百談

壽帝旻 錦候

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第四話【壁ドン】

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オレは売れないミュージシャン。
今はまだ、小さなハコでのライブと、ストリートミュージシャンが主な活動。
生活するにはバイトするしかねぇから、朝昼晩と三つ掛け持ちしてんだよ。
そんな訳だから、住むトコも、安けりゃ安い程いいって事で、1K、ユニットバス付で二万っつー格安激ボロアパートに住んでんだ。
ま、俺にとっちゃぁ、風呂と睡眠だけの為にあるようなもんだから、屋根があって、電気と水道が通ってりゃぁ、壁が薄かろうが、電車が近くを通っていて煩かろうが、なんだろうが、別に構わねぇ。
実際、ここに住んで二年経つが、不便に思った事なんて一度も無かった。
ま、深夜もバイトしてっから、いつも泥のように寝ちまってっし。
他は、殆ど外に出てるから、当たり前っちゃー当たり前か。

しかしよぉ……
最近、ちょっと気になるんだよ。
いや。
電車の音は別にいい。
そんなんは慣れた。

しかしよぉ……なんてーの?

最近、隣の部屋の住人が、やけに壁を、『ドン! トン、トン、トン、トン……』って殴ってるんだか、叩いてるんだか、分かんねぇような……そんな音と、振動が来る訳よ!

そりゃぁね。
こんなアパートに住んでるってこたぁ、オレみたいに、夢を追ってたり、収入が少なかったり、学生だったり……
もしかしたら、訳アリで、ストレスが溜まってるのかもしれねぇ。

でもよぉ。
壁はいかんよ。壁は。
だって、隣に迷惑だろ?
薄っぺらい壁だっつーことは、ここに住んでいる住人、皆が知っている事だしな。
ま、それでも、オレぁ、殆ど、この部屋には、いない訳だし、オレだって気付かぬうちに、近隣に迷惑かけているのかもしれないから、それで、隣の住人のストレスが発散されていると思うからこそ、我慢出来ていた。

でもよぉ……
やっぱり、何かおかしいんだよな。

オレぁ……たまたま、その日は、ライブもなく、深夜のバイトもなかったから、その日、昼間のバイトが終わってから、ずっと、自分の部屋に居た訳。
いつもは、深夜のバイトが終わって帰宅し、朝九時まで寝て、十時からバイトだから、家にいる時間は深夜三時~朝九時半くらいまで。
で、だいたい、お隣の“ドン、トン”コールが鳴るのが、五時前くらいからだと思うんだが……

その“ドン、トン”コール。

俺が、家を出るまで、ちょこちょこ感覚をあけて、おきるのな。
オレ的には、隣に住んでいる人は、リストラにでもあって、それで、家にずっと引きこもってしまって、そのストレスで……と、思っていたんだけどよぉ……
まさか、夜……深夜零時過ぎまで、ずっと続けているなんて……

ちょっと、おかしくないか?

しかも、気が付いたんだが、壁を殴るのは、決まって“電車”が通る時。

確かに、このアパート。
近くに線路が通っているから、電車が通ると、窓を閉めていても電車の振動と音がかなり煩い。
そりゃ、ずっとこの部屋で過ごしていたら、間違いなくノイローゼになるだろう。

でもよ?
隣の人。

壁を殴るだけで、「うるせぇぇぇ!」とか言って、怒鳴ったり、暴れたりはしないんだぜ?

なのに、電車が通る度に……


“ドン! トン! トン……”


苛立ちからなのか、壁を叩くんだよ。


とりあえず、なんかちょっと心配だから、明日の朝にでも大家さんに言って、お隣さんの様子を見て来て貰おうとは思ってるんだけどよぉ。

ただなぁ……
お隣さん。


いや、お隣さんじゃないのかもしれないが、ここの住人のうち、誰かがゴミを溜めこんでると思うんだよなぁ。


なんか、日に日に、こう……生臭いっつぅか。
何かが腐ってるっつぅか。
すげぇ不快な臭いが強くなってきてるんだよ。

しかも、窓を開けると、風に乗って臭いがモワっと、こう……入って来るんだよなぁ。
アパートの廊下もそうだし。
この件も、ついでに大家さんに言っておくかぁ。



ゴォォォォォォォ!




ドン! ドン! トン! トン、トン……



あぁ、終電が通り過ぎたな。

さ。
今日は、これできっと隣も寝るだろう。
臭いが鼻につくけれど、オレも明日に備えて寝るとするか……




翌日。


隣室からは死後、十日以上経った、首吊り死体が発見された。

リストラを苦に、身寄りもなく、頼る者もいない男が、一人寂しく死を選んだものの、自分の存在を誰かに気付いてほしくて、壁を叩いていたのかもしれない。


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