ドグラマ3

小松菜

文字の大きさ
67 / 100
本編

美紅の決意

しおりを挟む
※第六十三話から第六十五話までの間、キャラクター名に誤りが有りました。
正しくは
×光司
  ↓
○薫 です。
現在は修正済みです。
訂正してお詫びします。

それでは本編です。



「あああっ!」

美紅が地面を勢いよく転がる。
隙の無い連続攻撃に手も足も出ない。
屋外では毒ガスも効果は限定的だが、それも試してみた。
しかし、当然と言うべきか効果は無かった。
多分マスクに防毒機能が備わっているのだろう。

使える武器はスネークビュートくらいか。
格闘戦はあまり得意では無かったが、この時代の相手にならば通用していた。
しかし高度な科学技術と組織的な訓練をうかがわせる彼らには通用しない。

彼らの持つ銃は剣にもなり、その剣はスネークビュートでさえも受け止めた。
破壊する事が出来ないのだ。

美紅のセンサーを介して解る事は、知れば知るほど『強敵だ』と言う事だけである。
強力な酸による攻撃さえ、効果は無かった。
恐らく、事前に酸に対する防護処置が施されているのは間違いがなかった。

「……何なのコイツら」

美紅はまた立ち上がった。
何度目かはもう解らない。
不幸中の幸いと言えば、牛嶋がゲニウスを連れて脱出した事が確認出来た事だろう。
これで一応最低限の仕事は果たした事にはなる。

だが、出来れば自分も生き延びたい所ではある。
走って逃げる事も考えたが、こう囲まれていてはそれもままならない。

後は何が出来る?

美紅は冷静に考えた。
最悪の選択肢から順に考える。
まず、自爆だ。
これは本当に最後の手段である。
どうせ死ぬならと言う時だ。
今はまだそこまででは無いだろう。

次にヘッジ・ブルとチェリー・ブロッサムを遠隔操作で呼ぶ。
これはかなり有効だろう。
ただし、大型マシンをここへ突っ込ませた場合、邸を含め辺りは壊滅的に破壊されるだろう。
だがもしも奪われでもしたら損失は計り知れない。

それでも死ぬよりはマシだろうか。
いよいよとなればこれも致し方ない。
超音速戦闘ヘリ『スネーク・クイーン』を呼ぶ場合も同様である。

それから、ゲニウスのマルチプルベースも死守しなければならない。
あれはこの世界におけるヤゴスの生命線とも言える部分である。
ゲニウスの研究、開発、製造、その他を司っている。
これを押さえられる訳にはいかなかった。

これらを敵の相手をしながら同時に行うのは不可能だろう。

「もう、時間稼ぎにしかならないけど……」

後はもうこれしか思い付かなかった。
全てを地中に退避させ、封印してしまう方法だ。
自分も含め地中深くに潜りプロテクトを掛け活動を停止する。

ゲニウスが無事ならば、いつか復活させてくれる筈である。
だが、これは賭けだった。

「みんなが生き残ったら可能性はゼロでは無い……か」

美紅は覚悟を決めた。

マルチプルベースを初め、ヘッジ・ブル、チェリー・ブロッサムとの通信を開く。
メインコンピューターにアクセスし、緊急退避プログラムを発令した。

ゴゴゴゴゴゴ……

地響きが鳴った。
時空超越隊の四人は辺りを見回す。

「何だ? この地鳴りは!?」

涼が警戒した。

「あれは!?」

玲が邸の上を指差す。
邸の裏手で噴水の如く、土が吹き上がるのが見える。

「な、何? あれ」

恵麻も驚いて声が上ずった。

大型マシンは地中深く、自ら沈降して行った。
これから地下数千メートルまで潜って行く。

丁度戻って来たビビアンとクイーンがこの様子を目撃していた。

「あれは!?」

急いで邸の正面に回る。

「一体何をした!」

涼が言った。
だが美紅は肩をすくめて惚けた。

「さあ? 何かしら。地震でも来るのかしらね」
「ふざけるな! 何を企んでいる!」

光司が叫ぶ。

「企むも何も、私達まだ何もしてないわよ。アンタ建ちこそ何なのよ」

美紅が鼻で笑いながら言った。

「お姉様!」
「美紅様!」

ビビアンとクイーンが駆け付けた。
だが様子を見て言葉を呑み込んだ。
一方的にやられたのが見て解った。
美紅は満身創痍である。

「貴様らあーッ!」

クイーンが大声を上げた。
それを美紅が手で制した。

「止めなさい。無駄よ」

クイーンが驚いて美紅を見る。

「あなた達は関係無いわ。今更どうやっても戦況を引っくり返せないわ。知らんふりしてなさい」

ビビアンが言葉に詰まった。

「美紅様! それはあんまりです!」

クイーンが食い下がる。

「無駄な事にエネルギーを使うのは浪費と言うのよ。ビビちゃん、貴女なら解るでしょ?」

美紅はそう言ってビビアンを一目見た。
その一瞬で、ビビアンは何かを感じ取った。
今から何かする気なのではないか。
今、その後を託そうとしているのではないか。
ビビアンはそう受け取った。

「美紅様!」

叫ぶクイーンの腕をビビアンが掴まえた。

「大丈夫。大丈夫です」

ビビアンはクイーンにそう繰り返した。

「今は負けを認めるわ。今だけね……だけど結局全体で見れば私達が勝つのよ」

美紅はそう言うとスネークビュートを螺旋状に体に巻き付けた。
そしてゆっくりと回転し始めると、そこから超高速回転へと移る。

ドリルの様に地面を掘ると、美紅は自ら地面へ潜って行った。
ここから同じく数千メートル地下まで潜り、そこでスリープモードに移行する。
ゲニウスがスリープモードを解除するまで何百年でもこのままである。

「しまった! さっきのもこれか!」

光司が気付いた。だが、もう遅い。
巨大マシンも美紅も地中深く消えてしまった。
追跡も引き上げも不可能である。

「やられたな……」

涼が美紅の潜った後を見て、一言呟いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち

半道海豚
SF
本稿は、生きていくために、文明の痕跡さえない200万年後の未来に旅立ったヒトたちの奮闘を描いています。 最近は温暖化による環境の悪化が話題になっています。温暖化が進行すれば、多くの生物種が絶滅するでしょう。実際、新生代第四紀完新世(現在の地質年代)は生物の大量絶滅の真っ最中だとされています。生物の大量絶滅は地球史上何度も起きていますが、特に大規模なものが“ビッグファイブ”と呼ばれています。5番目が皆さんよくご存じの恐竜絶滅です。そして、現在が6番目で絶賛進行中。しかも理由はヒトの存在。それも産業革命以後とかではなく、何万年も前から。 本稿は、2015年に書き始めましたが、温暖化よりはスーパープルームのほうが衝撃的だろうと考えて北米でのマントル噴出を破局的環境破壊の惹起としました。 第1章と第2章は未来での生き残りをかけた挑戦、第3章以降は競争排除則(ガウゼの法則)がテーマに加わります。第6章以降は大量絶滅は収束したのかがテーマになっています。 どうぞ、お楽しみください。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...