機械油と男爵令嬢 ~婚約破棄されて出会った侯爵様は私を必要としてくれるようです~

ハナミツキ

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「今後、新たに呼称を定義するときは私に必ず確認すること」

「了解しました」

「でも助かったわ、ありがと」

「どういたしまして」

 乱雑に転がされた器具類の中から必要なものだけを集めて部屋を出ると、壁際で待機していた魔道人形がこちらへ寄ってきた。
 
「このぐらいなら私たちでも運べるから大丈夫よ」

 なんて言ってみても、魔導人形たちはお構いなしにのしのしと私たちの横を併走してくる。

『魔導人形は命じられたことしかできないからな』

 ジン様が言っていたのはこういうことだったのか。
 確かにこれは融通が利かない。
 それでも手持ち無沙汰にさせておくのはなんだか忍びなくて、適当な機材をいくつか持ってもらった。

「体調の変化などはとくにございませんか?」

「……特にないな」

「点検中でも何かございましたら、すぐに仰ってください」

 魔力測定用の器具と調整用の機材を取り付けながら、ジン様へいくつか問診をする。
 並みの人間なら一瞬で魔力欠乏状態に陥ってもおかしくない義手を付けながらも、平然と受け答えをされるジン様。
 無理をしているわけでないことを裏付けるように、測定器の数値は非常に安定している。

(改めて見ても、本当にすごい魔力……)

 これに加えて魔導人形に分け与える余力も残しているのだから、限界がどこにあるのかを知りたくなるレベルだ。
 
「あの後、動作の不調なども特になかったですか?」

「……大丈夫だ、問題ない」

「分かりました。ではとりあえずは現状維持で行きましょう」

 いくつかの部品へ微調整だけをして、初日の点検は終了とする。

「ロイド、データを記録しておいて」

「了解しました」

 このまま何事もないようであれば、私もすぐにお役御免になってしまうかもしれないが。
 何事もないのであれば、それに越したことはない。

「……待て」

 記録を纏めて撤収の準備を始めていた私たちは、ジン様に呼び止められた。

「やはり何かありましたか?」

「……いや、その機材いちいち運ぶのが面倒ではないかと思ってな」

 確かに、いちいち今の仮部屋から持ってきて準備するのは非常に無駄手間だ。

「一階のどこかを作業部屋で使えると助かるのですが……」

「……それなら、この部屋を使えばいい」

「へ?」

 まさかの申し出に、私は振り返って肩越しにジン様を見る。

「……私は大体この部屋にいるし、丁度よいのではないか?」

「それはそうかもしれませんが……」

 作業部屋に使うとなると、他にもいろいろな機材を持ち込むことになる。
 部屋の広さについては十分すぎるほどだが、それは作業部屋のみに使う場合としてだ。

「執務の邪魔になってしまいますよ」

 何かの作業が必要になれば、騒音も出るし油汚れも出る。
 だから可能な限り端の部屋を候補に選ぼうと思っていたのだが。

「……先ほども話したが、私の仕事などお飾りのようなものだ」

 そこまで全てを説明したうえでもジン様は、

「それに、作業音も油の香りも嫌いではない」

 そういって全く取り合わない。
 私としても別に、ここまで言われて頑なになる必要背もないので、

「一度作業部屋にしてしまうと、後で変えるのは難しいですよ」

 最後に一つだけ、忠告をさせていただく。

「……もちろん、分かっている」

 その返答を聞いて、私たちはその場に機材を置いた。
 作業音も油のニオイも嫌いじゃないなんて、やはり元技師かそれに準ずる何かでしかありえない。
 隠しているのならば聞かないほうがいいのは百も承知ではあるのだが。
 もし聞けるのであれば、ジン様のことがもっと知りたい。

「……私の顔に何か、付いているか?」

「い、いえっ」

 仮に聞けたとしても、もう少し仲良くなってからだろうな、と。
 部屋へと帰る道すがら、私はそんなことを考えていた。
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