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阿蘇山噴火編

阿蘇山大噴火

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日本3大ダンジョンの一つである阿蘇山には他の2つにない特色があった。
それが迷宮内のモンスターを一気にフィールドへ吐き出す噴火と呼ばれる現象だ。
一見受肉祭と同じように見えるが、あくまでフィールドに吐き出されるだけで受肉はしていない。
そのため、取れる素材も無く魔石しか落とさないため組合では不人気な作業の一つである。

「実際、自衛隊がやればいいって話なのよ」

僕と一緒に支部長に呼び出された宮下さんがプリプリ怒りながら呟く。
確かに、このてのフィールドワークは自衛隊の活動の一環と思うのだが、実際はどうなっているのだろう?
支部長に聞くと、ここは第8師団の管理地域で、大津町に駐屯地があるらしいが、人手が足りていないらしい。

「温泉のこと教えてやればいいのに」
「知ってるわよ。ただ、師団長が意地っ張りで有名で、下の人たちは行きたがっているんだけど、それを止めてるらしいの。民間が発見した場所には行くな! ってね。上が無能だと下が苦労する典型よねー」
「他の場所でも見つかればいいんでしょうけど。その師団長は強いんですか?」
「強いわよ。でないと師団長にはなれないでしょ。確実に3級と同等以上のスキルを持っているわ」

どんなスキルかは分からないが、警戒するに越したことはないだろう。
それよりも阿蘇山の鳴動の間隔が短くなってきている。

「宮下さんは噴火を体験したことあるんですか?」
「あるのー。あの時は私たちにパーティが揃って参加したんだけど、B級のファイアゴーレムの相手をしたんだけど、いくらランクのためだったとは言え大変だったんだよ。瀬尾くんがいたら絶対その胸のなかで泣いてたね。自信もって言える!」
「そんなことは言わなくていい!」
「何で言っちゃいけないの!? この気持ちを素直に表現しただけなのに!」
「その表現が迷惑なんだよ! 何でいちいち人を抱いたり抱かれたりするんだ!」
「それが私のア・イだからさ!」
「超ウゼーぞ、オイ!」

喋っている場所が組合のロビーなだけに周囲の目が痛い。
主に、またアイツらかっという温かな見守る視線だが、宮下さんは目鼻パッチリの派手系美女でスタイルも抜群なので嫉妬からくる視線もかなり刺さってくる。
僕としては全く謂れのないことなのだが、第三者から見たらそうなのだろう。
悔しいが、僕の対処法は意地でも引き剥がすしかない。

今日も組合のロビーは人が多い。
温泉が見つかって、1ヶ月経っていないのに、もう一般からの依頼が来たらしい。
受けたのは3級パーティ朧月夜と4級パーティ火焔蝶の臨時合同チームだ。
最初の客だが、金額は何とひと家族1億円。
彼らを守りながら温泉まで連れて行って戻ってくる。何泊かは決まっておらず、金額に釣り合っているかは分からないが彼らがどう感じるかによって、今後は変わって行くだろう。
なお、そこにあの怪我によって神経をやられたが、見事復活した男女コンビが入っていたのを見て、少しホッとした。
ちなみに、組合の女性陣が彼女の肌を見て、本当に悔しそうな表情をしていた。

効果は抜群だ・・・。

「宮下さんは行かなくていいんですか? 温泉」
「怪我したら行くかも。今は必要ないかな。心の傷は瀬尾くんが癒してくれるし」
「はいはい」

抱きつこうとする両手をバシバシと払い落として、僕たちは支部長室に入った。

「おう、待ってたぞ」

少々くたびれた支部長がデスクに座ったまま僕たちを迎え入れる。
そしてソファーに座るよう促して真面目な目で僕らを見た。

「温泉について一般から申し込みが殺到している話は聞いたか?」
「今日、第一陣が行くことは知っています。1億が動くとなれば、みんな張り切るんでしょうが、実質1人1000万でしょ。B級何匹か狩れば手に入ります」
「瀬尾くんだけだよ。そんなにバカスカB級を狩れるの。普通の3級なら数日で1000万はかなり美味しい部類」
「宮下さんもそう思う?」
「私は宝箱至上主義。魔石は生活できる分が確保出来ればいいかな」

勝手に自分たちの意見を言う僕らに、支部長は大きく息をついて頭を抱えた。
どうやら問題が発生したらしい。

「早ければ・・・3日後。遅くとも1週間後に阿蘇山が噴火する」
「御愁傷様」
「頑張って」
「お前ら人の心は持ってないのか?」

そう言われても、勝手に依頼を受けて勝手に出発するのは相手の勝手だ。僕らがとやかく言う義理はない。

「組合の車とか使えば最速1日で行って帰れるでしょ」
「ハマーⅡを1台、NINJAを3台、隼を2台、KATANAを3台、FZRを2台。組合持ちで今回使用する」
「わーみんなの報酬が激減だ」
「そんなことするか! 別料金だ! こんな時期に押してきたのは向こうだからな!」
「ついでに跳ね除ければ良かったでしょうに」
「出来なかったからこうして悩んでいるんだよ・・・お前たち・・・」
「拒否します」
「秘蔵のアイテムくれるなら考える」
「お前ら・・・悪魔だろ」

鬼じゃないだけマシと思って欲しい。

「大体、僕はダンジョン限定免許持ってますけど単車ですよ? 車は年齢の関係で運転できませんからね?」
「そこは・・・曲げて」
「大人が法律曲げるなよ」
「そんぐらいせんと、最悪噴火のタイミングで温泉に浸かっていることになるんだ」
「自業自得で」
「お疲れ様ー」
「お前らー」
「そもそももっと適任いるでしょ」
「3級を1組へばりつかせるだけで精一杯だ。あそこまで1チーム往復で4日は普通は見るんだぞ! 今回車やバイクを融通して1日で強行突破するつもりでいるんだ。モンスターどもに邪魔されたくない!」
「だからって僕に依頼人の生命力吸いながら運転しろって?」
「アクセル踏んどけばいいだけのことだ」
「事故の被害者の方々に土下座しろ」

支部長は僕を攻めても無駄だと考えたのか視線を宮下さんに移す。

「いやですよ?」
「何も言ってないだろ」

先手を打たれて渋い顔をする支部長。

「宮下が車を運転して瀬尾がバイクに乗れば何も問題はない。瀬尾がスキルを使って先頭を走れば、安全に通り抜けることができる」
「じゃあ、朧月夜と火焔蝶と他2名は何をするのよ。私たちだけ苦労する流れじゃない」
「うーむ」

自分の言葉に無理を感じたのか、支部長は腕を組んで唸り始めた。

「別にいいじゃないですか。そのお客様さんに噴火を体験させるのも」
「ん?」
「どういうこと? 瀬尾くん」

僕は髪をかき上げて2人を見る。

「要は、お客様が無事に帰れればいいんでしょう? なら温泉施設をガチガチに守ってその中に居て貰えばいい。最悪、ゾンビ作戦で強敵を近寄らせるかもしれませんが、普段見ることが出来ない探索者の戦いが見れて、その人たちも満足するんじゃないんですか?」
「おおー、いいじゃないそれ! 支部長、そうしましょうよ」
「どうせ、自衛隊も来るんでしょ? だったらB級の難しいやつは任せてしまえばいい。流石にB級に対抗できる人材は向こうもいますよね?」

僕の確認に、支部長は顔を上げず、宮下さんも開いた指を折ろうとして止まった。

「・・・阿蘇山って探索者頼みなんですか?」
「いやいや、自衛隊もアタックを月何回かやってはいるが、B級を倒したという話は全然聞いてなくてな」
「ファイアーバードだからね。挑戦するのもリスクを考えると二の足を踏んじゃうんじゃないかな」
「温泉入ればいいのに。そしたら多少の怪我なんて気にせず突進できるのに」
「気にする前に、全身こんがりって場合もあるよ。私たちのパーティは離れたやつを1羽ずつ倒して行った。もうね、喉が渇いて死にそうだったよ」
「下手に銃火器使って音に反応されても問題だしな」
「みんななんか・・・弱いんですね」
「スキルが強すぎるの! 瀬尾くんのスキルが! なんでかなー! ちょっと異常だと思うよ!」

これでも変質してるんですとは言えず、宮下さんの言葉は無視する。

「でも、実際自衛隊にも頑張ってもらわないと、南側はきついですよね」
「飛んでなければ大丈夫だろう。いざとなれば第4師団から人員を借りてくるだろうから、俺らの心配は不要だ。俺たちは温泉施設を守ることを考えると・・・3級を2チームと4級以下を5~6チームの30人体制がベストか」
「3級2チームならB級も無理なく倒せるね」
「天外天と朧月夜でいいな」
「何でそこで私たちなのよ!」
「お前らが1番確実だからだ! 働け!」

文句を言わせない命令によって、宮下さんは僕から離れることが決定した。
たまには自由にできる時間があってもいいだろう。

その後、僕がどこに配置されるかを確認して、支部長は3日後ぐらいからどのパーティが空いているかを確認するため、僕たちを追い出した。
もうちょっとお茶を飲みたかったのだが、一口分ぐらい残してしまった。
用意してくれた神崎さん、ごめんなさい。

それから食事にでも行くかと、牛肉100%ハンバーグを提供してくれるレストランに向かうと、見たことのある女性3人組がいた。

「いた・・・」
「ようやく・・・」
「いたよーー・・・」

若干一名、もう泣く体制に入っている。

「あちゃー」
「ようやく保護者たちが来たか」


僕と宮下さんはその場で別れた。
彼女は救いを求める視線を送ってきたが、4人で積もる話もあるだろう。
部外者としての立場を忘れることなく、僕は笑顔で手を振った。

それから僕は街中をぶらぶらと歩いていると、ちょうど温泉へ出発の準備をしているチームに出会った。
バイクや車の調子の確認と燃料の補充の仕方、隊列などを確認しているっぽい。
その中の1人が僕に気づき、横の女性に話をしてチームにも頭を下げた後こっちに近づいてきた。
・・・僕が助けた人だった。

「どうも、瀬尾くん・・・さん?」
「年下なので、くんでいいですよ」
「それじゃ、瀬尾くん。僕は田中誠司。一ヶ月ぐらい前に、君に助けられたんだけど、憶えているかな?」
「ええ、そっちの女性をおんぶして岩蜥蜴に追いかけられていましたね」
「その節はありがとうございました」

田中さんがしっかりと頭を下げた。

「頭を上げてください。流石に街中ので恥ずかしいですよ」
「あっと、これはすまない。でも、感謝を絶対に伝えたいと思っていたんだ。僕の彼女なんだけど、左腕を噛まれて神経までズタズタだったらしいから。ポーションなんて伝説に縋ろうと調べていたところで温泉の存在だったからね」
「女性の探索者が体を洗うために温泉に入ったって聞きましたけど?」
「それは、あそこにいる火焔蝶の綾杉さんだよ」

田中さんが指差した先に、ピッタリとしたライダースーツを着こなし、さらにその上から防具をつけている女性がいた。

「彼女たちが、手伝ってくれてね、南阿蘇付近を探索してたまたまゴブリンのフン攻撃に遭ってしまって」

やっぱりフン攻撃があったか。
普通に泥だらけになるぐらいでは、僕らにとっては通常仕様なのであまり気にしないが、流石にフンになると即洗浄扱いだ。

「でも、そのおかげで発見出来ました」
「良かったですね」
「はい。それでは、まだ準備がありますので」
「ええ、頑張ってください」

暇なので離れた場所で彼らを見ていると、今回の依頼主が大きな車で到着した。
・・・ああ、納得した。
1億円払ってまで何を治すのか気になってはいたが、包帯で右半身をぐるぐる巻きにされた人が、数名の手を借りてハマーⅡへと移動して行く。
それを心配そうに後を追いながら老夫婦が付き添っていた。
ぐるぐる巻きの人がどういう立場の人か分からないが、老夫婦の近親者なのだろう。
3人が乗り込んだところで、バイクに探索者たちが乗ってエンジンをかける。

彼らが安全に目的を達成できるよう祈って、僕はその場を離れた。

それからは、適度な運動を心がけながら街を探索して、馬肉に舌鼓を打ちながら、時折空を走る神殿のスキルを見たりしてのんびりとした時間を過ごした。
夜になったら宮下さんがもどってくるかな? と考えていたが、どうやら3人が強制的に彼女の宿泊先を自分たちが監視できる場所に変えたらしい。
泣き顔で語る彼女に、僕は満面の笑みで送り出してあげた。
次の日になると、携帯のSNSに支部長からメッセージが届いた。
登録している探索者全員に送っていて、担当配置などが事細かく書いており、温泉施設防衛を担当する人たちは、いきなりな指令に文句を言いながらも準備をして出発を開始する。
僕はというと、B級への遊撃となっていた。
想定されるモンスターは、火蜥蜴、火蝙蝠、下級竜、中級竜、下級火精霊、中級精霊、ファイアゴーレム。
火属性のモンスターがメインらしい。
街の周囲は消防車が並び、万が一の状況に備える。

街中が緊迫感に包まれる中、僕はというと組合の中にいていつでも出られるようにしていた。

阿蘇山も最初は規則正しい唸り声をあげていたが、今は不規則で数秒後には唸ったり、それから10分以上も上げなかったりでいつのタイミングに噴火するか読めない。

「なんか・・・変だ」

支部長が呟き、急いで全ての探索者に持ち場に着くよう指示を飛ばす。

僕も宮地駅から南へ2キロ地点へと急いだ。
その間、阿蘇山は沈黙したまま不気味な静けさを保っている。

「支部長、いつ噴火するんですか?」
「わからん。いつもであれば、規則正しい唸りが終わったらすぐに噴火していたんだ。今回は何かがおかしい! 危険回避のスキルを持ってるやつ! スキルは反応してるか!?」

支部長がインカムに向かって吼える。

『こちら温泉施設! 危険回避は反応しまくりです!』
『阿蘇駅もスキルが反応しています!』
「注意しろ! 今回は普通じゃないぞ!」

警戒を最大限まで引き上げ、僕はいつでも駆け出せるように腰を沈める。
その時、大きな地響きが始まった。

「な! 何だ!」

その揺れに、僕たちは体制を維持できずに膝をつき、必死に耐えて互いを見る。

「あ! 阿蘇山が!」

誰かが叫んだ。
僕も阿蘇山を見ると、火口付近から黒煙が上がり、空を黒く染め始めている。

「やばい! 来るぞ!」

その煙の下が、真っ赤に染まるのを確認して支部長は叫び、それと同時に、大爆発を起こして阿蘇山は噴火した。

吐き出されるのはモンスターと溶岩。
そして・・・

「ドラゴンだと!?」

A級モンスターの中でもトップクラスのそれが、山の頂上で歓喜の雄叫びを上げていた。
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