見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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一二七

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 メダルのような部分。
何か星のような紋様が見えた。
いや、あれは……

「タリスマンか……」

 タリスマンとは、平たく言えば御守りである。
タリスマンにもピンからキリまであるが、皇族の授ける魔導具が、ただのタリスマンであるとは思えなかった。

「来たれ!ワイバーンよ!」

 なんだと!?

 俺は自分の耳を疑った。
今、ワイバーンと言ったのか?
本当に?

 日はとっくに暮れている。
空には星が瞬き始めている。
その星たちの瞬きが、あっという間に消えていく。

 雲だ。
夜なので判りにくいが、曇り始めているのだ。
それも凄い早さで雲が空を多い尽くしている。

 カカッ!

 雷光が閃いた。
雲を呼び、雷を呼ぶ。
これは本当にワイバーンなのかもしれない、そう思った。

 ギャアアアアアンッ!

 聞き覚えのない咆哮が辺りにこだまする。
俺は腰が抜けた。

 わずかに見える雲の切れ間から、何かが飛来する。
見るのも初めてだが知っている。
あれはワイバーンだ。

 何故か。

 帝国皇帝の紋章だからだ。
子供の頃から何度も見たあの形。
見間違える筈もなかった。

 ギャアアアアアンッ!

 ワイバーンがもう一度吠えた。
皇族の守護者、帝国の象徴。
皇族のピンチに守護の為に呼び出されたとするならば、その敵はオオムカデンダルである。

 そのオオムカデンダルは両手を腰に当てて、空を仰ぎ見ていた。

「なんだありゃ?」

 オオムカデンダルはそんな事を言っていた。
知らないのか。
ワイバーンを。

 知らないのかもしれないな。
一瞬驚いたが、今までの事を思えば知らなくても不思議ではない。

 しかし。

 これはもう駄目だ。
さすがに相手がワイバーンでは、今までのようにはいかない。

 ワイバーンは龍、つまりドラゴンの眷属だ。
そして、ドラゴンは神とも互角に戦える存在である。
度々ヴァンパイアを引き合いに出して魔王には申し訳ないが、ハッキリ言って比較にもならない。

 ワイバーンは数ある龍の眷族の中の一つに過ぎないが、ドラゴンの一種と言うその事実だけで、比肩しうる者はいない。

 ワイバーンより強いのは他の龍族だけである。

 ライエルはタリスマンを自らの首に掛けた。
その傍らにワイバーンがゆっくりと舞い降りる。
漆黒の闇の中で、ワイバーンの鱗がギラリと光った。

「龍?ドラゴン?」

 オオムカデンダルは不思議そうに首をかしげながら、ワイバーンをじっと見つめた。

「……おいおいおいおい。なんだあれは、ドラゴンなのか?くそっ……うらやましい」

 隣でオニヤンマイザーがとんでもないことを口走った。

 こいつら……なんにも判っていない。
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