ドグラマ3

小松菜

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本編

第九十話 ドン・ロッゴの守護精霊

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テーブルを挟んで唯桜とドン・ロッゴが対峙する。

「……まあ、無理も無いか。私の力を知らんのでは、お前に言う事を聞けと言う方が間違っているのかも知れんな」

ドン・ロッゴが言った。

「良いだろう。少し躾てやる。それからもう一度聞こうか」

そう言うとドン・ロッゴが右手を唯桜に向けた。

ゴオッ!

突然屈強な戦士が現れると、唯桜にタックルを仕掛けた。

「!?」

テーブルを跳ねのけ、戦士の体当たりが唯桜を弾き飛ばす。

ガッシャアアンッ!

窓を割って唯桜が外へと転げ出る。
ネルソンは目の前に叩き出された唯桜を目の当たりにして、生唾を呑み込んだ。

地面を転がった唯桜がすぐに立ち上がる。

「痛えな、この野郎」

膝の埃をポンポンと払うと、今度は唯桜がダッシュで向かって行く。
部屋の中に飛び込むとドン・ロッゴを全力で殴り付けた。

バキイッ!

寸前で戦士が現れ、唯桜の攻撃をガードする。
だが、パンチは防げても体は吹っ飛んだ。

バゴオッ!

壁を突き破って反対側の駐車場へとドン・ロッゴが転がり出た。

「へっ。どうした大将。顔色悪いぜ」

唯桜が崩れかけのコンクリートを払いのけ、ドン・ロッゴを追って外へ出る。

「ふ、ふふはは。まさか、これほどとはな。ネルソンも敗れる訳だ」

ドン・ロッゴも立ち上がる。
見た所ダメージは無い様に見える。

「だが、これが限界ではあるまい? もし限界ならばこれで死ぬ事になるぞ」

ドン・ロッゴの前に戦士の姿が表れる。
上半身裸で筋肉質の男の姿だ。
古代ローマの剣闘士を思わせる。

「マッチョなら勝てるとか思ってるなら、死ぬのはてめえだ」

戦士がズンズンと前へ出る。
唯桜はシャツのボタンを一つ外すと胸元を開いた。
二人は中央で真っ向勝負に出る。

ガシッ!

両手を互いに組んで力比べの体勢になる。
お互いに相手を屈伏させようと、万力の如く力を込める。

グ……ググググ……ッ

「む……うん」

唯桜が更に力を込める。
しかし、力は拮抗していて中々体勢は変わらない。

「……あの馬鹿力でも互角なのか」

ネルソンは思わず呟いた。
アオイのライ&トゥルースが造り出す超重力にさえ打ち勝つ唯桜が、押しきれていない。
ドン・ロッゴはまだ力の片鱗を見せているに過ぎないのに。
ドン・ロッゴの底の見えない力にネルソンは戦慄した。

「はははは。どうした? それが全力か?」

ドン・ロッゴの笑い声が地下駐車場に響き渡る。

「……何も知らんのでは可哀想だから教えてやろう、私の守護精霊は特別でね。他の者とは基本的に違う。彼はグラドス。『竜血樹』の守護精霊だ。特別変わった事は出来ないが、とにかく勇敢で力が強い」
「うお……お……おお」

唯桜が押され始めた。
姿勢がグラドスよりも下になる。

ドカアッ!

そこへ唯桜の腹を思い切り蹴り上げた。

「ぐはあっ!」

唯桜はそのままの勢いで天井に叩き付けられ、今度は床に叩き付けられた。

「ク……てめえ……」

唯桜がヨロヨロと立ち上がる。

「変身するんだろう? どうぞ、やってみたまえ」

ドン・ロッゴが余裕を見せた。
それが唯桜の神経を逆撫でする。

「後悔して泣くんじゃねえぞ」

唯桜のジェネレーターが音を発てて回転する。

キイイイイイイイイイイ……ンッ!

両目がピンク色の光を発する。
そして。

バッ!

その場で回転すると、一瞬でその姿は爆狼魔人へと変貌を遂げる。

「……ほお、これは。素晴らしい」

ドン・ロッゴがため息にも似た声を上げる。

「釣り銭忘れだ、返してやるぜ!」

唯桜はグラドスに駆け寄ると、拳を振り上げた。
グラドスは腰を落としてパンチを待ち受ける。

ドカアッ!

振り上げた拳はそのままに、唯桜はお返しとばかりにグラドスの腹を思い切り蹴り上げた。
今度はグラドスが同じ様に天井まで吹っ飛ぶ。
天井に張り巡らされた配管の幾つかがへし折れた。

ガシッ! ミシミシ……

その間に唯桜は近くに放置されていた古い車を掴まえて持ち上げた。

「行くぜこの野郎!」

段ボール箱でも振り回す様に、唯桜は白の乗用車を振りかざした。

「死ねッ!」

ブウンと車をスイングすると、車のフェンダー部分でグラドスを殴り付けた。

バキイッ!

グラドスがもんどりうって吹っ飛ぶ。
ドン・ロッゴの横を通り過ぎ、背後の車に激突する。

「……素晴らしい。グラドス相手にこれだけ闘えるのか」

ドン・ロッゴは感嘆の声を上げる。

「随分余裕じゃねえか。今に笑う事も出来なくしてやるぜ」

唯桜が抱えた車をそのままドン・ロッゴに投げ付けた。

「ば、馬鹿野郎! 殺しちまったら色々聞けなくなるだろうが!」

思わずネルソンが叫ぶ。

ガシッ!

だが、車はドン・ロッゴの直前でグラドスに受け止められた。

「ふふふ。容赦はしないと言った所か。益々気に入った」

グラドスが受け止めた車を横へ放り投げた。
ドン・ロッゴから不敵な笑みが消えるには、まだかかりそうだなと唯桜は思った。
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