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壽帝旻 錦候

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PSYCHIC 9

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「自殺者が多いと言われる絶壁の方では余計な浮遊霊や、地縛霊の相手をしなくてはなりませんので、ボクは林の方を担当します。メンバーは……」
「はぁ~い! アタシ、賀茂さんとがいいでぇ~す!」

 二手に分かれてのロケ隊編成について、意見を述べる賀茂の言葉を遮って割り込む日高に、即座に犬猿の仲の中山が割り込む。

「何、勝手なことを言っているのよ」

 冷たい眼差しを向けて呆れたような声を出せば、日高は頬を膨らませる。

「だってぇ。アタシ、アイドルだし。変な霊とかに付き纏われたら困るじゃないですかぁ~」

 甘ったるい声を出して賀茂の袖をキュッと握りしめる日高は、上目遣いで「そうですよねぇ~? 賀茂さん」と、同意を求める。
 それを見た中山はこめかみに青筋をたて、頬を引き攣らせた。

「あ、あのねぇ。賀茂さんは貴女のボディーガードでも何でもないのよ? むしろ、番組の為に、危ない場所に率先して行ってくださるの。それが何を意味するのか日高さん、分かってる?」

 腕を組み、フンッと鼻を鳴らす中山は、見てくれだけの小娘だと明らかに馬鹿にした物言いで日高を見下したような態度をとる。

 二人の様子を見守る男性陣はハラハラドキドキ。

 下手に口を挟もうものなら、逆に、二人から、けたたましい口撃(こうげき)にあって、たまったものではない。
 とばっちりを喰らいたくはないものの、早くメンバー分けをして、ロケを進めたいというのも本音である。

 この場をうまく収められるのは賀茂しかいないと、田口筆頭に、スタッフ一同の視線が賀茂に注がれた。
 苦笑し、肩を竦めてみせる彼は、黒目を動かし、両隣にいる女性二人の顔を見るが、彼女達の自分の取り合いは終わらない。

「危険がいっぱいってことは、それだけ幽霊と遭遇する機会があるってことですよねぇ~? ってことはぁ~。それだけテレビに映るチャンスも多いってことじゃないですかぁ~。アイドルとしてはオイシイですよねぇ~。やっぱり、アタシが賀茂さんとぉ……」
「貴女みたいにベタベタひっついて、キャーキャー騒ぐだけの女の子がいたら、賀茂さんの邪魔になるって言っているのよっ! それに、変な霊に付き纏われたくないんでしょう? だったら、大人しく霊の出ないロケ隊の方にしなさいよ」

 ああいえばこういう。
 女性というものは、何ともまあ口がたつと言うべきか、屁理屈が多いと言うべきか。
 互いに一歩も退かぬ攻防を繰り広げる。

「中山さんって、意外と周りを見ていないんですねぇ~。アタシ、霊ごときでキャーキャー騒ぐようなキャラじゃないですしぃ~。ね~、田口ディレクター。どっちかっていうとぉ~、オオノンが怯えて震えるキャラ担当ですよねぇ~」

 突然、話をふられてアワアワしだす田口は、「え? あ、そ、そうだよね?」と答えるのが精一杯。
 ロケ全体のことになると上手く立ち回れるのだが、流石に女同士の争いの中には一歩も入りたくないといった感じだ。
 このままでは埒が明かない。
 第一、最初に賀茂が口を開いた時点で、彼の中では既にバランスを考えたロケ班分けが出来ていた筈。

 田口はチロリと賀茂を見る。
 彼は田口の視線に気が付いている筈なのに、何故か自分と共に行動するスタッフ達の方に顔を向けていた。
 多分ではあるが、カメラマンの野々村にも、これから撮る絵面的に、メンバーをどうしたら番組が盛り上がるのかを尋ねているのであろう。
 二つの班に分けるとはいえ、メインは賀茂が率いる班だ。
 やはり、華やかなパーティーを組ませた方が視聴者的には面白いのかもしれない。
 とはいえ、冷静にレポートをしてくれる人間も必要なのだから、ここは、賀茂、日高、そして番組内におけるお父さん的存在である五代といった三人が適切か?

 いいや。
 そうなると、もう片方の班は、中山とお笑いコンビ二人組。
 これでは明らかにオカルト番組ではなく、コメディ色が強いバラエティ番組になってしまう。
 それなら中山と賀茂を……いいや。
 それでは、落ち着いたナレーションを入れる役割が二人とも賀茂サイドに入ってしまい、アダルトチームとヤングチームといった感じでバランスが悪い。

 頭の中でああでもない、こうでもないと田口が考えている間に、賀茂と野々村が目配せをしながら、誰をどう振り分けるかを決めた様子であった。
 野々村が日高を指名するかのように顎をしゃくると、賀茂は無表情なまま小さく頷いた。
 そして、未だにギャーギャー喚く二人の間に入っていた彼は、コホンッと咳払いをした後、両手を上げて、日高、中山の両名の顔面の前に手の平をかざした。

「さてさて。美しいお二人方がボクと共に行動したいと仰ってくださるのは光栄なのですが、これはあくまでもお仕事です。番組の構成や視聴者からの期待を考えますと、ボクとしましては、ひ――――」
「あ~。うっさいうっさい。出演者が班決めなんて出来るわけないっしょー。はいはいはいはい。どう考えても、賀茂さんチームには、最強陰陽師に対して、最弱霊感芸人のが面白いっしょー? だって、メインチームにはテレビ局史上例を見ない使命があるんだし。あっ! 例は見ないけど、霊は見ることになるんですけどね」

 女性陣の恨みを買わないように、上手にこの場を纏めようとした賀茂の言葉を遮り、傍若無人な態度で田口の後ろからヒョイッと現れた男に皆が目を見開いた。

 前髪はぼっさぼさ。
 黒縁眼鏡にヨレヨレのTシャツ姿。
 黙っていれば、身近にいても見過ごしてしまうほどの地味な容姿。
 学校でも一人はいたであろう、いてもいなくても分からないほど影が薄く、卒業してからも『こんな人クラスメイトにいたっけ?』的なタイプの彼の堂々とした態度を超えたふてぶてしい態度に、一瞬、辺りは静まり返ったものの、すぐさま、反論が沸き起こった。

「ちょっと待てよ。今話をしているのは賀茂さんだろ? それを下っ端が偉そうに何を言い出すんだよ」

 一番先に食って掛かったのは賀茂とアイコンタクトをしていた野々村である。

 何故彼が真っ先に怒りを露わにするのか?

 人は自分よりも格下の人間に、自分の意にそぐわない行動をとられることに嫌悪にも似た苛立ちを感じるもの。
 当然、この場合、賀茂一人の意見ではなく、自分の意志も反映した班の構成を今、まさに賀茂がしようとしていたところを邪魔されたのだから怒るのも無理はない。
 しかし、それだけならまだ、彼は口出しをしなかった。
 彼が怒りを露わにした理由は、自分や賀茂の意にそぐわない意見を、たかがレフ板持ちの雑用係が発言し、自分が考えるロケの進行や期待する映像構成がめちゃくちゃになりそうだという焦りからであろう。
 元々背が高く、眼つきの悪い野々村が凄みを利かせるが、そんなことなど気にも留めない神代は寝癖がつきっぱなしの頭をガシガシと掻きながら、大きな欠伸を一発かました後で、賀茂からすぐ傍にいる田口の方へと向けた。

「……ねぇ。オレ、間違ったこと言った?」

 静かに呟いた言葉に、今度はADの浅井や日高までもが吠えかかる。

「ちょっと、君! いくら田口さんの親戚だからって、その態度はないんじゃないかい?」
「そおよそおよぉ。さっき、絶対に賀茂さんは『ボクと日高さんと――』って言おうとしてたっていうのにさぁ。なに邪魔してくれてんのよぉ~」

 一気に場の雰囲気が悪くなる中でも、表情はまったくもって見えないが、平然とした態度で凝りをほぐすように首を回す神代は、「め~んどくせぇ~なぁ」と低い声を漏らした。
 ビクリと彼を見上げる田口の顔を見下ろす神代はニンマリと黒い笑みを見せた。

「オレの意見じゃないっつぅの。オレ、こんな性格だし? 親が勝手にたぐっちゃんに頼んで社会ベンキョーってヤツを体験させてもらってるワケだけどさぁ。考えても見てよ? 現場責任者の身内だからって、流石に自分勝手なことを言うワケないじゃん」

 いつの間にか、田口と神代を取り囲むように集まって来ていたスタッフや出演者全員を見渡すように大きな声で伝える彼の言葉はまさに正論。

 だが、彼の話す内容の意味する事と言えば――――

「確かに。先ほどからずっと君は田口さんの傍にいましたね。それに、二人で何やらコソコソと話をしているところも、わたくしは見ておりましたが……なるほど。女性二人のあまりの剣幕に、中々、自分の考えを言い出せないでいたわけですね?」

 うんうんと頷き、『貴方のお気持ちはよく分かりますよ。女性同士の嫉妬や喧嘩ほど、関わり合いになりたくないものはありませんからね』といった表情で、いかにも田口の心境を理解してます風に語る五代は、自分の考えが間違っていないことを確認するように田口を見た。
 数日前のスタジオの時同様、怖いもの知らずというのか、誰に対しても不遜な態度で自らの立場を悪くしていく危なっかしい神代のことでいっぱいいっぱいな田口は、「え? は? あぁ、うん」と、頷くのが精一杯。
 自分がそうさせているというのに、キョドっている田口の様子を見て小さく吹きだした。
 田口がいまいち状況が把握できていないのも無理はない。
 第一、二班に分けるとは提案したものの、それをどのように分けるかは、田口としてはこれからのロケでの決め手となる賀茂に決めて貰うつもりだったのだから、自分にその案などなければ、神代に話したこともないのだから。
 本気で神代の目的が分からない田口は口をパクパクさせて、何か言おうとするのだが、それを神代が無言の圧力をかけて遮ると、黙るしかない彼に替わって、再び口を開いた。

「ね? たぐっちゃんも肯定してるっしょ? 本当はもう、たぐっちゃんの中ではこれから行われる二班に分かれたロケも、その大まかな構成も出来ているってーわけ。Now you understand, don't you?」

 前髪で隠されているとはいえ、彼の口調や仕草から間違いなくドヤ顔をしていることには違いない。
 皆、内心、物凄く小馬鹿にされたような気持ちになり、カチンときたものの、それでも一応は大人である。
 とりあえず、現場で一番発言力があるディレクターの意見であるのならばと、ここはグッと我慢をして大人しく神代の言葉に耳を傾けた。

「さっきも言った通り、一つの班ではオカルト番組らしく、本気で心霊現象に取り組んで欲しいってぇのがたぐっちゃんの考え。だから、霊を引き寄せる霊感体質の大なりさん」
「大野だ」

 コンビ名は大なり小なりとはいえ、名前は大野。
 その辺のこだわりが強いらしく、どうでもいいことで訂正を入れてくる大野に対して面倒くさそうに小さく息を吐いた神代は、ぽつりと「どうでもいいじゃん」と毒づいた後、「霊感体質の大野さん」とちゃんと言い直した。

「それと、陰陽師の賀茂さん。霊力を持っているという噂の二人が一緒にいることで、今回の目的であるグラビアアイドルの霊を呼び寄せるかもしれないってぇのが、たぐっちゃんの狙いっつーこと」

 そこまで聞いただけで、殆どの人間が、「ほぉー」と感嘆の声をあげた。
 ただし、一部にはそうじゃない者もいるわけで。

「じゃあ、ワイも賀茂さんと同じ班っつーことやな?」
「えーっ! じゃぁ、アタシ。頭が硬くて、なぁんの面白味もないアナウンサー二人と一緒ってことぉ? それじゃぁ、こっちの班の映像はぜぇぇんぶボツになっちゃう~」
「ふん。アイドルだったら、一人でもお茶の間を楽しまさせなさいよね」

 出演者達は各々、好き勝手なことを言い、賀茂と野々村、そして、その班に大まかな指示をだす浅井の三人は一ヶ所に集まって何やら深刻そうな表情で話し合っていた。
 その様子をチラリと横目で見た後、神代は大きく手を二回叩いた。

「はいはい。勝手に決めないでちょーだいよね。大なり小なりさんが二人で一括りって、誰が決めたのさ? たぐっちゃんは、ちゃぁんとバランスを考えてるから。賀茂さん率いる林ロケ隊は、『衝撃スクープ! 未だ行方不明のグラビアアイドルの霊と対談! そこから引き出されるまさかの事実! 皆さんは今夜、あの噂の真実を目撃する』ってなわけで、ちゃぁんとリポートしてくれる人が必要でしょ?」

 皆が注目する中、おどけたように話す神代は、中山の方を見て小首を傾げた。

「え? もしかして?」

 期待に目を輝かせる中山の声のトーンが上がる。
 その声に賀茂と共に話をしていた野々村や浅井が振り返った。

「ええ。中山さん。貴女が林ロケ隊です」

 ニッコリとした口元だけを見せた神代は、今にも「当選、おめでとうございます」と言いそうな雰囲気だが、この班分けに不服な人間は当たり前だが黙ってはいない。
 可愛い顔をパンパンに膨らました日高は、荒々しい足取りで神代に近付いた。

「なんでよぉっ! なんでアタシじゃないのよっ!」

 ヤカンが沸騰したように顔を真っ赤にさせて怒鳴る彼女に向かって、両手を胸の辺りにかざして、「どうどう」と、興奮した馬や牛を落ち着かせるような仕草をすると、落ち着いた様子で彼女に説明しだした。

「オレに突っかかってこられてもなぁ。オレが考えた班決めじゃねーし。でも、たぐっちゃんはあくまでもバランスを大事にしてんだよ。どちらの班にも『華』がなけりゃぁ視聴者は片方のロケ隊の場面しか見ないだろ? ならさ。片方に美しいものを偏らせるわけにはいかないって思わないかい?」

 この一言で日高の怒りのボルテージは一気に下がった。
 不服な部分は未だあるものの、それでも、神代の言う『華』というのは、賀茂と自分を指していると認識した日高にとっては、決して悪い気はしない。
 日高の勢いが収まったところで、神代は更に続けた。

「崖班の方は、林班とは真反対。幽霊を信じない、怪奇現象を怖がらない班ってことで、例えば、実際に心霊現象を撮影出来ていたとしても、その場では鼻で笑うくらいの強気の姿勢でのロケ。後々、検証シーンで、『まさかっ!』といった映像が撮影出来ていれば大儲け。相反するキャラとロケ風景だからこそ、面白くなる。それが、たぐっちゃんの意図するところなんっすよ。ねー? そうでしょ?」

 流暢にもっともらしい理由を並べて、この班決めに反論の余地を与えない神代は、最後の一押しとばかりに、田口の背中をドンッと押す。
 冷ややかな笑みを浮かべた口元から、「口裏合わせろや!」という強迫めいた幻聴を耳にし、「そ、そうだよっ! ほ、本当は賀茂さんの意見を尊重しようかと思ったりもしたんだけど、やややややっぱり、それだと片方に主軸が偏りすぎちゃうからね」と、冷や汗を垂らしつつ、神代の言っていることは自分の意見だと主張した。

 現場の最高責任者の意志に背くわけにはいかない。
 業界の暗黙の了承とでもいうのか、こうなってしまえば、もう誰もこの班決めに対して文句をいう者はいない。
自分達の班に日高を入れようとしていたと予想される賀茂は、一瞬だけ表情を曇らせたものの、野々村と目を合わせ、一言二言言葉を交わすと小さく頷き、田口の案だと主張する神代の言葉に同意を示した。
 多少のいざこざはあったにせよ、無事に出演者の振り分けが終わったので、神代は一旦、田口の後ろに退く。
 横を通り過ぎる時に、田口は前髪で見えないはずなのに、何故か神代の鋭い視線を感じてチラリと横を見ると、目と目が合ったような気がした。

《ここからはたぐっちゃんが指示しろ》

 彼の言わんとする事を察知した田口はコホンッと一つ咳払いをすると、現場責任者にふさわしい立ち振る舞いで的確にスタッフをそれぞれの班へと振り分けていくと、誰も否定する者はなく、あっという間に班は決まった。
 崖班は田口。
 林班はADの浅井が中心となって進めていくことになり、まずは、班ごとのミーティングをするよう指示を出す。
 それぞれの班のリーダーのもとへと皆がぞろぞろと集まる中、神代が田口の肩を掴んだ。

「途中から二班で行動するって決まったんなら、たぐっちゃんが決めなよね~。じゃないと色々と面倒なことになるだろ?」
 やけに真剣な口調でボソリと耳元で呟かれた言葉がやけに重く響いた。
「え?」
「なぁんちゃって。ま、オレ的にはどうしようもないことも沢山あるってことを理解しておいてよねん」

 彼の言葉の真意が分からず聞き返すも、その時にはもう、茶化したような態度をとる通常モードの神代に戻っていた。

 だが、彼のその言葉にも、重要な意味が隠されていることを、田口は後々知ることとなる。
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