6 / 42
第1章
ダミヤン
しおりを挟む
ドアの向こうに立つ男は見覚えのある薄汚れた巾着袋を指先に引っ掛け、笑いながら顔の横でゆらゆらと揺らしている。そして笑顔は消えた。
「おい、嘘だろ。あのカミラと英雄エドモンドの娘が、今じゃこんな……? ギャハハハハハハハッ何だよ、さぞ美少女に成長してるかと期待して来たのに……あ~あ期待外れも良いとこだな。クククク……」
忘れもしない、あの日9歳のクロエを絶望させ家をめちゃくちゃにした男、ダミヤンだった。
ダミヤンの突然の登場に恐怖と怒りが蘇り、スゥっと血の気が引くのを感じた。
「俺のこと覚えてるみたいだな。あの後すぐに引越しやがって、探したぞ。お前があの時金を出さなかったせいで俺は苦労したんだ。カミラが持参した金じゃ足りなくてわざわざ取りに行ったのによ。あの後、俺のこと調べただろ?あの馬鹿女、あの時俺の名前言いやがって。お陰で家に役人が来て、父上に全部ばれて勘当されたじゃないか。お前のせいだ、絶対に責任取ってもらうからな」
ダミヤンは室内の奥に人の気配を感じ、チッっと舌打ちしてクロエを睨み付け、踵を返し去って行った。
「クロエ? 何だか物騒な話しが聞こえたけど。大丈夫なのか?」
レオが心配そうにパーテーションの向こうから声をかけ、様子を見に来た。が、既にダミヤンの姿は無かった。顔面蒼白のクロエを見て休憩用のソファに座らせると、アリアとカールも心配そうに集まって来た。
「クロエ、ごめんなさい声が大きかったから聞こえてしまったわ。今来た人は誰なの?」
アリアは隣に腰掛け心配そうに顔を覗き込む。
徐々に冷静さを取り戻したクロエは、ぽつりぽつりとあの日の出来事を話始めた。
「どこから話せば良いのかな、あの男は貴族でダミヤンと言うの。母の話だとこの研究所に在籍しているらしいわ。今まで顔を見たことが無かったから、あれは嘘だと思っていたけど……きっと別棟に研究室を持ってたのね」
話を聞く3人は先を促すように相槌を打つ。
それから父が腕を失った後、母が家の金半分を持って出て行ったこと、ある日家に帰ると母とダミヤンが残りの金を探していたことを話した。
「何よそれ、最低じゃないのっ」
「そのダミヤンとか言う貴族、研究費が足りないということは研究成果も出せずに3年以上過ぎた者なんだな。5年で何も出来なければ研究員から強制的に補助職員へ降格だ。初めの3年は無条件で研究費が出されるけど期限が切れて外から金を集め始めたのか。クロエの母親がパトロンになっていたのかもしれないな。
という事は、当時18から19だったダミヤンとクロエの母親が……」
「カール! 余計な事は言わなくて良いわ」
アリアは発言を遮り、今後の事に話しを変える。
「逆恨みでクロエに何かしてくるかも知れないわ。研究所内には私達をよく思わない人が大半だし、相談出来る人が居ないのが痛いわね」
そこへ、フランツが資料を抱えて戻って来た。
「あれ? どうしたんだ皆難しい顔して。クロエ、顔色が悪いな。具合が悪いのかい?」
重い空気をブチ破るフランツの登場でクロエも笑顔になる。
「具合が悪い訳じゃないわ。フランツ、資料ありがとう」
「あなたどこまで資料探しに行ってたのよ? 時間がかかり過ぎだわ」
アリアは行き場の無い苛立ちをフランツにぶつけた。
「ごめんごめん、資料室で面白い話し聞いて来たんだ。ハリス伯爵の次男が研究費を打ち切られてもまだ自費で研究室借りて粘ってるって。補助職員になっても空いた時間に研究をしてる人はいるけど、働きに来てるのに自腹で研究室借りる人なんてこれまで居なかったらしいよ。しかもそこまでしておいて、まだ一度も成果を出した事が無いらしい」
フランツの話に皆目を合わせる。
「ふぅん。で、そのハリス家の次男の名前は聞いてきたの?」
「ダミヤン・ハリスだよアリア。どうして?」
何故名前まで? という顔で問う。
「ダミヤンって……さっきカールの言った通りみたいね。クロエ、フランツにも話して構わない? 情報を集めてもらいましょう。相手の出方を知ったほうが良いわ」
クロエが頷くと、アリアは先ほどクロエに聞いた話と、ダミヤンが言っていた事をフランツに話した。
「はぁ? 何だよそれ? 完全に逆恨みじゃないか! クロエがそんな事に巻き込まれていたなんてな……とりあえず研究室の外ではクロエを一人にしないよう必ず誰かが一緒に居れば大丈夫なんじゃないかな? 問題は僕達の研修期間がもうすぐ終わりってことだ」
皆押し黙ってしまった。
しばらく沈黙したあと、クロエは口を開いた。
「心配してくれて有難う。でも大丈夫よ。まだ何かされると決まった訳じゃないもの。皆はこれから自分の研究に励まなきゃならないのに、私の事で手を煩わせる訳に行かないわ。この話は終わりにしましょう。少し休憩したら作業再開するわよ」
皆にあの時の事言わない方が良かったかな? 少しでも味方が欲しくて全部話してしまったけど。あれ? 私何歳の時って言ったっけ? もしかして9歳ってそのまま言ったんじゃない? でも、もう本当の事話しても大丈夫だよね。
「ねぇクロエ、そういえばさっきの話だと年齢がおかしいわね。気のせいかしら」
「俺もそう思ってたけど、言い間違いだろ?」
「だよね、僕も気になってたけど」
「…………」
「ごめん、私皆より2歳年下なの。来月14歳になるわ」
「えぇぇぇぇぇぇ?」
「はぁぁぁぁぁぁ?」
「なっ……」
「え……」
未成年者の魔法省入りに、ここに居た全員が驚き、学園に入ることになった経緯から説明させられる羽目になった。
「おい、嘘だろ。あのカミラと英雄エドモンドの娘が、今じゃこんな……? ギャハハハハハハハッ何だよ、さぞ美少女に成長してるかと期待して来たのに……あ~あ期待外れも良いとこだな。クククク……」
忘れもしない、あの日9歳のクロエを絶望させ家をめちゃくちゃにした男、ダミヤンだった。
ダミヤンの突然の登場に恐怖と怒りが蘇り、スゥっと血の気が引くのを感じた。
「俺のこと覚えてるみたいだな。あの後すぐに引越しやがって、探したぞ。お前があの時金を出さなかったせいで俺は苦労したんだ。カミラが持参した金じゃ足りなくてわざわざ取りに行ったのによ。あの後、俺のこと調べただろ?あの馬鹿女、あの時俺の名前言いやがって。お陰で家に役人が来て、父上に全部ばれて勘当されたじゃないか。お前のせいだ、絶対に責任取ってもらうからな」
ダミヤンは室内の奥に人の気配を感じ、チッっと舌打ちしてクロエを睨み付け、踵を返し去って行った。
「クロエ? 何だか物騒な話しが聞こえたけど。大丈夫なのか?」
レオが心配そうにパーテーションの向こうから声をかけ、様子を見に来た。が、既にダミヤンの姿は無かった。顔面蒼白のクロエを見て休憩用のソファに座らせると、アリアとカールも心配そうに集まって来た。
「クロエ、ごめんなさい声が大きかったから聞こえてしまったわ。今来た人は誰なの?」
アリアは隣に腰掛け心配そうに顔を覗き込む。
徐々に冷静さを取り戻したクロエは、ぽつりぽつりとあの日の出来事を話始めた。
「どこから話せば良いのかな、あの男は貴族でダミヤンと言うの。母の話だとこの研究所に在籍しているらしいわ。今まで顔を見たことが無かったから、あれは嘘だと思っていたけど……きっと別棟に研究室を持ってたのね」
話を聞く3人は先を促すように相槌を打つ。
それから父が腕を失った後、母が家の金半分を持って出て行ったこと、ある日家に帰ると母とダミヤンが残りの金を探していたことを話した。
「何よそれ、最低じゃないのっ」
「そのダミヤンとか言う貴族、研究費が足りないということは研究成果も出せずに3年以上過ぎた者なんだな。5年で何も出来なければ研究員から強制的に補助職員へ降格だ。初めの3年は無条件で研究費が出されるけど期限が切れて外から金を集め始めたのか。クロエの母親がパトロンになっていたのかもしれないな。
という事は、当時18から19だったダミヤンとクロエの母親が……」
「カール! 余計な事は言わなくて良いわ」
アリアは発言を遮り、今後の事に話しを変える。
「逆恨みでクロエに何かしてくるかも知れないわ。研究所内には私達をよく思わない人が大半だし、相談出来る人が居ないのが痛いわね」
そこへ、フランツが資料を抱えて戻って来た。
「あれ? どうしたんだ皆難しい顔して。クロエ、顔色が悪いな。具合が悪いのかい?」
重い空気をブチ破るフランツの登場でクロエも笑顔になる。
「具合が悪い訳じゃないわ。フランツ、資料ありがとう」
「あなたどこまで資料探しに行ってたのよ? 時間がかかり過ぎだわ」
アリアは行き場の無い苛立ちをフランツにぶつけた。
「ごめんごめん、資料室で面白い話し聞いて来たんだ。ハリス伯爵の次男が研究費を打ち切られてもまだ自費で研究室借りて粘ってるって。補助職員になっても空いた時間に研究をしてる人はいるけど、働きに来てるのに自腹で研究室借りる人なんてこれまで居なかったらしいよ。しかもそこまでしておいて、まだ一度も成果を出した事が無いらしい」
フランツの話に皆目を合わせる。
「ふぅん。で、そのハリス家の次男の名前は聞いてきたの?」
「ダミヤン・ハリスだよアリア。どうして?」
何故名前まで? という顔で問う。
「ダミヤンって……さっきカールの言った通りみたいね。クロエ、フランツにも話して構わない? 情報を集めてもらいましょう。相手の出方を知ったほうが良いわ」
クロエが頷くと、アリアは先ほどクロエに聞いた話と、ダミヤンが言っていた事をフランツに話した。
「はぁ? 何だよそれ? 完全に逆恨みじゃないか! クロエがそんな事に巻き込まれていたなんてな……とりあえず研究室の外ではクロエを一人にしないよう必ず誰かが一緒に居れば大丈夫なんじゃないかな? 問題は僕達の研修期間がもうすぐ終わりってことだ」
皆押し黙ってしまった。
しばらく沈黙したあと、クロエは口を開いた。
「心配してくれて有難う。でも大丈夫よ。まだ何かされると決まった訳じゃないもの。皆はこれから自分の研究に励まなきゃならないのに、私の事で手を煩わせる訳に行かないわ。この話は終わりにしましょう。少し休憩したら作業再開するわよ」
皆にあの時の事言わない方が良かったかな? 少しでも味方が欲しくて全部話してしまったけど。あれ? 私何歳の時って言ったっけ? もしかして9歳ってそのまま言ったんじゃない? でも、もう本当の事話しても大丈夫だよね。
「ねぇクロエ、そういえばさっきの話だと年齢がおかしいわね。気のせいかしら」
「俺もそう思ってたけど、言い間違いだろ?」
「だよね、僕も気になってたけど」
「…………」
「ごめん、私皆より2歳年下なの。来月14歳になるわ」
「えぇぇぇぇぇぇ?」
「はぁぁぁぁぁぁ?」
「なっ……」
「え……」
未成年者の魔法省入りに、ここに居た全員が驚き、学園に入ることになった経緯から説明させられる羽目になった。
11
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる