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第2章 それはうそぶく蒸気のように
2-17 「やっぱりあの人に頼るしかないか………」
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検査には1日時間を掛ける必要があるので、時間の節約にもなる。その間スケアリーが探しているらしい人物候補を生かしておくのがどうも面倒だった自分には丁度良い。
それに自分に礼を言ってくるような人間、流石に殺す気もない。どうせノアも外れなのだから、さっさと除外してあげよう。
「んー……」
なんとノアを言いくるめようか。
それを考えるだけで楽しい気持ちになれた。
***
「あーっ! 無理だ無理!!」
アンリ・アランコは夜のエルキルス教会2階、自室として使っている子供部屋でそう根を上げていた。
ジャンヌの家の近所で聞き込んでみた──分かっていたが収穫はなかった。
似たような事件が無いか図書館でエルキルス新聞と睨めっこした──これと言ってなかった。
顔見知りの記者や警察官にそれとなくココ殺害事件を聞いてみた──ココがもう火葬された為これ以上進展は望めないらしい。
郊外じゃなかったらもう少しやりようはあったかもしれないが、ココの腹があの家の庭で裂かれた事実は揺るぎない。
「うー……」
ココの事も問題ではある、が。
今日一日仕事をサボった為、やらないといけない事も多い。幼馴染はきっとイヴェットにでも自分の愚痴を言ってるに違いない。
「やっぱり庶民じゃ無理だったかー……」
ひんやりとした机に頬を乗せ、はあと脱力した。警察より、ならやれる気はしたのに。
「もうこの事件は追えない事が分かりました」という報告なら出来るが、それであの烈女が納得するだろうか。
「……絶対しないな」
お小遣いだって貰えないに決まってる。
「それは嫌だー……っ」
頬の内側を不貞腐れ気味にやんわり噛みながら、往生際悪く自分のコネクションを改めて振り返る。
「やっぱりあの人に頼るしかないか………」
高くつきそうなので避けていたが、自分には頼もしい存在が居るのだ。
その女性は、ホームレス達の中に居る。
ここから10分程歩いた川沿いに、彼等はテントを張っている。この国のホームレスは家族や第三者からの逃亡が原因な事が多く、霧の出やすい場所に居る事が多いのだ。
ホームレス達にとって教会はジョーカー、最後の切り札だ。
お風呂を貸して下さい、毛布余っていませんか、話を聞いて。
様々な理由で彼等は教会──牧師家族の家である牧師館より、彼等は自分1人だけの教会の扉を叩く──を訪れる。
教会の理念上彼等を拒みはしないし、なんなら偶に集会室で一緒に飲んだりする。だから、彼等と自分は友達なのだ。特にエンリケと言う明るい男性とは。
そして。
彼等の1人に、ティナと言う義足の女性が居る。
春から川沿いにテントを張り出した長身の女性を、自分は裏社会の人間だと睨んでいる。
春この女性に、新しい信者が詐欺師かどうか暴いて貰った事があるのだ。「周囲の人間がお世話になっている自分に恩を売る為手伝った」という、ある意味とても怖い理由から手を貸してくれて、どんな黒魔術を使ったのか半日で正体を暴いてくれたものだった。
裏社会の人間は、時折水商売の世界や浮浪者に溶け込む。彼女もそうなのだろう。そんな彼女に個人的な貸しまで出来たら、後々どんな事を頼まれるか分からないが。
「刑務所には入りたくないけど……でも仕方ないな。明日河原に行ってみるかっ!」
よしっ、と彼女に頼む事を決めた。ジャンヌからのお小遣いは、リスクよりもずっと魅力的だった。
垂れ流していた自家製ラジオからその時、トランペットによるファンファーレが聞こえてきて、アンリはにぃっと唇を持ち上げた。
***
賑やかなクラスメイトの突然の訃報は、教室の空気を一瞬で凍り付かせた。
「っ……」
ドミニク・クロスも、教師の言葉に息をするのを忘れた物だった。
しかも、第一発見者はノアだとも言う。奇妙な巡り合わせもまた、クラスメイト達の心を掻き乱した。
硬直。動揺。ざわめき。怒り。涙。
ゴードンの時とは比ではない反応。自分も容易に引っ張られ、シャツの袖がびしょ濡れだ。
どうしてフレッドが。
一体誰が。
落ち着いた親友も居ないからか、心に激流が渦巻いたままの1日だった。何時もは笑える事も、今日は笑えない。気が付けばルイリーフの自宅に居た自分に、両親も今日は床屋を手伝うよう言わなかった。
何時もの半分程の量の夕食を食べ、ようやく調子が戻って来た頃。
「……そうだ」
余裕が出てくると、思い出すのは親友の事だった。
話を聞いた自分ですらこうなのだから、直接死体を見たノアはどれ程ショックを受けている事か。
今ノアは一人暮らし。誰かと気持ちを共有するのは難しい。
今頃どうしているのだろう。心配だった。心配性、と妹達に笑われる事が多い自分だが、こればかりは仕方無い。
電話のある少々寒い廊下に出て、先日フードコートで聞いておいた実家の番号に掛けた。待つ事10数秒、相手の不在を疑った時電話が繋がった。
『はい、クリストフです』
思ってた以上に生気のある声。ホッと胸を撫で下ろす。
「ノア? 良かった、生きてる……先生から聞いたよ、色々と」
『ん、ドミニクか? 勝手に殺すなって。……見付けただけ、なんだし』
「見付けただけ、って。結構な事だと思うよ? 大丈夫? 明日学校来れる? 先輩の時みたく休んで良いらしいけど」
強がっているのでは、と思うと眉間に皺が寄る。
『まあ……行くつもりだけど。帰りどっか寄って気分転換はしてぇな』
「そうだね。あ、じゃあさ。この前言ってたでしょ、うちで髪切る?」
『あっ、そうだ忘れてたそうっすかな! あんがと、ドミニク。つかドミニクは? 休まなくて良いのか?』
やる事が定まったからか、受話器の向こうの声が明るくなる。
「ん~良いよ、最近学校楽しいし。でもうるっと来てたら見ないふりしてね、クリストフさんっ!」
それに自分も嬉しくなった。返す言葉も先程よりふざけている。
『ん、じゃー貰ったクーポン持ってくわ。……後さ、ドミニクに頼みがあんだけど』
それに自分に礼を言ってくるような人間、流石に殺す気もない。どうせノアも外れなのだから、さっさと除外してあげよう。
「んー……」
なんとノアを言いくるめようか。
それを考えるだけで楽しい気持ちになれた。
***
「あーっ! 無理だ無理!!」
アンリ・アランコは夜のエルキルス教会2階、自室として使っている子供部屋でそう根を上げていた。
ジャンヌの家の近所で聞き込んでみた──分かっていたが収穫はなかった。
似たような事件が無いか図書館でエルキルス新聞と睨めっこした──これと言ってなかった。
顔見知りの記者や警察官にそれとなくココ殺害事件を聞いてみた──ココがもう火葬された為これ以上進展は望めないらしい。
郊外じゃなかったらもう少しやりようはあったかもしれないが、ココの腹があの家の庭で裂かれた事実は揺るぎない。
「うー……」
ココの事も問題ではある、が。
今日一日仕事をサボった為、やらないといけない事も多い。幼馴染はきっとイヴェットにでも自分の愚痴を言ってるに違いない。
「やっぱり庶民じゃ無理だったかー……」
ひんやりとした机に頬を乗せ、はあと脱力した。警察より、ならやれる気はしたのに。
「もうこの事件は追えない事が分かりました」という報告なら出来るが、それであの烈女が納得するだろうか。
「……絶対しないな」
お小遣いだって貰えないに決まってる。
「それは嫌だー……っ」
頬の内側を不貞腐れ気味にやんわり噛みながら、往生際悪く自分のコネクションを改めて振り返る。
「やっぱりあの人に頼るしかないか………」
高くつきそうなので避けていたが、自分には頼もしい存在が居るのだ。
その女性は、ホームレス達の中に居る。
ここから10分程歩いた川沿いに、彼等はテントを張っている。この国のホームレスは家族や第三者からの逃亡が原因な事が多く、霧の出やすい場所に居る事が多いのだ。
ホームレス達にとって教会はジョーカー、最後の切り札だ。
お風呂を貸して下さい、毛布余っていませんか、話を聞いて。
様々な理由で彼等は教会──牧師家族の家である牧師館より、彼等は自分1人だけの教会の扉を叩く──を訪れる。
教会の理念上彼等を拒みはしないし、なんなら偶に集会室で一緒に飲んだりする。だから、彼等と自分は友達なのだ。特にエンリケと言う明るい男性とは。
そして。
彼等の1人に、ティナと言う義足の女性が居る。
春から川沿いにテントを張り出した長身の女性を、自分は裏社会の人間だと睨んでいる。
春この女性に、新しい信者が詐欺師かどうか暴いて貰った事があるのだ。「周囲の人間がお世話になっている自分に恩を売る為手伝った」という、ある意味とても怖い理由から手を貸してくれて、どんな黒魔術を使ったのか半日で正体を暴いてくれたものだった。
裏社会の人間は、時折水商売の世界や浮浪者に溶け込む。彼女もそうなのだろう。そんな彼女に個人的な貸しまで出来たら、後々どんな事を頼まれるか分からないが。
「刑務所には入りたくないけど……でも仕方ないな。明日河原に行ってみるかっ!」
よしっ、と彼女に頼む事を決めた。ジャンヌからのお小遣いは、リスクよりもずっと魅力的だった。
垂れ流していた自家製ラジオからその時、トランペットによるファンファーレが聞こえてきて、アンリはにぃっと唇を持ち上げた。
***
賑やかなクラスメイトの突然の訃報は、教室の空気を一瞬で凍り付かせた。
「っ……」
ドミニク・クロスも、教師の言葉に息をするのを忘れた物だった。
しかも、第一発見者はノアだとも言う。奇妙な巡り合わせもまた、クラスメイト達の心を掻き乱した。
硬直。動揺。ざわめき。怒り。涙。
ゴードンの時とは比ではない反応。自分も容易に引っ張られ、シャツの袖がびしょ濡れだ。
どうしてフレッドが。
一体誰が。
落ち着いた親友も居ないからか、心に激流が渦巻いたままの1日だった。何時もは笑える事も、今日は笑えない。気が付けばルイリーフの自宅に居た自分に、両親も今日は床屋を手伝うよう言わなかった。
何時もの半分程の量の夕食を食べ、ようやく調子が戻って来た頃。
「……そうだ」
余裕が出てくると、思い出すのは親友の事だった。
話を聞いた自分ですらこうなのだから、直接死体を見たノアはどれ程ショックを受けている事か。
今ノアは一人暮らし。誰かと気持ちを共有するのは難しい。
今頃どうしているのだろう。心配だった。心配性、と妹達に笑われる事が多い自分だが、こればかりは仕方無い。
電話のある少々寒い廊下に出て、先日フードコートで聞いておいた実家の番号に掛けた。待つ事10数秒、相手の不在を疑った時電話が繋がった。
『はい、クリストフです』
思ってた以上に生気のある声。ホッと胸を撫で下ろす。
「ノア? 良かった、生きてる……先生から聞いたよ、色々と」
『ん、ドミニクか? 勝手に殺すなって。……見付けただけ、なんだし』
「見付けただけ、って。結構な事だと思うよ? 大丈夫? 明日学校来れる? 先輩の時みたく休んで良いらしいけど」
強がっているのでは、と思うと眉間に皺が寄る。
『まあ……行くつもりだけど。帰りどっか寄って気分転換はしてぇな』
「そうだね。あ、じゃあさ。この前言ってたでしょ、うちで髪切る?」
『あっ、そうだ忘れてたそうっすかな! あんがと、ドミニク。つかドミニクは? 休まなくて良いのか?』
やる事が定まったからか、受話器の向こうの声が明るくなる。
「ん~良いよ、最近学校楽しいし。でもうるっと来てたら見ないふりしてね、クリストフさんっ!」
それに自分も嬉しくなった。返す言葉も先程よりふざけている。
『ん、じゃー貰ったクーポン持ってくわ。……後さ、ドミニクに頼みがあんだけど』
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