スキル世直し名器で世界を救え!

朝顔

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第三陣

⑧それぞれの決意

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「ここからだと火がよく見える。城下町まで迫ってきたな」

 レインズが小さくそうこぼした声を聞きながら、俺は黙ってたくさんの火が集まってくる様子を眺めていた。
 何も知らずに見れば、美しく幻想的な光景にすら見える。
 しかしあれは革命の火で、あの中でたくさんの命が消えているのだ。

「これだけ早ければ、兵のほとんどは戦わずして降伏しているはずです。皆、王の首を守る気力もないのでしょう」

 同じように町が火に包まれていく様子を隣でガルデオンも眺めていた。
 感情のない人形のような顔をしていた。

「ガルデオン、大丈夫……なのか?」

「ええ、それが王の務めだと思っています。人を導く存在であり、それを誤れば首を差し出す。その覚悟を持って座らなければいけません。……それに、父としては、まともに名前を呼んでもらったこともないですから」

 ガルデオンは寂しそうに目を伏せた。
 思わず何かしてあげたいと考えた時、ガルデオンとの間にスッとレインズが割り込んできた。

「時間です。始めますので、殿下はあちらに」

 太陽が沈み空に月が浮かぶ頃。
 それが儀式の始まる時刻。

 ここはあの狩り大会が行われた王城近くの森。
 儀式には古代の遺物が必要になるらしく、北部領ではなく首都でその場所といえば、思いついたのは石像や石板が並べられたあの場所だった。
 森に入った時は意味のない場所だと思ったが、儀式に使えそうな場所を覚えておいてよかった。
 苦労して探すことなくたどり着くことができた。

 本の虫だったレインズによると、古代人が神下ろしの儀式に使っていた遺跡に似ているとのこと。

 ここでクライスラー家に伝わる魔力移しの儀式を行うことになった。
 魔力溜まりとして使われることにレインズは納得してくれなかった。
 それなら、レインズの力を移せばいいのではと俺は閃いた。
 俺が何を思い付いたのか察知して、レインズはそれならいいと承諾してくれた。

 一人ポカンとしていたガルデオンだったが、公爵家伝統の話をしたら、なるほどと理解してくれた。

 クライスラー公爵家に伝わる魔力移しの儀式は、長い歴史の流れを感じるものを媒介とするらしく、この遺跡を使って行われることになった。

 伝統に則って行われるなら、公爵と継承者である子が参加すべきものだが、レインズは呪われた力だとして次世代に送ることを拒んだ。

「そもそも北部人は魔力が高い者が多い。魔獣討伐くらいなら十分に足りるくらいはみんな持っている。強すぎる力は持つ者によっては災いでしかない。それを俺が断ち切る」

 レインズが手に力を込めると、真っ黒な剣が出現した。
 公爵家の当主のみが使えるとされる魔剣だ。
 それを天に向かって突き上げた。

 儀式の参加者はガルデオン、俺は立会人としての役割があるらしい。

「これは、リヒトとガルデオン殿下の契約である。対価はクライスラー家に伝わりし強い魔力。殿下は契約通り決められしことを実行する限り、移された力は死が訪れるまでその身に留まること。約束を反故するようなことがあれば、力は消滅する。そして、もともと備わっている眼は力を受け入れることにより消えることになる。以上、殿下、進めてよろしいですか?」

 魔力移しは契約という方法で行われるらしい。
 この中で一番優れた者との契約、それが伝統的に行われてきたが、今回は俺との約束をガルデオンが守ること、それが契約となる。
 つまり、良き王として正しき方向に治世を進めること、それが俺の求めるもので、ガルデオンが道を誤れば、たちまち力は消えてしまうことになる。
 そして、この力を受けるために、ガルデオンは対価として見える眼を失うのだそうだ。

「ええ、構いません。これからは生きていく分、魔力があれば十分ですから」

 レインズが空を見上げると、雲のない夜空であったのに、いつの間にか黒雲が広がり雷鳴が轟き始めた。
 ピカッと音もなく閃光が走り、レインズの掲げていた魔剣の上に落ちた。
 そしてすぐに、何か切れるような鈍い音が聞こえた。
 何が起こったのか、俺は眩しさに思わず目をつぶってしまったが、辺りが静寂に包まれたので恐る恐る目を開けた。

 俺の目に飛び込んできたのは、レインズの魔剣がガルデオンの胸を貫いているところだった。

「え……ちょっ……ちょっと」

「大丈夫だ。今魔力を移したところだ」

 レインズがグシャリと剣を引き抜くと、手にしていた魔剣は消えた。
 ガルデオンは地面に膝をついて苦しそうにしているが、血が流れたりなど怪我を負っている様子はなかった。

「……は……はは、全然……全然違う。息をするのが……こんなに楽だなんて……」

「調子に乗って使わないようにしてください。貴方の場合、回復しないのですから」

「分かってる……、こんなに体が軽いのなんて生まれて初めてだ」

 儀式は成功して、ガルデオンにレインズの魔力が無事渡ったようだった。
 それにしても、剣を突き刺して魔力を移すなんて荒っぽい行為だったなんて、初めから言っておいて欲しい。

 一生分の魔力をもらったガルデオンは、さっきまで萎れた花のようだったのに、走り出しそうなくらい生気に満ちた顔になっていた。

 対照的にレインズはひどく沈んだ顔になっていて、どうしたのかと不安になった。
 儀式の負担の大きかったのか、力が半分になったことで何か起こったのか、気になった俺はレインズの側へ駆け寄った。

「大丈夫? 手が……震えているよ」

 近寄るとレインズの手は小刻みに震えていて、痛そうに見えたので上から包み込むように手を重ねた。
 レインズは俺の問いには答えずに何か堪えるように下を向いていた。

 先に立ち上がったのはガルデオンだった。
 火の集まる広場の様子を見て、奮起したように息を吐いた。

「ありがとう、クライスラー公爵。では、リヒトとの約束を果たしに行ってきます。反乱軍と支援者達との話はすでに終わっているはず……、今なら城門前で合流できそうです」

「お気をつけて。必ず約束は守ってください」

 次は火が消えた後で会いましょうと言って、ガルデオンは城に向けて颯爽と走って行ってしまった。

 その背中を見る余裕などなかった。
 ガルデオンが去った後、レインズは苦しそうに息を吐いて膝をついてしまった。

「本当に大丈夫!? どこか怪我でも……」

「リヒト……、前にお前に聞かせた話を覚えているか? 父が俺を殺そうとした話だ」

「うん……、忘れるわけない……」

「父は確かに剣を抜いた。……父が言った言葉が……許せなくて俺は……」

「レインズ、どうしたの? なぜ急にその話を……」

「ガルデオンに剣を突き立てた時に思い出したんだ。父も同じように俺に剣を向けた。それは……、兄を守るためだった。見える眼だ、俺も……奪ったんだ。兄達から奪って……止めに入った父からも……」

 儀式を行ったことが引き金になったのか、どうやらレインズの中で押し込めていた記憶が甦ってきたようだった。
 最初に聞いた話では、レインズを殺そうとした父と兄達が報いを受けるように、魔法の反動で死んでしまったと聞いていた。

「違う……違うんだ。本当は……、俺だけ儀式に呼ばれなかった。息子だと……認めてもらえなかったのが悔しくて兄達と争いになって、止めに入った父に……お前なんか……死んでしまえと言われて……力が暴走して、全員から魔力を根こそぎ……奪ってしまった」

 ガルデオンから見える眼は、恐れられたり嫌われる力だと聞いていた。つまり、レインズが家族から離されるようにされたのは、そのことがあったのではないかと思った。
 想像するに、そんな弟を兄達はひどく扱っただろうし、父からも疎まれてきた。
 当然後継者として認められなくて、儀式に呼ばれることがなかった。
 つまり、儀式で本当に選ばれた後継者を殺したことで力を奪い、父も死んだことで全て血縁者であったレインズが継承した。

 そしてその事実を受け入れることができなかったレインズは、相手から殺されそうになって魔法の事故で死んでしまった、そう思うことにして自分を守ってきたということなのだろう。

「俺が……俺が殺したんだ。都合のいいように記憶を変えて今まで平気な顔で……、やはり俺は……死神」

「レインズ! 変わらない……変わらないよ。その話を聞いても、俺の気持ちは最初と変わらない。レインズを傷つけてきた人が消えた、それが事実だよ。抱え込まないで、自分のせいだと思わないで、それが罪だと言うのなら、俺に分けてくれ……、一緒に……背負っていくから……」

「リヒト……、リヒト……」

 レインズの目からは大粒の涙が溢れていた。
 心を殺したのはレインズ自身、事実を受け入れたくなくて自分の心を凍らせてきたのだろう。
 そのレインズの目から、全ての感情が溢れ出して涙となって落ちてきたように見えた。

 俺は子供のように声をあげて泣くレインズを抱きしめ続けた。
 安心させるように頭や背中を撫でた。
 俺の心の中もレインズの涙で満ちていく、悲しくて悔しくて辛い気持ちは全部流れてしまえと願った。

 夜空に浮かぶ星を見ながら、もう俺の帰る場所はここしかないと心に決めた。
 神に向かって、俺は心の中で叫んだ。

 ここに、レインズの側にいたいと。

「レインズ、俺も……レインズに言わないといけないことがある。嘘みたいな作り話に聞こえるかもしれないが聞いてくれないか?」

 ゆっくり顔を上げたレインズは、俺の真剣な目を見て同じように見つめ返して頷いた。







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