見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

文字の大きさ
3 / 826

 玄関の前まで必死に辿り着いた。
両開きの扉を開こうとした。
だが鍵が掛かっているのかびくともしない。

「ふふ……やっぱりか」

 早くも全てが終わった。
さっきの時点で終わる筈だった物が、ほんの一分かニ分伸びただけだった。

 もう駄目だ。
立ってさえ居られない。
俺は背中で片方の扉にもたれ掛かる。
そしてその場にズルリと崩れ落ちた。

ガチャリ……

 静かに音がした。
そして俺のすぐ横で、滑る様にゆっくりと扉が開いた。

 俺は力無くぼんやりと扉の上方を見上げる。
開いた扉の間から、女が無表情にこちらを見下ろしている。

 美人だ。

 俺が抱いた感想はこの状況には場違いな物だった。
もうどうでも良くなった人間の感想なんて、どこか他人事なものだ。

 黒く長い髪が神秘的だ。
あまり彫りが深くなく、それでいて切れ長の目。
深淵を思わせる漆黒の瞳。
細く華奢な顎。

 白人ではない。
どこの異人種だろうか。
少なくとも大陸の人間では無さそうだ。
ひょっとしてエルフか?

「貴方、誰?」

 女が静かに言った。
心配している風でも無い冷たい言い方だ。
かと言って敵対心も感じない。
単純に疑問に感じて尋ねていると言った感じだ。

「失礼……もし良かったら……助けてはもらえませんか……」

 俺はそう言うのが精一杯だった。
出会いの挨拶としてはこれが適当なのかどうかもはや解らなかった。
思ったことをストレートに口にしただけだった。

「……」

 女は一瞬沈黙した。
何か考えているのか、外観からは全く変化を読み取れない。

「……どうぞ」

 そう言うと、女は大きく扉を開いて俺を中へと促した。

「感謝します……ですが、お恥ずかしい事なのですが一人で立つこともままなりません……少し手をお貸しいただけませんか……」

 何とか立ち上がろうと試みるが、今や力尽きようとしている自分には血で滑ってロクに立ち上がることさえ出来ない有り様だった。
産まれたての子馬も斯くやである。

「……」

 女はそんな俺を冷やかに見つめていたが、やがて手を差し伸べてくれた。

「……あ、ありがと……オおッ……!?」

 礼を言い終える前に俺の声は裏返った。
俺の二の腕を掴まえた彼女の力は、か弱い女性のそれでは無かった。

 まるで牛か馬の様な力で軽々と俺を引き上げる。
 怪力と言うのはこう言うのを言うのだろう。
本物の怪力を俺は生まれて初めて目の当たりにした。

 ほとんど自力を使わずに、俺は屋敷の中へと足を踏み入れた。
大きな屋敷の割には豪華さや絢爛さは感じられない。
妙な違和感が漂っている。

 やがて一つの扉の前へと辿り着いた。
客間だろうか。

 そんな俺の感想など全く意に介さず、女は扉を開き中へと足を踏み入れた。
感想 238

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

親世代ではなかったのですか?

立木
恋愛
親世代が「乙女ゲーム時代」だったと思っていたら、子世代も「乙女ゲーム」だった。 ※乙ゲー転生ですが要素は薄いです。 ※別サイトにも投稿。 ※短編を纏めました。

男装の薬師は枯れぬ花のつぼみを宿す

天岸 あおい
ファンタジー
久遠の花と呼ばれる優秀な薬師の一族。 そんな彼らを守り続けていた、守り葉と呼ばれし者たち。 守り葉として育てられた子供・みなもだったが、ある日隠れ里を襲われ、生き別れた姉・いずみや仲間たちとの再会を夢見て薬師として生きながら、行方を捜していた。 そんなみなもの元へ現れた、瀕死の重傷を負った青年レオニード。 彼との出会いがみなもの運命の歯車を動かしていく―――。 男装の麗人で、芯が強くて自分の手を汚すことを厭わない主人公と、そんな一筋縄ではいかない主人公を一途に想う、寡黙で真面目な青年の物語。 R18ではありませんが、後半は大人向けの展開になっています。 ※他サイトで公開していたものを改題・改稿しております。 ※今作は非BLです。期間限定で掲載致します。

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

【完結】1王妃は、幸せになれる?

華蓮
恋愛
サウジランド王国のルーセント王太子とクレスタ王太子妃が政略結婚だった。 側妃は、学生の頃の付き合いのマリーン。 ルーセントとマリーンは、仲が良い。ひとりぼっちのクレスタ。 そこへ、隣国の皇太子が、視察にきた。 王太子妃の進み道は、王妃?それとも、、、、?