見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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一一六

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 俺は思わず聞き入ってしまった。
オオムカデンダルと言う男は普段は食えない男だが、これだけの演説をぶち挙げられるのか。
彼の言葉は人の心を掴まえる。
鷲掴みだ。

 それは、危険と言えば危険だった。

「……つまり何か。あの赤ん坊を殺そうとしたから、帝国許すまじ。と」

「そうだ」

 蜻蛉洲の言葉にオオムカデンダルは少しも躊躇せず即答した。
本当はそんな単純な話ではない事は誰にだって判る。
だが、それでも即答して見せる。
細かい言い訳や訂正など必要ないと言わんばかりだった。

 大義名分があれば、ゴチャゴチャ言うのは野暮だと知っているのだ。
『ブレる』と言う事ほど、人心が離れていく事はない。

「本気なの?」

 令子が尋ねた。

「もちろん。俺は冗談は言うが嘘は言わない」

 オオムカデンダルが言い切った。

「じゃあ、冗談の可能性はあるのね……」

 令子は皮肉っぽく言った。
しかしオオムカデンダルは気にした様子もない。
令子も馬鹿にした風ではなかった。

「蜻蛉洲。手を貸せ。俺たちにはお前が必要だ」

 オオムカデンダルはそう言って蜻蛉洲の顔を真っ直ぐに見た。

「……賛成はしかねる。が、一緒に居るのに俺だけ何もしない訳にはいくまい。取り敢えずお前の様子を見させてもらおう」

 蜻蛉洲はそう言って渋々ながら、取り敢えず反対を取り下げた。

「で、挨拶ってどうするの?」

 令子がオオムカデンダルの顔を見た。
まさか何の考えもなしと言う訳ではあるまい。

「挨拶は挨拶さ。こんにちは初めまして、宜しくお願いします。ってな」

 オオムカデンダルはそう言うと、俺たち全員に目配せをした。
付いてこいと言っている。

「ナイーダ。君はその中で待っていてくれ。そこならば安全だ」

 蜻蛉洲は、家の中からこちらを見ていたナイーダに声をかけた。
ナイーダは小さくうなずくと、家の中へと消えていった。

「さ、行くか」

 オオムカデンダルは意気揚々と駆け出した。
蜻蛉洲も令子も一回転して変身すると、オオムカデンダルの後を追って走り出す。
当然俺も、彼らの後を追って走った。

 全員が信じられないスピードで走っていた。
俺でさえ着いていくのが精一杯のスピードだ。
やはり彼らの底は知れない。

 山の北側を疾走していく。
目指すのは帝国軍の本隊だ。

 しかし、ルドム将軍を欠いた帝国軍に、我々の話を聞く人物が果たして残っているのか。
それが問題だった。

「いるさ。姫君を追ってきたんだろ?」

 オオムカデンダルは自信満々に答えた。
それはそうなのだが、殺すように命を受けているのはルドムだけだろう。
他の兵士たちは知らない筈だ。

 計画を知る者は少ない方がいい。
俺は多少心配だった。
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