眼鏡モブですが、ラスボス三兄弟に愛されています。

朝顔

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第一章 出会い編

②ここはゲームの世界です。そして俺は…

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 天才肌だが、人の心を持たない長女。
 努力家だが、ひねくれた性格の次女。
 天真爛漫、予測不可能な爆弾三女。

 これが前世の俺の姉達。

 ゲームの内容を初めて知った時、頭に思い浮かんだのは自分の三人の姉だった。
 なぜならこのゲームに出てくる三兄弟が、なぜか姉達と同じような性格で、うわっマジかと思ったことを覚えている。

 殺戮と鮮血のオーディン

 このガチガチのRPGみたいなタイトルのゲームは、俺の記憶ではまだ開発中だった。
 なぜ内容を知っているかといえば、俺が担当していたからだ。
 学生だったのでメインではなく、アシスタントだったが、ほぼ全てに関わっていた。

 二番目の姉が大学在学中に趣味で始めたゲーム制作。それが大当たりして、友人達と在学中にゲーム製作会社を立ち上げた。
 何年かしてそれなりに大きくなった頃、PC関係の専門学校に通っていた俺はほぼ強制的に姉の会社にアルバイトとして雇われた。

 会社は姉が好きな乙女ゲームやBLゲームを中心に扱っていた。最小人数でやっていたので、最初は雑用として連れ回されてずいぶんとこき使われた。
 設立時はヒット作に恵まれたが、その後は売り上げが低迷していた。立ち上げメンバーが悩んでいたところをフラッと通った俺が、内容をガラッと変えて猟奇的な殺伐とした内容で、問題作を狙ってみたらと提案したのが最初だった。

 会社の売れ筋で主に扱っていたのは、もふもふ系。ゆるゆるがテーマで、毛むくじゃらの獣人に愛されるような内容で、ひたすら可愛さに萌えるみたいなほのぼのしたゲームが多かった。

 何の気無しに適当なことを言ったら、じゃあアンタが担当しなさいと姉に頭を小突かれた。
 言っておくが俺に拒否権はない。
 言う通りにしなければ、どんな面倒なことが待っているか分からない。
 無理矢理担当させられたのが、殺戮と鮮血のオーディンだった。

 ベースは攻略とアクションありの学園BLゲーム。
 暴力表現でR指定の挑戦的な一作を目指すことになった。
 こうなったらやってやると、ライターとイラストレーターを一新して、ダーク寄りの人で揃えた。
 主人公は金髪碧眼の美少年。
 皇立貴族学院に入学するところからゲームは始まる。
 そして攻略対象は学院の頂点に君臨する公爵家の三兄弟。
 彼らの中から一人選び攻略を開始するのだが、このゲームの特徴はとにかく死にゲー。
 アクション要素を取り込んで、入力や操作に失敗すると即死亡エンド。
 攻略ゲームらしく、選択肢で好感度を上げるのもあるが、それも失敗するとバッドエンド。
 始終バイオレンスや血吹雪が飛び交うスチルの嵐。
 各キャラに対して、ハッピーエンドが一種類なのに、ちょっとしたことで、即バッドエンドとなる。
 バッドエンドも覚えているだけで、庇って死亡、監禁、陵辱、精神崩壊、切断系、別離死亡、捕食エンドと豊富過ぎるラインナップなのだ。
 そして、最後にラスボスとして攻略キャラ以外の兄弟が出てきて、血で血を洗う兄弟での殺し合いとなる。
 その戦いを攻略キャラと共に生き抜いて、やっと結ばれるハッピーエンドが待っている。
 新規開拓を狙ったとんでもないゲームを目指していた。

 と、まあざっくりいうとそんな感じで、そろそろ発売を控えて、俺は資料を持って走り回っていた。
 そう、あの日も駅で資料を抱えて階段から落ちて……。

 ……そうして転生したわけで、よく考えたら国や町の名前にも見覚えがあった。
 皇立貴族学院なんて、どっかで聞いたななんてぼんやりしていたが、ゲームの舞台だったというありえないど忘れ。
 三兄弟の名前を聞いたことで、やっとそれらが繋がった。

 俺にとって大事なのは、俺が誰かということだ。
 ゲームで三兄弟は全員貴族学院に通っていたので、今長男だけが在学中ということは、今はゲームが始まる前だ。
 もしかしたら、俺は今後ゲーム内で殺される役かもしれない。それをハッキリさせないと大変なことになる。
 悪夢にうなされながら、俺はベッドから飛び起きた。





 父親の執務室で倒れて部屋に運ばれたらしい。俺はベッドの上で布団をかぶって寝ていた。
 ベッドサイドには置き手紙と眼鏡が置いてあった。
 手紙には、仕事に行くのでまた帰ってきてから話そうと書いてあった。そして、頼まれていた物ができたから使うといいと……。

 眼鏡だ。

 さっきまで悪夢にうなされていたのに、俺は眼鏡を手に取ってベッドから降りた。小躍りしそうなくらい喜んでその場でぐるっと一回転をした。

 引きこもり生活で何しろ娯楽といえば、本を読むか寝るかくらいしかなかったので、ずいぶん前から目が見えづらくなってしまった。
 この世界の眼鏡は高級品で、すぐに買ってもらえる代物ではなかった。
 前世の眼鏡は眼科に行って視力を測ったりする必要があったが、この世界の眼鏡は魔法具だ。
 滅多にいないが、魔力という特別な力を使える人がいて、その人に魔法を込めてもらってある。形は普通の丸眼鏡だが、視力に関係なく、かければ誰でも正常に見えるようになるという便利な道具なのだ。
 早速付けてみると、今までぼやけていた視界がクリアに見えるようになった。
 思わずわっと声を上げて走り出したい気分だった。

 せっかくだから似合っているかチェックしようと俺は鏡を覗き込んだ。
 この世界でも平凡な黒髪に茶色目、全体的に小作りで薄い顔。母によく似た無害を絵に描いたようなどこにでもいる顔だ。
 それが、眼鏡をかけただけで、途端にちょっと知的に見えるのはなんとも嬉しい変化だった。

 るんるんと鼻歌を歌いながら、甘い物でも食べに行こうかなとしていたら、ふと鏡に映った自分の横顔に驚いて、思わず叫んでしまった。
 いくら騒いでも、もう夜も深い時間なので、誰もやって来ない。
 鏡にべったりと貼り付いて、自分の顔をまじまじと見てみた。

「こ…これは……まさか……」



 俺はイラストレーターさんとの教室のスチルを巡ってのやり取りを思い出した。
 主人公が次男の教室に遊びに来て、二人で話をしているシーンがあった。
 そのスチルを見ながら、どこか足りないところはありますかと聞かれた俺は、うーんと唸った後、ガリ勉系入れましょう、と言ったのだ。

 いわゆるクラスに一人いる眼鏡男子で、誰ともつるまず、席に地蔵のように座って常に本を読んでいるヤツ。成績はトップで、あだ名は博士とか、ガリ勉くん。
 教室のシーンならいた方が自然でしょうなんて言って付け加えてもらった眼鏡モブ。
 なぜかイラストレーターの星さんは、そのモブを気に入ったらしく、こめかみの下に自分のマークである星の黒子を描いたと言って報告してくれた。
 そんなことはいいから別のシーンを早く上げてくれなんて頭の中でツッコんでいた。

 眼鏡をかけた俺の顔はそのモブにそっくりで、しかもこめかみには生まれた時から小さな星の形の黒子が付いていた。

「おおおお俺って、まさか……クラスメイトの秀才眼鏡くん!?」

 なんという事だ……。

 俺はまた一つ勝利した。
 前世ではよっぽど徳があったらしい。

 ゲームでの血生臭い兄弟達の戦闘に巻き込まれて被害にあう生徒はたくさんいた。
 しかし、眼鏡くんキャラは冒頭で出たきり姿を見せず、ハッピーエンドの学院内のシーンで、抱き合う二人の後ろの群衆に確かいたはずだ。

 星さん、このキャラ結局好きかよと一人でツッコんでいたのを思い出した。

「星さん!! ありがとう! 俺死なないキャラじゃん! しかもまったく話に絡む事なし! 最高!」

 大丈夫だ。
 俺の設計図は全くズレていない。
 強運と言えるテラの人生に感謝しながら、またしばらく引きこもり生活が続くと俺は安堵した。

 しかし上手くやっていくには、この世界のことについて、俺は全く興味がなさすぎた。
 ゲームの内容を思い出して照らし合わせるために、翌日からは父親の執務室に入り込んで、それらしい本を読み漁ることにした。








 父の執務室には貴族ロマン誌という、低俗な雰囲気の雑誌が置かれていた。
 これは父親の商売道具でもある。
 ゴシップ誌の情報から金の匂いを嗅ぎつけて、困っていそうな人に営業をかけるのだ。
 もしくは、逃げたやつの情報集めという目的もある。
 アウトローな父親の仕事に興味はないが、世間を知るならこれが最適だろうと本棚からごっそり持ち出した。

 まずこの世界の基本は、BLゲームの世界ということだ。
 男も女も自由恋愛で、どっちもイケるという人間がほとんどだ。
 固定された異性愛者の方が少ないと言っていい。
 男女の間では普通に子供ができるが、確か同性同士でもできる方法があるとかなんとか、ライターさんに熱く語られた気がするがそこは覚えていない。

 社会的には、国があり皇族と貴族がいてその下に平民がいるというシンプルな構造だ。
 国は長年戦いに明け暮れていたが、確かゲームが始まる前の一年戦争とかいうやつで、圧倒的な力を見せつけて大勝し、近隣の国をほぼ制圧。ゲーム内でそれ以降に他国と戦争が起こるような流れはなかった。

 つまり、今は国が戦いが終わって比較的安定した状態にあるということだ。
 それを表すように誌面には貴族同士の色恋のスキャンダルが並んでいる。男同士で男を取り合ったり、男を巡って女と男が殺傷沙汰、もうめちゃくちゃだ。
 うんざりした気持ちでページをめくっていたら、ついにあの名前を発見した。

「これだ! ラギアゾフ家の長男、ディセル・ラギアゾフ、貴族学院に首席で入学。華々しいスタートを切る、次期当主候補最有力…」

 貴族の頂点と呼ばれる公爵家の中でも、ラギアゾフ家は別格だった。
 古くからある名家で、子供達が三人ともオーディンの力を持っているからだ。
 オーディンの力というのは、高い戦闘能力と不死身に近い肉体を持つと言われている。
 全員にその力があるわけではなく、オーディンから祝福を受けた人間のみ授かることができる。
 皇国内でも他に数名しかいないと言われている。

 ゲーム内ではその強すぎる力に惹かれて、異形の魔物が寄ってくる。魔物達は食べることで、その力を手に入れようとする。
 主人公とのイベントは襲いかかってくる魔物達を一緒に倒しながら進められる。
 一緒に、というのは主人公にもサポート的な異能力が備わっていて、二人で協力すると大きな力を出せるのだ。

 最終的な目標は次期当主の座を手に入れること。最終決戦は他の二人の兄弟が出てくる。三人の兄弟で殺し合って、他の二人を封印することができたらクリア、という流れだった。

「よし! だいぶ思い出したぞ」

 三兄弟は年子だ。主人公が三男とともに入学する。来年俺は次男とともに入学予定、ということは今はゲームがスタートする二年前になる。

 確か主人公は町のパン屋で働いていたが、今ぐらいの時期に貴族の子だったことが発覚して、伯爵家に引き取られることになる。
 とにかく他の追随を許さない圧倒的なビジュアルにこだわったので、スーパー美少年のはずだ。パン屋で働いているだけでも、連日大盛況で有名人だろう。

 でもそんな事はどうでもいい。
 これで俺とはまったく関係のない世界であることが確定した。

 交流茶会とかは意味が分からないが、高位の貴族の坊ちゃんは、慣例としてやらなければいけないのだろう。
 すでに一年前から誰が同時に入学するかは決まっている。
 全員招待しているのか分からないが、とりあえず適当に飲み食いしていれば何とかなるだろうと思った。

 翌日帰ってきた父親に茶会の話をされて、おう任せておけ~なんて片手を上げて背中を叩いておいた。

 全てが順調だった。

 だから甘く見ていた。

 ぬくぬくとした実家から出る事なく生きてきた俺は、全てが見えていなかった。
 この世界が何であるか、完全にナメていた俺は、それを身をもって思い知ることになる。










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