は真っ暗でね……狭くて、左右の棚には何か一杯箱が重ねられてて。
 多分、あれ。
 倉庫だったのよね。きっと。
 クーラーなんてついていないのに、その部屋だけが、やけにひんやりしていた事も覚えているわ。

 狭くて暗くて冷たい……

 今思えばあの倉庫、怪談やホラー映画で絶対に【出る】場所の典型的な所よね。
 ふふ。

 とはいえ当時の私は、小さい体のくせに、態度と度胸は人並み以上!
 
 ん?
 誰よ!
 態度は今でも人並み以上って言った奴は!

 あぁ……ごめん。話を戻すわ。

 その当時の私は、勇敢にも、平気でその倉庫に入っていったの。
 で、棚に並べてある箱を開けてみたり、上の棚の物を取る為の梯子に登ったり。
 何か宝物があるんじゃないかって、ワクワクしてた。
 箱の中には、お皿とか壺とか、あとはタオルとか、そんなような物が多かったんだけど、梯子で一番上の棚を覗いた時に、「あ!」と声をあげたの。

 ええ、小さな子供が喜ぶ物を見つけたのね。
 私は、目を輝かせて、その棚の奥にあるソレに手を伸ばしたわ。
 ソレは、赤い着物を着た、綺麗な日本人形だったの。
 倉庫の中の物は、殆どの物が全て箱に入って、きちんと整理整頓されているのにも関わらず、何故か、その人形だけは、箱にも入っておらず、埃も全く被ってなくて、綺麗な艶やかな長い髪が印象的でね。
 私は一目で気に入って、探検なんて中断して、さっさと、その倉庫から出て行き、自分が寝泊まりする部屋に持って行ったの。
 そこで、家に置いてきた、みかちゃんやバーディーちゃんの代わりに、その人形でおままごとを始めたんだけど……

 やっぱり、そこは幼稚園児。
 自分の人形じゃないのにも関わらず、部屋のどこからか、探し出しちゃったんだろうねぇ……

 ハサミでシャキシャキシャキシャキ……

 その人形の髪の毛を切っちゃったのよ。
 今思うと、それはもう、かわいそうなくらいのザンバラ髪。
 でも私は、その人形を見て、「可愛い可愛い」って言って、はしゃぎまくってたの。
 そしたら、一人で遊んでいる私が心配になったおばあちゃんが様子を見に来てくれたんだけど、私の手元を見るなり顔を真っ青にさせたの。

「あきちゃん! あなた……この人形をどこで? あぁ……なんてこと……」

 いつも穏やかで、決して声を荒げたりしないおばあちゃんが、酷く慌てた様子で、私を押しのけ、人形を取り上げたもんだから、私も「うぎゃぁぁぁぁぁん!」って大泣き。
 それを聞きつけて、ママもパパも、おじいちゃんも部屋に駆け付けて来たんだけど……

 皆、私を心配したり、あやしたりするでもなく、ただ、顔面蒼白にして立ち尽くしてるの。
 むしろ、その変な空気のせいで、私も泣き止んだわけなんだけど。

 人形をどうするべきか、寺に持っていかなくては……とか、よく分らない事をおばあちゃんとおじいちゃんが話してて。
 お父さんは、お母さんに、私を連れて早く家に帰れって言い出すし。
 その日はもう、のんびり過ごす訳にもいかなくなって、結局、私はお母さんと、自宅に戻って来たの。

 その夜。
 クーラーがついているのにも関わらず、寝苦しくて。
 隣で寝てる、ママの寝息すら、耳について、中々寝付けなかったの。
 で、ママにもう少しクーラーの温度を下げて貰おうと、起こそうとしたんだけど……

 体が何かに縛りつけられてるかのように、ピクリとも動かない。
 声を出そうにも、全く出ない。
 こういう状態って……あ! 金縛り! 
 そうそう! 金縛りになっちゃって! 
 幼い私はもう、頭ん中が大パニック!
 大泣きしたいのにヒュウッヒュウッと、変な息しか出ないの。
 そうしてるうちに、耳元で

シャキシャキシャキシャキシャキシャキ……


 刃物で何かを切る音が聞こえるの。


 シャキシャキシャキシャキシャキシャキ……


 それが、頭の後ろを回り……徐々に目の前へ……


 シャキシャキシャキシャキシャキーーーーーン!



 目の前でハサミが自分の髪を切っているかと思うと


ザシュッ!



 目の前の床に、ハサミが突き刺さった。


「可愛い~可愛い~……きゃはははは……」

 どこからともなく、聞こえる声。
 自分の首が、まるで自分の意志をは関係なく、ギギギギギギギギギギギ……と 音を立てるかのように反対に向けられると、そこには……

 あの「人形」がザンバラ髪のまんま、立っていた。

「髪は女の命……戴きます」

 そう言うと、その人形はすうっと消えたの。
 私は、自分の髪がどんな状態になっているかなんて、全く気にならないくらい怖くて怖くて。
 体の自由が利くようになった途端、ぎゃん泣き!
 その泣き声にママは飛び起きたんだけど、私の頭を見て更に驚いちゃって。
 すぐに、パパに電話しようとしたら……

プルルルル!
プルルル!

 いきなりママの携帯がけたたましく鳴りだして。
 あまりのタイミングに恐る恐る携帯を確認したママが、相手の名前を確認してホッとしたような表情で出てみたら、「あきは? あきは大丈夫か?」というパパの慌てたような声が、携帯からも漏れるくらい大きな声で聞こえて来たの。
 で、どういう事かママが尋ねたんだけど……

「あの人形……あの人形の髪が……長くなっているんだ……。しかも、柔らかい、子供のような髪になっているんだ……」

 パパの言葉を聞いて、ママは私の方を見たわ。

 そして短く、「ヒィ!」と叫んだの。

 だって……私、その場でシャキシャキシャキシャキシャキシャキって切られた筈なのに……


 その場には、髪の毛が一本も落ちていなくて。





 ただ床に突き刺さった、ハサミの痕だけが残っていたのだから。

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