45 / 826
四五
しおりを挟む
「出てこい。居るのは判ってるぜ」
ガイが声を張り上げた。
相手が何者か判らないがこちらの侵入に気付いていない筈はなかった。
狼ならば人語は理解しないだろうが、正体が判らない以上呼び掛けておくのは常套手段だ。
「ふふ。人間なのにやるもんだ。今までのとは違うな」
突然声が廃墟の中で響き渡る。
明瞭で通る声だが、冷たく威圧的な声だ。
これが人間の声か。
俺は本能的に自分が緊張していることに気付いた。
「何者だ。姿を見せろ」
ガイが声の主に話しかける。
「はははっ、残念だが今は無理だ。もう少し待ち給え」
声の主はそう言って姿を現すのを拒否した。
なんだ?
俺たちと会話しておきながら、その存在を隠す意味などあるのか?
『今は無理だ』と言った。
どういう意味なんだ。
声の主の不可解な態度に俺は違和感を覚える。
ディーレの呼吸が浅く、速くなっている。
顔色も悪い。
「どうした?」
俺は心配して声をかけた。
「駄目……こいつは駄目よ。相手が悪い。撤退するべきだわ」
ディーレが震える声でそう言った。
ガイとルガが顔を見合わせる。
「レオ、バルバ。ここは一旦撤退しよう」
ガイが意を決したように言った。
おそらく彼らのパーティーはディーレのセンス・エネミーに絶大な信頼を寄せている。
今までもそれでピンチを切り抜けてきた過去があるのだろう。
この潔いまでの撤退の決断は、他のパーティーでは中々見られない。
つまりディーレの言葉は信頼性が高いということだ。
「……判った。言う通りにしよう」
俺はバルバと顔を見合わせてそう答えた。
今度は殿をガイに任せて、俺が先頭になって廃墟の出口へ向かう。
「おっと。お帰りかい?つれないじゃないか」
声の主がそう言うと、入り口の前に狼が突然現れた。
「!?」
一体どこから湧いて出た。
俺たちはいつの間にか退路を絶たれている。
この声の主がこいつらの飼い主という訳か。
ずいぶんとよく躾られている。
この巨大狼を統べるとはどんな奴なのか。
「……ちっ。いい加減姿を見せろ。他の人間はどうした」
ガイが声の主に尋ねた。
さすがのガイも表情に余裕がない。
今このパーティーがピンチだということは明らかなようだ。
「聞いてどうする?どうせもう二度とは会えんと言うのに」
「……どっちの意味だ。もう殺してしまったのか?それとも俺たちを始末するつもりだからか?」
「ふふふ、判らないヤツだな。だから聞いてどうするんだ?」
ガイの頬を汗が伝う。
「……さあて。どうするかね」
ガイが声の主にではなく、自分自身に小声で自問した。
ガイが声を張り上げた。
相手が何者か判らないがこちらの侵入に気付いていない筈はなかった。
狼ならば人語は理解しないだろうが、正体が判らない以上呼び掛けておくのは常套手段だ。
「ふふ。人間なのにやるもんだ。今までのとは違うな」
突然声が廃墟の中で響き渡る。
明瞭で通る声だが、冷たく威圧的な声だ。
これが人間の声か。
俺は本能的に自分が緊張していることに気付いた。
「何者だ。姿を見せろ」
ガイが声の主に話しかける。
「はははっ、残念だが今は無理だ。もう少し待ち給え」
声の主はそう言って姿を現すのを拒否した。
なんだ?
俺たちと会話しておきながら、その存在を隠す意味などあるのか?
『今は無理だ』と言った。
どういう意味なんだ。
声の主の不可解な態度に俺は違和感を覚える。
ディーレの呼吸が浅く、速くなっている。
顔色も悪い。
「どうした?」
俺は心配して声をかけた。
「駄目……こいつは駄目よ。相手が悪い。撤退するべきだわ」
ディーレが震える声でそう言った。
ガイとルガが顔を見合わせる。
「レオ、バルバ。ここは一旦撤退しよう」
ガイが意を決したように言った。
おそらく彼らのパーティーはディーレのセンス・エネミーに絶大な信頼を寄せている。
今までもそれでピンチを切り抜けてきた過去があるのだろう。
この潔いまでの撤退の決断は、他のパーティーでは中々見られない。
つまりディーレの言葉は信頼性が高いということだ。
「……判った。言う通りにしよう」
俺はバルバと顔を見合わせてそう答えた。
今度は殿をガイに任せて、俺が先頭になって廃墟の出口へ向かう。
「おっと。お帰りかい?つれないじゃないか」
声の主がそう言うと、入り口の前に狼が突然現れた。
「!?」
一体どこから湧いて出た。
俺たちはいつの間にか退路を絶たれている。
この声の主がこいつらの飼い主という訳か。
ずいぶんとよく躾られている。
この巨大狼を統べるとはどんな奴なのか。
「……ちっ。いい加減姿を見せろ。他の人間はどうした」
ガイが声の主に尋ねた。
さすがのガイも表情に余裕がない。
今このパーティーがピンチだということは明らかなようだ。
「聞いてどうする?どうせもう二度とは会えんと言うのに」
「……どっちの意味だ。もう殺してしまったのか?それとも俺たちを始末するつもりだからか?」
「ふふふ、判らないヤツだな。だから聞いてどうするんだ?」
ガイの頬を汗が伝う。
「……さあて。どうするかね」
ガイが声の主にではなく、自分自身に小声で自問した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる