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第三章
④過去
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生温かい風が吹き抜けて、読み途中で置いていた本のページが勝手にめくれてしまった。
それを横目に見ながら、俺は別の本のページをめくった。
何しろたくさんありすぎて、どこから手をつけていいか分からない。
適当に読んで収穫がなければ次を手に取るしかない。
壁のように積み上げられて、そこだけ本の要塞みたいになった場所の真ん中で、俺は深いため息をついた。
キリシアンの馬車に乗せられて王城に連れて来られてからひと月ほど経った。
俺が連れてこられた場所は、キリシアンの住まいである東のパレス。
客人用の一部屋を用意された。
城の使用人達は俺のことをキリシアンの友人で末端の貴族だと思っているようだ。
時々気まぐれに友人を招いてしばらく泊まらせることがあるらしく、なんとも思われていない。
喋れない状態なので、城内を自由に歩くことは控えるように言われて、大量の書物を部屋の中に運ばれた。
ようは自分は忙しいので、知りたいことがあればまずこの中から自分で見つけろ、ということらしかった。
俺がここに来てからキリシアンは数えるほどしか顔を見ていない。
キリシアンはここに来るとマクシミル家がどうなっているのか、簡単に報告してくれる。
ここ一ヶ月、メイズはほとんど外出しておらず、アズールが頻繁に屋敷を訪れている。
そして、カルセインは、普段通り変わりなく仕事に出かけているとのことだった。
報告を聞くたびに、変わりない姿を思い浮かべて安堵しつつ胸が痛かった。
突然出て行った俺のことをどう思っているのか。
メイズの妊娠発覚というタイミングから、カルセインなら相手が俺だということにすぐに気がついてしまうだろう。
愛していると言ってくれた温もりを失ってしまった。
体が千切れそうなくらい辛くて痛い。
嫌われても恨まれても、俺ができることをしたい。
せめてもの償いでもあり、俺が返せる精一杯の愛でもあった。
俺は一日のほとんどを本を読むのに費やして、後は気を失ったように床で寝ている。三食贅沢な食事が運ばれてくるので、このままだと運動不足で豚のように丸くなりそうだ。
本の種類は、古龍や王族についての歴史を扱ったもの、国の財政や予算の使い道を記したもの、地方の政治についてや、城の使用人達の雇用記録、医療、病気についてや、令嬢達の流行りや房事を記したもの、とにかくありとあらゆる種類の本が置かれてある。
答えを見つけろという意味だと思うが、せめてヒントくらい欲しかった。
「エミリオ様、今日はベリーのケーキをお待ちしました。少し休憩されてはいかがですか?」
コンコンとノックの音がして入ってきたのは、城のメイドで俺の世話をしてくれているリィナという女の子だった。
赤毛でそばかすの可愛い子で、まだ十代だと思われる。名前も容姿もなんとなくティファナに似ていて、毎回ドキッとしてしまいなかなか慣れない。
お腹がいっぱいだという動きをしてみたが、リィナは首を振った。
「エミリオ様は、痩せすぎです。腕だって折れそうですよ。殿下より、肉を付けろとのご指示がありましたので、デザートもしっかり召し上がってください」
全部食べないと出ていきませんという顔で、リィナがテーブルの前に立っているので、仕方なく椅子に座って運んできてもらったケーキに口をつけた。
味は確かに王城のシェフが作ったものなので、格別に美味しい。
下を向きながらもぐもぐと口を動かしていたら、やけに視線を感じたので顔を上げると、リィナがすみませんと赤らめた。
「エミリオ様の髪がとても美しくて……つい見入ってしまいました。金髪でも蜂蜜みたいなとっても美味しそうな色で……ああ…すみません!」
ここに留まるようになってから、当然髪を染めることなどできないので、俺の髪は元の色に戻ってしまった。
なぜかキリシアンは俺の髪を見ても驚かなかった。まったくどこまで知っているのか恐ろしい人だ。
リィナはいつも澄ました顔をしているが、慌てて赤くなる姿に、年相応の可愛いらしい一面が見えたみたいで嬉しくなった。
「ジュペル殿下のように金髪の方は多いですけど、みんな白に近く少しくすんでいます。エミリオ様のような鮮やかな金は珍しいんですよ」
平民社会で珍しいと嫌がられた金髪が、貴族社会でも珍しいと言われるなんて、俺はどこへ行ったらいいのか分からなくなってきた。
「エミリオ様の金色はきっと…、かつて黄金の祝福と呼ばれたあの……あっいえ、なんでもないです」
うっとりと話し始めたリィナだったが、何かまずいという顔になって、途中で話をやめてしまった。
まあ髪の色なんてどうでもいいので、俺は大して気にせず、皿に残ったケーキを平らげることに集中した。
俺が喋れないからか、リィナはよく話しかけてくれた。特に自分の話を色々と聞かせてくれた。
「私は平民なんです。両親は裁縫店を営んでいます。王族の方の専属の使用人は、貴族のご令息やご令嬢が務めますが、キリシアン殿下はあまり身分を重視したくないと、実力のある者を集めて、平民の使用人を側に置いていらっしゃるんですよ」
リィナの話を聞くと、キリシアンはこの城でも変わり者だが、一定の支持を受けているように感じた。
上手く立ち回っているのかもしれない。
「……かつては、キリシアン殿下と同じような考えの王族の方もいたと聞きましたが……。色々問題が起きて……平民から選ばれることは少なくなったようです」
何か濁すような言い方が気になったが、俺の問いかける視線に、リィナははぐらかすように笑って、食器を片付けて部屋を出て行ってしまった。
専属の使用人……平民……
リィナがいなくなってから、俺はボケッと椅子に座っていたが、先程の話が気になってきてふらっと立ち上がった。
俺はここに来た最初の方に流し見て、重ねたまま忘れていた本を探し出した。王城の使用人の雇用記録が書かれた本だった。
雇用年月日、どこ出身でどこの担当か、何年勤めたか、在職中に何か特別なことはなかったか、事細かくまとめられていた。
厨房係に至っては、皿を割った枚数まで書かれていて、クスリと笑ってしまった。
最近の記録にはリィナが城下町ロウの出身で、三年前に雇用されたという記録を発見した。
礼拝堂の掃除中、録の部屋でサボることが多く、侍女長より三度叱られても懲りないと書かれていた。
なかなか面白い子だ。その部屋に何があるのか気になってしまった。
十年くらいの記録は最初に見た時に確認していた。貴族出身の使用人はだいたいが、男爵家や子爵家の長子を除いた兄弟姉妹が多い。
男は実力をつけて、中央の政官として雇われる者も多い、若い令嬢は結婚前の仕事として人気のようだ。だいたいが二十歳を前に辞めている。
一人一人見ていたらキリがなさそうだ。
もっと過去の記録をパラパラとめくっていたらあるページで手が止まった。
真っ黒に塗りつぶされたページを発見した。名前から個人的な情報、城勤め時代の記録、何もかもが真っ黒で見えないようになっている。
一年ごとにまとめられていて、この辺りはおよそ、二十七年前にまとめられたページだと思われた。
こういった記録簿から排除されるように消される人物といえば、罪人だろう。しかも盗みのような軽い罪ではない。存在自体ないものとされるような、大罪を犯した者だと思われる。
俺は記録簿の黒塗りページを開いたまま、次に王族や城の歴史をまとめた本を探し出して手に取った。
二十七年前、この城で何が起こったのか、その大罪と犯した者の名前が載っているかもしれないとページをどんどんめくって、これだという箇所を発見した。
そこに書かれていたのは、現王リハルトがまだ王子だった頃、彼は第三王子だった。
前王は第一王子、二人の間には第二王子がいた、その名はスタイン。
スタインは今から二十七年前、抱いてはいけない思いを抱いた侍女により毒殺される。無理心中を図った侍女は自らも同じ毒を飲んで死亡。
間違いないと思った。王族殺しは大罪中の大罪。本人とその家族までも全員皆殺しにされる。
その本の記録には、罪を犯した侍女の名はオクサナ、彼女の死体は城壁に吊るされて骨になっても放置された。夫ティム、子供は成人から乳児まで七人いたが、全員事件後すぐに皆殺しにされ川へ流されたと書かれていた。
これは、いつかキリシアンに聞かされたお伽話が、そのままの出来事になったようなものだった。
やはり彼が言っていた話は本当にあった出来事のようだ。
キリシアンは第一王子が侍女に罪をなすりつけたと言っていた。
だってそうだろう、身分違いの恋を抱いたとして、夫や子供達がいる女性が無理心中を図るなんて、どう考えたって無茶な話だ。
自分だけでなく、家族まで皆殺しにされるのに、狂気のロマンスに走るとは思えない。
しかし当時の第一王子はきっと周りを証言や証拠などを上手いこと揃えて、無理やりそうしてしまったのだろう。
これで、キリシアンの話は分かったが、なぜ俺にその話をしたのかそれが分からない。
罪人の名は、オクサナと書かれていた。
その名を見たら、なぜが母の横顔を思い出した。
オクサナと同じ名前の薬草があり、母はいつもそれを大事に育てていた。
育てるのが難しく高く売れるので確かに貴重な薬草ではあったが、母は決して売ろうとしなかった。
なぜかいつも、日当たりのいい場所において水をあげて話しかけているみたいだった。
その悲しそうな横顔を思い出した。
開けっ放しの窓からまた生温かい風がびゅうっと入ってきて、俺や周りに並べた本達の間を吹き抜けていった。
例の黒塗りの記録簿のページもめくり上がって他のページになってしまった。
あぁと思いながらそれを戻そうとした俺の手はピタリと止まった。
そこに開かれたある使用人のページに目が釘付けになった。
名前は、パメラ。よくある名前だが、名前の下に似顔絵が描かれていた。
儚げな全体的に薄い顔立ち、左目の下にある星のような痣、ここまで特徴が一致した同じ名前の人はいないだろう。
母だ。
ずっと記憶の中には、寂しそうに笑っている母の姿があった。
似顔絵に描かれているのは、俺の記憶よりもずっと若く自信に満ち溢れた顔をしている少女だった。
しかし間違いなく母であると、震える手をその本に向かって伸ばした。
□□□
それを横目に見ながら、俺は別の本のページをめくった。
何しろたくさんありすぎて、どこから手をつけていいか分からない。
適当に読んで収穫がなければ次を手に取るしかない。
壁のように積み上げられて、そこだけ本の要塞みたいになった場所の真ん中で、俺は深いため息をついた。
キリシアンの馬車に乗せられて王城に連れて来られてからひと月ほど経った。
俺が連れてこられた場所は、キリシアンの住まいである東のパレス。
客人用の一部屋を用意された。
城の使用人達は俺のことをキリシアンの友人で末端の貴族だと思っているようだ。
時々気まぐれに友人を招いてしばらく泊まらせることがあるらしく、なんとも思われていない。
喋れない状態なので、城内を自由に歩くことは控えるように言われて、大量の書物を部屋の中に運ばれた。
ようは自分は忙しいので、知りたいことがあればまずこの中から自分で見つけろ、ということらしかった。
俺がここに来てからキリシアンは数えるほどしか顔を見ていない。
キリシアンはここに来るとマクシミル家がどうなっているのか、簡単に報告してくれる。
ここ一ヶ月、メイズはほとんど外出しておらず、アズールが頻繁に屋敷を訪れている。
そして、カルセインは、普段通り変わりなく仕事に出かけているとのことだった。
報告を聞くたびに、変わりない姿を思い浮かべて安堵しつつ胸が痛かった。
突然出て行った俺のことをどう思っているのか。
メイズの妊娠発覚というタイミングから、カルセインなら相手が俺だということにすぐに気がついてしまうだろう。
愛していると言ってくれた温もりを失ってしまった。
体が千切れそうなくらい辛くて痛い。
嫌われても恨まれても、俺ができることをしたい。
せめてもの償いでもあり、俺が返せる精一杯の愛でもあった。
俺は一日のほとんどを本を読むのに費やして、後は気を失ったように床で寝ている。三食贅沢な食事が運ばれてくるので、このままだと運動不足で豚のように丸くなりそうだ。
本の種類は、古龍や王族についての歴史を扱ったもの、国の財政や予算の使い道を記したもの、地方の政治についてや、城の使用人達の雇用記録、医療、病気についてや、令嬢達の流行りや房事を記したもの、とにかくありとあらゆる種類の本が置かれてある。
答えを見つけろという意味だと思うが、せめてヒントくらい欲しかった。
「エミリオ様、今日はベリーのケーキをお待ちしました。少し休憩されてはいかがですか?」
コンコンとノックの音がして入ってきたのは、城のメイドで俺の世話をしてくれているリィナという女の子だった。
赤毛でそばかすの可愛い子で、まだ十代だと思われる。名前も容姿もなんとなくティファナに似ていて、毎回ドキッとしてしまいなかなか慣れない。
お腹がいっぱいだという動きをしてみたが、リィナは首を振った。
「エミリオ様は、痩せすぎです。腕だって折れそうですよ。殿下より、肉を付けろとのご指示がありましたので、デザートもしっかり召し上がってください」
全部食べないと出ていきませんという顔で、リィナがテーブルの前に立っているので、仕方なく椅子に座って運んできてもらったケーキに口をつけた。
味は確かに王城のシェフが作ったものなので、格別に美味しい。
下を向きながらもぐもぐと口を動かしていたら、やけに視線を感じたので顔を上げると、リィナがすみませんと赤らめた。
「エミリオ様の髪がとても美しくて……つい見入ってしまいました。金髪でも蜂蜜みたいなとっても美味しそうな色で……ああ…すみません!」
ここに留まるようになってから、当然髪を染めることなどできないので、俺の髪は元の色に戻ってしまった。
なぜかキリシアンは俺の髪を見ても驚かなかった。まったくどこまで知っているのか恐ろしい人だ。
リィナはいつも澄ました顔をしているが、慌てて赤くなる姿に、年相応の可愛いらしい一面が見えたみたいで嬉しくなった。
「ジュペル殿下のように金髪の方は多いですけど、みんな白に近く少しくすんでいます。エミリオ様のような鮮やかな金は珍しいんですよ」
平民社会で珍しいと嫌がられた金髪が、貴族社会でも珍しいと言われるなんて、俺はどこへ行ったらいいのか分からなくなってきた。
「エミリオ様の金色はきっと…、かつて黄金の祝福と呼ばれたあの……あっいえ、なんでもないです」
うっとりと話し始めたリィナだったが、何かまずいという顔になって、途中で話をやめてしまった。
まあ髪の色なんてどうでもいいので、俺は大して気にせず、皿に残ったケーキを平らげることに集中した。
俺が喋れないからか、リィナはよく話しかけてくれた。特に自分の話を色々と聞かせてくれた。
「私は平民なんです。両親は裁縫店を営んでいます。王族の方の専属の使用人は、貴族のご令息やご令嬢が務めますが、キリシアン殿下はあまり身分を重視したくないと、実力のある者を集めて、平民の使用人を側に置いていらっしゃるんですよ」
リィナの話を聞くと、キリシアンはこの城でも変わり者だが、一定の支持を受けているように感じた。
上手く立ち回っているのかもしれない。
「……かつては、キリシアン殿下と同じような考えの王族の方もいたと聞きましたが……。色々問題が起きて……平民から選ばれることは少なくなったようです」
何か濁すような言い方が気になったが、俺の問いかける視線に、リィナははぐらかすように笑って、食器を片付けて部屋を出て行ってしまった。
専属の使用人……平民……
リィナがいなくなってから、俺はボケッと椅子に座っていたが、先程の話が気になってきてふらっと立ち上がった。
俺はここに来た最初の方に流し見て、重ねたまま忘れていた本を探し出した。王城の使用人の雇用記録が書かれた本だった。
雇用年月日、どこ出身でどこの担当か、何年勤めたか、在職中に何か特別なことはなかったか、事細かくまとめられていた。
厨房係に至っては、皿を割った枚数まで書かれていて、クスリと笑ってしまった。
最近の記録にはリィナが城下町ロウの出身で、三年前に雇用されたという記録を発見した。
礼拝堂の掃除中、録の部屋でサボることが多く、侍女長より三度叱られても懲りないと書かれていた。
なかなか面白い子だ。その部屋に何があるのか気になってしまった。
十年くらいの記録は最初に見た時に確認していた。貴族出身の使用人はだいたいが、男爵家や子爵家の長子を除いた兄弟姉妹が多い。
男は実力をつけて、中央の政官として雇われる者も多い、若い令嬢は結婚前の仕事として人気のようだ。だいたいが二十歳を前に辞めている。
一人一人見ていたらキリがなさそうだ。
もっと過去の記録をパラパラとめくっていたらあるページで手が止まった。
真っ黒に塗りつぶされたページを発見した。名前から個人的な情報、城勤め時代の記録、何もかもが真っ黒で見えないようになっている。
一年ごとにまとめられていて、この辺りはおよそ、二十七年前にまとめられたページだと思われた。
こういった記録簿から排除されるように消される人物といえば、罪人だろう。しかも盗みのような軽い罪ではない。存在自体ないものとされるような、大罪を犯した者だと思われる。
俺は記録簿の黒塗りページを開いたまま、次に王族や城の歴史をまとめた本を探し出して手に取った。
二十七年前、この城で何が起こったのか、その大罪と犯した者の名前が載っているかもしれないとページをどんどんめくって、これだという箇所を発見した。
そこに書かれていたのは、現王リハルトがまだ王子だった頃、彼は第三王子だった。
前王は第一王子、二人の間には第二王子がいた、その名はスタイン。
スタインは今から二十七年前、抱いてはいけない思いを抱いた侍女により毒殺される。無理心中を図った侍女は自らも同じ毒を飲んで死亡。
間違いないと思った。王族殺しは大罪中の大罪。本人とその家族までも全員皆殺しにされる。
その本の記録には、罪を犯した侍女の名はオクサナ、彼女の死体は城壁に吊るされて骨になっても放置された。夫ティム、子供は成人から乳児まで七人いたが、全員事件後すぐに皆殺しにされ川へ流されたと書かれていた。
これは、いつかキリシアンに聞かされたお伽話が、そのままの出来事になったようなものだった。
やはり彼が言っていた話は本当にあった出来事のようだ。
キリシアンは第一王子が侍女に罪をなすりつけたと言っていた。
だってそうだろう、身分違いの恋を抱いたとして、夫や子供達がいる女性が無理心中を図るなんて、どう考えたって無茶な話だ。
自分だけでなく、家族まで皆殺しにされるのに、狂気のロマンスに走るとは思えない。
しかし当時の第一王子はきっと周りを証言や証拠などを上手いこと揃えて、無理やりそうしてしまったのだろう。
これで、キリシアンの話は分かったが、なぜ俺にその話をしたのかそれが分からない。
罪人の名は、オクサナと書かれていた。
その名を見たら、なぜが母の横顔を思い出した。
オクサナと同じ名前の薬草があり、母はいつもそれを大事に育てていた。
育てるのが難しく高く売れるので確かに貴重な薬草ではあったが、母は決して売ろうとしなかった。
なぜかいつも、日当たりのいい場所において水をあげて話しかけているみたいだった。
その悲しそうな横顔を思い出した。
開けっ放しの窓からまた生温かい風がびゅうっと入ってきて、俺や周りに並べた本達の間を吹き抜けていった。
例の黒塗りの記録簿のページもめくり上がって他のページになってしまった。
あぁと思いながらそれを戻そうとした俺の手はピタリと止まった。
そこに開かれたある使用人のページに目が釘付けになった。
名前は、パメラ。よくある名前だが、名前の下に似顔絵が描かれていた。
儚げな全体的に薄い顔立ち、左目の下にある星のような痣、ここまで特徴が一致した同じ名前の人はいないだろう。
母だ。
ずっと記憶の中には、寂しそうに笑っている母の姿があった。
似顔絵に描かれているのは、俺の記憶よりもずっと若く自信に満ち溢れた顔をしている少女だった。
しかし間違いなく母であると、震える手をその本に向かって伸ばした。
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