22 / 31
第二章 異形
二十ニ話
しおりを挟む
なんとか脱出しようと身を捩るも、圧倒的な怪力の前にあなたの抵抗など児戯に等しいらしく、もはやこれまでかとあなたは諦めかけてしまう。
そんなあなたの耳に、
「おい、デクの棒。こちらを見よ」
と、聞き慣れた声が届いたかと思うと、ぶわりと突風のような風が広場に吹き荒れた。
堪らず目を細めたあなたの視界の端で、その突風により周りの鬼達がまるで木の葉が舞うかのように飛ばされていくのが見えて、気付けば広場にいるのはあなたと大青鬼になっていた。
いや、正確にはあと二人。
「……今日は千客万来だな」
大青鬼が目線を合わせるほどに巨大な白狼が、あなたが来た方向辺りに立っている。その首には見たことのある青肌の少女がぶら下がっていた。
「ワシもお前と同じく探し人がおってな」
言いながら、白狼が視線をあなたへ向ける。
あなたはその白狼の姿に一切見覚えなど無かったが、先程聞こえた低いとも高いとも言えぬ奇妙な声に聞き覚えはあった。
白狼とあなたの視線がぶつかり、白狼がやれやれといった様子でわざとらしく大きなため息を吐く。
姿形は違えど見慣れたその行動から、あなたは白狼の正体を確信した。
「その探し人とやらはコイツなのか?」
大青鬼が腕だけを動かし、あなたの体を前に突き出す。
足が地面からふわりと離れていく感覚に、あなたはじたばたと抵抗するのを止めて大人しく成り行きを見守ることにする。
白狼、改めポチはお返しとばかりに首からぶら下がっているナナを右前足で掴み上げると、あなたと同じぐらいの高さまで持ち上げてみせた。
じたばたと見苦しい抵抗を続けていたあなたとは対照的に、落ち着き払っているナナの表情からは怯えなどは一切感じられず、むしろ自分から進んでここへ来たといった様子だ。
そんなナナはあなたの事をじっと見つめてから、注意していないと聞き逃してしまいそうなほどに小さな声で「ごめんね」と呟くように言った。
「そちらが探しておったのはこの子鬼であろう?丁度良いではないか」
あなたを逃がすための最善手であり、あなたが口出しできるような立場で無いのは分かっているが、昨日あれだけ言っておいてナナをダシにしてしまっているこの状況にあなたの胸は情けなさで一杯になってしまう。
大青鬼とポチは互いに一言ずつ言葉を交わしたのち、しばしの間睨み合っていたが、やがてあなたの体に加わり続けていた圧迫感が無くなったかと思うと、あなたの体をふわりと浮遊感が包んだ。
意外と長い浮遊感に、自分が思いの外高い位置にいたのだな、などとあなたが暢気に考えていると、背中に柔らかい感触が走る。
それがポチの尻尾だとあなたが気付いた瞬間、突然尻尾が動き出したのであなたは咄嗟に揺れる白毛にしがみ付いた。
そのままポチの背中にぽんと乗せられたあなたが何ともなく下を覗き込むと、ナナもあなたと同じように解放されて大青鬼に受け止められている所だった。
それを見て小さく安堵したあなたの体を、ずっと握りこまれていたせいかギシギシと鈍い痛みが襲う。
そんな体の痛みを少しでも解消しようとあなたが大きく伸びをしていると、用は済んだとばかりにポチが身を翻した。
振り落とされそうになったあなたは海老反りになりながらも、なんとか先程のように毛をがっしりと掴むと、そのままポチの体に抱きついた。
大青鬼が追ってくるかと気になってあなたは振り返ってみたが、既にそんなところを気にしなくてもいい高さに来ている事に気付き、あなたは目を丸くしてしまう。
その後もだんだんと高度を上げていき、鳥が飛ぶのを横目で眺めることが出来るほどの位置まで来たところで、ポチがゆっくりと平行移動を始めた。
怒るなり、諌めるなりしてもらえれば、それに反応する形で会話を進める事も出来るのだが、先程からポチは黙ったままで何も言ってはくれない。
あなたの行動が予想外だったのか、はたまた全て見通した上で何も言ってくれないのか。
ポチが何を思っているのか分からず、また自分からも何を言えばよいか分からないあなたは、ポチの背中に抱きつく力をぎゅっと強める。
ふわふわの毛に包まれていると、結構な速度で飛んでいるであろうに寒さを全くと言っていいほど感じなくて済んだ。
そんな温かさに包まれているというのに、あなたは心の隅に感じる引っかかりを拭い切れない。
こんな考えが浮かぶ自分が嫌になるが、ポチも先程の鬼と同じく異形なのだ。
単にあなたが後継人だから優しくしているだけで、駄菓子屋でポチの提案を断っていたらそのままぱくりと食べられていたかもしれない。
そんな嫌な気持ちが、街の前にポチが降り立った後もあなたの心をチクチクと突き続けていた。
そんなあなたの耳に、
「おい、デクの棒。こちらを見よ」
と、聞き慣れた声が届いたかと思うと、ぶわりと突風のような風が広場に吹き荒れた。
堪らず目を細めたあなたの視界の端で、その突風により周りの鬼達がまるで木の葉が舞うかのように飛ばされていくのが見えて、気付けば広場にいるのはあなたと大青鬼になっていた。
いや、正確にはあと二人。
「……今日は千客万来だな」
大青鬼が目線を合わせるほどに巨大な白狼が、あなたが来た方向辺りに立っている。その首には見たことのある青肌の少女がぶら下がっていた。
「ワシもお前と同じく探し人がおってな」
言いながら、白狼が視線をあなたへ向ける。
あなたはその白狼の姿に一切見覚えなど無かったが、先程聞こえた低いとも高いとも言えぬ奇妙な声に聞き覚えはあった。
白狼とあなたの視線がぶつかり、白狼がやれやれといった様子でわざとらしく大きなため息を吐く。
姿形は違えど見慣れたその行動から、あなたは白狼の正体を確信した。
「その探し人とやらはコイツなのか?」
大青鬼が腕だけを動かし、あなたの体を前に突き出す。
足が地面からふわりと離れていく感覚に、あなたはじたばたと抵抗するのを止めて大人しく成り行きを見守ることにする。
白狼、改めポチはお返しとばかりに首からぶら下がっているナナを右前足で掴み上げると、あなたと同じぐらいの高さまで持ち上げてみせた。
じたばたと見苦しい抵抗を続けていたあなたとは対照的に、落ち着き払っているナナの表情からは怯えなどは一切感じられず、むしろ自分から進んでここへ来たといった様子だ。
そんなナナはあなたの事をじっと見つめてから、注意していないと聞き逃してしまいそうなほどに小さな声で「ごめんね」と呟くように言った。
「そちらが探しておったのはこの子鬼であろう?丁度良いではないか」
あなたを逃がすための最善手であり、あなたが口出しできるような立場で無いのは分かっているが、昨日あれだけ言っておいてナナをダシにしてしまっているこの状況にあなたの胸は情けなさで一杯になってしまう。
大青鬼とポチは互いに一言ずつ言葉を交わしたのち、しばしの間睨み合っていたが、やがてあなたの体に加わり続けていた圧迫感が無くなったかと思うと、あなたの体をふわりと浮遊感が包んだ。
意外と長い浮遊感に、自分が思いの外高い位置にいたのだな、などとあなたが暢気に考えていると、背中に柔らかい感触が走る。
それがポチの尻尾だとあなたが気付いた瞬間、突然尻尾が動き出したのであなたは咄嗟に揺れる白毛にしがみ付いた。
そのままポチの背中にぽんと乗せられたあなたが何ともなく下を覗き込むと、ナナもあなたと同じように解放されて大青鬼に受け止められている所だった。
それを見て小さく安堵したあなたの体を、ずっと握りこまれていたせいかギシギシと鈍い痛みが襲う。
そんな体の痛みを少しでも解消しようとあなたが大きく伸びをしていると、用は済んだとばかりにポチが身を翻した。
振り落とされそうになったあなたは海老反りになりながらも、なんとか先程のように毛をがっしりと掴むと、そのままポチの体に抱きついた。
大青鬼が追ってくるかと気になってあなたは振り返ってみたが、既にそんなところを気にしなくてもいい高さに来ている事に気付き、あなたは目を丸くしてしまう。
その後もだんだんと高度を上げていき、鳥が飛ぶのを横目で眺めることが出来るほどの位置まで来たところで、ポチがゆっくりと平行移動を始めた。
怒るなり、諌めるなりしてもらえれば、それに反応する形で会話を進める事も出来るのだが、先程からポチは黙ったままで何も言ってはくれない。
あなたの行動が予想外だったのか、はたまた全て見通した上で何も言ってくれないのか。
ポチが何を思っているのか分からず、また自分からも何を言えばよいか分からないあなたは、ポチの背中に抱きつく力をぎゅっと強める。
ふわふわの毛に包まれていると、結構な速度で飛んでいるであろうに寒さを全くと言っていいほど感じなくて済んだ。
そんな温かさに包まれているというのに、あなたは心の隅に感じる引っかかりを拭い切れない。
こんな考えが浮かぶ自分が嫌になるが、ポチも先程の鬼と同じく異形なのだ。
単にあなたが後継人だから優しくしているだけで、駄菓子屋でポチの提案を断っていたらそのままぱくりと食べられていたかもしれない。
そんな嫌な気持ちが、街の前にポチが降り立った後もあなたの心をチクチクと突き続けていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる