百談

壽帝旻 錦候

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第九話【足音】

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バタバタバタバタッ
ドタドタドタドタッ
パタパタパタパタッ
ガラガラガラッ!

「こらぁぁ! 廊下を走らないの!」
「はぁーい!」
「すみませーん!」

子供達の走る足音に対し、廊下側の窓を開け、職員室から大きな声で叫ぶ。
すると、二人の女の子が慌てた様に、こちらを振り返って返事をした。
チラリと時計に目をやると、どうやら始業時間まであと二分を切っている。
どうりで慌てている筈だ。
二人は私の視線を感じているのか、走りたいけれど我慢をし、早歩きで廊下の角を曲がっていった。

「きっと、あの子達、私の目が届かなくなってから、また、走り出したわよね……」

ふぅっと息をつく。

キーンコーンカーンコーン

丁度、チャイムが鳴った。

「さて。授業に行きますか」

席を立とうとすると隣に座っていた青木先生の顔色が悪い。
他の先生方はチャイムの少し前から徐々に移動し始めており、既に、職員室には、青木先生と私しか居ない。

「どうされましたか?体調でも……」

授業が始まる時間とはいえ、体調の悪そうな同僚を放っておく訳にもいかず声をかけると、座ったままの体勢で、ゆっくりこちらを見上げた。
その顔はまさに“顔面蒼白”。

「えぇ! 青木先生! 本当に大丈夫ですか?」

体調でも悪いのかと思い、彼女の顔を覗き込む。

「や、安井先生……さ、さっきの……」

唇を震わせる彼女の様子は明らかにおかしい。
”もしかして、頭がガンガンと痛むところに、先程の怒鳴り声が響いて悪化してしまったのか?”

そんな事が頭をよぎり、「あ、す、すいません。さっきの……子供達への怒鳴り声。大き過ぎましたよね?」と、眉毛を下げながら答えると、慌てて首を振る。

「い、いえ! そんな事ではなく。あの……安井先生は……気が付かれませんでしたか?」

目を泳がせながら、ガクガク震え出し、こちらに問いかける。
この様子は体調云々よりも、何かに脅えているといっていい。

さっきの事?
気が付く?
一体何に?

バタバタバタバタッ
ドタドタドタドタッ
パタパタパタパタッ

廊下を走る音がして……私がこの窓を開け、子供達を怒鳴った。
これの“どこに”怖がる要素があった?

小首を傾げる私の顔をジッと見て、彼女は震える唇を動かして、こう言った。

「さっき。この窓を先生が開けた時。私も廊下を覗いてみたんです」
「えぇ」
「走っていた子は女の子二人」
「えぇ」
「二人だったんです」
「えぇ。それが何か ?どこがおかしいんですか?」
「まだ、気が付かれませんか?」
「だから一体何を?」
「足音は……廊下を走る足音は“三人”だったんですよ?」

その言葉に目を見開く。
そして、聴覚の記憶がよみがえる。

バタバタバタバタッ
ドタドタドタドタッ
パタパタパタパタッ

 ……確かに。
独特な。
異なる三つの足音。

でも。
あの時。
廊下にいたのは二人。

じゃぁ。
あの足音は……



一気に背中に冷たい汗が流れおち、私は青木先生と、ただ、無言で体を震わせる事しか出来なかった。
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