東山と西野

遠山和葉

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つくば山殺人事件

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 2020年12月16日
 新婚の館山なつみは、新居を求めて夫、純一より一足先に東京からつくばを訪れる。  
 東京を離れたのはメデューサ病に罹患したくないという思いがあったからだ。メデューサ病になるとゾンビと化し、人を殺さずにはいられなくなる。
 そしてログハウス風の建物を一目で気に入ったなつみは、早速その家を購入し改装を始める。しかし、初めての家のはずなのに、石段、居間から食堂へ通じるドアなど、なぜか隅々まで知りつくしているような思いにとらわれ不安を感じ始める。さらに、古い戸棚の中からは彼女がまさに思い描いた模様の壁紙が現れた。

 なつみは、土浦市に住む純一のいとこの富津理名からの招待に応じ、理名の叔父の西野憲一たちと東京に芝居の観劇に行く。
「東京に行くなんて正気ですか?悪い奴らがたくさんいるんですよ。ニュース見てないんですか?」
 池袋と渋谷で女性が相次いで殺された。
 なつみは西野の無神経さに腹が立った。
「女の顔をおおえ、目がくらむ、彼女は若くして死んだ」という台詞を聞いたとたん、なつみは悲鳴をあげて劇場を飛び出してしまう。気が狂ったのではないかと思い悩むなつみは、西野にこれまでのすべてを打ち明ける。さらに彼女は、芝居の台詞を聞いた瞬間、つくば山で殺された子どもたちを思い描いたことを話す。

 つくば山中になつみの友人、流山真弓は住んでいる。なつみはつくば出身だが、東京に大学があるので赤羽に移り住んだ。そのまま東京にある出版社に就職し、同僚の純一と結婚した。真弓は幼馴染で、鬼ごっこやシルバニアファミリーで遊んだ。メデューサ病が流行り、リストラされたので故郷に戻ることにした。
 2020年11月16日、つくばセンター駅前で真弓とバッタリと会った。真弓の家でお茶を飲み、真弓の子ども、正輝・桃子・静香とババ抜きで遊び、子どもらを家に残し、イオンモールに買い物に出かけた。
 買い物を終え、四時頃自宅に戻ると、真弓が居間の引き戸や台所流し台の扉が開いていることを不審に思い、自宅内を確認したところ、子どもら3人がいないことに気付いた。その後、なつみが浴室内で倒れている2人を発見した。男児と女児はパジャマ姿で目立った外傷はなかったが、駆け付けた救急隊員が到着した時点で心肺停止状態だった。浴槽には水が残っていた。
 茨城県警の東山一機に色々尋ねられた。
「旦那さんはどうしたんです?」
「大阪に出張してるんです」
「あの辺もゾンビが出没しましたよね?」
 噂によると中国で開発された生物兵器が関係してるらしい。
 東山は子どもたちの体を調べた。
「痣とかはありませんね」
「私が虐待してたとでも?」
「怒らないでください」
 なつみは涙をボロボロ溢した。

 あれから一ヶ月が経つが犯人は未だにつかまっていない。築地にある劇場を出ると粉雪が舞っていた。
 西野は脳ミソをフル回転させた。
 犠牲になったのは子どもたち。三人のうちの誰かがいじめに関わっていたとは考えられないか?長男の正輝は十五歳、西野は同じ頃にヒドいいじめを受けた。
 殴られたり蹴られたり、西野は剣道部で刑事になるという夢があったが、いじめてきた奴は剣道部の奴らでトラウマからサボるようになり、顧問からは『ズルい男』と当時流行ったシャ乱Qの『ズルい女』っぽいあだ名をつけられた。いじめのせいで夢が叶わなかった。
 西野はつくば市内にある北条というところに住んでおり、自宅兼事務所に戻って来た。日はとっぷりと暮れ、窓の外は雪が降ってる。
 正輝の通う中学校に電話をした。男の教頭先生が出たが個人情報ということで教えてくれなかった。
 西野はチンピラで、手下として使っている柏雅人を使って正輝の学校の生徒を脅させた。
 柏は下校中、ひとりぼっちになったモヤシみたいな男子生徒を暗がりで脅した。
 ナイフを突きつけられた生徒はワナワナと震えた。
「なっ、なんでもするか命だけは……」
 ネームプレートには野田健太郎とある。
「流山正輝を知ってるか?」
「正輝とはサッカー部で一緒だった」
 偶然にも柏もサッカー部だった。キャプ翼にハマって中学からはじめたが、先輩からしごかれてニ年の夏からサボりだした。
「正輝は誰かに恨まれてなかったか?」
「学級委員長で正義感があったな?男子トイレにトイレットペーパーがワザと投げ捨てられる事件があったんだが、正輝は偶然にも犯人を見つけ出し、そいつは先生からこっぴどく叱られてた」
「ソイツの名前は?」
「関宿将暉」
 正輝、将暉……どちらもマサキだ。

 2020年12月20日
 つくば山中に蛇の怪物が現れた。
 東山は銃で武装して出動した。東山は怪物に関して詳しい。
 巴蛇という中国に伝わる怪物だった。トモエヘビではなく、ハダと読む。
 中国にいる古い友人は『大きなゾウを飲み込み、三年をかけてそれを消化し、消化をしおえた後に出て来る骨は薬になる』と話していた。
 東山はニューナンブで巴蛇を何度か撃ったがビクともしなかった。巴蛇はどこかへ消えてしまった。
 京都に住む君津直子って師匠にスマホで連絡したら、『怪物を倒すには悪人を五人以上倒さないといけない』と教えてくれた。
 
 弁護士の富浦公則たちは自分たちに不利な判決を下す裁判官、富津理名の殺害を計画する。実行するのは東山らだが、自分たちに嫌疑のかからないよう、かつて理名によって服役した柏雅人を罠にかけ、濡れ衣を着せることにする。

 殺人は実行され、柏は逮捕される。富浦が柏の弁護を買って出るがもちろん有罪にするためで、柏の懲役15年が決まる。

 実は、東山の犯行は死体蘇生を研究する君津直子である助手タカシとヒデアキによって目撃されていたものの、二人は脅されて黙っていた。柏は東山の部下の手によって土浦刑務所から脱獄に成功するが、それこそが東山の策略で鹿島の工場街にある廃墟で東山はヤクザから買ったトカレフ拳銃で柏のコメカミをぶち抜き、自殺を偽装した。
 タカシとヒデアキは良心の呵責から東山の上司の浜金谷武男警視に名乗り出るが、浜金谷も百万で東山から買収されていた。浜金谷は小学一年生になる息子が不治の病で困っていた。
『息子さん元気になるといいですね?』
 東山の声が神のように思えた。
 
 君津直子は柏の娘の依頼で蘇生手術を引き受ける。三百万を受け取った直子はホクホク顔だった。
 蘇生してしまったらせっかくの努力が水の泡だ。
 東山は君津直子の殺害を計画する。

 西野はポカマスクをしていた。カイロみたくあったかい。マスク内部のとうがらしパウダーのおかげだ。
 理名の屍を思い出すと涙が溢れた。
 雨に煙るつくば山を眺めていた。
 筑波山には中腹から山頂付近まで、筑波観光鉄道によりケーブルカーおよびロープウェイが運行されている。これらを利用して登ることができるほか、いくつかのルートで登山道が整備されているので、麓から歩いて登頂することもできる。このほか、オリエンテーションのパーマネントコースも整備されている。行楽客が多く訪れ、ゴールデンウィークや秋の紅葉シーズンには交通渋滞が深刻なため、茨城県、つくば市、筑波大学などにより「筑波山周辺渋滞対策協議会」が設けられるほどである。
 
 男体山と女体山の間の男体山寄りにある開けた場所に御幸ヶ原という場所がある。ケーブルカーの筑波山頂駅で、駅の横にはレストラン・展望施設のコマ展望台があり、売店・食堂も並ぶ。登山道の御幸ヶ原コースの終点でもある。
 十月にゾンビが襲撃した関係でゴーストタウン化していた。理名の腹にはボーガンの矢が突き刺さっていた。心の病を持つ恋人は西野と結婚できずにいたので、亡くなった姉の娘である理名を本当の娘みたく可愛がった。
 西野は東山に依頼して関宿を問い質した。
『おまえが正輝たちを殺したんじゃないのか!?』
 東山は塾帰りの関宿を自家用車のワンボックスカーに乗せてトカレフを体に突きつけた。
『うっ、恨んでたが、やっちゃいない!』
『本当のことを言わないと撃つぞ』
『マジだよ!マジだよ!』
 関宿は泣き叫んだ。
 東山は関宿を撃ち殺した。生かしておいてつかまるわけにはいかない!
 死体は筑西にある小貝川に流した。
 関宿はそこまでの悪人ではなくカウントされなかった。
 
 西野は真弓から有力な情報を手に入れた。
 正輝のスマホの下書き機能に、『女子、サッカー、アニメ』という謎の言葉が残されていたらしい。もしかしたらダイイングメッセージかも知れない。
 黒塗りのワンボックスカーが駐車場に入って来た。車から東山が降りてきた。
「理名を殺した奴を八つ裂きにしてやりたい」
 西野は呻くように言った。
「気持ちは一緒だ」
 東山は理名とつきあっていたと嘘をついた。
 直子も殺したいが、共犯者の富浦も生かしておけない。柏に罠を嵌め、理名を死に追いやった彼は悪人だ。殺せばカウントされることは間違いない。
 東山はもともとは甘いマスクをしていたが、整形して布袋寅泰みたいな険しい顔に生まれ変わっていた。
「警察業界じゃそこそこの売れっ子だったんだ」
「俺も顔を変えた方がいいかな?」

 実業家の富浦は外為で億近い金を手に入れた。
「日本がこのまま不景気であってくれたらありがたい」
 富浦は、つくば山麓にある夜の街で街娼をあさっているところを、男たちによって拉致される。犯人グループのうち、英語を話せる東山が監禁した富浦の世話係をつとめることになる。

 富浦公則の母親のみほは夫と離婚し、息子公則と共に富豪一族とは離れて生活していた。みほの元に誘拐犯からの電話がかかってくる。身代金は5000万という莫大なものだった。みほは夫の聰に電話をかけるが聰は株取引に夢中で応じない。やがてみほはテレビニュースで聰の姿を見る。聰は記者たちに向かって、身代金の支払いは断固拒否すると言い放つ。「要求に応じれば他の子どもたちも危険に晒される」というのが理由だった。聰は、元刑事で現在は聰のもとでボディーガードをしている誉田悦司を呼び寄せ、なるべく費用をかけずに息子を取り戻せと指示する。誉田はみほの元に赴く。彼女の自宅はマスコミに囲まれており、世界中の自称誘拐犯からの手紙が送られていた。

 公則の死体が見つかったという連絡を受けみほはつくば警察署に確認に行くが、それは別人だった。それは犯人グループの一人であり、そこから犯人たちの身元が判明する。警察はつくば山にある隠れ家に向かうが、既に公則は東山と共に、別の犯罪グループに売り飛ばされていた。

 公則は監禁された山小屋に放火し、混乱に乗じて脱出し、民家に逃げ込むが、そこで連れ戻されてしまう。西野は、公則の耳を切断し、聰の会社に送りつける。

 みほは、聰が身代金を払うと聞かされ、誉田と共に土浦港の倉庫街に向かう。聰は身代金を貸した。みほは電話で東山と交渉するが、東山は次は足を切ると警告する。

 みほは記者会見を開き「身代金は全額払う」と発言する。驚いた聰は誉田を問いただすが、誉田はみほの味方をする。聰のもとに元本割れが起きたという知らせが届き聰はショックを受ける。

 つくばに戻った誉田は、聰からの「金を全てやる」という伝言を受け取る。怪物が出没した為に自動車の往来が途絶えた道路を、みほと誉田は身代金の引き渡しのために軽自動車を走らせる。犯人の指示通りに道路の途中で現金の入ったバッグを捨てる。ようやく開放された公則は一人で隠れ家から歩み去る。

 犯人グループは身代金を分配して逃走しようとするが、警察のヘリコプターが尾行していたことに気づき、西野は公則の殺害を指示する。追跡に気づいた公則は街に逃げ込むが、そこに住む人々は報復を怖れて誰も公則を助けようとはしなかった。運悪く風呂場に隠れていた東山によって公則は射殺された。
 理名・柏・関宿・公則、残り一人で東山は魔物を倒すことが出来る。

 2021年3月7日
 西野と東山は中学校の前の路肩に車を停めていた。
 西野はワンボックスカーの助手席でラークを吸っていた。
「俺の車でタバコを吸うな」
 東山が舌打ちをした。
 グレーのスカートを履いたゆるふわカールな女子に目が入る。女子サッカー部でアニメオタクの鴨川明菜だ。彼女は研究学園駅近くにあるイーアスってショッピングモール内にあるロボット研究所によく通っており、エヴァンゲリオンの模型の前で自撮りしてるくらいのオタクで、つくばエクスプレスでよく秋葉原に出かけていたようだ。
 彼女なら正輝のダイイングメッセージに該当する。車から降りた西野が、「この辺で殺人事件が起きたから家まで送ってやる」と巧みに車内に連れ込んだ。彼女はつくば山麓に住んでるが、真逆の方角に走ってるので明菜はわめき出した。
「あなたたち何者!?」
 東山はエクスプレスの高架下にワンボックスカーを停めた。
「流山正輝を殺ったのはオマエか?」
 東山は運転席から降りて、明菜の隣に座りトカレフ拳銃をふくらみに突きつけた。
「アナタたち刑事?どことなく仲村トオルに似てるわね?」
 明菜は東山に言った。
「正輝の親戚だ」
 東山はパチこいた。
「こっ、殺せるなら誰でもよかったのよ」
 東山はアガサ・クリスティの書いた『そして誰もいなくなった』に出てくる真犯人を思い出した。奴もサイコパスだった。
 心置きなく殺せる。
 東山の人差し指がくの字に曲がり、明菜の白いベストが真っ赤に染まった。
 
 2021年3月15日
 東山は君津が広島県の尾道市にいることを突き止めた。
 黄昏のつくばセンター前にやって来た。東京に出て、羽田空港に向かわないといけない。
 巨大な黒い蛇がとぐろを巻いてる。巴蛇だ。
 東山の右の掌に火の玉が浮かび上がった。
 東山はパイロキネシスを操れるようになった。雪合戦の要領で火の玉を巴蛇を焼き殺した。
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