ドグラマ3

小松菜

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本編

仕方が無い

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恵麻は玲の隣に並んだ。
イエローとピンク。
二人の女性戦士が同時に構える。

「……なんだお前ら、そのイカれた格好は?」

ネルソンが顔をしかめる。

「行くわよ恵麻」
「了解!」

二人はタイミングを合わせて同時に飛び出す。
守護精霊を挟むように二手に別れて二面同時に攻撃を加える。
守護精霊は右と左を同時に相手をする。
パワーでは勝っているが、二人を相手にするにはスピードで負けていた。

「チッ! ちょこまかしやがって!」

ネルソンが苛立つ。
パワーで押せば負けはしない。
しかし、相手はコンビネーション勝負に来ている。
完全に押しきれていない。

「玲、キリの良い所で離脱しようよ」
「そうね。別に倒す訳でも無いんだし」

二人は申し合わせて離脱のタイミングを作る。
恵麻がホルスターから素早く銃を抜いた。
瞬時に狙いを定めると躊躇無く引き金を引く。

「Tバスター!」

銃口からビームが発射される。
狙いは守護精霊の手元だ。

ギンッ!

光弾は剣に当たった。
守護精霊の手が大きく弾かれる。
それでも剣を落とさないのに恵麻は驚いていた。

「とおっ!」

玲はジャンプすると守護精霊を頭上から蹴った。
そして、そのままそれを踏み台にして反対の建物の屋根へと跳んだ。
振り返って守護精霊が玲を目で追う。

「とおっ!」

恵麻もその隙に反対の建物の屋根へとジャンプした。
それぞれ屋根へと着地すると、そのまま屋根を伝って走って行く。

「何だ? 逃げるつもりなのか!」

部下達がざわめく。
まだ有利不利も見えていなかった。
途中で戦いを放棄して逃げ出したのだ。

ネルソンがボルサリーノハットを被り直す。
してやられた。
最初からロットを逃がして、自分達も逃げるつもりだったのだ。

何処のどいつかは知らないが、またおかしな奴等が現れたなと思った。
わざわざこの町へ戻って来た甲斐が有ると言う物だ。
当分退屈しなくて済む。

「おい、戻るぞ」

ネルソンはそう言って部下達を引き連れてその場を離れた。

一方、恵麻と玲は随分走ってから適当な所で地面へと飛び降りた。
着地すると辺りを窺い、誰も居ないのを確認すると路地へと入った。

ブレスレットからキーを抜く。
二人は一瞬で変身が解けて元の姿へと戻った。

「ふうっ」
「いきなりエライ事になったわね」

玲が言う。

「でも見過ごす訳にもいかないし……」

恵麻が言い訳をする様に言った。

「……私達の任務からすれば、あの場は目をつぶった方が良かったのかもね」
「あの人が死んでも?」

恵麻が食って掛かった。

「……でもそんな事、出来ないのよねえ、この子は」

そう言って玲が恵麻に抱き付いた。
頭を強引にナデナデする。

「ちょっと、なによー」

恵麻が頬を膨らませる。

「玲だって先頭きって止めに入ったでしょ」
「だあって恵麻が止めるの解ってたし、私が無視したってどうせ一人で止めに入ったんでしょ?」

恵麻は反論出来なかった。
図星である。

「だから二人でやったって事で」

そう言って玲が笑う。
恵麻は玲を横目で見た。
結局、変身までしてしまったのが痛かった。
目立つなと念を押されていたのに。

二人は路地を出て帰りの道を探した。

一時間ほどで宿に着いた。
二人は一連の報告をする。誤魔化す事は出来ない。
何故なら、変身した事はブレスレットを通じて全員に知られているからだ。

報告を聞いて涼が沈黙した。
二人はヤバイなあと思った。
涼が沈黙する時はかなり怒っている時だからだ。

「玲、恵麻」

突然沈黙を破って、涼が二人の名前を呼んだ。

「はいっ!」

二人は同時に返事をする。
直立不動である。

「話は解った。ただし、しばらくはここから出る事を禁ずる」

涼が厳しい口調で言った。
二人を顔を見合わせた。

え? そんだけ?
もっと厳しく懲罰を食らうのかと覚悟をしていた。

「いいのか、それで?」

光司が涼に言う。
余計な事は言わないで! と二人は思った。
特に玲は目で光司を睨み付けて訴える。

「仕方があるまい。だから殺人を黙認しましたでは戦士としては合格だが、人としては失格だ。俺はそんな奴らとは一緒に戦いたくない」

涼の言葉に光司が微笑する。

「だってさ。良かったな」

薫が二人の背中を叩いた。
二人はやっと緊張が解けた。

「だが、しばらく謹慎だと言う事は忘れるな。いいな」

涼が釘を刺す。
二人は、はいっ! と答えた。

「だが、これで行動がかなり制限されるな。三人で動かなければならない」

光司が言う。

「二人の面が割れている以上、仕方が無いね。しばらくは噂で持ちきりだろうし、隠密には向かないよ」

薫が言う。

「情報収集は俺達でやる。ヤゴスの連中の足取りを追う。それが第一目標だ。解ったな」

四人はしっかりと頷いた。
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