新戸けいゆ

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夜とコーヒー

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 さみしい夜には、コーヒーを淹れるのがいい。お湯が沸く音、豆を挽く音、パステルのマグカップがわたしを孤独から遠ざける。
 ゆっくりと、注いだお湯がコーヒーの粉に吸い込まれていくのを見る。ぽたりぽたりと滴るのを聞いている。熱いドリッパーを退けると、細く湯気がのびた。
 繁華街が近いから、夜でも窓から光が差し込んでくる。キッチンの近くの小さな窓。そのかすかな光が埋もれてしまうのがもったいなくて、部屋の電気を落とした。
 ここには夜とわたししかいない。その孤独が感傷を通り過ぎて、わたしに寄り添いはじめたころ。物語がやってくる。
 小さな夜の隙間に、コーヒーが一杯。更けていく夜に空想が躍った。
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