蒸気の中のエルキルス

上津英

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第五章 工業区

1-28 「相談? んなの誰がお前にすっかよ!」

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「それって凄ぇことだろ! この事件、被害者に共通点ないって話だったけど、本当はあった可能性があるってことか! で、どこで知ったんだ?」

 表情を明るくさせた自分とは対照的に、ユスティンは信じられないとばかりに困惑していた。

「教会、ですよ。教会と言っても礼拝ではなく、教会の外にいたのですが」
「……あ、リチェがお前が噂になってるとか言ってたアレか!」
「のようですね。最近人が減ったので私に飽きてくれたのかと思ったのですが、これって」

 呟きユスティンは顔をしかめた。物理的に来れなくなってしまったと考えたのだろう。

「それ警察に電話した方が良いだろ。店長、電話借りていいか?」
「え、ええ、もちろん」
「では……電話、お借り致します」

 ユスティンは頷き、店の隅でインテリアに溶け込んだ黒電話に向かった。その足取りは先程よりも重い。通話を始めた後ろ姿を見て、カウンターにいるヴァージニアに声を掛ける。

「こんなことってあるんだな」
「ね……」

 ラジオから心地良いクラシックが流れている中、自分と同じく反応に困っているヴァージニアが頷いた。ユスティンが気になってしまうが、もう店を出なければいけない。唇を噛み、ヴァージニアに断ってから家に戻ろうとした時、通話を終わらせたユスティンに話し掛けられた。

「電話、どうも有り難うございました。注文もせず申し訳ありませんが、教会に戻らせて頂きます。朝の礼拝の後イヴェットさんに話を聞きに来る時に私の話も聞いてくれるそうなので、早めに戻って準備をしなければ」

 受話器を置くなり扉に向かったユスティンは、外に行く前にふと足を止め振り返った。ガラス扉越しに馬車が走り抜けていく中、青い瞳がまっすぐに自分を映し反射的に身構える。

「その態度は腹立たしいですが、そうそう。イヴェットさんを助けてもらったお礼に一度なら貴方の相談に乗ってあげますよ」
「相談? んなの誰がお前にすっかよ!」
「私だって出来るなら嫌ですが、お礼ですから。貴方にも経験があるかと思いますが、人生には第三者に相談したくなる瞬間が度々訪れる物です。そういう時、牧師として貴方の話を聞く事を約束します。牧師はそういう事も仕事なので、まあ候補にでも入れておいてください。一度だけですけどね!」

 たしかに対人関係など、近しい人に相談しにくい事は度々ある。鼻を鳴らすだけで返すと、ユスティンはそのままあわただしく馬車が行き交う外に出ていってしまった。すぐには動けず、ヴァージニアの方を振り返る。

「……僕も行くわ」
「うん、分かった。気をつけてね」

 片手を軽く上げて返事をし、ノアは店の奥にあるカーテンをくぐって連絡通路に入り、一息ついた。エプロンを外して二階に上がっている今も、偉いことを目撃してしまったと心臓が音を立てて止まない。
 制服に着替えて気持ちを切り替えたつもりだったが、学校は遅刻してしまった。

***

「はぁぁっ!? 被害女性達の共通点が見つかった!?」

 廊下から刑事課に帰って来たばかりの小太りな課長の言葉に、リチェ・ヴィーティは素っ頓狂な声を上げていた。隅にあるデスクでは書類をクルトが作成している。

「まだ分からないけどね。ただ身に覚えがあるって人が現れただけだし……エルキルス教会のハンサムな牧師に、署の女性を始め色々な女性がキャーキャー言ってるの、リチェ知ってる?」
「勿論ですよ、昨日救出された被害者はその牧師の家族ですし。でも何でその話が出てくるんですか?」
「いやねー、一昨日渡したポスターあるでしょ? 被害が濃厚な女性達一覧。どうもその人達みんなその牧師のファンみたいでさ、牧師目的でよく集まってたみたいなんだよね」
「俺教会の事務員に共通点聞いたけど知らないって言われましたよ?」
「彼女達礼拝に出ずに外から牧師を見てただけらしいから、事務員に顔は覚えられてないんじゃないかな」

 あー! と大きな声を上げる。
 業務外だし、こういう事なら知らないのも当然かもしれない。事務員が知らないなら牧師が知っている筈がない。そう思い込みアンリに聞いただけで満足してしまった。

「ユスティン、あそこの顔のいい牧師ですけど、そこが絡んでるなら事件は無差別じゃなくて怨恨の可能性が高くなりますかね」
「うん、ハンサムなのも辛いね。じゃあこれから詳しい話を聞きに行ってくるよ。……ところでリチェ、大変な事になったよ」

 今までになく改まった顔付きで言ってくるので、リチェはん? と眼鏡越しに視線を向けた。

「リチェこの前さ。聞き込みじゃなくて監視の強化って捜査方針変えるよう頼んできた時、責任は自分のクビで、って言ったでしょ? 私もそれで話を進めたからさ。リチェのクビ、本当に飛ぶんじゃない? 上はそうやって責任を押し付けるの好きだし」

 返す言葉が思い浮かばず目を見張った。たしかにそう言ったのを覚えている。本当にそうなるとは思っていなかったし自信もあったが、どうやら状況が百八十度変わってしまったらしい。
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