魔法省魔道具研究員クロエ

大森蜜柑

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第2章

カミラの企み

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 クロエがドアを開けるとそこに立っていたのは軍服を着たエドモンドだった。

「エドモンド、何かわかったか?」
「はい、遅くなりましたが、何とか」

 イザークはクロエ達の後ろに立ち、エドモンドを手招きして二階の私室へ行ってしまった。

「父さんてイザーク様と知り合いだったの?」
「そうみたいね。どんな接点があるのかしら? それにしても、クロエのお父様は素敵ね。軍服が良く似合って、こんな大きな娘がいるとは思えないくらい若いわよね」
「若いって言っても、父さん34歳よ?」
「あら、本当に若いのね。私の父より10も若いじゃない。ふうーん」

 クロエとアリアは途中だった朝食を済ませて、イザークの分を布で覆うと台所の片付けをして工房へ作業の続きをしに向かった。昨日はバタバタと作業を中断させてしまって、全てが中途半端なまま放置されていた。

「これ、完成させたらショーウィンドウの所にディスプレイしようと思うの。この店って基本はオーダーメイドだから値段が分からなくて庶民には入りにくいでしょ? だから人形の前に値札を置いて、こっちのシリーズは誰でも買える値段だって知ってもらおうと思うの。着せ替え用の服や小物も値段を表示して、総額いくらなのか明確にするのよ」
「クロエ、あなた意外と商才あるわね。でもやりすぎると店の格を下げてしまうわよ。ここはオーダーメイドの高級ドールが売りなんだから」
「うん、だからね___」

 クロエとアリアがこんな話をしている頃、二階のイザークの部屋ではエドモンドが元妻の行動を報告していた。

「で、お前の元妻カミラは今どこで生活している?」
「はい、ダミヤンに捨てられた後、あいつの妹が働いている店に身を寄せていたようです。酒を出して男の相手をする類の店でした。カミラの妹のシイラに会って話を聞いて来たのですが、店で知り合った子爵と付き合っているらしく、その子爵が娘に会いたいと言いだして、出来ないと言えば捨てられると焦っているのだとか。まったく、今更どのツラ下げてクロエに会おうというのだ」

 エドモンドは窓の外を睨みつけて奥歯を噛みしめた。

「ほお、それでその子爵の名は?」
「ウェントワース・アードラー子爵です。ドミニク伯爵とは友人関係で、よく二人で伯爵の家に招かれているそうです。アードラー子爵は現在独身で、公の場でカミラの事は妻だと紹介しています。しかし結婚したという記録は残っていなかったので、表向きそうしているだけだと思います」
「アードラー子爵か……」

 イザークは記憶の中から子爵を探すが、小物という印象しかなかった。平民に対しては貴族風を吹かせて威張り散らし、自分より高位の貴族や王族には尻尾を振るような男だ。ダミヤンよりも下位貴族だが、自分で爵位を持っていると言う点では子爵のほうが上かもしれない。年齢的にも45歳と無理の無い相手で、見た目は背は高くも無く、小太り、顔はダミヤンよりかなり劣るが一見善良そうな男に見える。

「子爵はクロエに会って何がしたいのだ?」
「……自分の養女にして第三王子の妻候補に推薦するつもりのようです」
「第三王子……だと? お前の因縁の相手ではないか。確か年は25だったか。高位貴族以外からも年頃の娘を集めるとは、選り好みし過ぎて相手が決まらないのだろうな。あんな男の元に嫁がされたら女は苦労するだけだ」

 イザークは呆れ顔で溜息を吐く。

「エドモンド、何をしてもカミラに娘を諦めさせろ。いいな。お前の娘の一大事だ、今度こそ守ってやれ。それからな、クロエの体は全て再生された。だからもう作り物ではないぞ」

 エドモンドは情け無い顔をしてその場にしゃがみ込んだ。

「ああ、良かった。これで嫁にも行けますね。あの子には絶対にいい相手を見つけてやりたいんです。私には人を見る目が無いかもしれませんが」

 イザークは不敵に笑ってエドモンドに忠告した。

「お前は探さなくていい。クロエにはもう相手がいるのだからな」

 エドモンドは首を傾げ、それは誰なのか聞くがイザークはそのうち分かると言って教えてくれなかった。帰る前にクロエの顔を見に工房に立ち寄った。

「クロエ、お前、魔法省の仕事を休んでここの手伝いをしているんだってな」
「あー、うん、そうなの。やりたかった研究は一通り終わらせたからね。ところで父さん、イザーク様とは知り合いだったの?」
「ん? ああ、昔凄く世話になったんだ。イザーク様のお陰でお前がここに居られるんだぞ。それじゃ、俺はもう行くわ。クロエ、イザーク様と仲良くな」
「もう、父さんまでそんな事言って。じゃ、体に気をつけてね」

 久しぶりの親子の対面はあっさりしたものだった。エドモンドはここから直接カミラの元へ向い、これ以上クロエに手出しする事を止めるよう説得しに行った。
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