ドグラマ3

小松菜

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本編

ゲニウス講座

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一同、ゲニウスの持つカプセルの中を覗きこんだ。
カプセルと言っても結構大きい。
丈夫に作ってあるせいで、容量よりも大きくなっている。
直径で二十センチ弱、高さ四十センチ弱。
分厚い強化ガラス製カプセルの中にスライム状の物体が入っている。

「これ……ひょっとして」

思い当たったビビアンが尋ねた。
牛嶋もピンと来た様だった。

「そう。邪神の肉片」

正解を発表したゲニウスは嬉しそうにニコニコとしていた。
それを聞いて美紅は後ずさる。

「総統……それは、まさか」

ゲニウスが美紅に見せる様にカプセルを掲げる。

「そう美紅、君に取り付いた奴だ」

やっぱり。
美紅は更に後ずさった。

「ははは、大丈夫だよ。邪神と言ってもただの欠片さ。直接触らなければ害は無いし、この状態で何か出来る程の力も持ってないよ。それに……」

ゲニウスはカプセルを離した。
頑丈なカプセルは結構重い。
そのまま落下してヘッジ・ブルの金属製の床に激突した。

ガンッ! ガラガラガラ!

突然の事に驚驚いて、全員咄嗟に飛び退く。

「ね? このカプセルは頑丈なんだ。何とも無いよ」

ゲニウスは相変わらずニコニコしている。
悪気が無いのは解るが、先に言ってくれないと心臓に悪い。
特に真影は高齢である。
そのまま心臓が止まってしまったら、一体何しにここへ来たのか解らなくなってしまう。

「ゲ、ゲニちゃんッ!」

ビビアンが珍しく大きな声を出した。
ゲニウスがコロコロと笑う。

「ごめんよ。脅かすつもりじゃ無かったんだ。大丈夫だと言うのを見てもらいたかったんだよ」

ゲニウスはカプセルを拾い上げると、笑いながら頭を掻いた。
ビビアンは、もうっと言って呆れた。

真影が気を取り直してゲニウスに尋ねる。

「聞き及んではいましたが、まさか本当に邪神を倒したとは……それで、その邪神が一体どんな関係が?」

ゲニウスはカプセルを自分のデスクに置くと、モニターを指し示した。
真影が、おおっと小さな声を上げる。

「まず、これがこのお姉ちゃんだね。実態を持っていて動いて活動するけど、生きてる生物とは違う。どう違うかと言うと……」 

モニターに違う画像が表示される。

「細胞が無いんだ。生命活動をしていない。もっと正確に言うと、そもそも生物じゃ無いって事さ」

更に次の画像へと替わる。
さっきの画像とほぼ同じに見える。

「で、次にこれ。さっきのと似てるよね? でもこれはお姉ちゃんのじゃ無いんだ」

ビビアンが恐る恐る口にする。

「……まさか邪神の」

ゲニウスが嬉しそうにビビアンを指差した。

「正解! そうなんだよ!」

真影が難しい顔をしている。
流石に話に着いて行くのが難しかったかも知れない。

「つまり……どう言う事ですかな?」

ゲニウスはなるべく易しく説明を試みる。

「エクトプラズムと言うのは、オカルトの世界では霊的なエネルギーが物質としての形を持った状態だとされているんだ。霊の状態では何も出来ないから形を得ようとしてこうなるって訳だね。でもこれは初期段階だと言う事が解る。何故ならこのお姉ちゃんが完成形だとするとと、このスライムみたいなのはそれを作る前の段階だと想像できるからね」

人形になる前の粘土の状態と言う事だろうか。
美紅は何とか理解しようと努力する。

「一方、邪神も同じ構造を持っているとすれば、これも元は何かの霊的なエネルギーが集まって物質の形を得たと考えられる。それがエクトプラズムからスライム状になって肉体を得ると言うプロセスを進む訳だね」

あくまでこれは僕の仮説だけどね、とゲニウスは言った。
だが、その顔は自信に満ちている。
内心では確信しているに違いなかった。

「ふうむ。解ったような解らんような……」

真影は顎に手を当てた。

「じゃあ、この女性もやがて邪神になるの?」

ビビアンが質問した。
ゲニウスは人差し指をピンと立てた。

「良い質問だね。これは予想だけど多分ならないと思う。……邪神になるにはもっと強力かつ大量のエネルギーが必要な筈だ。もしかしたらもっと他の要素も必要なのかも知れない。でもこのお姉ちゃんはそこまでのエネルギーを持っていないんだ。邪神に比べるともっとシンプルな存在だよ」

ゲニウスは両手を広げると、パアッと顔を輝かせた。

「つまり、このお姉ちゃんを調べれば邪神の謎も解けるし、対策だって見つかるかも知れないんだ!」

ゲニウスの表情とは裏腹にビビアンは不安になった。

「……調べるって、どうするの?」

ゲニウスは両手を後ろに組んだ。
そして考えを巡らせる。

「そうだなあ……まず解剖は必要だよなあ。それからあらゆる刺激を与える反応テスト、様々な薬品や過酷な環境への耐性テスト。効率よくダメージを与える為に調べなきゃならない事は沢山有るよ。相手の精神や神経系をジャックする仕組みも調べなきゃ」

ゲニウスは思い付く順に口にした。

ビビアンは絶句する。
そんな残酷な事をするつもりなのか。
見た目に惑わされがちだが、やはりこの少年は危険な存在なのだと改めて認識する。

「そんな! 駄目よ、そんなの!」

ビビアンが思わず声を荒らげた。
ゲニウスがポカンと口を開けてビビアンを見る。

「?? ……どうして?」

ゲニウスには何が駄目なのか解らなかった。

「だって……そんなの残酷だわ!」

ビビアンが訴える。
ゲニウスの表情が曇る。

「……オヤジ。それは俺からもお願いしますよ。少し待って下さい」

声のする方を一同が振り返る。

「訳も解らず取り殺され掛けたんじゃあ、寝覚めが悪いんですよ。少し自分に時間を貰えませんかね」

唯桜がそう言いつつ、フラフラの体で壁に寄り掛かって立っていた。
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