ドグラマ3

小松菜

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本編

コクがあるのに……キレがある!

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五人は町に辿り着いた。
初めてこの時代の人間を目にする。
たった百年程度しか変わらない筈なのに、人々の活気はまるで違う。

勿論、この時代の人々の方が遥かに逞しい。
江戸時代もこんな雰囲気だった筈だと、史料で読んだ記憶を思い起こす。

「日本人てのは逞しいな」

厳密には純粋な日本人はここには少ない。
多くは様々な外国人、もしくは生き残った少数の日本人と彼ら外国人とのハーフ達である。
それでも日本的な慣習などは色濃く残っている。
見た目のわりに何故か日本ぽいのはそのせいかも知れない。

例えば店先で打ち水をする店主が居る。
至る所で人々が互いにお辞儀をしている。
確かに日本的な光景だ。

「ですが、私達の歴史とは明らかに違う道を歩んでいますね」

恵麻が言う。
この先に自分達が産まれてくるとは到底考えられなかった。

「他の世界と絡まっているからだ。他世界の他文化や他人種、もしかしたら人種以外の何かも混ざっているかもな」

光司が答えた。

「何かって?」

玲が尋ねる。

「さあな。それは俺にも解らんが、とにかく何でもアリだろう。固定観念は捨てておいた方が良い」

光司が言う。
涼もその意見には賛成だった。

「光司の言う通りだろうな。まあ、それはともかく……拠点が必要だな」

取り敢えず金を幾らか持ってきている。
それと、スイフトが残したこの世界の貨幣もある。
無駄遣いは出来ないが、金の心配は一先ずしなくても良さそうだった。

「宿ですね。この辺りの人に聞いてみましょう」

恵麻が提案した。

「恵麻が聞くの?」
「そうしようか?」

玲の言葉に恵麻は即答した。
見た目によらずアグレッシブな性格よね、と玲は恵麻を評した。

そんな玲の言葉には少しも興味を示さず、恵麻はトコトコと町行く適当な人を捕まえて話しかけた。

「……おおっ、第一村人接触」

薫がその光景を見ながら呟く。

「しょーもないナレーション入れてんじゃ無いわよ」

玲が突っ込んだ。
恵麻は教えてくれた町の人に頭を下げると、すぐに戻ってきた。

「この建物、宿らしいですよ。下は酒場らしいですけど」

自分達の立っているすぐ目の前の建物だ。

「宿屋の前だったのか」

涼が苦笑いする。
一階はオープンな飲食店だとは思ったが、その上が宿だとは思いもしなかった。

「よし、取り敢えずここにしよう」

涼はそう言うと先頭をきって店へと足を踏み入れた。
店内は薄暗い。酒場だと言うからこう言う物なのだろう。
涼は辺りを見渡す。
カウンターに店主らしき人物が立っているのが見える。
こちらを訝しむ様に見ていた。

「ここは宿だと聞いたんですが」

涼が店主に話しかけた。

「ああ、確かに宿だが、アンタら客かい?」
「ええ、まあ。それでしばらく五人で使いたいんですが……」
「五人部屋なんて無いよ。二人部屋か一人部屋だね」

大将はそう言って肩をすくめた。

「では二人部屋を2つ貸してください。片方は一人床で寝ます。取り敢えず十日くらい借りられると有り難いんですが」

五人客が十日も泊まるとは珍しい。
しかし上客には違い無かった。
大将は多少、訝しみながらも快く部屋を貸した。

「本当は定員オーバーはお断りなんだがね、特別に許そう。ただし、食事は人数分きっちり払ってもらう。あと宿泊代は前金だよ」

大将はそう言うと帳簿を開く。
涼は代金を前金で十日分払った。

「涼。取り敢えず休もうぜ。せっかく酒も有るみたいだし、どんな酒か興味ある」

薫はそう言うとカウンターにさっさと腰を下ろす。

「大将、何か酒を」
「何が良いんだ?」

強面の割りに客商売をしているだけあって、大将は意外と気さくだった。

「どんな酒があるのか、あまり詳しくないんだ。お勧めは?」
「何だ、外国の人かい? と言っても何処もそう変わりゃしないだろうが……そうさな、日本酒なんてどうだい?」

大将が取って置きを勧めた。

「お、日本酒有るのか。昼間だけど一杯くらい良いよな?」

薫は涼に尋ねたが、返事を聞く前に既に注文をしていた。

「呆れた奴だ」

涼がため息を吐く。
それを光司がなだめた。

「まあ、これから先は長い。ちょっとリラックスさせてやろう」

そう言って涼の背中を軽く叩いた。

大将は日本酒を瓶からグラスに注いだ。

「この酒は昔は良く飲まれていたらしいんだが、今は作れる者が居なくてな。最近まで誰も飲んだ事が無かった伝説の酒よ。少し値は張るが味は保証するぜ。味わって飲みなよ」

大将はそう言ってグラスを差し出した。

「最近まで? ずっと飲まれてたんじゃ無いのか。でもまあ、良くぞ復活させてくれたよ。そいつに表彰状を贈りたいくらいだ」

薫はそう言うと酒を一口口に含んだ。
確かに日本酒だ。
飲みなれた物とは大分違うが、日本酒の味は確かにする。
しかも、野性味溢れる味わいだ。
いわゆる、良いとされる日本酒とは全然違う。
しかし、何とも言えない力強さと薫りを感じる。

製法のせいだろうか、パワフルと言うか原始的と言うか。
しかし、これはこれで確かに旨い。

「……不思議な味だ。不味いようだが、確かに旨い。濁酒みたいな印象もあるけど、間違いなく日本酒だ。しかもコクが強い」

薫はそこまで呑兵衛と言う訳では無かったが、それでもこの味には感心した。

「アンタ詳しいみたいだな。これは最近出回っている酒でな、何でもどっか他所から来た人間が造っているらしいんだが……酒飲みの間では知る人ぞ知るって代物よ。そのうち定番になるだろうな」

大将が笑って酒瓶をカウンターに置いた。
何気無くラベルに目をやる。

そこには酒の名前が太い文字で『唯桜』と書いてあった。
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