見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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五六

 ヴァンパイアは後ろへ下がる。
オオムカデンダルは構わず前に出る。

 圧している。

 オオムカデンダルがあのヴァンパイアを威圧している。

 不死身なはずのヴァンパイアがオオムカデンダルを嫌がっているのか。

「どうした伯爵。言葉とは裏腹に下がってるぜ」

 オオムカデンダルが挑発する。

「……私は伯爵などという人間の肩書きは持たん」

 ヴァンパイアが反論した。

「あ、そうなのか。やっぱこういう事は本人に聞くのが一番だよなあ」

 オオムカデンダルが何に納得しているのかは判らないが、とにかく感慨深げに納得した様子を見せた。

「で、さっきまでの自信はどうしたんだ。かかって来なきゃデータが取れないじゃないか」

 オオムカデンダルが何やら不満げに言う。

「不死身のヴァンパイアも無痛という訳ではないらしいな。いくら再生するとは言え、こうも体を破壊されては堪らないって訳だ」

 ヴァンパイアは何かを言いたそうな、図星を突かれたような、そんな表情を見せた。

 そうなのか。

 ヴァンパイアを圧倒して、痛みや苦しみを与えるなどという発想は俺たちにはない。
考えても見なかった。
ヴァンパイアも痛みや苦しみを感じるのか。

「……僕たちよ、こいつを食い殺せ!」

 俺がそんなことを考えている間にヴァンパイアが狼たちに命令を下した。
そうだ、まだ狼は残っている。

 ヴァンパイアの後ろに控えていた狼たちが、命令を受けて前に立ち塞がった。
主人を守ろうとがっちり壁になっている。

「ふん。今さらワン公かよ。こいつらが役にたつとでも?」

 オオムカデンダルがため息まじりに吐き捨てる。

 ウオオオオオンッ!

 二匹の狼が雄叫びをあげた。
そして間髪入れずにオオムカデンダルへと飛びかかる。

 ガブッ!

「!」

 俺は腰を抜かした。

 まさに『ガブッ!』という表現がピッタリだった。
狼の大きな口がオオムカデンダルの頭を咥えこんだ。

 丸かじりだと。

 いくらなんでもショッキング過ぎる光景だ。
狼はガリガリと音を発ててオオムカデンダルの頭をかじった。

 これは頭骨を噛み砕く音なのか。
俺は思わず『ひいっ』と小さな悲鳴をあげてしまった。

「くくく。さすがに人では狼に抗えまい。ましてや一人ではな」

 ヴァンパイアはそう言って俺を見た。

 確かにそうだ。
俺たちが狼を討伐できたのはパーティーだからだ。
一人ではとても対抗できない。
相手が複数体ともなれば尚更である。

 ガリッゴリッ!

 狼の口から不気味な音が聞こえてくる。
俺は今にも気を失いそうだった。
足が震えているのが自分でも判った。

「オ、オオムカデンダル……」

 俺はそれだけ言うのもやっとだった。
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